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7 Sideアンジェリカ
しおりを挟む「お久しぶりに御座いますだ、旦那……様。体調が整わなかったとは言え共に領地入り出来なかった事を伏してお詫び申し上げます」
まるで断罪、裁判所で今にも処刑宣告をされる様な罪人の気分でした。
重い。
この余りにも重苦しい空気でした。
余りの重さで今にも私の身体がぺしゃんと音と共に薄い紙切れの様になってしまいそうな程の圧力がこの部屋を支配しているのです。
当然私は旦那様と二人きりではありません。
私にはリザが、旦那様には旦那様と然して年齢が変わらないだろう執事らしき者がおります。
とは言え私の感覚では重く真っ暗な空間にたった一人で放り出された様な、そしてその中で何とも心細げにしている私を遥か高い所で厳しい眼差しで見据えれば、今にも極刑を言い渡そうとしている裁判官が旦那様なのです。
そう私は罪人。
どの様な事情があったにせよ旦那様にしてみれば、アッシュベリーと王家が交わしたであろう契約において裏切りの証拠を胎の中に持つのは他の誰でもない私なのです。
譬え兄に無理やり犯されたとは言え、それは私が語る主張でしかない。
国王である兄が公然と妹である私を強姦したと述べる筈がないのです。
万が一胎の子の父親が兄だと知られてしまったとします。
きっと兄は私を強姦したのではなく私から関係を迫ったと述べる筈です。
何故なら新婚である兄が義姉を、義姉の故国アマビスカ王国と我が国の堅牢の盾となるアッシュベリーを蔑ろにする訳にはいかないのです。
ええ兄はまだ十分にこの国を掌握出来てはいないのですもの。
ただどちらかと申せば義姉とアマビスカにだけは絶対に知られてはいけないと思っているに違いないのです。
そうほんの数十年前までこの国は近親婚を繰り返してきた歴史があるのですもの。
おまけに貴族や王族の中にはただ身体に流れているだろう血にその価値を見出している者も多く存在しております。
最悪アッシュベリー……旦那様へはこれ以上ない尊い純血を授けてやったと開き直る可能性も無きにしろ非ずなのかもしれません。
そうなれば私と兄は深く愛し合――――嫌っっ。
考えるだけでも悍ましい!!
私は断じて兄を異性として愛してはいない!!
私は、私はどれだけあの悍ましい閨の中でっ、兄より愛が囁かれる度に、身体を蹂躙する度に兄をそして己の身体の貪欲さを恨んだ事でしょう。
既に肉親としての情はない。
出来得る事ならばこのまま兄に会う事もなくいっそこの子と共に儚く――――。
「私と共にアッシュベリーへ来て頂けますかアンジェリカ様。そしてどうか私と共にアッシュベリーで家族で生きてみませんか」
「だ、旦那……様、ま、さか、まさか全てを……⁉」
その瞬間私の心が凍りついてしまいました。
まさか旦那様は全てを知っていらっしゃる?
全てを飲み込むかの様なお言葉をどうして⁉
旦那様のお顔はとても厳つくて怖い印象が強い筈なのに、何故その様な優しいお言葉を仰るの?
しかしながら旦那様のお優しいお言葉をこの様な私へ掛けて下さるからこそなのです。
私の心は今まで感じた事のない申し訳なさと自身の歯痒さからの悲しさで心が高速で温度を下げれば、素直に彼へ甘える事が出来なかったのです。
元王女のプライド?
いえ、身体だけでなく私の心も何時の間にか荒みきっていたのかもしれません。
ですがそれでもです。
旦那様が忙しいのにも拘らず王都へ、私の許へと駆け参じて下さった。
王都へ来るまでにきっと様々な私の噂を聞いた事でしょう。
ああもしかすればきっとそう、そうなのかもしれません。
王族の縛りが解けた元王女の放蕩ぶりに怒りと共に業を煮やされたのでしょう。
それもそうですわね。
アッシュベリーは優秀な武人を多々排出すると共に我が国で一番正義を重んじる家なのですもの。
もしかすれば私との結婚そのものを悔やんでいらっしゃるのかもしれません。
この様な身も心も穢れてしまった女を妻へと迎えざるを得なかっただろうお可哀想な旦那様。
目の前にいらっしゃる清廉な御方の為に、また旦那様が何をどこまで知っていらっしゃるのかは存じません。
ですがこの様な私が出来る唯一をしなくてはいけませんわね。
ええ、私はこれから稀代の悪女として生きてみせます。
これより先アッシュベリーの悪い部分を全て私が受け止めましょう。
そしてこの子の父親は兄ではなく顔も何処にいるかもわからないと、忘れたと言い張ればよいのです。
ただ生まれてくるだろう子供には何の罪や咎はありません。
しかしこの子が私の胎へ宿った事こそが罪なのです。
何て可哀想な私の子。
生涯愛される事のない私の子供。
そうして恐らく生まれ落ちた瞬間よりこの子はとても言葉にし難いだろう過酷な人生が待っているのです。
でも安心なさい。
私はあなたを愛する事はまだ出来はしません。
ですが親として共に不幸になりましょう。
だからあなただけを不幸にはしない。
この様な言葉しか語れない母をどうか許して……。
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