感じさせて……。

紫倉 紫

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ゆめ3

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 「ああ、元妻が置いていったまま忘れていただけだ」
 結婚していたことがあるとは知らなかった。
 独り暮らしにしては家が広いのはそういことかと思った。
「はやく風呂に入って、始めよう」
 今日は、どのくらいまでされるのだろう。
「心配するほどのことはない」
 表情を読み取られてしまう。
「お前の大好きな教授は相当な……」
 奥村さんが少し考え込んで「紳士だ!」と言った。 
 今回もまた、正座で向き合うところから始まった。
 部屋が暗いことが本当にありがたい。手順通りに進んでいく。
 奥村さんが、教授のノートの内容を所々暗唱する。思わず「暗記してるんですね」と訊いてしまった。
「ああ、もう、全頁頭に入っている。正直、俺の意思でしていると思われたくないからな」
 奥村さんも、わたしとこういう行為に至るのは不本意なのだろう。
 心配はいらないと言われたのに、そうでもなかった。
 他人に胸を触られるのが、ここまで感じるものだと知らなかった。
 だんだんと、声を我慢するのが大変になり、奥村さんにやめてほしいと頼んだ。
 「だめだ。今夜は三日分をこなす予定だからな。一回一回短いから、これ以上にはならん安心しろ」
 どう安心しろというのだ。
 そういったそばから、奥村さんがわたしの胸に舌を這わせた。先端を口に含まれ、とうとう、声がもれてしまう。
 突然、ピピピピピピピピと音が聞こえて驚いた。
「予定の20分が経ったので、ここまでとした」
 奥村さんが体を離した。
「教授は毎回タイマーをセットしてするようだから、慣れろ。あと、2セットな。残りは15分設定だから、お前には楽だろう」
 奥村さんはため息交じりにそう言った。
「時間を決めてするものですか?」
 したことがなくても、さすがにおかしいとわかる。
「初日の反省点に『時間経過の感覚が通常とは異なる。後の処理を含めて就寝時間を守るための工夫が必要』と書いてあった」
 教授らしいといえば教授らしい。
「とにかく続きをしよう。次はキスだけだ。髪を撫でたりそんなものだ」
 奥村さんにとってはたいしたことじゃないかもしれない。スマホでタイマーをセットしている。数字が減っていくところを見せられる。
 奥村さんは画面を伏せて置いた。
 頬に手のひらが触れる。
「また、こんなに緊張して……キスも初めてだったのか?」
 肯定はしなかった。
  奥村さんはわたしの額に額をつけた。一度軽く唇が重なる。その後で、激しく押し付けられる。逃れようにも、手で頭を押さえられている。
 舌が唇を割って入ってくる。舌に舌を絡められた。
 息が苦しい。
 奥村さんが一度唇を離し「おまえの唾液、甘い」と言った。
 その言葉になぜか、首筋がぞくっと震えた。 
 奥村さんがわたしの唇を舐める。それだけで声がもれそうになる。
 抱き寄せられた。奥村さんの体が熱い。力が抜けていく。背中を指先で撫でられる。軽く身をよじる。
 唇は重ねられたまま。お互いの呼吸をやりとりしているようで、段々と気が遠くなっていった。
 奥村さんのわずかな動きに、触れあっている肌が勝手に反応してしまう。
 つい、もらした声は、奥村さんに飲み込まれた。
 タイマーの音で我に返った。
 奥村さんが舌打ちをしながら、止めた。
「少し時間を置いてさまそう。十分したら戻ってくる」
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