ツギハギ夫婦は縁を求める

木風 麦

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第三章《籠姫伝と焔の能力》

【四】

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 情報を収集していくと、なかなか面白い報が入ってきた。
「籠姫伝ですか」
「ええ」
 弥生たち一行が向かったのは、街では有名な社だったのだが、そこには神主だという老人一人とかんなぎが二人、祝詞人のりとびとが一人しか居なかった。廃業寸前にしか見えない。
 覡は双子のようで、見目が鏡から出てきたのかと思う程にそっくりだった。
 この覡の双子は神楽を踊ることができ、神力を地に下ろすことが出来ると紹介された。
 一方の祝詞人は、神に捧げる祈りを唄うことが仕事で、その他は雑務を請け負っているとのことだ。
 そして老人はというと、社に住まう巫女一族の婿養子で、自称神のお声を聞くことができるすごい人物、らしい。
「それより、おめぇさんはなかなか見ないくらい大物を連れていますね」
 老人は目をすがめながら言った。
 弥生は少し目を見開き、
「本物のようですね」
 と呟いた。
「水色ね。ああ、じゃあ領主様の血縁者でしたか。それはそれは失礼」
 全く心のこもってない謝罪を口にし、「それで」と老人は弥生を見た。
「能力を持つ者たちのことを知っていると。しかし解せませんね。能力を持つ者というのは得てしてひた隠しにする奴らが多い。なぜ次期領主の耳に入っているのか……」
「無礼だぞ!」
 弥生の後ろに控えていた従者の一人が声を張り上げた。
「いやはやこれは失礼失礼……まぁ、聞かんでおきましょう」
 と背を向けた。
 え、と困惑する弥生たちに、覡の双子らしき宮仕えが「どうぞこちらへ」と老人の背を指した。
「お話はお部屋で」
「お話は神のおわすところで」
 双子は切り揃えた髪を優しく揺らして微笑んだ。

「「さぁ、参りましょう」」


 通された部屋は、ただの和室と思われた。
 しかし、二対の龍が彫られた木版が飾られたその部屋は、どこか空気が違っていた。
 従者は別部屋にて待機させられ、弥生とクロの二人だけが和室へと通されたのだ。
「さて……まず籠姫伝というのは、能力を持つ者たちの一部しか知りません」
 ゴソゴソと棚から少し茶色くなった紙を取り出し、机に広げた。それは地図であったが、現在の国の地形とはだいぶ異なっていた。
「これ、三十一年前の地図ですね」
「ほほ、流石領主様のご長男。博識でいらっしゃる」
 愉快そうに笑う老人は、一つ咳払いをして話し始めた。
「籠姫伝を知るものたちは、この国の北端にいる者たちだけです」
 と、国の端に位置する場所を指した。
「彼等を探す理由は何でしょうか」
 老人の疑問に、クロは背筋を伸ばした。
「私はこの通り、神に使える仕事を何十年とやってきました。そして、私はそれと同時に守り人もしてきたのです」
 老人の告白に、弥生も顎を少し下げた。
「私は能力持ちの彼等を守る義務、持たざる者たちとの間に割って入り中和を図る義務があります」
 要は、能力持ちに何らかの危害を与えるなら教えないということらしい。
 ちら、とクロは隣に座る主に目線を向けた。
「お約束はできかねます」
 なんの間もなく言ってのけた主に、クロは吹き出すのをこらえた。
「……なら、居場所をお教えすることはできませんな。いくら領主様のご子息であろうと、これだけは我が命と代えても聞き入れることはできません」
 失礼、と腰を上げようとした老人に、
「神主殿」
 と弥生の声が引き止めた。
「誰が、彼らの居所を知りたいと言いました?」
「は?」
 眉を寄せる老人に、弥生はにっこりと目を細めた。
「私は『籠姫伝』というのを聞きに来たのです。賊の居場所など聞いてはいませんよ」
 老人は目を丸くし、「はぁ」と唸った。
「面倒くさそうなお坊ちゃまですね」
「よく言われます」
 折れる気のない弥生に、老人は「いいでしょう」と座り直した。
「しかし、不思議なもんですな」
 老人は湯呑みを手で弄りながら呟いた。
「おめぇさん、よう動けるなぁ」
 と、クロに視線を遣った。
「そん体、もう死に体だろう。……いや、もうとっくにこの世とおさらばしとるんかな」
 老人の指摘に、クロは何も言わずに微笑んだ。
「主によう似とるな。からかいがいのない客人だ」
 音を立てて茶を啜り、コンッと湯呑みを机に置いた。
「こんな得体の知れん客、よう入れる気になったな」
 と、老人は双子を振り返った。
 双子はくるっと四十五度首を回して互いに目を合わせると、神主に向き直り笑顔で言う。
「だって、主が拒否しなかったから」
「だって、主が結界通したから」
「それに、私のこと可愛いって従者さんが」
「双子なのに気持ち悪いなんて言われなかったもん」
「「ねー」」
 双子は顔を見合わせてまた笑う。
 双子というのは、地方によって扱いが違う。弥生の住む国は、双子というのは忌み嫌われる存在であった。例えどれほど見目麗しくとも、どれほど身分が高かろうとも、この風習はなかなか抜けなかった。むしろ高貴な身分の者ほど、そういった外聞の良くないことは避ける傾向にあった。そしてこの覡の双子もまたそういった対象であった。
 しかしこの双子の親は、その風習を信じてはいたものの、我が子可愛さに泣く泣く社に置き去りにしただけで神に捧げはしなかった。そんな双子を、当時神主だった男が拾ったのだった。
 しかしそんな話は弥生たちが知るところではなかった。
「そりゃ、珍しい連中の集まりだことだ」
 嫌味のように言ってはいるが、目元が微かに緩められていた。
「そうですね。しかし、私がそういう風に刷り込んだのではありません。私の従者がたまたま、そういう集まりだっただけのことです」
 よく言う、と老人は喉を鳴らした。
「分かった分かった。覡の許可も取れているようだし話しましょうか」
 いつの間にか改まるのをやめた老人は、ぽつぽつと語り出した。
 
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