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第2章 そんな規定は聞いていない
25.転移から始まる
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「──《転移石発動》ランバディア帝国へ」
目的地を思い浮かべながらそう唱えると、青く強い光が手元から辺りを照らす。太陽のような明るさに目を細めれば、2人の姿は消えていた。
転移石は無事発動した──その事にエンシャはほっと息をつく。
手元から完全に転移石が無くなったのだ、あの大きさならばランバディア帝国へは問題なく着いていることだろう。足りないということは無いはずだ。
(・・・・・・これで暫くは時間稼ぎになるだろう。しかし、なぜ転移魔法の存在を知っていたのだろうか)
彼女が最後に口にした言葉。転移石すら知らなかったのだ、記憶喪失ならば知らないはずだが・・・・・・。
(もしや、一部の記憶は残っているのか・・・・・・?それとも、誰かが転移魔法の存在を教えた、か。もしくは使った・・・・・・)
そこまで考えてエンシャは首を振る。魔力消費の激しい転移魔法を使う者は流石にいないだろう。
・・・・・・あんな複雑な古代魔法を使うなど。エンシャは馬鹿馬鹿しくなり考えるのをやめた。これ以上は時間の無駄だと判断する。
──きっと一部の記憶が残っていたのだろうな。
ふっと若干の暗さを取り戻した森。胸を撫で下ろしたエンシャは、不意にくるりと振り返り一点を鋭く見返す。
──目線の先には一人の女性。幼さを残しながらも妖艶な雰囲気を纏わせている。
彼女はエンシャの鋭い視線に気づくと、微笑み軽く会釈をした。しかし、エンシャは表情を崩さない。厳しい顔のまま口を開く。
「・・・・・・久しいな、アリス」
「──ええ。ごきげんよう、エンシャさん。何年ぶりでしょうか?」
クスクスと口元に手を当てて可愛らしくアリスは笑う。濃い紫色の瞳は細められ、肩を震わす度に純白の緩く巻かれた髪が揺れる。
エンシャは突っぱねるようにして言う。
「さあな、追放されし者に興味などはない。──それで? 今日は何の用だ?」
「あら、せっかくの再会ですのに。エンシャさんは冷たいですわね」
「・・・・・・単刀直入に言う。さっさと魔族領に帰れ、ここはお主が来るべき場所ではない」
「──まあ、怖いこと」
怖いと口では言いながらも、アリスはニコニコと微笑む。心臓が縮み上がるようなエンシャの険しい表情ですら、彼女には効いていないようだった。
「あんなジメジメ暗い場所になんか戻りたくありませんわ。──それにようやく私の〝縛り〟も解けるのですよ?」
「・・・・・・また繰り返すつもりか? 再び縛られるぞ」
「ご心配なく。流石にちゃんと考えましたわ」
アリスは口元を歪める。視界の中にエンシャを捉えて目を細める。その余裕さにエンシャは怪訝な顔をした。
希少魔族の一人といえど、身体能力や魔力等々は明らかに竜の方が上だ。古代より最強と謳われる種族の力に揺らぎはない。
そんな竜を前にしてのこの余裕。──怪しいと思わざるを得ない。
「・・・・・・何を企んでいる?」
「いいえ、何も? 私はただ、久しぶりの再会を堪能しているだけですのに」
疑うなんて酷いですわ、とアリスは目を伏せ儚げに表情を変えるが、そんな彼女にも動じずエンシャは更に言葉を重ねる。
「その性格は相変わらずだな。それで、お主はここを通──」
その言葉が不自然に切れた。エンシャの顔が苦しそうに歪められる。
ふふ、と目の前から楽しげな笑い声が聞こえた。
「ええ、もちろん通りますわ。その為にここへ来たのですよ?」
身体が酷く熱い。中でどす黒い何かが暴れ回っているような感覚に、エンシャは思わず膝をついた。辛そうに顔をしかめながらも、顔を上げてアリスを睨みつける。
「お主・・・・・・何を・・・・・・」
「もうあの頃とは状況が変わりましたの。──黒い魔素によって」
「黒い、魔素・・・・・・? 何だそれは」
エンシャにとっては初めて聞く言葉である。そんな言葉は古い記憶にも無く、彼女は痛みに耐えながらも困惑する。
「大昔に亡くなられた始祖様が、私たちに与えてくださった力ですわ。・・・・・・貴方にはその偉大さがわからないのでしょうけど」
まあ、いいですわ。アリスは苦しむエンシャの前に立つ。嘲笑的な歪んだ笑みがこぼれ落ちる。
その手がエンシャ頬を撫でる。
「や、やめろ」
「──私、前々から綺麗なお人形さんが欲しかったのです。ですから、お話を楽しみながらずぅーっと送り続けて・・・・・・流石にこの方法は難しいので大量に消費してしまいましたわ」
何を、とは聞けない。エンシャには何となく予想がついていた。
「まさか・・・・・・」
「ええ、〝黒い魔素〟ですわ。私の黒い魔素の性質をご存知でして?」
そんなことエンシャが知るはずもない。その事を分かっていて尚アリスは聞く。
間を開けてようやくアリスは言った。
「《傀儡》──それが私の性質ですわ」
◇◇
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