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第一章 アニマルモンスターの世界へようこそ!
3.疼き 改稿
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「……獣人を見るのは初めてか」
「獣人……?」
呆けたような初音をローブの奥から金の瞳で見つめたローブの男は、めんどうくさそうに舌打ちをして乱雑にそのローブを剥ぐ。
アイラと同様、金色の切れ長の瞳と細くまとめた尻尾のようなダークグレーの髪。少し強気に整った綺麗な顔が、月明かりに晒された。
ピタリと体にフィットした軽装は、服の上からでもそのしなやかで引き締まった体躯を遺憾無く誇示して、腰には中剣を下げている。
そして何より初音の視線を捉えて離さないもの。
それは、そのダークグレーの髪の間から覗く黒くて丸い動物の耳と、ズボンから揺れる黒くて長い尻尾の存在感だった。
とは言えアイラと比較すると青年の人間感はかなり近い。
未だ呆けたままに不躾に凝視して停止している初音をチラリと見やり、青年はチッとイヤそうに舌打ちする。
「ごっごめんなさいっ」
あせあせと頭を下げた次の瞬間、青年の頭にアイラの一撃が飛ぶ。
「お兄っ!!」
「えっ!? あ、あのっ!?」
わぁと狼狽える初音をよそに、2人はギリギリと睨み合うと、チッと舌打ちした青年がついと流れる川をアゴで指し示す。
「……2人まとめてさっさと身体を洗ってこい。臭うぞ」
「えっ!?」
予想外の言葉にいくらかショックを受ける初音は、散々走った上に汚い路地裏の麻袋の山に飛び込んだことを思い出して思わずと自身の腕を嗅いだ。
「だぁーかぁーらぁー、女の子に臭うとか言うんじゃないっ!!」
キシャーっと目を吊り上げて吠えるアイラにギョッと後退る青年を、初音は言葉もなく見守るほかなかったーー。
何かにつけて動きを見せるその獣部分が気になり過ぎて、ダメと思いながらも視線が引き寄せられてしまう。
「あのっ! 初音です! 助けてくれて、ありがとう……っ!」
ペコリと頭を下げてお礼を述べると、青年からはチラリと興味無さげな視線を送られ、アイラからはぴとりとそばに寄り添われた。
「それはアイラのセリフだよ! アイラの方こそ助けてくれてありがとう!」
言われるがままに初音とアイラが冷たい川水で水浴びをし、震えながら岩山の洞窟へ案内されれば、青年が焚き火の準備を整えていた。
冷えた身体には目の前の熱源とアイラの高い体温がひどく沁みて、揺れ動く炎に初音の心は落ち着いていく。
「……アイラを助けてくれた借りは返した。明日、別の街の近くまで送ってやる。俺たちのことは忘れろ。平穏に暮らしたいなら、他言はするな」
「お兄っ!! 何でそんな言い方しかできないのっ! お姉はアイラの恩人だよっ!?」
「わがままを言うな」
一切と引く気がなさそうな両者を無言で見守って、初音は気まずさからそっと視線を揺らす。
「お兄がごめんね。アイラ、ハンターに捕まって奴隷商人に売られる寸前だったの。だから、助けてくれて本当に嬉しかった」
「ううん、こちらこそ、助けてくれて本当にありがとう」
可愛いく懐いてくれるアイラにほっこりして、初音の頬は思わずと緩む。
「……俺たちは人間に捕まると、魔法によって気配と臭いを絶たれて消息が掴めなくなる。……探し回っていたから、アイラを逃がしてくれて、助かった。感謝する」
青年が静かに呟いた声に、初音はそちらを見る。
ぶっきらぼうな仏頂面でも、その金色の瞳が剣呑さを潜めていることに気づいて、ようやくと息をつけた気がした。
「どちらにせよ、動くのは明るくなってからだ。疲れてるだろうし、今日はさっさと全員休め」
そう言っておもむろに立ち上がった青年は、その姿を一頭のクロヒョウへと変えて硬い岩肌に寝そべった。
黒く艶やかな美しい毛並みと、時折り揺れ動く耳と尻尾に初音は心の疼きを自覚する。
その体躯に触れたい衝動と必死に闘いながら、初音は焚き火とアイラの体温に抱かれて眠りについたーー。
「獣人……?」
呆けたような初音をローブの奥から金の瞳で見つめたローブの男は、めんどうくさそうに舌打ちをして乱雑にそのローブを剥ぐ。
アイラと同様、金色の切れ長の瞳と細くまとめた尻尾のようなダークグレーの髪。少し強気に整った綺麗な顔が、月明かりに晒された。
ピタリと体にフィットした軽装は、服の上からでもそのしなやかで引き締まった体躯を遺憾無く誇示して、腰には中剣を下げている。
そして何より初音の視線を捉えて離さないもの。
それは、そのダークグレーの髪の間から覗く黒くて丸い動物の耳と、ズボンから揺れる黒くて長い尻尾の存在感だった。
とは言えアイラと比較すると青年の人間感はかなり近い。
未だ呆けたままに不躾に凝視して停止している初音をチラリと見やり、青年はチッとイヤそうに舌打ちする。
「ごっごめんなさいっ」
あせあせと頭を下げた次の瞬間、青年の頭にアイラの一撃が飛ぶ。
「お兄っ!!」
「えっ!? あ、あのっ!?」
わぁと狼狽える初音をよそに、2人はギリギリと睨み合うと、チッと舌打ちした青年がついと流れる川をアゴで指し示す。
「……2人まとめてさっさと身体を洗ってこい。臭うぞ」
「えっ!?」
予想外の言葉にいくらかショックを受ける初音は、散々走った上に汚い路地裏の麻袋の山に飛び込んだことを思い出して思わずと自身の腕を嗅いだ。
「だぁーかぁーらぁー、女の子に臭うとか言うんじゃないっ!!」
キシャーっと目を吊り上げて吠えるアイラにギョッと後退る青年を、初音は言葉もなく見守るほかなかったーー。
何かにつけて動きを見せるその獣部分が気になり過ぎて、ダメと思いながらも視線が引き寄せられてしまう。
「あのっ! 初音です! 助けてくれて、ありがとう……っ!」
ペコリと頭を下げてお礼を述べると、青年からはチラリと興味無さげな視線を送られ、アイラからはぴとりとそばに寄り添われた。
「それはアイラのセリフだよ! アイラの方こそ助けてくれてありがとう!」
言われるがままに初音とアイラが冷たい川水で水浴びをし、震えながら岩山の洞窟へ案内されれば、青年が焚き火の準備を整えていた。
冷えた身体には目の前の熱源とアイラの高い体温がひどく沁みて、揺れ動く炎に初音の心は落ち着いていく。
「……アイラを助けてくれた借りは返した。明日、別の街の近くまで送ってやる。俺たちのことは忘れろ。平穏に暮らしたいなら、他言はするな」
「お兄っ!! 何でそんな言い方しかできないのっ! お姉はアイラの恩人だよっ!?」
「わがままを言うな」
一切と引く気がなさそうな両者を無言で見守って、初音は気まずさからそっと視線を揺らす。
「お兄がごめんね。アイラ、ハンターに捕まって奴隷商人に売られる寸前だったの。だから、助けてくれて本当に嬉しかった」
「ううん、こちらこそ、助けてくれて本当にありがとう」
可愛いく懐いてくれるアイラにほっこりして、初音の頬は思わずと緩む。
「……俺たちは人間に捕まると、魔法によって気配と臭いを絶たれて消息が掴めなくなる。……探し回っていたから、アイラを逃がしてくれて、助かった。感謝する」
青年が静かに呟いた声に、初音はそちらを見る。
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「どちらにせよ、動くのは明るくなってからだ。疲れてるだろうし、今日はさっさと全員休め」
そう言っておもむろに立ち上がった青年は、その姿を一頭のクロヒョウへと変えて硬い岩肌に寝そべった。
黒く艶やかな美しい毛並みと、時折り揺れ動く耳と尻尾に初音は心の疼きを自覚する。
その体躯に触れたい衝動と必死に闘いながら、初音は焚き火とアイラの体温に抱かれて眠りについたーー。
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