愛すべき『蟲』と迷宮での日常

熟練紳士

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4巻

4-3

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 蟲たちが宝箱を開けると、中からはルビーが出てきた。上層にしては、かなりアタリの部類に入る。これは、『ネームレス』に戻ってから換金するとしよう。

「期待にこたえてあげましょう。『ネームレス』に帰ったらご馳走ちそうだね」

 だがその前に、ゴミ掃除そうじの必要がありそうだ。
 先ほどから、木々の陰から様子を見ている者たちがいる。何もしてこないので無視していたが……宝箱が開けられるのを待っていたのだろう。わなの可能性を考慮すれば第三者に開けさせて中身を強奪ごうだつするのは、宝箱から安全にものを取り出す方法の一つである。
 第三者を待つような地道なやり口をるのは、相当ねばり強い精神力の持ち主と言える。

「はいはーい。そこの人、痛い目を見たくなかったら、手に持っているルビーをおとなしくこちらに渡してもらおうか」
「ついでに、装備品も全てこちらに渡してもらいましょう。死ぬよりマシでしょう」

 知り合いではないはずなのだが、知っているような気がする。どこにでもいそうな平凡な顔つきをした男女二人組が、私に武器を向けて武装解除、並びにルビーを寄越せと言ってきた。喉元のどもとまできているのだが……やはり思い出せない。

「こんな安物のために、そんな行為を?」

 宝石の一種であるルビーとはいえ、命と天秤てんびんにかけるものかと言われればそうでもない。宝石鑑定の知識はないが、今までの経験からおそらく二百万セル程度だろう。

「宝石の目利きもできねーのか。まあ、仕方ねーよな。こんな底辺のたまり場で一人コソコソ働いている奴じゃな。そのルビー、百五十万セルはかたいな」
「いやー、助かったわ。わなだと面倒だったから、適当なパーティー捕まえて開けさせようと思っていたら、ノコノコ一人で来てくれるんだから、手間が省けたわ。で、フードの人、宝箱に触れずに開ける方法を教えてくれたら、下着の一枚くらいは残してあげるわよ」

 蟲たちが開けたのを認識できていないのか。
 装備品や筋肉のつき方、雰囲気ふんいきから察するに、ランクCもしくはランクBだろうに、練度が足りてないね。経験も不足していると見える。こんなことをせず、真面目まじめに命を天秤てんびんにかけて冒険にいそしめば、もっとかせげただろうに、しい。

「なるほど、理解した。では、死ぬ前に一つ教えてもらえないか。三日ほど前にそのレイピアで冒険者を殺した記憶は?」
「ええ、ありますわよ。モンスターを狩るより割のいいかせぎになるからね。迷宮でのめ事は自己責任。あの冒険者たちは、装備の無償提供を拒みましたからね。仕方なかったんです。で、あなたはどうしますか? 運がよければ、装備なしでも生きて出られますわよ」

 迷宮でのめ事は自己責任、その通りだ。ならば、お前たちに対してこれから行われる行為も、自己責任で間違いないかな。

 ギギ(お父様を相手に恐喝きょうかつ行為……減点一億点!!‌ 執行対象です)
「ならば、私は幸運の持ち主だろうね。生きて出られるのだから」

 フードを取ったが、相手の反応は変わらない。このレベルの冒険者相手に顔が売れていないとも考えにくいから、余所者よそものか。何か問題を起こして元の場所にいられなくなって、冒険者の出入りの多い『ネームレス』にやって来た口かな。

「随分な自信だな。これでも、俺たちは『ミスタリア』じゃ名前が売れた冒険者なんだぜ」
「ちょっと問題起こして追われる身になっちゃったけどね」

『ミスタリア』って、確か地理的には『神聖エルモア帝国』の横にある弱小国だな。毎年、事あるごとに援助を懇願してくる乞食こじきみたいな国家だった記憶がある。『神聖エルモア帝国』の血税が他国に使われるのが納得いかないので、時期を見てつぶしたいと思っている国の一つだ。
 ……あれ? 今、追われる身とか言っていたよな。

「追われる身ということは、賞金首か?」
「その通りだ。賞金額四千万のセグリス、相方は賞金額二千五百万のメリアだ」

 くっそ!!‌ マーガレット嬢!!‌ やりやがったな!! 
 二人がすごいだろうとドヤ顔をしているのを華麗にスルーして、依頼書を確認してみると、備考欄の枠口に小さな文字で『本依頼で賞金首を殺害した場合でも、賞金は発生しません』とご丁寧ていねいに書かれている。ギルドは、こいつらの賞金額をそのままふところに収めて、その一部を報酬ほうしゅうとして払う気でいるのがやっと分かった。しかも、この似顔絵……こいつらにも似ているじゃねーか。
 ゴミ掃除そうじに合わせて賞金首まで掃除そうじさせようって腹か……完全に私のミスだ。
 依頼書をよく確認しなかった不手際ふてぎわゆえに文句は言えない。ゴミ掃除そうじが依頼なのだ。そのゴミが偶然賞金首であっただけなのだ。当然『ギルドとしては、備考にもしっかり書いておりますので、ゴミ掃除そうじ報酬ほうしゅうは払います、賞金首の賞金は残念でしたね』と言うつもりであろう。
 高価なお土産みやげをマーガレット嬢にあげて、斡旋あっせんされた依頼がこれとはね。てっきり、楽で利回りの良い依頼だと思ったが、ババを掴ませてくるとは恐ろしい手腕だ。そのうち、本当に後ろから刺されるぞ。

「やる気が抜けてきたな。で、二人組じゃないんだろう……さっさと、三人目もこちらに呼んできたらどうだ。それとも、油断させたすきを見て茂みの中から攻撃するのかな。こんな話をしている時点でたかが知れるけどね」

 私を殺すなら、知覚範囲外から一方的なアウトレンジ攻撃をするか、桁違けたちがいな火力を持ってくるかしないと無理だというのに。こちらとしては、くだらない話をしてくれたおかげで準備万全。既に、この階に放った蟲たちの七割以上がこの場に集結している。しかし、相手はそのことにまったく気づけない。
 おまけに言えば、三人目はたった今この世からいなくなった。声すら上げさせず、迅速じんそくに処理が完了した。

「これでも、そんな強気でいられるかしら!!」

 レイピアの刺突で私の眼球をつぶす気だろう。身体強化に加えて、レイピアの先端を『火』の魔法で焼いている。なかなか、えぐい魔法の使い方をする。
 蟲たちが止めに入りそうだったが、私も働かなくては蟲たちに示しがつかないだろうと、少し頑張がんばる。レイピアを人差し指と中指で挟むことで、威力を完全に殺してみせた。


「「えっ!?」」
「この程度か。お金をかせぐのも良いが、もっと良い武器を買ったほうが良いぞ。鉄に少量のミスリルを混ぜたような安物だと、こうなる」

 ――はっ!! 
 力に物を言わせて、レイピアを見事にへし折ってやった。実は、周囲に隠れている蟲たちが、ゴミたちがしゃべっている間に、指向性音波を使っている。金属を振動させて、武器自体の耐久度をズタボロにしていたのだ。変身しない状態では、安物でも力でへし折るのは骨がいるので、ちょっとした小ワザを用いた。

「奪ったものだからね!!‌ 安物で当然よ!!‌ でも、これなら」

 女は、へし折れたレイピアから手を離して、背中に隠し持っていたピッケルに持ち替えた。それを見て、なかなか良い武器があるじゃないかと思わず感心してしまったよ。ピッケルは良いよね。あの形状は、好きだよ。ロッククライミングで役に立つ。
 ミスリル製か~、壊すのは少ししいのでもらっておこう。

「良い武器だ。もらっておこう」
「できるものならなっ!!」

 女が攻撃の体勢に入るより早く手首を掴んだ。

「握力を測ったことはないが、この姿でも本気を出せば鉄すらねじきれる。どの程度きたえられているか測定してやろう」
「はやく、こいつを始末してぇぇぇ!!」

 逃げ出そうとしても、ビクともしないことで、状況が理解できたようだ。自分たちより強い者に喧嘩けんかを売っているということにね。だが、もう遅い。私に掴まれる前なら仲間の援護が間に合ったかもしれないが、今更動かれてもこちらが手首をねじきる方が早い!! 
 ブヂリと手首を握りつぶした。

「いや゛あぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁー」

 武器を持った手首ごとねじきって、身体は蹴飛ばし仲間の方へと飛ばしてあげた。

「お仲間だろう。受け取るといい。あと、これもおまけだ」

 仲間を助けに入ろうとした男に対して、女から奪い取ったピッケルを投げつけた。女をたてにしてピッケルから身を守るか、女をかばってピッケルをその身で受けるか。好きな方を選ばせてやろう。美しき仲間との友情を見せてくれ。
 ――男は、仲間を当然のようにたてにして、私が投げたピッケルを防いだ。たてにされた仲間は、見事に脳天にピッケルが突き刺さり即死。

「このくそったれがぁぁぁぁ!!」

 己の命しさで仲間をたてにして殺したのに、責任を私に転嫁てんかするのはやめて欲しい。私は、女に生き残るチャンスをくれてやった。それを、その手で殺しておいてなんて言い草だ。この理不尽さ、万死に値する!! 

「ふむ、そろそろ皆揃ったね」
「こっちを見やがれ、見下してんじゃねーぞ!!」

 男は、小型の丸いシールドと短剣という変わったスタイルをしていた。どうやら、暗殺とかそっち系が得意の者なのだろう。

「見下している? おかしなことを言うね。キサマら、ゴミなど最初から眼中にないわ」

 蟲たちが一斉に擬態ぎたいを解いた。空には無数の純白の蟲たちが、地上にもあふれかえっており、雪景色のように美しい。迷宮でこんな光景を目にできるのだ。死ぬには最高の日だろう。

「こ、この蟲たちは!!」
「ご挨拶あいさつが遅れましたね。レイア・アーネスト・ヴォルドー、ランクB冒険者だ。得意の魔法は『蟲』。この度は、ギルドからゴミ掃除そうじを請け負ってきた。では、お仲間の場所へご招待してあげましょう」
 ギィ(お父様、お腹減った。もう食べていい?)
 ジー(同じく)
 ギェギ(ちょっとだけ、さきっちょだけだから、味見してもいいよね、お父様)

 だいぶ、待たせてしまったね。では、ランチタイムにしよう。

「ま、待ってく――」
「お手々を合わせて!!」
 ギィー(いただきます~!!)
 ジー(いただきます~!!)
 ギェ(いただきます~!!)

 仲間の死体を、蟲たちに投げつけるか。蟲たちが襲いかかってくるのを見て、瞬時に仲間をえさにして逃げ出すとっさの判断。優秀だな。だが、どこに逃げるというのだね。既にこの場は蟲たちによって完全に包囲されているのだ。貴様には、突破口を開くほどの力もないはず。
 ほほ~。私から遠ざかるのではなく、あえて近づいてきたか。頭の出来はマシな方だね。数の暴力といっても過言ではない蟲たちを相手にするより、司令官である私を狙ってこの難局を突破する気でいるのだろう。

「ああ、言い忘れたが……そこらへんに」
「え――」

 わなが大好きな蜘蛛くもの子が、ワイヤートラップを仕掛けているよと教えてあげようと思ったが、遅かった。見事に、スパッと良い音を立てて三等分されてしまった。
 相変わらず、えぐい切れ味だな。このトラップには昔、私も引っかかったからね。酷いことに仕掛けられていた場所が、四十八層の入口だったのだ。ルンルン気分で腕を振りながら移動していたら、右腕がサイコロステーキにされて、本気であせったわ。
 蛆蛞蝓ちゃんがいなければ、隻腕せきわんになっていただろう。

 ギギ(やはり、男性は肉質が硬いですね。女性の方が美味おいしいかな)
 ジー(いえいえ、この肉質が良いんですよ。お肉を食べているって気がするじゃありませんか。女性の肉は、油っぽいからね。あ、お醤油しょうゆとっていただけますか)
 ギィ(お醤油しょうゆね、どうぞ)

 みんなのランチタイムが終わったら、こいつらがめ込んだ装備を回収して、次の層へと移動しよう。マーガレット嬢も私からの報告を待っているだろうし、早く依頼を達成したいね。


     ◇ ◇ ◇


 上層でのゴミ掃除そうじを終えて、『ネームレス』ギルド本部にまで報告に来てみれば、孤児院の連中が立っていた。何日もそんなところに立っている暇があるなら、まじめに働けば良いのにと心底思った。
 いや、少し雰囲気ふんいきが違うな。
『ネームレス』ギルド本部の入口のそばで、横一列に並んで情報提供を求めている。なんでも、募金活動に来た子供たちが謎の死を遂げたらしい。ある者は、喉元のどもとを自らかきむしって死亡、ある者は溺死できし、ある者はバラバラにと、死にざまは様々だが……一点だけ共通点があるらしい。冒険者に対して、不快な思いをさせてしまったらしいのだ。
 それを聞けば納得の結果である。孤児たちの死にざまと、起こった現場が『ネームレス』ギルド本部の目の前、さらに手をくだした瞬間を見た者が誰もいない――一流の冒険者の仕業しわざであろう。
 直感だが、溺死できしはジュラルド。バラバラにしたのは、エーテリアだろうね。ジュラルドの魔法ならば、誰にもバレることなく肺の中を水で満たすことも可能。エーテリアの剣技ならば、鋭さが異常だから、切られても数分は生きていることだってある。
 あの二人も、ギルド孤児院の真の目的を読み取り、私と同じくゴミ掃除そうじをしてあげたのだろう。まったく、紳士淑女は嫌な役回りをやらされることが多くて困るわ。
 孤児たちが、死んだ友達だと思われる似顔絵を手に持って、情報提供を呼びかけている。ただ、さりげなく募金箱を子供たちが持っており、同情をえさにして冒険者から金を巻き上げている。
 死んでもさらに飯の種にされるとは、ギルド運営の孤児院とは本当に恐ろしい。どれだけ、金を集めたいんだ。あまりの醜悪しゅうあくな様子を見るに耐えなくなり、ギルド本部の中へと入った。

「吐き気をもよおす邪悪とはこのことだな。で、マーガレット嬢。私に何か言いたいことはあるかね?」

 受付まで来てマーガレット嬢の言い分を聞くことにした。答えは分かりきっているが、一応確認はしておきたい。

「ありますよ。レイア様が『モロド樹海』上層に向かった日から、なぜか!!‌ 行方ゆくえ不明者が続出したのですが、心当たりはありませんかね?」
「ここで話してしまって構わんのかね? ギルドの汚れ仕事が大っぴらに公開されることになるぞ」

 ギルドからの依頼で、迷宮上層のゴミという名の冒険者を殺して回ったと知られれば、ギルドの評判は落ちるだろう。その行為が、将来的に冒険者及びギルドの安定に繋がることを理解できる者たちばかりではないのだ。目先の利益しか考えていない者たちは、ギルドが高ランク冒険者を雇って低ランク冒険者を殺して回っていると捉えかねない。

「どういうことでしょう?」
「良いだろう。ギルドの依頼で今日までに上層で殺した冒険者の数は八十八名だ!!‌ その中には、賞金首も含まれていたが、依頼書の備考欄に賞金首の報酬ほうしゅうは支払いませんと書かれていた。これは、さすがに酷いだろう。依頼の報酬ほうしゅうが三千万セルに対して、賞金首の総額は一億近い。ピンハネもいい加減にして欲しい」

 その声に反応して、周りから視線が集まる。当然だ。この場には上層をメインで活動しているパーティーのメンツもたくさんいる。その中には、私がメンバーをぶち殺した連中も含まれており、注目を集めるのは当然の結果だ。
 今までは、煙のようにいなくなった行方ゆくえ不明事件だったのだが、それがギルド主体による行為だと判明すれば、非難の目が向くのは当然の帰結。

「えっ……ちょ、ちょーとお待ちください。レイア様、私たちギルドが依頼をしたのは、似顔絵の者の排除だったと存じておりますが」
「ああ、あの誰にでも似ているような似顔絵ね。だから、その似顔絵に似た者たちを採点して、ゴミだった場合に限り掃除そうじしておいたぞ。採点基準は大甘設定。私の標準基準で採点していたら軽く百名を超していた。だが、安心しろ。メンバーに欠員が出たパーティーは、陰ながら蟲たちが支えていたから、おりをしたパーティーは全員無事だ」

 あまりの素晴らしい対応に、マーガレット嬢を含む、受付嬢たち全員の開いた口がふさがらない。それもそのはず、ただゴミ掃除そうじするだけでなく、パーティーのおりまで引き受けていたのだ。ここまでできる者は滅多めったにいないであろう。
 マーガレット嬢が頭を抱えてブツブツ何かを言っている。「この話を聞いた者は……」「背に腹は代えられないわ」とか言っている。まあ、どうでも良いのだが、早く依頼の報酬ほうしゅうをいただきたい。

「エルメス嬢、マーガレット嬢が対応してくれないから、この依頼書の報酬ほうしゅうをすぐに用意してくれ。どうした、そんな顔をして。そういえば、エリスちゃんを可愛かわいがってくれているようだね。私としても大事にしてもらっているようで嬉しい限りだ」

 マーガレット嬢が使いものにならなかったので、近くにいたエルメス嬢に代わりを頼んだ。

「いいえ、私もエリスちゃんにお世話になりっぱなしで……どんどん私自身が堕落していくのが手に取るように分かります。依頼の報酬ほうしゅうは、すぐにご準備いたしますね」

 マーガレット嬢の後輩であるエルメス嬢は、既に悟りを開いたかのように開き直った顔をして対応をしてくれた。ただ、昼食後なのだろう。奥歯の歯と歯の隙間すきまに、いなご佃煮つくだにの足が挟まっているのが見えてしまった。人前で恥をかかせるのはよろしくないので、こっそりと手紙を渡すことにしよう。

「依頼報酬ほうしゅうは確かに受け取った。で、何やら不穏な視線を感じるのだが、報酬ほうしゅう次第では引き受けないこともないが?」
「た、多分大丈夫だと思います。マーガレット先輩が処……対応してくれると思いますので」

 それならば大丈夫だろうが、保険はかけておこう。エルメス嬢に何かあったら、エリスちゃんが悲しむからね。数匹の蟲を護衛として残しておく。

「では、次はもっと割の良い依頼を期待している。それと、これを後で読んでもらえるとありがたい」

 報酬ほうしゅうを受け取り、エルメス嬢に手紙を渡し、ギルド本部を後にした。手紙を受け取ったエルメス嬢は、目が点になっていたが、気のせいだろう。


 翌日、『ネームレス』郊外で謎の変死体が大量に製造されているのが見つかった。身元は不明だが、その日を境に、低ランク冒険者の数が激減した。風のうわさでは、ギルドが高ランク冒険者を使って低ランク冒険者を皆殺しにしたとのことだ。
 限りある人命をもてあそぶギルド。いくら大組織だとはいえ、少々やり過ぎではないかと思わずにはいられない。



  4 特別講師(一)


 領地転換に際し、少しでもお金をかせごうと、私は今日も、建て直された『ネームレス』ギルド本部まで足を運んでいた。
『ネームレス』ギルド本部再建後、とどこおっていた依頼が湯水のようにある……かと思いきや、どうなっているんだ? 依頼の絶対数が少ない気がする。ついに、ギルドの真っ黒な部分が知れ渡りすぎて、依頼が来なくなったのかと心配してしまう。
 だが一番の原因は、冒険者の数が多すぎることだろう。
 毎日、迷宮の肥やしになっている冒険者がいるというのに、『ネームレス』にいる冒険者は一定の数から減ることはない。冒険者育成機関が毎年出荷しているからだ。ギルドとしては働きありが増えるので嬉しいのだろうが、私としては商売がたきが増えるので嬉しくない。
 とはいっても、新人冒険者は一年で半数になる。
 学生気分が抜けないまま、勢いに任せて『モロド樹海』に潜り、あの世へ行ってしまう。自己の実力を過信している連中が多すぎるのだ。さらに、彼らの多くは貴族の子女であるためか、先輩冒険者に無礼を働くアホも少なからずいる、彼らは、手痛い洗礼を受けたり、一つしかない命を散らして、冒険者稼業から退場していく。
 そんな現実があるため、マーガレット嬢が依頼を持ってきたのだろう。

「この私に、冒険者育成機関の学生に講義をして欲しいと……」
「はい。学生の親である貴族たちから、ソロ冒険者のレイア様に、迷宮で生き残る秘訣ひけつや強くなるコツなどを講義してやって欲しいと強い要望がありまして」

 一言、「死ぬ気で頑張がんばれ」で終わらせたい。
 そもそも、死にたくないのなら、迷宮に潜ることが間違いである。料理人や商人にでもなった方がいい。女性なら娼婦しょうふという道もある。金もかせげるし、死なない。男性にもそういう特殊な道はあるが、お勧めはしない。基本的に客層がド変態しかいないらしいからな。

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