しあわせのあしどり

伊澄(ism)

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土曜日。一体何がおれを待ち受けているのだろう。通販なのかな。毎日昼飯を食べさせに来る高橋理人に何度聞いても空けといてくれれば良いの、としか言わない。用意したことといえばマグカップが先日割れてしまったので2個、新しく買った。
結局そのままで約束の土曜日を迎えてしまった。
出かけるといけないので一応着替えておく。チノパンにTシャツ、薄手のパーカー。これ、大学の頃から着てるな……。
そろそろ色々身綺麗にしないとダメだよなあ。と思いつつ何年経ったか。
社会人になった時にも同じことを考えた気がする。
ピンポーン。
インターホンがなる。
まだ10時なんだけど、早くない?

「はーい。」

ドアを開けると、満面の笑みの高橋理人が居た。

「お邪魔しまーす。」

ずんずんと入ってくる。もはや遠慮ないな、こいつ。

「先生の部屋ほんとうにアヤナミの部屋の並に何も無いよね。薬があるところも似てる。」

そうなの?
ごめん、分からない。

「エヴァは見た方がいいよ。……先生んちテレビないけど……。本当に何して生きてたらこんなに何も無い家になるの?」

死のうと思った時に全部捨てた。死んでないけど。とはさすがに言えないので無言。

「水、飲むか?」

お茶も買っておけばよかった……。マグカップだけあっても中身が水じゃちっとも歓迎してる感がない。

「飲む飲む。」

マグカップを2つ棚からだし、水を汲む。ひとつは自分の。

「先生……。」

じっとおれの手元のマグカップを見つめる高橋理人。なんだよ。

「もしかして、俺のために2個マグカップ、買ったの?」

「え!?いや、その、まぁ……。」

そうです。

「嬉しい!!抱きしめていい!?」

もう抱きついてるじゃん。両手に水の入ったマグカップを持ったおれは抵抗するすべもなくただただ抱きつかれている。顔は肩口に埋もれて、高橋理人の匂いでいっぱいになる。なんだか落ち着く匂い、柔軟剤だろうか?いや、きっと家庭の匂いだ。おれからはどんな匂いがしてるんだろう。前にベッドで高橋理人が「先生の匂い」って言っていたけれど、それっていい匂いだったのかな?家庭なんてないおれからは、柔軟剤の無難な匂いしかしない気がする。

「先生髪サラサラ……。」

頬ずりするな。

「ほら、いい加減にしろ、コップが置けないだろ。」

シンクの前で抱きしめられている状態ではキッチンテーブルにマグカップを置くことも出来ない。

「はーい。」

「相変わらず、水で、ごめん。」

コトン、とテーブルに水を置く。

「先生が出してくれるものならなんでも飲むよ!」

高橋理人は相変わらずおれに対して判定が甘い。大人としてダメだろ、水道水は。
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