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第5話 通い始める心
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それからというもの、王太子は常に上の空。シンディの部屋に行っても、エリックと会っても、国王陛下と謁見しても。
そんな中、ローズの部屋でお茶を飲み話することが多くなった。
最初は美女を捜すためだったが、ローズと話すと時も美女も忘れる。普通の雑談から政務の話。時には宮殿を揺るがすほどの大爆笑に及ぶほど二人の話は盛り上がったのだった。
それをローズの侍女二人は優しい顔で見守っていた。
「ようやくいい雰囲気になりましたね」
「本当に。女神に会う前に自分で女神を作ってしまうかも」
「ん? どうしたのレダ」
「いいえ。こちらの話」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
もちろんシンディは面白くない。身重な体を抱えているのに愛する夫は廃すると言っていた第一夫人の部屋に行くのだから。エリックと共に王太子を責めたてる。
「殿下なぜあの魔女を追い出しません。魔法で良いように操られているのでは?」
「いやぁ。そんな雰囲気は全然無い。なかなか誠実な姫なんだ」
それを聞いてシンディは顔を覆って身を震わせた。
「どうか私を殺して下さい。殿下に捨てられたら私もこの子も生きる場所はございません。正妻にするとはウソでしたの? はしたないことは申し上げたくはありません。しかし王太子妃様が女王となればきっと私達は処刑されましょう。ならばその前に愛する人の手で殺された方がマシです」
そう言って激しく泣くので、王太子はどうしていいか分からずに戸惑うしかなかった。
シンディをなだめて自室に戻ると、バルコニーの庭園でレダが庭木の剪定をしているので近づいて話をしにいった。
「実はシンディを泣かせてしまって。キミならどうする?」
「それを私に相談します? まぁいいでしょう。どんな女性でも花を貰うのは嬉しいこと。ジカルマ産の珍しい花があります。それを持っていって差し上げなさい」
そう言って、素焼きの鉢に入れた背の低い百合のような花が一輪咲いているものを王太子へと渡す。その一輪の存在感が見事なこと。王太子は喜んでそれを持ってシンディの部屋へと行った。
シンディもそれを気に入って、自分のイスの後ろにある調度品の上にレースを敷いてそこに置くことにした。
ようやくシンディの機嫌が直ったと、廊下を進む王太子。ついつい独り言をつぶやいている。
「殿下。ソフィアにお菓子を焼かせましたの。一緒にいかがです……」
それにハッと気付く。ついローズの言うであろう言葉を口を緩めて言っていたのだ。
「ちょ、ちょっと待てよ。おかしいぞ? あんなローズのことを考えているなんて。私にはシンディがいるし、もうすぐ女神との密会もある。しかし、しかし、ローズとお茶を飲むことを楽しみにしているのか……?」
その場に立ち尽くしていると前からエリックがやって来る。王太子に気付いたエリックは廊下の端で跪いたので、王太子はそこに急いで彼を立たせた。
「エリック。虚礼は不要だ。さぁ立ってくれ」
「まさか。虚礼ではございません。しかし何をぼぅっと考えてらしたんで? ははーん。シンディのことですな?」
「わ、分かるか? エリックには隠せないな」
「分かりますとも。さぁ私は未来の王妃の話し相手をしに行くことにしましょう」
「お、おう」
未来の王妃。それはシンディに約束したこと。しかしそうするにはローズを廃さなくてはならない。前には痛まなかった胸が刺すように痛む。ローズを廃すなどと……。
そんな中、ローズの部屋でお茶を飲み話することが多くなった。
最初は美女を捜すためだったが、ローズと話すと時も美女も忘れる。普通の雑談から政務の話。時には宮殿を揺るがすほどの大爆笑に及ぶほど二人の話は盛り上がったのだった。
それをローズの侍女二人は優しい顔で見守っていた。
「ようやくいい雰囲気になりましたね」
「本当に。女神に会う前に自分で女神を作ってしまうかも」
「ん? どうしたのレダ」
「いいえ。こちらの話」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
もちろんシンディは面白くない。身重な体を抱えているのに愛する夫は廃すると言っていた第一夫人の部屋に行くのだから。エリックと共に王太子を責めたてる。
「殿下なぜあの魔女を追い出しません。魔法で良いように操られているのでは?」
「いやぁ。そんな雰囲気は全然無い。なかなか誠実な姫なんだ」
それを聞いてシンディは顔を覆って身を震わせた。
「どうか私を殺して下さい。殿下に捨てられたら私もこの子も生きる場所はございません。正妻にするとはウソでしたの? はしたないことは申し上げたくはありません。しかし王太子妃様が女王となればきっと私達は処刑されましょう。ならばその前に愛する人の手で殺された方がマシです」
そう言って激しく泣くので、王太子はどうしていいか分からずに戸惑うしかなかった。
シンディをなだめて自室に戻ると、バルコニーの庭園でレダが庭木の剪定をしているので近づいて話をしにいった。
「実はシンディを泣かせてしまって。キミならどうする?」
「それを私に相談します? まぁいいでしょう。どんな女性でも花を貰うのは嬉しいこと。ジカルマ産の珍しい花があります。それを持っていって差し上げなさい」
そう言って、素焼きの鉢に入れた背の低い百合のような花が一輪咲いているものを王太子へと渡す。その一輪の存在感が見事なこと。王太子は喜んでそれを持ってシンディの部屋へと行った。
シンディもそれを気に入って、自分のイスの後ろにある調度品の上にレースを敷いてそこに置くことにした。
ようやくシンディの機嫌が直ったと、廊下を進む王太子。ついつい独り言をつぶやいている。
「殿下。ソフィアにお菓子を焼かせましたの。一緒にいかがです……」
それにハッと気付く。ついローズの言うであろう言葉を口を緩めて言っていたのだ。
「ちょ、ちょっと待てよ。おかしいぞ? あんなローズのことを考えているなんて。私にはシンディがいるし、もうすぐ女神との密会もある。しかし、しかし、ローズとお茶を飲むことを楽しみにしているのか……?」
その場に立ち尽くしていると前からエリックがやって来る。王太子に気付いたエリックは廊下の端で跪いたので、王太子はそこに急いで彼を立たせた。
「エリック。虚礼は不要だ。さぁ立ってくれ」
「まさか。虚礼ではございません。しかし何をぼぅっと考えてらしたんで? ははーん。シンディのことですな?」
「わ、分かるか? エリックには隠せないな」
「分かりますとも。さぁ私は未来の王妃の話し相手をしに行くことにしましょう」
「お、おう」
未来の王妃。それはシンディに約束したこと。しかしそうするにはローズを廃さなくてはならない。前には痛まなかった胸が刺すように痛む。ローズを廃すなどと……。
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