妹と幼馴染の前世が、寝取り魔王と寝取られ勇者+宇宙、そして未知との遭遇

森月真冬

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 雪乃とアニスは、夜のオフィス街を行く。
 すでに深夜二時過ぎだが、辺りのビルは、どこも明るい光に満ちている。
 理由は明白で、『電気を消して帰宅するはずの人々』が、帰宅前に拉致されたからだ。

 ……と、1体の『四脚』が、曲がり角の先、道路中央をふさいでいた。
 それを見て、雪乃はアニスに囁いた。

「炙山先輩。ここに、隠れててください」

 雪乃が言うと、アニスは小さく頷いてから、街路樹の陰にペタンと腰を下ろす。
 雪乃の役目は、露払いである。そして、その後はおとりである。
 だから派手に暴れるのは、もう少し後だ。
 今は、アニスを地下水路の入り口まで、送り届けなければならない。

 雪乃は殺気をギリギリまで抑えて、『四脚』に向けてダッシュした。そして、『四脚』が彼女に気づくと同時に、感情を爆発させる!

「ええーいっ!」

 日本刀を振りかぶり、大上段から斬って捨てる!
 パッと緑の光が輝き……敵は、バラバラに崩壊した。

 こいつらは一体ずつならば、もはや雪乃の敵にならない。
 油断さえしなければ、例え素手でも、負ける事はないだろう。
 雪乃は、ホッと息を吐く……と、突然。目の前を何かが、サッと横切った。見ると、それは一匹のカラスだった。つられるようにそちらに視線を移し……凍りつく。
 アニスが隠れている街路樹の後ろ、10メートルほど離れたビルの隙間に『四脚』が……!
 完全に、見逃した!

「炙山先輩っ!」

 雪乃は、愕然がくぜんと叫び、きびすを返す。

(な、なんて事なの!? やっぱり、勘がまったく戻ってないっ!)

 さっきもそうだ! 空那を、むざむざと危険に晒してしまった!

(以前ならば……っ! 勇者アルカなら、こんなヘマしなかったのにぃ!)

 雪乃は駆ける……だが、とても間に合わない!
 ビルの陰から『四脚』が、アニスめがけて突進し、鞭を放つ!
 その時のアニスは、ゆったりとした動作で振り向くと、左腕の装置から光を放っていた……しかし、もう遅い!
 きらめく鞭の先端は、アニスの鼻先まで、わずか数センチっ!
 この距離では迎撃しても、破片は容赦なく、彼女を襲うだろう!

 アニスの頭が、熟れきったスイカのように破裂するのを想像し……雪乃は、思わず顔を背ける。
 だが、次の瞬間。
 鞭は、アニスの目の前でピタリと止まる。
 そして、それを放った『四脚』自身が、まるで壁にぶつかったバレーボールみたいに跳ね飛ばされ、道路を削りながら、数十メートルも転がって行く。

 ……なんだそりゃ?

 あまりにも馬鹿げた動きに、雪乃は唖然とする。
 なおも立ち上がる『四脚』に向けて、アニスは照射!
 光はゆっくりと銀色の表面を撫ぜ……『四脚』が横に跳ぶと同時に、ゴッシャァーン! その身体が、地面に叩きつけられた!
 『四脚』は緑色に明滅しながらも、必死で動こうとする。だが、ゴリゴリと押し潰され、動きが鈍くなり、やがてメリメリと音を立てて裂けて……動かなくなった。
 地面の上では、細かくなったハリガネたちが、ウネウネと苦しそうにもがいている。

 実は、アニスが出している光は、単なる『熱レーザー』や、『ビーム兵器』の類ではなかった。
 物理的な現象としてとらえるならば……それは熱も摩擦も持たない、単なる『光』なのだ。

 だがそれは、必殺の威力を持っている。

 いかに素早く動けようと、光速には敵わない。
 アニスの光は、照射された物体の『物理法則』を完全に書き換え、重力とベクトルを歪めるのである。
 結果、『単純な落下=身体を引き裂く巨大な力』に、『移動=自分を潰す見えざるてのひら』に、『敵への攻撃=全身を叩き返すカウンター』へと変化をげる。

 その装置……名を、『リアクター』と言う。

 正体はアニスの父が、星間を自由に飛び回るために備えていた『演算器官』を、再現しようとアニスと母親が、共同で造り上げた物だった。
 規模としてはあまりに小さく、機能は弱く、比較にもならない。
 これで宇宙を飛び回るなんて、夢のまた夢。
 だから、炙山父に言わせれば、これは失敗作なのであるが……。

 アニスは、ゆっくりと歩いて雪乃に近寄って、首を傾げる。
 雪乃が硬直して動かないので、心配してるのだ。
 だがやがて、雪乃は感心した顔で、アニスの小さな身体を抱き上げる。
 それから笑顔をいっぱいに浮かべ、こう言った。

「炙山先輩っ! 私、頭いい人は尊敬します!」


 ミモザホテルの屋上で、砂月は深く息を吐く。

「ふぃー。……大丈夫みたい! 二人とも予定通り、公園の西側に、回りこむように移動してる。小動物は、ちゃんと地下水路に入ったよ。……っていうか、あの機械っ! 思ってたより、全然すごいよぉ! 小動物のくせに、やっるぅーっ! これなら、楽勝なんじゃないの!?」

 はしゃぐ砂月の言葉に、空那は眉をひそめる。

「おい、お前な……アニス先輩を、あんまり失礼な呼び方すんなよ!」
「……え? じゃあ、なんて呼べばいいの?」
「先輩でいいだろ。俺より年上なんだから」
「え? 小動物先輩?」

 空那は砂月の頭をペシンと叩く。が、砂月は平然としてる。

「大丈夫よ、おにいちゃん! アタシ、さっき一緒にお風呂に入ってる時に、小動物って呼んでいい? って聞いたし」
「……え。それでアニス先輩、なんて言ってた?」
「いいよって。あだ名なんて初めてだから、嬉しいって」
「マ、マジかよ……!?」
(アニス先輩、おおらかすぎるぜっ!)

 空那は、やれやれと首を振る。
 だって、よりにもよって小動物である。
 それってもはや、人間ですらない。

 空那は、砂月の手元のノートに目線を落とした。
 そこには赤青緑に黄色に紫……カラフルな色のサインペンで、敵の出てきた場所、完全に排除できた場所、安全なルート、逆に押されてる場所などが記されている。

 砂月の得ている情報は、とても細かいレベルにまで達していた。虫や鳥、動物の目や感覚でもたらされるそれらは、決して敵を見落とさない。
 まさに、『猫の子一匹逃さない』監視網だった。
 もっとも、砂月はその『猫の子』さえ使っているのだから……これも、当然なのだが。
 砂月が地図を指し示し、言う。

「順調そのものって感じだねえ! なーんも心配いらないよ!」
「そ、そうか!」

 空那は思う。

(……こりゃ、本当に砂月の言う通り、楽勝かもなっ! ここまで上手くいくなんて、思ってもみなかった。わずか三人なんて、どうなることかと思ったけど……!?)

 ほんの数十分前まで、不安で胸が一杯だった!
 だけど今は、それが嘘みたいに、空那の心は軽くなっていた!

 ……だがしかし、好事魔こうじま多し。
 なにごとも、上手く行っている時ほど、予想外が起こってしまう。

 誰だって……知ってるだろう?
 人生とは、そういうものなのだ。
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