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第1章 異世界に来たのなら、楽しむしかない
24.転移石から始まる
しおりを挟む自身の黒い魔素から目が離せずに、じっと見つめていると、突然イサがハッと顔を上げた。何かを探すように遠くを見つめる。私もその視線を追う。
「一体何が──」
「しっ、静かに」
イサが唇に人差し指を当てた。それと同時に、背後から何やら背筋を逆撫でるような嫌な気配を感じた。感じたことのないソレに、不安気にイサの横顔を見つめる。
「・・・・・・来ちゃったか」
そう呟く彼の表情は緊張しているよりも、面倒そうな顔である。心配そうな私の視線に気づくと、心配ないよ、と柔らかな笑顔を見せた。
「アレはこっちの話だから・・・・・・でも、早く帰った方がいいかもね。もしかしたら、もう帰ってきてるかもしれないから」
言うと立ち上がるイサ。促されて私も立ち上がる。
当然内心は不満しかない。ようやく同族に会えたのに、知ったことと言えば、希少魔族と魔族の分け方と黒い魔素の詳細のみ。確かに重要なことだけども、聞きたいことはまだまだある。
(でも仕方ない、か。・・・・・・ランバディア帝国、だっけ? そこに何かしら資料があればいいけど)
昨日の内にその国の様子を聞いてみたが、どうも読書本などはあまり普及していないらしい。紙自体が高価なため、羊皮紙の束が多いようだ。
魔法の辞典である魔導書や、低級な魔法が封じ込まれている巻物も羊皮紙を使っているという。
因みに、上級の魔法の巻物はドラゴンの皮だとか。当たり前だが、とても高級品でおいそれと手を出せる代物ではないだろう。
ぶっちゃけ期待はしていない。あればいいな、と思う程度である。
ほら、と手を差し出すイサ。手そこにを重ねると、昨日と同じ様な浮遊感の後、見知った洞窟が目の前に。長い距離を一瞬で・・・・・・やはり転移魔法は便利だと感心する。
私の手を離したイサは言った──それも、衝撃的な言葉を。
「名残惜しいけど・・・・・・また今度ね。きっと、人間の国でも会えると思うよ」
「っなんでそれを知って──」
いるの──そう私が言いきる前にその姿は一瞬にして掻き消える。そして、次に聞こえてきたのは風をも起こす大きな羽ばたき。──帰ってきたのである、2人が。
「無事か!?」
すぅっと人間の姿へと変化したエンシャが、降り立つなり切羽詰った声で言う。後に続いたバーバチカも、珍しく焦った表情で落ち着いていない様子だ。
「は、はい、私は大丈夫ですけど・・・・・・何かあったんですか?」
あの青年──イサは〝来てしまった〟と言っていた。だとしたらエンシャも。
だが、彼女は顔を逸らしてはぐらかす。
「──いや、こちらの話だ。それよりも予定が早まった」
そう言って取り出したのは青く澄んだ宝石のようなもの。それもかなり大きめだ。
深い海を思わせる藍色。中心につれて濃く鮮やかな色へと変化しているソレに、私はじーっと顔を寄せて覗き込む。
「これは・・・・・・?」
「ん? ああ、そういえば記憶喪失だったか。これは、転移石という魔道具だ。これを使って移動をする」
へえ、と頷いてからふっと頭をよぎったのは黒髪の青年。確かイサは、転移石ではなく転移魔法を使っていたはずだ。
「あの、転移魔法は使わないのですか?」
軽く聞いた質問。しかし、その言葉にエンシャは目を見開いた。
「──転移魔法だと? あれは莫大な魔力を必要とするぞ。儂の魔力を以てしても、精々1kmといった所か。・・・・・・それに、そう連発できるものでもない」
「そう、でしたか・・・・・・」
ここからあの開けた空間まではどのくらいの距離があっただろうか。もしかしたら、1km近くはあったのではないか?
(それなのにあの青年は・・・・・・疲れた様子もなかったし、その後すぐ転移魔法で消えていた・・・・・・)
いくら希少魔族とはいえ、竜に勝るとは考え難い・・・・・・が、実際は易々と転移魔法を行使していた。莫大な魔力が使われるのだとしたら、あの青年の魔力は一体──。
「──コウ?」
少し低めの澄んだ声。エンシャに話しかけられ、私ははっと顔を上げた。不思議そうに見下ろす彼女と目が合い、慌てて言葉を口にする。
「だ、大丈夫です。それで今から転移を・・・・・・?」
「ああ、事情が変わった。転移するぞ」
エンシャはキッと前を見据えて言う。
「───ランバディア帝国へ」
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