感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ3

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 「ひかりには、いつも寂しい思いをさせていたから、喜多川君に来てもらえて本当によかったよ」
 食事中に和明が言った。
「そんな、日本に戻ってきたばかりで、生活が安定するかもわからない時期ですので、手を差し伸べていただいて本当に助かります。できるだけ、早く一人立ちできるように努力します」
「気にすることはないよ。君さえ良ければずっといてくれてかまわない。なあ、ひかり?」
 和明がひかりをみた。ひかりは、返事に困りハンバーグの皿のふちに箸を置いた。
「ありがたいです。この大学で長く使ってもらえるように、頑張ります」
 亮が受け流した。
 食事が終わり、和明と亮とでひかりにはさっぱりわからない話を始めた。
 ひかりが後片付けを始めると、亮が「ひかりさん、片づけは俺が後でします」と言った。
「今日はまだお客様だから、気にしないで」
 ひかりはかまわず、皿を重ねた。
「喜多川君、僕に気を遣わずに、いつも通り『ひかり』と呼んでくれたらいいよ。君も、いつも通りで」
 和明の言葉には何も裏がないように思えた。それがかえって、ひかりには理解できなかった。
 ひかりが食器を洗っていると、珍しく和明がキッチンへ来た。
「喜多川君に、ビールがあると聞いてね」
 和明には晩酌の習慣はない。ひかりはビールの存在をすっかり忘れていた。家でお酒を飲む気になったのは、亮と話すのが楽しいからだろう。
「君も一緒にどうかな?」
「少しだけ……」
 ひかりは、あまり飲めない。すぐに眠くなってしまうのだ。
「冷蔵庫?」
「すぐに持って行きます」
 待ちきれないのか、和明が中に入ってきた。急いで手についた泡を落とす。
「今、出します」
「いいよ。僕が用意する」
 和明がひかりの横に立った。指先で頬に触れた。
「泡がついてた。夕食、美味しかったよ」
 そう言って、目を細めた。
「あれは、喜多川君の好物なのかな?」
 ひかりは、息をのんだ。
「僕はうどんしか思いつかないから、君も腕のふるい甲斐ができてよかったね」
 和明が嬉しそうに笑ったあと、冷蔵庫を開けて中を覗いている。ひかりは、その背中をただ見つめた。
 缶を三本持ってダイニングへ戻っていく。
 ひかりは、我に返った。食器棚からグラスを取り出す。手を滑らせて落としてしまった。
 音が響く。破片が足をかすめて痛みが走った。
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