しあわせのあしどり

伊澄(ism)

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「今日の本題はここからでもある!」

どういうこと?という顔で先生がこっちを見ている。

「これからお出かけします。」

「どこに?」

「原宿です。」

「なんで?」

「おそろいを見せびらかしに行きます。」

先生の顔が急に赤くなる。
かわいいなぁ、もう。

「や、やだ!」

「いやじゃありません。」

ほら、行くよ。と先生の手を取った。
手を繋いで出ていくところを隣の部屋のおばちゃんに見られ「あら、仲良しねぇ。」と、笑われた。「はいっ!」と元気よく返事をした。こういうのは堂々としてる方が良いのだ。

手を繋いだまま電車に乗り、ひとつ乗り換えて原宿駅で降りる。さすがに土曜日の原宿は人で溢れかえっていた。
人混みになれていないのか先生は人にぶつかっては謝っていた。

「先生、クレープ好き?」

「クレープ、食べたことない……。」

「天然記念物だ!よし、食べよう!」

とにかくベタなことがしたかった。普通のカップルがするようないかにもな事がしたかった。

「……。」

クレープ屋の前の看板を見て固まってしまった先生。

「食べきれなかったら俺が食べてあげるから好きなの選びな?」

「えっと、えっと、甘いのがいい……!」

「うん。」

「アイス乗ってるのか……。」

「うん。」

「いちご……かばなな……、ちょこ……か、……りんご!?」

先生の脳がフル回転している音が聞こえそうだった。
だめだ、先生に任せたらこれは決まらないパターンだ。

「すみません。全部のせください。」

「え!?」

ちょっと待てよ、と隣で何か言っているがまァ気にしないでおこう。
繋いでいた手を離して、お金を払い、自分でも初めて見る巨大なクレープを渡す。

「わっわっ!」

語彙が尽きたらしい先生を連れてクレープ屋の傍にあったテラス席に座る。先生はクレープと一人格闘している。スプーンでアイスクリームの部分を掬って先生の口に運ぶと、ぱくりとたべた。常日頃から昼食を食べさせている成果が出た。
先生が食べているのと逆方向から少しずつ俺も食べる。
これはなかなか食いでがあるな。

「たかはし……」

「二人の時は?」

「り、ひと……。」

よし。良い子だ、と言ってもう一口食べさせる。

「なあに?」

「クレープ、すごく美味い。」

口の端にクリームがついている。愛おしい。
口の端のクリームを舐めとる。普段ならやめろとか恥ずかしいとか言うところだがいま先生はクレープのことでいっぱいだ。
さっき道行く女子がこっちを指さしてキャーとか言ってたけれど、気にしない。
いまはクレープをはむはむと食べる先生の方がいちだいじなのだから。

「理人!」

「なに?」

「おいしい!」

なんでいちいち報告してくるのか分からないが、可愛いから良し。
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