コボルド将軍の息子 ──チャブチ

家紋武範

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転生の章 幼児篇

第6話 守る執念

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一度通った道だ。アブラムは同じルートをたどって集落の道を急いだ。
近くになるとほのかに火の光が見える。
そこにコボルドの集落があるのは明白だ。
指を舐めて、その指を立てると風向きが分かる。
明らかにコボルドの集落に向けて吹いていた。

「よし! 勝機だ! 火の方に向かって火矢を打ち込もう!」

アブラムの声で、兵士たちはコボルドの集落に向かって火矢を射かけた。

ボッと燃えるコボルドの家。それは一つ二つではない。
あっという間に一面火の海で、辺りに煙りが充満した。
驚いてみんな跳ね起きると、そこかしこに火矢が刺さって火事が起きている。
ブラウン将軍は大こん棒片手に大声で叫んだ。

「戦士は迎え撃つ! 火矢の方向に進め! 弓は接近戦に弱いはずだ! 連射も効かん! 我々の勝ちだぞ! だが万一のために女子供は逃げる準備をせよ。戦士でないものは火を消せ!」

そうみんなを元気づけた。
戦士たちはその言葉に奮い立ち、武器を持って火矢の方向に向かって行った。

ブラウン将軍はそんな中、妻ユキの肩に両手を置いた。

「ユキ。坊主とともに、ゴールドの守る砦に向かえ。なに。すぐ明日には迎えに行く。万一を考えてだ」

そして抱きしめながらキスをし、自分も大こん棒を引っ提げて敵に向かって駆けて行った。

母ユキは急いでボクを起こした。

「坊や。坊や。チャブチ」
「……う、うーん。何? あれ! 村が真っ赤っかだ!」

「そうなの。人間が襲ってきたのよ! さぁ、逃げるのよ!」

母は調理道具などを手に取って、ボクの手を引いた。
ボクの大事なものなんて棒切れ一本だけだったのですぐに準備ができた。

集落の裏口から出ようとすると

ぷす

「あれ?」
「きゃあ! チャブチ!」

ボクの体に矢が突き刺さって貫通していた。
あまりのことにボクはそのまま気絶してしまった。

そのころ、父ブラウン将軍は大こん棒を振るってアブラムと一騎討ちしていた。
アブラムは防戦一方でうめいていた。

「くそぉ! なんて馬鹿力だ!」
「死ね! おろかな人間め!」

ガイン! ガイン! と音を立てて大こん棒がアブラムを苦しめる!
アブラムが耐え切れなくなった時だった。彼の片手が光った!

「ブレイムゲイズ!」

アブラムは炎の竜巻の魔法を使ったのだ。それは彼の切り札だった。

「ぐあ!」

ブラウン将軍は叫んだ。
体の大半は焼け焦げ、片目は潰れたようになってしまった。
体毛を焦がした臭いが人間たちの鼻をついた。
怯んだところを見計らい、さらに胸に矢が数本刺さりブラウン将軍は片膝をついてしまった。今度は背中に矢が刺さる。
身体が大きいのは一度怯むと的になりやすい。
人間たちはブラウン将軍に集中攻撃を仕掛けたのだ。

ブラウン将軍は大声を張り上げた。

「みなの者ひけ! 殿しんがりはワシがする!」

まわりの戦士たちは驚いた。
常勝のブラウン軍が負けるわけがない。
得意の野戦だし、今は防戦の最中だ。引くことは負けと言うことだ。

「そんな! まだ戦えます!」
「将軍こそ引いてください!」

ブラウンは「バカな!」と叫んで続けた。

「ワシが死ぬものか! すぐに合流する。ワシを信用せい!」

そう言って狭い道に大きな体で立ち、大こん棒を構えて戦士たちを後方に逃がした。
人間たちはこんなに大きなモンスターに通せん坊されたら先には進めない。遠巻きに矢で撃ち、アブラムは連続して火球の魔法を打ち込んだ。
ブラウンは戦士が全員引き、逃げおおせたと感じたところで「グウッ」と唸って両膝を着いて倒れ込んだ。実はあの魔法はすでに致命傷だったのだ。彼の四肢はすでに動かなかった。

彼は近づいてくるアブラムに歯をむき出しにして笑いかけた。

「はっはっはっは! ワシの負けだ。そなたは名のある戦士なのであろう。ワシの首を取って手柄とせい! そなたに殺されるなら恥ずべきことでも無い」

そう言いながら片手で革の鎧のクビ元を引きちぎり首さらして差し出した。アブラムは剣を抜いてブラウンの首に当て振り上げて打ち下ろした。
ブラウンの首はポーンと1メートル先に飛び地面に落ちてバウンドしたかと思うと、

ギャーーーン!

と声を上げてアブラムの喉を目掛けて飛んできたのだ。アブラムはとっさに赤マントを開いて防御した。ブラウンの首は赤マントに食らい付き狂犬のようにグォォッ! グォォッ! と唸っていたが、そのうち「ぐりん」と目が白目になり絶命した。
余りの執念にみんな身震いした。
その首をどうにか引き離そうとしたがどうにも放れようとしない。

「こりゃマントのこの部分だけ切り取るしかありやせんぜ?」

と、一人の兵士がアブラムに言うとアブラムは

「いや、このマントには魔法やブレスを和らげる特殊効果がある。切ったら効果が失われるかもしれない。ましてや魔王軍の将軍の首。このままにしておこう。」

そう言ってブラウンの首はそのままにすることにした。

その後、彼らはコボルドの集落に入ったがすでにもぬけの殻でネズミ一匹いなかった。
しかし、魔王軍の将軍を倒したのだ。証拠はマントにある。
アブラムは兵隊を連れて意気揚々と引き上げていった。
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