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出会い編
第三十九回 徐州奪還 四
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さあ武人仲間が出来たところで出陣です。益徳さんの陣には一万の兵士が控えております。
曹仁さまと、曹洪さまと、曹純さまはやっぱりワンランク上で二万の兵を預けられる大将ですね。益徳さんは、曹仁さまがいる陣頭に挨拶に行くと、にこやかに迎え入れてくれました。そして自分の部下たちに紹介したのです。
「おう諸君ら。頼もしい人が来てくれたぞ。中原一の腕っこき、張飛どのだ」
すると、部下の将校の士気が上がり、わぁわぁと声を上げました。それに益徳さんは照れて頭を掻いております。
「ところで益徳さん。俺はここから真っ直ぐの東門攻めを命じられた。アンタはどこ攻めだい?」
……と言われても益徳さんは、まだ命じられておりませんでした。「まだ……」と言い掛けたところで、馬に乗った兵士が駆けてきました。それは命令を伝える伝令だったのです。
「はぁはぁはぁ、張飛どの。ここにおられましたか……。幕舎に行けば曹洪さまのところにいると言われ、曹洪さまには曹純さまのところにいると言われ、曹純さまには曹仁さまのところだと言われ……」
どうやらさんざん振り回されて汗を振り払いながら愚痴を言っておりますので、曹仁さまはカラカラと笑いました。
「はっはっは。どうやら命令が来る前に我らの陣中見舞いをしたようですな。そら伝令、益徳さんに曹公からの命令を伝えよ」
「は、はい。さすれば閣下がお呼びですので、すぐに閣下の元へ」
「いっ!? 閣下が!?」
「左様でござる。お持たせしてはなりませんぞ!」
曹仁さまたちとは親しい間柄になりましたが、まだ曹操さまと言われると緊張するようですね。取るものも取らず曹操さまのところまで駆けて行きました。
益徳さんがたどり着きますと、曹操さまは参謀たちと城や回りの地勢を見ておりました。
そこに益徳さんは息を切らして曹操さまの前に跪いたのです。
「閣下! 張飛、まかり越しました!」
「おお張飛か。近う寄れ」
「はは!」
益徳さんは膝を使って曹操さまに近づきますと、曹操さまは益徳さんに立つように命じたので、膝の土を払って立ち上がりますと、曹操さまに帯をギュッと捕まれました。
「あ、あの閣下……、何を……?」
「張飛。そなたには余の護衛を命じる」
「え!?」
益徳さんが自分は幕下ではないので畏れ多いと目を白黒させていると、益徳さん程の身長ですが、でっぷりと肉質の良い武将が前に出てきましたので、曹操さまは彼を紹介しました。
「張飛、紹介するぞ。彼のものは余の樊噲である、許褚と言う怪力無双である。彼は余の左を守るので、君は余の右側を守ってくれたまえ」
「は、はは!!」
説明致します。樊噲とは漢を興した高祖劉邦さまの武将で、彼の窮地を何度も救った怪力の持ち主です。その方と許褚さんを例えたのですね。
許褚さんは益徳さんに頭を下げました。
「これはこれは。お名前とその武勇は聞いております。私は許褚と申します。今は戦場ですから無理ですが、いずれ互いの武を競ってみたいものですな」
とウインクしながら手を出すので、益徳さんもそれに手を出して握手をしました。なかなかの好漢ですわね。
二人は通ずるものがあったらしく、そのまま互いの肩を叩き合いました。
曹操さまは、それを見てこれは良いと思ったのでしょう。二人に近づくとお互いに同じタイミングで腰を折って跪きました。
「おお諸君ら。なんとも息が合うな。余の護衛、よろしく頼むぞ」
「「お任せください」」
ホントに息がピッタリですね。
やがて陣太鼓が鳴り響きます。曹軍の兵士たちは、槍を天に向けて『えい、えい、おうおう!』と叫びました。
途端に武将たちは馬を蹴って、城門に向かっていきます。曹仁さまが東門。曹洪さまが西門。その他のかたがたも、東か西に向かっていきました。
何しろこちらは敵側の二倍以上の兵力で、張遼は兄者さんが囲んでいるので急援には来れません。
呂布も陣太鼓を鳴らして応戦の構えです。城壁の上で奮戦しております。さすが呂布の兵です。寡兵ながらも力は均衡しているようです。
その時でした。陣太鼓のリズムが変わって、南門が音を立てて開きます。まさか打って出ると思わなかったので、こちらが驚いておりますと軍旗には『平東将軍 呂布』の文字です。先頭の大将は、すらりすらりと大軍を東門に臧覇を、西門には侯成と宋憲の二将に行くよう指示しております。
その指示する大将はまさに呂布でした。彼は呵呵大笑して全軍に響くように叫びました。
「この虫けらども! 恐れを知らぬ烏合の衆め! この中で俺様に勝てるものが居るか!」
と言うと、こちらの兵士たちは恐れおののいて立ちすくんでしまいました。そこに先ほどの武将たちが斬り込んで行くので、あっという間に劣勢となってしまいました。
うう。こっちのほうが数が多いのに。たった一人で戦況が変わってしまうなんて……。
呂布はその様子を見てさらに笑います。
「曹操! 俺の相手は貴様だけだ!」
ハァッと駆け出す、駿馬はものすごいスピードで曹操さまの陣に迫って参ります。さすがの曹操さまも驚いてその場でもがきましたが、側にいた郭嘉さんに押さえられました。
「閣下。すぐに張飛に出るようご命令を」
「そ、そうだった。張飛よ、そなた呂布を討ち果たして参れ!」
それを聞いて益徳さんはついにこの時が来たと、ニヤリと笑いました。
「お任せを!」
そう言って益徳さんは、真っ直ぐに馬を走らせました。
呂布は油断しておりました。情報では兄者さん、すなわち劉備軍は盱台に進軍したと聞いていたからです。
まさか益徳さんがここにいるとは思っていなかったのです。
だからこその出陣、だからこその野戦展開でしたのに、益徳さんが自身に迫っているのを見て、笑っていた口を慌てて閉じてしまいました。
「な、な、な! 貴様は張飛!!」
「おう! 呂布め! この燕人張飛の槍と交えられるか!?」
突いてくる益徳さんの矛を自身の戟で避けるものの、益徳さんの豪腕の余韻に手が痺れます。
「くそ! この化け物め!」
「あ! 逃げるか!!」
呂布は駿馬を返して城へと逃げます。それを益徳さんは追いかけるものの、呂布の駿馬は格段の違いがあるようで、すぐに差をつけられてしまいます。
益徳さんは悔しがって馬の腹を蹴って走らせますが差は広がるばかり。
そこに益徳さんの兵士は、やんややんやと囃し立てました。
「さすが張将軍!」
「呂布は味方をおいて逃げ出したのだ!」
わあ! わあ! と叫ぶと戦場は一変。さっきとは逆です。呂布の兵士や武将たちは、顔を青くしました。
そこに曹操さまは、出陣太鼓を打ちます。
“進め、進め、今を逃すな”
そう聞こえる太鼓の音に、曹操さまの兵士たちは奮い立って、目の前の敵に攻撃し出しました。
しかし、またもや下邳の城からの太鼓です。それに城内の兵士たちが「おうおう!」の囃し立てます。
最初は意味が分かりませんでした。しかし見ると呂布が矢筒から矢を引き出して、弓につがえ満月のように引き絞っております。
益徳さんは、馬の手綱を引いてそこで立ち止まらせました。
「呂布め、弓矢とは卑怯であろう」
「抜かせ! 俺様の矢は百発百中の“羿の極意”である! 夏侯惇の目も射貫いてやった! 貴様の目も射貫いてやろう!」
呂布は狙いを定めて、パッと弓を引き放ちました。
益徳さんは、それを撃ち落とす構えで、みるみる迫る矢に対して、自慢の矛を振り払ったのです。
曹仁さまと、曹洪さまと、曹純さまはやっぱりワンランク上で二万の兵を預けられる大将ですね。益徳さんは、曹仁さまがいる陣頭に挨拶に行くと、にこやかに迎え入れてくれました。そして自分の部下たちに紹介したのです。
「おう諸君ら。頼もしい人が来てくれたぞ。中原一の腕っこき、張飛どのだ」
すると、部下の将校の士気が上がり、わぁわぁと声を上げました。それに益徳さんは照れて頭を掻いております。
「ところで益徳さん。俺はここから真っ直ぐの東門攻めを命じられた。アンタはどこ攻めだい?」
……と言われても益徳さんは、まだ命じられておりませんでした。「まだ……」と言い掛けたところで、馬に乗った兵士が駆けてきました。それは命令を伝える伝令だったのです。
「はぁはぁはぁ、張飛どの。ここにおられましたか……。幕舎に行けば曹洪さまのところにいると言われ、曹洪さまには曹純さまのところにいると言われ、曹純さまには曹仁さまのところだと言われ……」
どうやらさんざん振り回されて汗を振り払いながら愚痴を言っておりますので、曹仁さまはカラカラと笑いました。
「はっはっは。どうやら命令が来る前に我らの陣中見舞いをしたようですな。そら伝令、益徳さんに曹公からの命令を伝えよ」
「は、はい。さすれば閣下がお呼びですので、すぐに閣下の元へ」
「いっ!? 閣下が!?」
「左様でござる。お持たせしてはなりませんぞ!」
曹仁さまたちとは親しい間柄になりましたが、まだ曹操さまと言われると緊張するようですね。取るものも取らず曹操さまのところまで駆けて行きました。
益徳さんがたどり着きますと、曹操さまは参謀たちと城や回りの地勢を見ておりました。
そこに益徳さんは息を切らして曹操さまの前に跪いたのです。
「閣下! 張飛、まかり越しました!」
「おお張飛か。近う寄れ」
「はは!」
益徳さんは膝を使って曹操さまに近づきますと、曹操さまは益徳さんに立つように命じたので、膝の土を払って立ち上がりますと、曹操さまに帯をギュッと捕まれました。
「あ、あの閣下……、何を……?」
「張飛。そなたには余の護衛を命じる」
「え!?」
益徳さんが自分は幕下ではないので畏れ多いと目を白黒させていると、益徳さん程の身長ですが、でっぷりと肉質の良い武将が前に出てきましたので、曹操さまは彼を紹介しました。
「張飛、紹介するぞ。彼のものは余の樊噲である、許褚と言う怪力無双である。彼は余の左を守るので、君は余の右側を守ってくれたまえ」
「は、はは!!」
説明致します。樊噲とは漢を興した高祖劉邦さまの武将で、彼の窮地を何度も救った怪力の持ち主です。その方と許褚さんを例えたのですね。
許褚さんは益徳さんに頭を下げました。
「これはこれは。お名前とその武勇は聞いております。私は許褚と申します。今は戦場ですから無理ですが、いずれ互いの武を競ってみたいものですな」
とウインクしながら手を出すので、益徳さんもそれに手を出して握手をしました。なかなかの好漢ですわね。
二人は通ずるものがあったらしく、そのまま互いの肩を叩き合いました。
曹操さまは、それを見てこれは良いと思ったのでしょう。二人に近づくとお互いに同じタイミングで腰を折って跪きました。
「おお諸君ら。なんとも息が合うな。余の護衛、よろしく頼むぞ」
「「お任せください」」
ホントに息がピッタリですね。
やがて陣太鼓が鳴り響きます。曹軍の兵士たちは、槍を天に向けて『えい、えい、おうおう!』と叫びました。
途端に武将たちは馬を蹴って、城門に向かっていきます。曹仁さまが東門。曹洪さまが西門。その他のかたがたも、東か西に向かっていきました。
何しろこちらは敵側の二倍以上の兵力で、張遼は兄者さんが囲んでいるので急援には来れません。
呂布も陣太鼓を鳴らして応戦の構えです。城壁の上で奮戦しております。さすが呂布の兵です。寡兵ながらも力は均衡しているようです。
その時でした。陣太鼓のリズムが変わって、南門が音を立てて開きます。まさか打って出ると思わなかったので、こちらが驚いておりますと軍旗には『平東将軍 呂布』の文字です。先頭の大将は、すらりすらりと大軍を東門に臧覇を、西門には侯成と宋憲の二将に行くよう指示しております。
その指示する大将はまさに呂布でした。彼は呵呵大笑して全軍に響くように叫びました。
「この虫けらども! 恐れを知らぬ烏合の衆め! この中で俺様に勝てるものが居るか!」
と言うと、こちらの兵士たちは恐れおののいて立ちすくんでしまいました。そこに先ほどの武将たちが斬り込んで行くので、あっという間に劣勢となってしまいました。
うう。こっちのほうが数が多いのに。たった一人で戦況が変わってしまうなんて……。
呂布はその様子を見てさらに笑います。
「曹操! 俺の相手は貴様だけだ!」
ハァッと駆け出す、駿馬はものすごいスピードで曹操さまの陣に迫って参ります。さすがの曹操さまも驚いてその場でもがきましたが、側にいた郭嘉さんに押さえられました。
「閣下。すぐに張飛に出るようご命令を」
「そ、そうだった。張飛よ、そなた呂布を討ち果たして参れ!」
それを聞いて益徳さんはついにこの時が来たと、ニヤリと笑いました。
「お任せを!」
そう言って益徳さんは、真っ直ぐに馬を走らせました。
呂布は油断しておりました。情報では兄者さん、すなわち劉備軍は盱台に進軍したと聞いていたからです。
まさか益徳さんがここにいるとは思っていなかったのです。
だからこその出陣、だからこその野戦展開でしたのに、益徳さんが自身に迫っているのを見て、笑っていた口を慌てて閉じてしまいました。
「な、な、な! 貴様は張飛!!」
「おう! 呂布め! この燕人張飛の槍と交えられるか!?」
突いてくる益徳さんの矛を自身の戟で避けるものの、益徳さんの豪腕の余韻に手が痺れます。
「くそ! この化け物め!」
「あ! 逃げるか!!」
呂布は駿馬を返して城へと逃げます。それを益徳さんは追いかけるものの、呂布の駿馬は格段の違いがあるようで、すぐに差をつけられてしまいます。
益徳さんは悔しがって馬の腹を蹴って走らせますが差は広がるばかり。
そこに益徳さんの兵士は、やんややんやと囃し立てました。
「さすが張将軍!」
「呂布は味方をおいて逃げ出したのだ!」
わあ! わあ! と叫ぶと戦場は一変。さっきとは逆です。呂布の兵士や武将たちは、顔を青くしました。
そこに曹操さまは、出陣太鼓を打ちます。
“進め、進め、今を逃すな”
そう聞こえる太鼓の音に、曹操さまの兵士たちは奮い立って、目の前の敵に攻撃し出しました。
しかし、またもや下邳の城からの太鼓です。それに城内の兵士たちが「おうおう!」の囃し立てます。
最初は意味が分かりませんでした。しかし見ると呂布が矢筒から矢を引き出して、弓につがえ満月のように引き絞っております。
益徳さんは、馬の手綱を引いてそこで立ち止まらせました。
「呂布め、弓矢とは卑怯であろう」
「抜かせ! 俺様の矢は百発百中の“羿の極意”である! 夏侯惇の目も射貫いてやった! 貴様の目も射貫いてやろう!」
呂布は狙いを定めて、パッと弓を引き放ちました。
益徳さんは、それを撃ち落とす構えで、みるみる迫る矢に対して、自慢の矛を振り払ったのです。
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