とある王女様の人生最初で最後の恋

Hinaki

文字の大きさ
6 / 31

6  Sideアンジェリカ

しおりを挟む


 王女時代では考えられないくらいの短い期間とは言え乱れた生活でした。

 こうしている間にも旦那様と騎士達は命を賭して帝国と戦っておられると言うのにです。
 形だけの夫婦とは言え一般的な妻として今の私の行動は本当にあり得ないのでしょうね。

 ええ、この身体が動く限り様々な場所へと出歩いておりましたわ。
 
 観劇もそう、仮面舞踏会……今までに一度たりとも踏み込んだ事のない世界。
 そう決して国王であられるお兄様が絶対に参加が出来ないだろうものばかりをわざと選べば、当然の事ですがこの時の私は我が身に宿る子供の身の安全なんて一切考えてはおりません。

 何故なら宗教上我が国で堕胎は行えない。
 だとすれば可能な限り自然な形で欲しい。

 ふふ、本当に最悪最低な母親です。
 それでもっ、この子を受け入れれば私は同時に兄の行った行為までをも受け入れてしまう様で怖かったのです。

 私は兄を肉親としてしか受け入れられなかった。
 でも今はその肉親と言う括りでも受け入れたくはない。
 叶うならばこれより先生涯兄の顔を見たくはない!!

 そんな兄の血を継ぐこの子はきっと誰よりも兄を、王家の特徴を色濃く受け継ぐ事でしょう。


 決して生まれてきてはいけない我が子。
 夫となった辺境伯に何があろうとも知られたくはない。
 しかしこのままではもう直ぐ全てを知られてしまう。

 そう十月十日で子は産まれるものだと知識では存じておりました。

 もう直ぐ五ヶ月。
 そして今この瞬間も私の胎の中ですくすくと子は育っているのですもの。

 リザや侍女達の話では辺境伯はとても清廉潔白で強くも立派な騎士らしいそうです。

 その様な立派な御方へ嘘を吐き続ける?

 いえ、純潔ではない私は最初から彼を裏切っていると言う事実にこの身が否が応にも苛まれてしまう。

 何故なら夫を裏切った証がなのですもの。

 共に辺境伯邸へと来てくれたリザと数名の侍女達は事情を知りつつも常に私の身を心より案じてくれています。
 そんな私はこの子を失いたい一心で毎日毎晩クタクタになるまで出歩くのですものね。
 そうして屋敷にいては情緒不安定で泣き暮らす私。


 正解が全くわからない。
 でもこのままではいけない事もわかってはいるのです。
 日々膨らみつつあるお腹へ手をやれば、ぽこん――――と動くのです。

 確かに私の胎の中ここで生きて育っている。

 生まれて初めて我が身の内へ命が存在する事に驚きと不安、悲しさに悔しさとどうしようのない怒りからの最後はやはり不安で全てが埋め尽くされてしまうのです。

 今はまだ体型をカバー出来るドレスで何とか周囲を騙せてはいるでしょう。
 ですがもうそれもあと僅かです。

 全てが白日の下へ晒された瞬間私は一体どうすればよいのでしょうか。

 そんな悩み苦しみが続いたとある日の事でした。
 密やかに夜陰に乗じて夫の辺境伯が王都にあるタウンハウスへ到着したのは……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。 だが彼女は泣かなかった。 なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。 教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。 それは逃避ではない。 男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。 やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。 王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。 一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。 これは、愛を巡る物語ではない。 「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。 白は弱さではない。 白は、均衡を保つ力。 白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

『紅茶の香りが消えた午後に』

柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。 けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。 誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。

将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。 侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。 そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。 私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。 この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。 それでは次の結婚は望めない。 その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。

嘘が愛を試す時 〜君を信じたい夜に〜

月山 歩
恋愛
サラとマリウス・ハンプトン侯爵夫婦のもとに、衝撃的な告白を携えた男が訪れる。「隠れてサラと愛し合っている。」と。 身に覚えのない不貞の証拠に、いくらサラが誤解だと訴えてもマリウスは次第に疑念を深めてゆく。 男の目的はただ一つ、サラを奪うこと。 *こちらはアルファポリス版です。

《完結》氷の侯爵令息 あなたが子供はいらないと言ったから

ヴァンドール
恋愛
氷の侯爵令息と言われたアラン。彼は結婚相手の伯爵令嬢にとにかく冷たい態度で接する。 彼女は義姉イライザから夫が子供はいらないと言ったと聞き、衝撃を受けるが気持ちを切り替え生きていく。

処理中です...