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4巻

4-2

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『モロド樹海』一層に降り立ち、仕事を始めることにした。掃除そうじをするときは、上から順番にやるのが正しい手順だ。
 ゴミという名の品格のない冒険者たちを掃除そうじして欲しいなんて……まったく、ギルドも思い切ったことをやるものだ。
 私のお眼鏡にかなう冒険者など少ないというのに。
 本気でやったら、『ネームレス』にいる冒険者の八割を殺さないといけなくなる。
 だから、採点は大甘だ。
 だが、私にとっても渡りに船の依頼だ。低ランクの冒険者相手ではあるが、蟲たちに戦闘経験を積ませることができるだろう。当然、やるからには一流らしく、証拠一つ残すべからず。
 誰も気づかないうちに採点を行い、それにのっとり執行する。

「証拠さえ残らなければなんでもありだ。人目を避けて、確実に!!‌やり方は皆に任せよう。何か質問は?」

 今回、影の中から出てきた蟲たちは、上層のモンスターを殺すにはあまりにも強い力を持っている。擬態ぎたい化能力を二の次とし、戦闘能力にけた蟲たちを選抜したのだ。
 数千に及ぶ蟲たちが、早く広い迷宮に飛び立ちたいと私の話が終わるのを待っている。あれだね。学校の校長先生の気持ちが理解できた。そんなに、長い話をするつもりはないんだからさ、一分くらい話しても良いでしょう。

 ギッギ(モンスターの対処は、どうしますか?)
「好きなだけ、食べてよろしい」
 ジー(不合格の冒険者は?)
「骨一つ残さず、食べてよろしい。無論、誰にも知られずにね。第三者に目撃された場合には、第三者を確保。私が蟲を使って記憶を消そう」
 ギィィ(見つけた食料は!?)
「全て食べてよろしい」

 食べ盛りの蟲たちは、私のオーダーに大喜びだ。
 いつもと命令している内容は一緒なのだけどね。どうせ、止めても勢い余って食べてしまう。それなら、蟲たちも心置きなく食べられるように最初から命令で、食べてよしにすれば良いだけだ。

 ギッギ(ソース分隊は、南の方に行ってきます)
 ジッ(マヨネーズ分隊は、北の方を)

 そして、私が唯一持ってきた荷物から、蟲たちが各々の好みに合った調味料を持って飛び去っていった。他にも、味噌分隊や塩分隊などが設立された。また瀬里奈せりなさんのところから調達しないと、品切れしそうだ。
 それにしても、美味おいしそうな分隊名だ。可愛かわいい蟲たちにぴったりである。

「では、私も動くかな」

 吉報が届くまで近くを散策する。未来の後輩たちの働きでも見て回るとしよう。


     ◇ ◇ ◇


 徐々に下へ下へと移動した。下に向かうにつれて、結構な数のパーティーと遭遇そうぐうできた。本来なら、広い『モロド樹海』で、パーティー同士が獲物を取り合うようなことはないのだが、この日ばかりは珍しく、パーティー同士で争いが発生している。
 どうやら、蟲たちが頑張がんばっているおかげで、獲物が不足しているようだ。この階層で狩りをする冒険者では、私の蟲を感知することはできないようで、モンスターが激減した理由が分からないらしい。わずかな時間で骨すら残さず平らげてしまう。残るのは、せいぜい香辛料の残り香くらいだ。
 そんな争いを、文字通り高台の上から見物している。

 ギ(お父様、きのこが焼けました。味付けはお塩ですよね!!)
 ギィイ(いやいや、ここはマヨネーズでしょう)
 ジーー(ソースと言いたいですが……ここは、仲良く全部のせにしましょう!!)

 蟲たちが仲良く持ってきた調味料を、きのこに全のせしてくれる。できれば、部分ごとで綺麗きれいに味付けを分けてくれれば良かったのだが、本当に全部のせてきた。お父様は、子供たちの成長に涙を隠せない。多少、塩分過多ではあるが問題ない!!‌ 可愛かわいい蟲たちが私のために用意してくれたのだ。それを食べないなどあり得えないだろう。
 焼きキノコ調味料全部のせを受け取り、一口食べてみる。大丈夫だ……許容範囲の味だ。メシマズテロになるかと思ったが、食えるレベル。

「ありがとう、皆。だけど調味料は、全のせではなくて、次からは選びましょうね」

 せっかく、料理の腕前をきたえ上げた蟲もいるのだから、アドバイスをもらうなりして欲しかった。嬉しいことにはちがいないがね。
 ムシャムシャと食事をしつつ、高みの見物を決め込んだ。眼下でモンスターを探している冒険者が苛立いらだっているのがよく分かる。迷宮上層のモンスター素材なんてゴミ値だ。経費を考慮すると、相当の数を入手しないと黒字にはならないのだ。
 あせる気持ちも当然だ。
 まだ、サポーターに当り散らすことはしていないが、時間の問題であろう。モラルの低い連中が多いのだ。きっと夜には何かしら問題を起こすと見える。


     ◇ ◇ ◇


 夜もけ、就寝の時間になった。
 夕食も食べ終わり、シャワーも浴びて、身も心もすっきりした。あとは、布団の中で朝を迎えるだけだ。新品同様のこの毛布は最高だ。そして、抱き枕の絹毛虫ちゃん。底辺冒険者たちは、この寒空の下でモンスターを警戒しつつ野宿とは、ご苦労なことだ。
 不幸中の幸いは、暑い時期でないということだね。暑い時期は、食料はくさりやすいし、水はダメになるし、汗臭いし、本当に最悪だよ。
 お父様である私がベッドの中でお休みしていて、蟲たちが働いているのは若干じゃっかん気が引ける。だがお仕事なので、一部の蟲たちには昼間に引き続き、偵察ていさつに行かせている。夜の態度も当然採点してあげないと不公平だ。昼間の採点結果と夜の採点結果を元に執行する。昼は冒険者としての実力を。夜は人としての人格を。実によく考えた採点だと思う。
 それにしても、低ランクのゴミ掃除そうじね。私の時代にはなかったことだ。
 真面目まじめな冒険者がバカを見ない世界にしようと、ギルドが本気で重い腰を上げたのだろうか。いや、そんなわけないか。もしその通りならば、ギルドを解散させるのが一番の近道。
 もしかしたら、低ランクのゴミ掃除そうじおこなったあとは、高ランクの掃除そうじも始まるのかな。ギルドが一番喜ぶのは、高ランク冒険者が死ぬことだ。特に、財産を倉庫に預けたまま死ぬことがよしとされている。低ランク冒険者と違い、高ランク冒険者は一癖ひとくせ二癖ふたくせもあるから殺すのは大変だよ。私のような者が出張れば話は別だが。
 だが、現状を見て一つ言えることは――今の若い子たちがうらやましい。こうしてギルドが高ランク冒険者を使って、育つ環境を整えてくれる。私なんて何度、嫉妬しっとから命を狙われたか分からない。しかも、ギルドの手先ばかりだったからね。襲ってくる連中がね。

「低ランクたちの環境を整えるのもいいけど、かせがしらの高ランク冒険者の扱いを改善して欲しいよね。奴隷じゃないんだから、安い報酬ほうしゅうでこき使いすぎだろう」

 今回の依頼だって、どれだけのゴミを掃除そうじするか、完全に依頼を受けた側の心意気次第。一人でもいいし、一万人だっていいのだ。他の高ランク冒険者に迷惑にならないように、恥じない成果を求められている。
 それで三千万セルというのは、安かった気がする。ボーナスとして、蟲たちのお腹が肥えるが、金銭面的には少々ね~。
 人様が気持ちよく寝ていると、こちらに向かってくる足音が聞こえてくる。近づく者は有無言わさず殺せという指示はしていないので、蟲たちは私の判断を待っているのだろう。
 本当に、呼んでもない厄介事を持ってこないでいただきたい。
 すぐに蟲が事の詳細を報告に来てくれた。こちらに逃げてきているのは女性一人。それを追いかける男性冒険者が数名ということだ。小窓を開けて外を見てみると、まっすぐにこちらに向かっている。
 夜だというのに少し明かりを使いすぎたか。おまけに、小窓を開けたせいで、間違いなくこちらの位置を特定しただろうし、困ったことだ。まあ良いか。
 ベッドに戻り、毛布をかけ直す。

「施錠もしたし、中までは入ってこられまい」

 一郎が一匹、一郎が二匹、一郎が三匹、一郎が……
 ダンダンと激しく小屋の扉をたたく音が響く。狭いんだから、そんなに強くたたかなくても聞こえるって。

「開けてください!!‌ お願いします。助けてください助けてください」

 無視を決めこもうにも、扉をダンダンとたたく音がやまない。
 う、うるさい!!‌ 寝るときは誰にも邪魔されず、静かに寝るのが大好きなこの私に、喧嘩けんかを売っているとしか思えない。あきらめてどこかに行かずに扉をたたきまくる根性だけはめてやろう。
 仕方がない。この私が世間の常識というものを説いてやろう。
 扉の小窓を開けると、肌着が乱れて体中にり傷を負った女がいた。おそらく、他の冒険者たちから逃げる際に負ったものだろう。なーに、迷宮ではそういうことはよくある。

「うるさいぞ!!‌ 今、何時だと思っている!?」

 既に深夜だ。そんな時間に他人の家の扉をたたいて住人を無理やり起こすだけでなく、刃物を持った底辺冒険者まで引き連れてくるとは、頭がおかしいとしか言えない。

「そんなことより、追われているんです!!‌ 助けてください」
「悪いが、この小屋は一人用だ。他をあたってくれ」

 私の睡眠すいみんをそんなことと勝手に決めるとは何様であろうか。私より偉いのだろうか。もはや、同情の余地すらない。それに、女にも告げたとおりこの小屋は一人用だ。
 そんなやりとりをしていると、見える場所まで女の追っ手が迫ってきた。一体、私が何をしたというのだ。ただ眠りたいだけなのに。仕方がない、安眠のためだ。寝巻きの上からローブをまとった。一応、人前にでるのだから、最低限の身だしなみは必要であろう。扉を開けてやると、女は安堵あんどの表情をした。
 そして、首根っこを掴みあげる。
 追っ手の冒険者たちが各々の得物を構えて、こちらの出方をうかがっている。慣れ親しんでいる迷宮上層に、見慣れない小屋が建っているのだ。警戒しない冒険者はいないだろう。

「お前たちが雇ったサポーターか?」
「そ、そうです。だから、こちらに引き渡していただけませんか。そいつには高いカネ払っているもんで」

 女は気がつかなかったようだが、冒険者の方は私のことを知っているようだな。口調がおとなしい。様子を見る限り、五人中三人が私のことを知っているようだ。ホームグランドである『モロド樹海』だと、やはり知名度はそれなりにあるようで、嬉しい限りだ。

「何が高いカネだよ!? 二束三文じゃないか。街にいる娼婦しょうふだってもっともらっているわよ」

 なるほど、これは女が悪いな。
 この女、金は欲しいが体を売るのは嫌だというタイプか。夜のサポーターで雇われたが、土壇場でいちゃもんを言うやからがいると聞いたことがある。もらった給料分は働かないとダメだろ。
 街にいる娼婦しょうふもピンキリだが……この場合は、お店で働いている娼婦しょうふのことを示しているのだろう。だとしたら、頭がどうかしているレベルだ。店で働く娼婦しょうふは、教養もある。話術などのコミュニケーションスキルがきたえられており、お客様を楽しませることに特化した者たちだ。
 だが、キサマは違う。だからこそ二束三文の値段なのだ。

「なるほど、よーく分かった。受け取れ」
「えっ!! ‌ちょっと……」

 女をここまで追ってきた冒険者に投げ捨てる。
 追っ手の冒険者も、素直に返してくれるとは思っていなかったようで、唖然あぜんとしている。そんなに驚くことなのであろうか。どちらに非があるかは明白である。まさか、この私が女の言うことを鵜呑うのみにして、一方的に男性が悪いと思うような人物に思われていたとしたら残念だ。
 これでも、人を見る目はあると自負している。

「あ、ああ、すまね。俺らは、これで」

 リーダー格らしき男が仲間を急かす。しかし、大事なことを忘れている。

「おいおい、まさかそのまま帰るつもりなのか? こんなけに迷惑をかけたんだぞ。出すべきものがあるんじゃないのかね?」

 まったく、人様にご迷惑をかけたというのに、たった一言の謝罪だけで終わらそうというのだ。何を考えているのだろうか。それに、もらうものをもらっておかないと、他の冒険者に示しが付かない。
 リーダー格の男がすぐさまふところから財布を取り出して、私の方に投げてきた。

「これしか持っていない。これで見逃してくれ」

 何を勘違かんちがいしているんだ。それに、こんな端金はしたがねなんていらないぞ。

「馬鹿かね、君は。なぜ、君がお金を払うのだね? 払うべきは、その女だろう? 女がここに来なければ、私に迷惑をかけることはなかった。ならば、迷惑料を払うべきは、その女だ」

 当然のことを言っただけなのに、冒険者一同が顔を見合わせている。そんなに変なことを言っただろうか。今回の出来事の責任は、すべて女にある。代わりに払ってくれるならそれに越したことはないが、払いきれないだろう。
 深夜割増の三割を付けて、キリよく一千万セルほどいただければこの怒りを鎮めよう。一流の紳士たる者、人を許せる心は大事だ。

「一千万セル。それだけ即金でもらえるなら、今回の一件を水に流そう」
「払えるわけないでしょう!!‌ そんな大金があったら苦労しないわよ」

 そうか、ならば仕方がない。

「なら決まりだ」

 貧乏臭いと思っていたが、やはりこうなったか。金で助かる命であったというのに残念だ。投げ渡すときに仕込んでおいて、正解だったわ。
 パチンと指を鳴らし、蟲たちに合図を送った。

「ごおおおおぇぇぇぇ!!‌ ぎゃああ゛あぁぁぁぁぁぁぁ」

 女の体内から、無数の蟲たちが顔を出す。その様子を見た冒険者一同が、女から距離を取る。内臓を食い破り出てきた蟲たちは生まれたばかりで、栄養を求めて母体となった女の血肉をむさぼる。悲鳴がしなくなる代わりに、蟲たちの食い荒らす音が鳴り響く。
 またたく間に、何もなくなった。

「おいで可愛かわいい蟲たち」
 ピーピ(お父様、お父様、おとうしゃま)
 ギーギ(お邪魔しまーーーす)

 蟲たちが一斉に影の中に飛び込んでいった。

「「「「「お、俺たちはこれで失礼します!!」」」」」
「そんなに急がなくても~」

 悪いことなんて何一つしていないのに、全力で逃げる必要はないだろう。迷惑をかけられた者同士、親睦しんぼくを深めようと、蟲出しコーヒーを入れてやろうと思ったのにね。
 まあ、いっか。
 しかし、底辺冒険者たちも大変だな。私のように理解ある者だったから良かったけど、理解のない冒険者だった場合には、女の言うことを鵜呑うのみにして殺し合いに発展しかねない。これは、本格的に掃除そうじを行う必要がありそうだ。



  3 慈善活動(三)


 昨日、寝入ってから重大な失敗に気がついてしまった。昼と夜の採点結果を元に処理を執行するのは構わない。だが、その結果パーティーメンバーに欠員が出てしまい、パーティーが全滅の危機におちいっては二流の仕事になってしまうと。
 早急に、戦闘員が減ったパーティーには蟲たちを使って、陰ながらサポートするように手配した。パーティーの許容量を超える敵が来る場合には、接敵する前に、蟲がモンスターを排除する。戦闘中に死ぬ危険が発生しそうな場合にも、モンスター自体を実力排除して構わないという指示を出した。
 サポーターが処理対象のパーティーには、さりげなくきのこや山菜などの食料を集めて通り道に置くように手はずも整えた。道端に食料が落ちているなんて怪しさ抜群だが、仕方があるまい。
 これで、完璧の布陣である。


 それから、順々に掃除そうじをしていき、八層に到達時点で、出したゴミの数は七十人を超えた。この数ならば、マーガレット嬢の期待にもこたえられるだろう。採点を少し厳しくすれば、軽く百人を超えるのだが、けずりすぎるとギルドの収益に問題が生じるだろうと考えて、配慮してあげた。
 微妙な力加減が実に難しい。
 本当に、こんな曖昧あいまいな依頼を受けてしまった私が情けない。だが、紳士として恥じない成果を出さないといけない。私の成果が高ランク冒険者全体の評価に響く可能性もあるから、細心の注意が必要だ。

「ふむ、昨日のゴミは六名か~。当然というべきか、下に潜るほどゴミの数は少ないな。で、蛆蛞蝓ちゃん、検死の結果は?」

 しかし、ゴミたちは本当のゴミみたいな連中ばかりだ。働いているフリをしている者、素材をくすねている者、サポーターとしての仕事である周囲警戒をおこたってパーティーを窮地きゅうちに追いやった者、夜間の警戒任務をないがしろにして男女で合体する者たちなど、困った連中が多い。
 今現在は、蟲たちが偶然発見した死体を調べている。本来なら気にすることでもないのだが、マーガレット嬢からの依頼がダブルブッキングしているのではないかと思い、念には念を入れて確認している。

 モモナー(あ、お父様。検死解剖が完了いたしました。死亡時刻は、三日前。死因は、急所を一突きです。凶器は、レイピアのような鋭利なものだと想定されます。他の死体については、既に原型すら残っていないのでなんとも……)
「十分な成果だ。死亡して三日も経過しているのだ。多少なりとも原型が残っていたこと自体が奇跡に近い。しかし、三日か」

 私が依頼を受注したタイミングから考えても、ダブルブッキングの線は薄いな。よくよく考えれば、私に依頼を斡旋あっせんしたのはマーガレット嬢だ。人格面はともかく、仕事の上ではギルドの中でも相当のやり手であるから、ダブルブッキングするようなヘマはしないだろう。
 となれば、善意でゴミ掃除そうじをしている者がいるか、もしくは低ランク冒険者狩りを楽しんでいる者がいるかのどちらかだ。前者であれば嬉しいのだが、そんな奇特な人物は少ないだろうね。後者の場合は、間違いなく装備狙い。低ランク冒険者とはいえ、装備にお金をかけている者は多い。そのため、依頼報酬ほうしゅうやモンスター素材を売却するより利益が出る。
 金になりそうな遺留品が残っていないから、後者だろうね。
 おまけに、死体の年齢は三十歳を超えている。そのような熟練の低ランク冒険者が、こんな無様ぶざまな死にざまさらすはずがない。この手のやからは、慣れた狩場でも常に死なないことを最優先に考えて行動している。
 だが、それでも死んでいるということは、圧倒的な実力差があったと考えるのが妥当だとうであろう。

「無理に探し出す必要もあるまい。問題がある冒険者なら、こちらの採点に引っかかるはずだ」

 ありえないと思うが、第三の可能性もある。死体となった冒険者に不慮の事故が起こったとかね。例えば、高ランク冒険者に喧嘩けんかを売ったとか。

 ギィ(お父様!! ‌宝箱を発見しました)

 大急ぎで走ってきたと思えば、素晴らしい吉報を持ってきてくれた。上層とはいえ、宝箱はロマンが詰まっていて、何度開けても楽しい!!‌ 下層の宝箱と比べれば、中身がショボイのは仕方がない。しかし、それでも金銀財宝は望める。中身次第だが、安い報酬ほうしゅうの足しにはなるだろう。

「偉いぞ!! ‌よしよし」

 抱きかかえて、頭をでてあげると、実に嬉しそうな顔をする。本当に可愛かわいい蟲たちだ。

 ギッギ(もっとでて!! ‌もっともっと!!)

 他の蟲たちの視線が痛い。これは、全員をで回してあげなければいけないね。本日の午後の業務は決まった。

「みんなも後ででてあげるからね。まずは、宝箱を開けに行こうか」

     ◇ ◇ ◇


 宝箱は、良いものだ。冒険者のロマンのかたまりである。わなかもしれないが、開けるという選択肢以外選ぶことはできない。開けなければ、冒険者として終わっている。そう思わせるほどの魅力みりょくが詰まっているのだ。
 もっとも、私は人が少ない下層で活動していることと、蟲たちを使った人海戦術で、毎月何回も開けているんだけどね!! 

「だが、わなだと面倒だ。いつも通り頼むよ」

 影から蟲たちが何匹かい上がってきた。
 宝箱は意地悪いことに、生きた者しか開けることができないのだ。昔はそれが分からなくて、棒や紐などを使って安全に開けようと、様々な方法を試みたことがあった。どれも失敗した。
 だが、あるとき気がついてしまったのだ。
 蟲たちを使って開けさせればいいのだ。同じ生物であるなら、別に人にこだわる必要はない。事実、このやり方は成功した。しかし、に落ちない点が一つだけあった。なぜ、モンスターたちが迷宮にある宝箱を開けないのかという点だ。
 宝箱には、金銀財宝以外に食料も入っていることがある。事実、ゴリフターズと迷宮に来たときはバナナなんて珍品が出てきたくらいだ。バナナの種は、瀬里奈ハイヴに送って蟲たちによって大切に育てられている。きっと、蛆蛞蝓ちゃんが全力で品種改良したのだから、じきに出荷できるレベルになるだろう。
 だから、蟲たちになぜ宝箱を開けないのかを聞いてみた。そうしたら、宝箱という存在をそもそも認識できなかったと言われた。『蟲』の魔法で私の配下に加わることで、初めて宝箱という存在を認識できたらしい。これは、驚愕きょうがくすべき事実であった。
 そのうち、瀬里奈さんが宝箱を認識できるか本気で確かめてみたい。新しい発見がありそうだ。

 ジッジ(お父様のため、今日も宝箱を解除!!‌ 解除!!‌ 食べ物が良いな~)
 ギッ(金銀財宝の方が良いですよ。後で、ご馳走ちそうを買ってもらえますので。では、オープン!!)

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