とある王女様の人生最初で最後の恋

Hinaki

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9  Sideアンジェリカ

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 何故⁉
 どうしてっっ。
 何故お兄様は執拗に私へ執着するのです。
 私はお兄様の玩具ではない。
 
 然も私は既に降嫁した身。
 ましてこの結婚を決めたのは他の誰でもない兄自身。
 たとえそれが臣下からの奏上があったにせよです。
 
 国王としてアッシュベリーとの絆を深めなければいけないと判断したのは兄自身なのです。

 私の様な穢れし者を旦那様へと宛がったのは兄なのです!!

 なのに王都を出た瞬間情けなくも追い掛けあまつさえ兄の狂気より逃げ出した私を旦那様の目の前で拘束しようとするのですか。


 ああ嫌っ、目には見えない幾重もの鎖が私の身体へとぐるぐると絡みついていく。
 
『永遠に逃しはしない。私は死する瞬間までアンジェを愛している。私だけの、私だけが愛する愛しいアンジェ』

 あの犯され続けた日々の中で繰り返しそう囁かれた兄の声が鎖となって生々しく、何処までも私の身体へと纏わりつく。


 絶対に私は戻りたくはない!!

 譬え死を受け入れようともあの兄の許へは戻りたくはない!!

『さあ王女殿下間もなく迎えの馬車が追い付きましょう。さすれば速やかに王都へのお戻りを――――』

 無遠慮極まりのない勅使の言葉に私の怒りは頂点へと突き上げていきます。

 そしてきっともう誰もこの勅使を止めはしないでしょうね。 
 リザ以外は……。


 何故なら国王の勅使と勅令の前において臣下である旦那様とその配下者も達にしてみれば絶対的な命令でしかないのです。

 逆らう等考えるまでもない。
 
 そうアッシュベリーはどの貴族家よりも王家へ忠義を捧げている家柄なのです。

 ただし旦那様の立場としては新婚の妻を取り上げられる屈辱は確かに存在するでしょう。

 ですか私は所詮純潔ではない穢れし者。

 然も子まで孕んでいる女を護る価値と義務は旦那様にはないのです。

 旦那様の幸せを思えばこのまま迎えの馬車へと乗り、私と別れる事が良策となるに決まっています。
 また此度は王家側の有責として陞爵しょうしゃく若しくはそれに値するものを送られる筈です。

 従ってどうか何も態々背負わなくともよい荷物を旦那様が背負う必要はないのですから……。


「リザ、あなたはこの馬車に残って下さい。そしてそのまま領地へお帰りなさい。王都へ戻るのは私だけで良いのです」

「アンジェ様どうかその様な事を仰らないで下さいまし。私は産まれて間もない貴女様を実の子の様にお育てしたのです」
「リザ」
「全てを仰らなくともよいのです。このリザは死する瞬間までアンジェ様のお傍にいとう御座います。あちらで両陛下へ共に会いに行こうではありませんかアンジェ様」

「り、リザ、リザっ、ごめ、本当にこの様な事へ付き合わせてしまってごめんなさい」
「しっ、駄目ですよアンジェ様。余り大きなお声でお話になられますと外の者へと聞こえてしまいます」
「ええ、そうねリザ」

 何時まで経ってもリザには頭が上がりません。

 本当に彼女は私の二番目のお母様で、何時も私が行おうとする事をわかってしまうのですもの。
 

 ごめんなさいリザ。
 そしてこの様な弱き母を許して頂戴。
 何があろうともあの兄の許にだけはもう二度と帰りたくはないのです。
 
 そうして私達はその瞬間がくるまで声を潜めて静かに泣いておりました。
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