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出会い編
第一回 魅力の化物 一
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今から約千八百年前──。
中国は三つの国に分かれて覇権を争っておりました。
魏の曹操、蜀漢の劉備、呉の孫権。
数多の英雄たちが自分たちの信じるもののために戦っていた時代があったのです。
你好!
初めまして。私は夏侯三娘と申します、蜀漢の英雄張飛益徳の嫁でございます。
漢代末期から三国時代に生きておりました、今は地下の人ですがこうして現世で少しお話をしたくて罷り越しましたの。
えー……、コホン。
皆さんは張飛と言えばどんな想像を致します?
呂布と一騎討ちで互角に渡りあった豪傑? ふんふん。
腕力だけの猪武者? うんうん。
酒かっくらって失敗ばかり? はいはい。
足手まといの問題児? くぬぅ……。
た、たしかに今に伝わる三国志を読んでるとそう思いますわよねぇ……。
え? 私が魏の名将夏侯淵の姪だとご存知ですって?
まぁ! よく知ってらっしゃいますわねぇ。
なのに二十も歳上の乱暴者の張飛に薪拾いの際に拐われて強引に妻にされて気の毒だ?
……うーん。どうやら三国志を編纂した陳寿の記載ではなかなか読み取れない部分もありますよねぇ。
ええ、ええ、たしかに私は二十も歳の離れた旦那に嫁ぎました。ですが私たちは相思相愛。
実家にいればそれは名家として栄華な生活を送れたとは思いますが、それを捨てて旦那と、長年に渡って大陸を彼方此方。そして巴蜀の地にて漢を興したのです。
私がもしも旦那が嫌なら、曹操さまが発した南下政策の荊州攻めの折りに、長坂坡の戦いで、曹操さまの陣営に駆け込めば実家に帰れましたのよ?
そもそもあの戦いでは、旦那の義理の兄である劉備さまのご家族は散り散り、奥様やお妾さまの行方は不明となり、二人の娘さんは曹休さまに捕えられるという大混戦となりました。
そんな中、私が二人の間に出来た四人の子どもを連れて無事に落ち延びれたって、そんな奇跡あると思えます?
つまりそういうこと。うちの旦那は私たち家族を守りつつも、曹操軍百万を大喝して追い返したのですよ?
今回は旦那、張飛の名誉を回復すべく嫁の私が立ち上がりました。旦那に見られたら「不粋なことするな」と怒られそうですけどね。
それではこの夏侯三娘による女性目線の三国志、開演でございます。
皆さんに分かりやすいように、登場人物は姓と名前で呼ぶことに致します。
ですが旦那の張飛は『益徳さん』。主君の劉備さまを『兄者さん』。義兄の関羽さんを『雲長さん』と当時の呼び方で呼ぶことをお許しくださいね。
◇
さて、時は漢代の建安二年。今で言う西暦197年ですわ。
漢の皇帝は、許県に遷都しておりまして、大臣の曹操さま、その軍閥である夏侯家は許県に屋敷を構えておりました。
私の父である夏侯英と母はすでに鬼籍で、私と姉兄は伯父である夏侯淵さまのお屋敷に厄介になっておりました。
父は夏侯淵さまの弟でも末弟でありまして、よく可愛がられていたと聞いております。その延長で私たちは伯父さまに実の娘、息子として養育されることとなったのです。
その姉兄とは一番上が一娘、この時十六歳。二番目の姉が二娘で十五歳。三番目は兄で儒、十三歳。そして四番目が私、三娘、十一歳でした。
「ちょいと三娘」
「はい?」
突然呼ばれてビックリしてしまいましたわ。すでに物語は始まってるんでした。
振り返ると両手を腰に当ててふんぞり返ってらっしゃるスタイルよしの大美人。私たちの母代わり。夏侯淵伯父さまの奥様、卞峰伯母さまですわ。
この家に引き取られたとき、私は乳飲み子でしたから、この伯母さまのお乳を飲んで娘として育てられたのです。
あの曹操さまの奥様である卞氏の実妹ですのよ。曹操さまも伯父さまも、この美しい姉妹にメロメロ。たくさんのお子さまを作りました。うんうん。
「なにをしているの? ニヤニヤしていやらしい娘だわねぇ」
「い、いえなんでもないです」
「お姉ちゃんたちはどうしたの?」
「あら伯母さま。私では役に足りませんの?」
「そうじゃないの。大事な用よ。曹閣下が本日宴席を開くから二人に歌って踊らせるよう命じられたのよ。今から着飾らなきゃいけないでしょ」
「へぇ!」
「なによ、目を丸くして。あなたたちにはちゃんと歌も踊りも楽器も教えてるんだから出来るでしょ?」
そうなんです。この卞姉妹はもともとそういうエンターテイメントなお仕事をしておりまして、曹操さまと伯父さまに見初められたのです。
私たちも娘としてちゃんと教育を受けてましたのよ。
「でも伯母さま。なんでお姉さまだけなんですの? 私も出来ますよ。笛でも琴でも」
自薦しながらにこやかに自分を指差す私を伯母さまは、じっとりと下から上へと見ながら答えました。
「そうね、今回は私が琴を引くことにするわ」
ズコーですわ。なんですのそれ。私だって楽器も、お歌も自信があるのに。それに、お客さまに私たち姉妹を出すなんて初めてのこと。どういうことかしら?
「伯母さま、なんで私たち姉妹が歌と躍りを披露ですの?」
「それがねぇ……。なんでも大事なお客さまらしいわ」
「あら曹操さまがそんなにご執心になるなんて珍しいですわね」
「そうなのよ。それが変な話でね」
「どんなお話で?」
「なんでも徐州牧の劉備と言う群雄なんだけどね、その土地を呂布に盗られ、追い出されて曹閣下を頼ってきたのよ」
でました旦那の義理の兄、劉備兄者さん。私も姉たちもこの時は兄者さんをまったく知りませんでした。
いわゆる敗軍の将が大事なお客さまだなんて、たしかに変な話だと思いました。
「たしかにそれで曹操さまが自ら当家の姉を名指しで呼んで宴席とはおかしな話ですわね」
「そうなのよ。実はこれには逸話があるのよ」
「どんなですの?」
「それはね──」
伯母さまは詳しい訳を話し始めたのです。
◇
なんでも劉備が徐州を逐われて曹閣下を頼るとき、使者を出して受け入れてくれるか打診してきたのよ。それに対して曹閣下は郭嘉と荀彧の二人の参謀にどうするか尋ねたの。
最初に郭嘉がこう答えたわ。
「私が見ますに、大したことのない人物です。しかしなぜかあの戦下手、政治下手を担ごうとするものが多いんですよね。そんなヤツになぜ人が集まるのか分かりませんが、左右に関羽と張飛という豪傑を従え、徐州の官僚も彼になびきました。不思議な男です。それを我が幕下に加え彼の者の“人寄せ”の力を利用すべきです」
「なるほどそうか。たしかにめざましい戦功もないし、立派な政治家とはいえないな。荀彧はどう思う?」
曹閣下は、知恵袋の中でも一番信頼している荀彧に訊ねると、彼は眉を潜めて答えたわ。
「あれは後々我らに面倒を引き起こすに違いありません。そうならないように殺してしまうべきです」
“殺せ”と言う言葉に、曹閣下は苦笑してさらに聞き返したの。
「殺すとは穏やかではないな。頼ってきたものを殺してしまっては後々にこの曹操を頼るものはいなくなってしまうぞ? “窮鳥懐に入る”だ。しかし、荀彧がなぜそこまで劉備を嫌うのか聞いておこう」
それに荀彧は答えたわ。
「いえ殿。嫌いなのではありません、先ほどの郭嘉の言にもある通り、あやつは“人寄せ”の力があるのです。仁徳です。魅惑の妖力を感じるのです」
「はあ? お前のような知恵者が、鬼道の妖力などという言葉を使うなぞとは思わなんだ。妖力などと分からん力の説明を使うというのは思考の停止だ」
「いえ殿。本当でございます。少し例を上げましょう」
「なるほど。では伺おうではないか」
それに対して荀彧は、劉備の“魅力お化け”っぷりを語りだしたのよ。
「まず、関羽と張飛という英傑が、なにも持たない時代から劉備に引っ付いているのがおかしい。さらに申し上げますと、馬商人の張世平というものは、劉備の黄巾討伐の旗揚げ時に資金を無償提供したのです」
「そうなんだよな。そこは不思議だ」
「また徐州に援軍で来ただけなのに陶謙は劉備に惚れ込み、徐州牧の印綬を託しました。また徐州の富豪である縻竺は倉を開けて財産を分け、使用人五千人贈りました。さらに自分の妹を妻として差し出したのです。とんだ惚れ込みようです」
「なっ……! 本当か?」
「さらにある者が劉備に刺客を放ったのですが、刺客は劉備に会ったとたん、任務を放棄し、自分の素性を明かした上で別な刺客に気を付けるよう言ったとか」
「それはー、さすがに嘘であろう?」
「本当ですよ。呂布も最初は劉備に大人しく従い、“賢弟”とさえ呼んだのです」
「なんとあの虎狼のような男がか……」
「そうです閣下。私が恐れるのはそこです。その“人寄せ”の妖力は我が君、つまり閣下すら飲み込んでしまうのではないでしょうか? 私は閣下に全てを託しました。世直しが出来るのは閣下しか居りません。それがピョイと出てきた敗軍の将に閣下が惚れ込んだらエライことです」
荀彧は肩で息をしながら力説を終えたわ。それを曹閣下はしばらく考えて顔を上げたの。
「──郭嘉の言に従おう。荀彧の言うことは迷信だ。それに惑わされていては今後に差し障る、余は信じぬ。彼の者を我が幕下に加える。そして彼の有能な配下を取り込んでしまうのだ。身も心も蕩かす接待を行えば、幽州の貧しい出だ。すぐに離れられなくなるぞ!」
それに荀彧はうつむいて、郭嘉は顔を上げて叫んだの。
「おっしゃる通りです!」
「では彼を城門まで出迎えると使者に伝えよう」
こうして、曹閣下は劉備を受け入れることにしたのよ。
中国は三つの国に分かれて覇権を争っておりました。
魏の曹操、蜀漢の劉備、呉の孫権。
数多の英雄たちが自分たちの信じるもののために戦っていた時代があったのです。
你好!
初めまして。私は夏侯三娘と申します、蜀漢の英雄張飛益徳の嫁でございます。
漢代末期から三国時代に生きておりました、今は地下の人ですがこうして現世で少しお話をしたくて罷り越しましたの。
えー……、コホン。
皆さんは張飛と言えばどんな想像を致します?
呂布と一騎討ちで互角に渡りあった豪傑? ふんふん。
腕力だけの猪武者? うんうん。
酒かっくらって失敗ばかり? はいはい。
足手まといの問題児? くぬぅ……。
た、たしかに今に伝わる三国志を読んでるとそう思いますわよねぇ……。
え? 私が魏の名将夏侯淵の姪だとご存知ですって?
まぁ! よく知ってらっしゃいますわねぇ。
なのに二十も歳上の乱暴者の張飛に薪拾いの際に拐われて強引に妻にされて気の毒だ?
……うーん。どうやら三国志を編纂した陳寿の記載ではなかなか読み取れない部分もありますよねぇ。
ええ、ええ、たしかに私は二十も歳の離れた旦那に嫁ぎました。ですが私たちは相思相愛。
実家にいればそれは名家として栄華な生活を送れたとは思いますが、それを捨てて旦那と、長年に渡って大陸を彼方此方。そして巴蜀の地にて漢を興したのです。
私がもしも旦那が嫌なら、曹操さまが発した南下政策の荊州攻めの折りに、長坂坡の戦いで、曹操さまの陣営に駆け込めば実家に帰れましたのよ?
そもそもあの戦いでは、旦那の義理の兄である劉備さまのご家族は散り散り、奥様やお妾さまの行方は不明となり、二人の娘さんは曹休さまに捕えられるという大混戦となりました。
そんな中、私が二人の間に出来た四人の子どもを連れて無事に落ち延びれたって、そんな奇跡あると思えます?
つまりそういうこと。うちの旦那は私たち家族を守りつつも、曹操軍百万を大喝して追い返したのですよ?
今回は旦那、張飛の名誉を回復すべく嫁の私が立ち上がりました。旦那に見られたら「不粋なことするな」と怒られそうですけどね。
それではこの夏侯三娘による女性目線の三国志、開演でございます。
皆さんに分かりやすいように、登場人物は姓と名前で呼ぶことに致します。
ですが旦那の張飛は『益徳さん』。主君の劉備さまを『兄者さん』。義兄の関羽さんを『雲長さん』と当時の呼び方で呼ぶことをお許しくださいね。
◇
さて、時は漢代の建安二年。今で言う西暦197年ですわ。
漢の皇帝は、許県に遷都しておりまして、大臣の曹操さま、その軍閥である夏侯家は許県に屋敷を構えておりました。
私の父である夏侯英と母はすでに鬼籍で、私と姉兄は伯父である夏侯淵さまのお屋敷に厄介になっておりました。
父は夏侯淵さまの弟でも末弟でありまして、よく可愛がられていたと聞いております。その延長で私たちは伯父さまに実の娘、息子として養育されることとなったのです。
その姉兄とは一番上が一娘、この時十六歳。二番目の姉が二娘で十五歳。三番目は兄で儒、十三歳。そして四番目が私、三娘、十一歳でした。
「ちょいと三娘」
「はい?」
突然呼ばれてビックリしてしまいましたわ。すでに物語は始まってるんでした。
振り返ると両手を腰に当ててふんぞり返ってらっしゃるスタイルよしの大美人。私たちの母代わり。夏侯淵伯父さまの奥様、卞峰伯母さまですわ。
この家に引き取られたとき、私は乳飲み子でしたから、この伯母さまのお乳を飲んで娘として育てられたのです。
あの曹操さまの奥様である卞氏の実妹ですのよ。曹操さまも伯父さまも、この美しい姉妹にメロメロ。たくさんのお子さまを作りました。うんうん。
「なにをしているの? ニヤニヤしていやらしい娘だわねぇ」
「い、いえなんでもないです」
「お姉ちゃんたちはどうしたの?」
「あら伯母さま。私では役に足りませんの?」
「そうじゃないの。大事な用よ。曹閣下が本日宴席を開くから二人に歌って踊らせるよう命じられたのよ。今から着飾らなきゃいけないでしょ」
「へぇ!」
「なによ、目を丸くして。あなたたちにはちゃんと歌も踊りも楽器も教えてるんだから出来るでしょ?」
そうなんです。この卞姉妹はもともとそういうエンターテイメントなお仕事をしておりまして、曹操さまと伯父さまに見初められたのです。
私たちも娘としてちゃんと教育を受けてましたのよ。
「でも伯母さま。なんでお姉さまだけなんですの? 私も出来ますよ。笛でも琴でも」
自薦しながらにこやかに自分を指差す私を伯母さまは、じっとりと下から上へと見ながら答えました。
「そうね、今回は私が琴を引くことにするわ」
ズコーですわ。なんですのそれ。私だって楽器も、お歌も自信があるのに。それに、お客さまに私たち姉妹を出すなんて初めてのこと。どういうことかしら?
「伯母さま、なんで私たち姉妹が歌と躍りを披露ですの?」
「それがねぇ……。なんでも大事なお客さまらしいわ」
「あら曹操さまがそんなにご執心になるなんて珍しいですわね」
「そうなのよ。それが変な話でね」
「どんなお話で?」
「なんでも徐州牧の劉備と言う群雄なんだけどね、その土地を呂布に盗られ、追い出されて曹閣下を頼ってきたのよ」
でました旦那の義理の兄、劉備兄者さん。私も姉たちもこの時は兄者さんをまったく知りませんでした。
いわゆる敗軍の将が大事なお客さまだなんて、たしかに変な話だと思いました。
「たしかにそれで曹操さまが自ら当家の姉を名指しで呼んで宴席とはおかしな話ですわね」
「そうなのよ。実はこれには逸話があるのよ」
「どんなですの?」
「それはね──」
伯母さまは詳しい訳を話し始めたのです。
◇
なんでも劉備が徐州を逐われて曹閣下を頼るとき、使者を出して受け入れてくれるか打診してきたのよ。それに対して曹閣下は郭嘉と荀彧の二人の参謀にどうするか尋ねたの。
最初に郭嘉がこう答えたわ。
「私が見ますに、大したことのない人物です。しかしなぜかあの戦下手、政治下手を担ごうとするものが多いんですよね。そんなヤツになぜ人が集まるのか分かりませんが、左右に関羽と張飛という豪傑を従え、徐州の官僚も彼になびきました。不思議な男です。それを我が幕下に加え彼の者の“人寄せ”の力を利用すべきです」
「なるほどそうか。たしかにめざましい戦功もないし、立派な政治家とはいえないな。荀彧はどう思う?」
曹閣下は、知恵袋の中でも一番信頼している荀彧に訊ねると、彼は眉を潜めて答えたわ。
「あれは後々我らに面倒を引き起こすに違いありません。そうならないように殺してしまうべきです」
“殺せ”と言う言葉に、曹閣下は苦笑してさらに聞き返したの。
「殺すとは穏やかではないな。頼ってきたものを殺してしまっては後々にこの曹操を頼るものはいなくなってしまうぞ? “窮鳥懐に入る”だ。しかし、荀彧がなぜそこまで劉備を嫌うのか聞いておこう」
それに荀彧は答えたわ。
「いえ殿。嫌いなのではありません、先ほどの郭嘉の言にもある通り、あやつは“人寄せ”の力があるのです。仁徳です。魅惑の妖力を感じるのです」
「はあ? お前のような知恵者が、鬼道の妖力などという言葉を使うなぞとは思わなんだ。妖力などと分からん力の説明を使うというのは思考の停止だ」
「いえ殿。本当でございます。少し例を上げましょう」
「なるほど。では伺おうではないか」
それに対して荀彧は、劉備の“魅力お化け”っぷりを語りだしたのよ。
「まず、関羽と張飛という英傑が、なにも持たない時代から劉備に引っ付いているのがおかしい。さらに申し上げますと、馬商人の張世平というものは、劉備の黄巾討伐の旗揚げ時に資金を無償提供したのです」
「そうなんだよな。そこは不思議だ」
「また徐州に援軍で来ただけなのに陶謙は劉備に惚れ込み、徐州牧の印綬を託しました。また徐州の富豪である縻竺は倉を開けて財産を分け、使用人五千人贈りました。さらに自分の妹を妻として差し出したのです。とんだ惚れ込みようです」
「なっ……! 本当か?」
「さらにある者が劉備に刺客を放ったのですが、刺客は劉備に会ったとたん、任務を放棄し、自分の素性を明かした上で別な刺客に気を付けるよう言ったとか」
「それはー、さすがに嘘であろう?」
「本当ですよ。呂布も最初は劉備に大人しく従い、“賢弟”とさえ呼んだのです」
「なんとあの虎狼のような男がか……」
「そうです閣下。私が恐れるのはそこです。その“人寄せ”の妖力は我が君、つまり閣下すら飲み込んでしまうのではないでしょうか? 私は閣下に全てを託しました。世直しが出来るのは閣下しか居りません。それがピョイと出てきた敗軍の将に閣下が惚れ込んだらエライことです」
荀彧は肩で息をしながら力説を終えたわ。それを曹閣下はしばらく考えて顔を上げたの。
「──郭嘉の言に従おう。荀彧の言うことは迷信だ。それに惑わされていては今後に差し障る、余は信じぬ。彼の者を我が幕下に加える。そして彼の有能な配下を取り込んでしまうのだ。身も心も蕩かす接待を行えば、幽州の貧しい出だ。すぐに離れられなくなるぞ!」
それに荀彧はうつむいて、郭嘉は顔を上げて叫んだの。
「おっしゃる通りです!」
「では彼を城門まで出迎えると使者に伝えよう」
こうして、曹閣下は劉備を受け入れることにしたのよ。
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