30 / 34
第二章
閑話 Side家族ラブな父親キルヒホフ侯爵ユリアン
しおりを挟む愛するティーネがアルフォンスを産んでくれた時も感動に涙をしたものだが、今より九年前にマジ天使なエルネスティーネを産んでくれた際は本当に女神と天使が眼前に降臨したのだと思ってしまったよ。
部下や友人達から色々聞かされていたのだがこれ程にも娘の誕生に感動するとは正直思わなかった。
そう譬えるならばエルは愛する妻のミニチュア版!!
エルと出会う為に今日と言う日があるのだと酷く納得したものだ。
また仕事を放り出して迄ティーネの出産へ立ち会った……訳ではない。
そこは物理的に許されないと皆より叱責を受け、世の夫達と同じく扉の向こう側で冬眠前の熊の様にウロウロとしていたのだが心はだ。
心だけは愛するティーネの許に寄り添っていたとここに断言する!!
だが実際娘の誕生に諸手を上げて喜ぶ事は出来なかった。
いや勿論エルが生まれて来てくれた事に感謝感激雨あられ状態だったのは言うまでもない。
彼女と初めて対面させて貰った時は感激の余り滂沱の涙を流せばだ。
疲れた顔だけではなく本当に疲れ果て満身創痍なのにも拘らず、妻はビリビリと雷を纏わせたビンタを私へお見舞いし……。
『しっかりなさいませ!!』
そう愛のお仕置きをしてくれたのだ。
まぁコホン……話は大分逸れてしまったか。
兎に角私もティーネと出逢うまで王家の秘匿されし呪いの様な奇病について何も知らなかった。
実際ティーネの体験談を聞いて大層驚いたものだ。
妻と運命的な出逢いをした以降彼女自身その奇病に悩まされる事はなくなったらしい。
だから私自身妻と親友夫婦、義母である王太后からの情報で得た知識しかない。
妻の腕の中で健やかに眠る娘を見るにつけ何故と思うと同時にこの不条理を呪った。
これより先エルが背負うだろう過酷な運命を思えば泣きそうになる。
でも今泣けば漏れなくティーネのビンタ第二弾は間違いなく飛んで来るだろう。
あ、でもそれはそれで嬉しい……い、いや出産と言う大仕事を終え満身創痍のティーネに私の相手までさせる訳にはいかない。
だから娘よ、父は心の中で泣く事にするよ。
そしてお前の背負うものを少しでも軽くしてやりたいと父は努力する。
宰相として、また国王の親友兼妹の夫としてのコネを最大限行使し様々な文献にこれまでの王家、そう直系王族のみにしか閲覧を許されないと言う記録までを何度も隅から隅まで読み漁ったよ。
しかしながら如何せん情報が少な過ぎる。
この時程ファーレンホルスト家の男児出生率を呪った事はない。
この国が建国して約千年と少し。
娘を含め誕生しただろうファーレンホルストの血を受け継ぐ女児は十名。
ただ最初の女児の記載は何故か見当たらない。
昔語りではないが女神イルメントルートが実在していると言う説によればだ。
王家の初代国王にも係わってくるのだが生憎ながら私の頭脳はそこまでお花畑ではない。
女神信仰を否定する心算はない。
大昔の厄災は確かに起こりえた事なのだろう。
だがその厄災=女神降臨に魔女の存在は些かファンタジー過ぎて私はどう素直に受け入れ難いのである。
なのでそこをなかったものとしてそれ以降の女児に関する記録を読んだのだ。
確かには百年前後、かなり幅はあるのだが女児は誕生している。
また誕生した女児はもれなく皆奇病を発症していた。
そしてこの奇病は他の者へ感染はしない。
どの女児も5~7歳頃に発症し意識消失の度に記憶を失う。
その後成人を迎えるまでに運命の番となる者と出逢う事が出来た女児は奇病は消失し天寿を全うしている。
この文献を読んだ瞬間妻の身が安泰である事に感謝をしたのは言うまでもない。
だが成人までに三名の女児は運命の番と出逢えず奇病発症して数年後に没していた。
ファーレンホルスト家の血を受け継ぐ女児は皆百年前後毎に誕生し、百年以上はかなりの幅はあるのだが反対に百年以前の後差は五年だった。
だが現実に我が娘であるエルネスティーネは妻の誕生より三十四年しか経過してはいない。
これは一体何を意味するのであろう。
娘の誕生はどの女児にも相当しない。
この事実が私を何処までも不安にさせた。
だがこの一年後更に私達を不安にさせるとは予想だにもしなかったのである。
1
あなたにおすすめの小説
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
だから愛は嫌だ~虐げられた令嬢が訳あり英雄王子と偽装婚約して幸せになるまで~
来須みかん
ファンタジー
伯爵令嬢ディアナは、婚約者である侯爵令息ロバートに、いつもため息をつかれていた。
ある日、夜会でディアナはケガをし倒れてしまったが、戦争を終わらせた英雄ライオネル第二王子に助けられる。その日から、ディアナは【相手が強く思っていること】が分かるようになった。
自分を嫌うロバートとの婚約を解消するために、利害関係が一致したライオネルと契約婚約をすることになったが、彼の視線はとても優しくて……?
偽りの婚姻
迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。
終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。
夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。
パーシヴァルは妻を探す。
妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。
だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。
婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる