9 / 11
本編
9 アーシュラ ②
しおりを挟む本来大魔女とは王国を、その大地を、場合によればこの世界をも慈愛と守護を齎すべき存在。
四大公爵家の長女として生を受けたとしても、生まれたばかりの赤子に国や世界を護る術はない。
そこは物理的に普通の赤子と一緒。
ただ体内の保有魔力や諸々の力と恵まれた容姿は普通……とは大分かけ離れていると思う。
勿論生まれ持つ才能や美しい容姿だけで大魔女として人々の尊敬を集められる事はないわ。
決められた運命だからこそ普通以上のものを求められる。
それこそ物心の付くかつかない間より大魔女として純粋にただ魔法を極めるだけではなく、表向きに完璧な公爵家の令嬢としての振る舞う事が出来るようにね。
とは言え何よりも辛く大変なのはおぎゃあと誕生した瞬間からこれまでの大魔女達の生きてきた記憶と言う名の膨大な情報が、生まれたばかりの真っ新な頭の中へこれでもかと流れ込んでくるの。
泣いても喚いてもどうにもならない。
拒否する事は許されない。
ただただ強制的に情報は詰め込まれ、赤子なのに既に数日で人生を達観させられてしまうのよね。
それだけではないわよ。
慈愛の精神に慈悲の心は当然と言うかもう最初から搭載積み。
常に人々と寄り添い生きていくのも大魔女としての務めの一つ。
そんな状況下で育った筈なのに前大魔女のアーシュラは今までの大魔女とは違い、慈愛ではなく自愛の強い女性だった。
なのにあろう事か魔力と魔法のセンスは当代の大魔女で一番だと言う厳しい現実。
アーシュラの両親であった前公爵夫妻はおろか、残る三人の大魔女ですら彼女の行動を諫める事は出来なかった。
恵まれた才能と力に美貌、そして自然と人を従えさせる事の出来るカリスマ性。
アーシュラの傲慢で不遜な性格でさえ些事でしかないと思わせる程の絶対的な強者。
それがアーシュラ・ルシール・ノースモアと言う女性よ。
また大魔女としての力が行使されるのは何時も気紛れなアーシュラの気分次第。
ノースモアは王国の北壁。
ただ北にあるだけではなく魔界とこの世界を繋ぐ門が存在している。
門は大魔女の守護により常に固く閉じられている。
でも隙あらば魔人族はこの世界へ干渉するべく虎視眈々と狙っているの。
北の大魔女は門の番人として遥か昔より魔人族の侵攻を阻止していたわ。
当然侵攻の阻止と言えば魔人族だけでなくこの世界に置いて隣国リーガン王国との国境も護らなければいけない。
ただ肝心の大魔女アーシュラがその気にならなければ、リーガンどころか魔界の門ですら放置されていた?
いやいやそこは彼女が動かない時は公爵家がその任に当たっていたわよ。
だから断じて放置した訳ではない。
とは言え普通の人間には激務でしかなかったでしょうね。
まぁ私からすれば普通にあり得ないと思ったわよ。
でもそのあり得ない事をやってのけるのがアーシュラ。
幼い頃より自愛の強いアーシュラに人生最大の転機が訪れたのは、丁度彼女が10歳となり初めて王宮へ伺候した時だったわ。
ええ、勿論悪い意味での転機?
現状が更にエスカレートしたとも言うわね。
そして間違いなく我がノースモアにとって災厄としか思えなかったわ。
でも全ては皆過去の出来事。
今の私にはどうする事も出来ないのも事実だったりする。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
120
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる