ツギハギ夫婦は縁を求める

木風 麦

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第三章《籠姫伝と焔の能力》

【三】

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 ドンッという鈍い地響きの数秒後、勢いよくドアが開かれた衝撃で丁番の形が曲がってしまった。
 店に居た客の全員、ドアの前に立つ真っ黒なフードを被った客らしき二人組に視線を釘付けにした。
「──どうもはじめまして。私の従者を上手いこと利用して婚約者を取り上げた愚か者たちはこちらにいますか?」
 低すぎない威厳のない声に、客同士は視線を交わらせると「なんだ」とでも言いたげに口を弧の形にした。
「知らないねぇ……それより、お兄さん良い男みたいな雰囲気でてるわ。ね、今晩どう?」
 猫目の女が一人、ゆったりとした仕草でフードの男に近づいた。
 キン、と音がした。
 それはガラスを弾くような音にも似ていたが、現実はもう一人のフードを被った男が女の喉先に剣が構えられていた。
 女は「ひっ」と声にならない悲鳴を上げた。
「……聞こえなかったんでしょうか。これはお願いと言うよりかは命令に近いのですが」
 そう言った男は笑顔だった。だが明らかに、ほんの数分前とは気配からして別人であった。
「もし名乗りを上げないのなら、此方から直々にお迎えにあがりますよ」
 顔色一つ変えずに笑顔でいるフードの男に、店の客たちはサッと顔を青くした。
「誰だよあんなヤバそうな奴等相手の依頼受けたの」
「そんなの知るわけがないだろう」
 店内の客たちのざわめきがだんだん大きくなっていく。
「出てくる気は無いようですね」
 フードの男の笑顔に、女は剣を突きつけられたまま「そもそもこの店に居るという根拠はあるの?」と声を上げた。なんとも度胸のある女である。
「まぁ、なければこんな大々的に表に出てきたりはしませんね。……クロ」
 命じられた男は、すんっと鼻を少し動かしたかと思うとコツコツと高い音を出しながら歩き出した。
 そして、奥の方に座っていた客の前で立ち止まると、またなんの前触れもなく剣を抜いた。
 「ひいぃい」と男二人は情けない声を上げた。
「想像よりも虐めがいがなさそうで残念です」
 フードの男は溜息を吐き、従者に男たちを捕らえさせた。
「な、なんの権限があって俺らを捕まえようってんだよ!」
 抵抗を見せる男に、不思議な雰囲気のフード男は「ああ」と声を漏らした。
「まだ名乗っていませんでしたね。私はこの国の領主の息子です。現在は警察隊分隊長の身分の秋桐です」
 名乗った弥生に、店の客と従業員は皆声を詰まらせた。


***


 弥生が訪れたのは、裏稼業の輩が集まる路地に存在する店だった。表向きは「何でも屋」で、家事から自宅修理、草むしりや求人紹介などをする本当に何でもやっている「何でも屋」。しかしその裏は、暗殺や強盗、汚い仕事を請け負ってもいる店だった。
 その上この店は、情報通のくせして店の情報はなかなか外部には出ていかないということで警察隊も国もなかなか居場所が突き止められなかった。……というのは建前で、警察隊の中にもこの裏稼業を雇って仕事をしている人間も居たために表沙汰にはできないのだ。
「……それで、私の婚約者はどこに消えてしまったんでしょうか」
 弥生はフードを取り、さらさらの黒髪を表に出した。より爽やかさが増し、イケメンな雰囲気を漂わせている。
「紅い髪の嬢ちゃんなら、よくわかんない連中が連れてったよ」
 縛り上げられた男は観念したのか、なんの抵抗もしない。
「俺らはお付きの者が邪魔だから少し引き剥がすのを手伝っただけだ。本当、それだけなんだ」
 知らねぇんだ、と男は呻いた。
「確かに契約書でのやり取りはしたさ。だが、そいつの顔が思い出せん。どんな風貌だったかすら覚えてねぇんだ。俺ァ記憶力が悪いほうじゃねぇ。依頼人の顔は、ターゲットより覚えるのが普通だ。だがアイツは……何者なんだ」


 契約書とやらを見せてもらうことにしたが、それは既に無くなっていた。
「……ええ。店で預かりましたね」
 客以外である弥生やクロからの質問には一切答えなかった女従業員は、客である男の、
「俺はこの店で契約書をいつも預かってもらっているよな」
 との問いに、即頷き一行を裏へ案内した。
 だがその契約書だけは見つからなかったのだ。
 そのことに、店の従業員が一番驚いていた。
「ここは裏情報屋だと我々は自負しております。機密情報が外に漏れないよう、情報を扱う者を厳選して……他の従業員を問い詰めてみます」
 と拳で語りかねない女従業員を何とか宥め、弥生たちは店から出た。
「情報が入ってきましたね。どうやら相手は『能力持ち』で間違いなさそうです」
 弥生は振り返り、自分の従者へ命じた。
「彼等は意識を持っていかれていましたが、全員がそうだとは限りません。目撃者を探し、あわよくば私の婚約者を攫った理由も突き詰めて行きましょう」
 そう言い終えると、弥生は手を打ち鳴らし「散ッ」と短く叫んだ。
 仕えるもの皆、一瞬にしてその場から姿を消した。
 一人残ったクロは、「では行きましょうか」と言った。
「ええ。……酷い扱いを受けていないといいのですが」
 そう呟き、眼鏡のレンズをハンカチで拭く。
 クロは溜息混じりに、
「まだ同居を始めて一週間も経っていないというのに。まだ、彼女は主様を信じていない様子でしたし」
 と呟いた。
 厳密には四日しか経っていない。
 そして話をするのは食事時だけのため、四日のうちの三時間程度しか会話をしていないのだ。
「まぁ、それは別に構いません。彼女には想う人が居るようですし、なかなかには心を開いてはくれないでしょうね」

 凪いだ瞳に、感情の起伏は見られなかった。
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