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貧乏な騎士爵による勧誘

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 笑顔のペルティエ子爵は、話題を変える。

「決闘を見るため、周りの貴族が集まっています。せっかくだから、社交のパーティーをする予定ですが、ランストック伯爵も参加されては?」

「ぜひ、お願いいたします」

 参加しなければ、息子のギュンターについても、何を言われるやら。

 そう思ったランストック伯爵は、一も二もなく、同意した。

 思わぬ余興を見せたランストック伯爵家と、この地を治めるペルティエ子爵家の2つは、剣ではなく、話術や駆け引きがモノを言うフィールドへ進む。


 ◇


「クラン『叡智《えいち》の泉』の団長、杠葉《ゆずりは》さまと、その団員であるジン様でございます!」

 ホールに響いた声と同時に、正装の俺たちは、左右に開かれた大扉を通り抜け、入場した。

 立食パーティーの形式で、白いテーブルクロスが敷かれた長テーブルの上に、グラスや皿が並ぶ。

 爵位が低い順番で、どんどん入っていき、高位の人物を迎えるのだが――

 今回は、無礼講に近く、そこかしこに人の姿。

 俺たちの入場で、チラッと見るも、すぐ歓談に戻る。

 大人だが、俺の頭1つ分は低い杠葉は、群青色の瞳で、俺を見上げた。

「気にするな! 迷宮都市ブレニッケでは、どれだけ高位でも、面と向かって私たちを馬鹿にできんぞ? ここで冒険者を敵に回せば、タダでは済まない。奴らの腹の中までは知らんが。……お前は、元貴族だったな? 面倒になったら、私に構わず、とっとと帰れ」

 薄い紫のドレスを着た杠葉。

 彼女を見下ろしつつ、確認する。

「いいのか?」

「ああ、構わん……。私も子供ではないから、自分で何とかする! 望乃《のの》はお前と来たがっていたが、あいつには向いていない。すぐ顔に出るし、こういった場での対処法を知らんからな」

 杠葉は、ギリギリまで粘っていた望乃を思い出したようだ。

 スタスタと歩き、手慣れた様子で、近くのテーブルに置かれた、中身が入ったグラスを手に取り、どこかへ向かう。

「ハハハ! 僕のほうも、あまり余裕がないので……。申し訳ないが、用事ができた。いったん、失礼するよ!」

 歓談していたロワイド・クローは、やっぱり正装だ。
 目ざとく、杠葉の姿を見つけたようで、集まりから抜け、早足に駆け寄っていく。

 その2人を眺めていても仕方ないから、ホールを見回す。

 4人ぐらいの小グループが一定間隔で集まっており、会話。

 壁際に設けられた椅子や、ソファーには、休憩中の人々。

 ふむ……。

 挨拶をする相手もいないし、適当に過ごすか!

 そう決めたことで、用意された料理を物色しつつ、適当に飲み始めた。

 他人と話さない俺を見て、眉をひそめる奴もいたが、気にしない。


「今、いいだろうか?」

 武闘派に特有の、太い声。

 見れば、騎士らしき服を着た男がいる。

 帯剣はしておらず、服装から招待客だと分かった。

「何でしょう?」

「いや、たいした用事じゃない……。有り体に言えば、勧誘に来たのだが――」

 そいつは騎士爵で、コロシアムで圧倒的な力を見せた俺を迎え入れたい、という内容だった。

「すぐに返事をくれとは、言わない。気が向いたら、俺のいる領地を訪ねてくれ! 歓迎するぜ!!」

 片手を振った男は、すぐに背中を向けた。

 去っていく後ろ姿を見ながら、ゆっくりと、息を吐く。

 騎士爵というが、その実態は、僻地の村の代官だ。
 上の貴族は忙しいから、住人を治めつつ、税を取り立てる。

 用心棒の意味合いが強く、モンスターや賊が出たら、村の若い衆を引き連れて討伐することが義務。

 実質的にまとめているのは、村の長老。
 ただし、そいつは貴族ではないため、土地を所有している領主に会える人間が必要だ。
 領主に掛け合い、兵士や騎士団を呼ぶために。

 鎧と盾は、激しい戦闘がなければ手入れで済むし、子孫へ引き継げばいい。
 だが、バトルで暴走しない軍馬は、かなり貴重だ。

 おまけに、良い食事を与えることが必須。
 下手をすれば、馬を買った借金に追われつつ、そいつの食い扶持《ぶち》で、取り分の税が吹っ飛ぶ。

 一言でいえば、常に貧乏だ。
 畑を耕し、開墾することが、基本。
 鍛錬にもなるから、全くのムダではないが……。

 フェルム王国は、人族が治めている。
 王族を頂点にして、一般的な貴族が、領地を持っている形だ。

 さっきの騎士爵は、貴族じゃない。
 ここの領主であるペルティエ子爵家と同じく、代官をしている間だけの貴族だ。

 貴族と呼ばれるのは、最低でも男爵から。
 平民を貴族に準じる準男爵も、しょせんは名誉職にすぎない。

 ややこしいのだが、騎士団は騎士爵と違う。

 有力な貴族の家にいる令息で、主に次男から下が、主な就職先としている。
 言わば、エリートだ。
 傭兵団の頭と同じ騎士爵なんぞ、相手にされない。

 さっきの男に応じれば、とんでもない過疎村への移住だ。
 あいつの娘か、親戚、もしくは、村の若い女が嫁に来て、取り込まれる。

 悪ければ、中年でタルンタルンの未亡人とかが、酔わせた後で、既成事実を作るだろう。

 若い美女がいれば、上の貴族や有力な商会に宛てがい、村を優遇してもらうよう、頼む。
 もしくは、村の同年代が、すぐに唾をつけ、そのまま子供を作る。
 器量が良ければ、たとえ不細工でも、誰かがキープするだろう。
 女に関しては、残り物に福がない。

 そういう場所は年功序列だから、面倒なことを全て押しつけられ、少しでも逆らえば陰口を叩かれて、立場に関わらず、村八分ってところか?

「冗談じゃないな……」

 小声で呟いた俺は、新しいグラスに持ち替えて、グイッと飲んだ。

 何が悲しくて、僻地の便利屋になるんだか。
 ここでダンジョンに潜り、入手した素材や鉱石を売っていたほうが、よっぽどマシ。
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