28 / 157
うつつ4
二
しおりを挟む
翌日には亮から電話がかかってきた。
「明日、そっちに荷物が届くから、受け取っておいて」
内容についてひかりが訊ねると、ほとんどが衣類だと返ってきた。
「先生から、ベッドを用意したって電話もらった。ひかりが寂しがってるから、来るのをはやめてほしいって」
わざわざ亮にそんな電話をする意図はなんだろうとひかりは不思議に思う。
「ごめんな。さすがに、これ以上早めるのは無理でさ」
「そんな、全然」
ひかりの方は、もっと遅くなっても構わなかった。
「そこで暮らすのに、ベッドの次に必要不可欠なのはデスクだろうって、着いた日にひかりと買いに行くように言われた。当日には来ないからって、確かにそうだなと思ってさ」
亮も大学で講師をするなら、いろいろと予習がいるかもしれない。
とりあえず「わかった」と伝えて、電話を切った。
和明は、どうして前もって教えてくれないのだろう。
ひかりは確かにたいした予定もなく生活している。それでも、いきなり亮に言われて知れば、嫌な気分にもなる。
ないがしろにされている。
そう取ろうとすれば取れる。
和明には多分、そんなつもりはないと、ひかりにはわかっていた。
話し合いの時間は無駄、より判断力がある方が決めればいい。亮に伝えるか、ひかりに伝えれば、すぐに情報は共有されると知っている。合理的な手段を取っているだけなのだ。
七年一緒にいれば、そのくらいはわかってくる。それなのに、最近、和明らしくない時があるとひかりは感じている。
和明らしくない行動は、嬉しいような落ち着かないような複雑なものだ。つい、あの日のように求めてもらえたらと期待を抱いてしまう。
亮が来たらまた気をつかう。
今週の金曜日には正式に越してきてしまう。それまでに早く帰って来てくれるかもわからない。
ほぼ諦めきっていたことに、少し希望の光が見えると途端に欲が出てくる。
あんな机の上に座らされてではなく、柔らかなベッドの上で交わりたい。
この程度のことを、贅沢だと思う生活だった。
和明の言うとおり、亮が来くれば寂しさは解消される。それは本来ひかりの望んでいることではない。
ひかりは、仕方なく一緒にいてもらうのではなく、もっと、亮のように、和明に必要とされたいだけなのだ。
今、あのWEB小説の主人公の気持ちを理解した。彼女も、研究者としてでも、教授の役に立ちたい、必要とされたいと願っていた。
和明は、ひかりが健康面を維持していると言えるほども、家で食事をとらない。ひかりは、ただ自分のわがままでそばにいるにすぎなかった。
『捌け口』で構わない。もっと求めてほしい。
ちゃんと籍を入れて一緒にいるのに、ひかりの夫への感覚は、不倫相手のそれと変わらない。
「明日、そっちに荷物が届くから、受け取っておいて」
内容についてひかりが訊ねると、ほとんどが衣類だと返ってきた。
「先生から、ベッドを用意したって電話もらった。ひかりが寂しがってるから、来るのをはやめてほしいって」
わざわざ亮にそんな電話をする意図はなんだろうとひかりは不思議に思う。
「ごめんな。さすがに、これ以上早めるのは無理でさ」
「そんな、全然」
ひかりの方は、もっと遅くなっても構わなかった。
「そこで暮らすのに、ベッドの次に必要不可欠なのはデスクだろうって、着いた日にひかりと買いに行くように言われた。当日には来ないからって、確かにそうだなと思ってさ」
亮も大学で講師をするなら、いろいろと予習がいるかもしれない。
とりあえず「わかった」と伝えて、電話を切った。
和明は、どうして前もって教えてくれないのだろう。
ひかりは確かにたいした予定もなく生活している。それでも、いきなり亮に言われて知れば、嫌な気分にもなる。
ないがしろにされている。
そう取ろうとすれば取れる。
和明には多分、そんなつもりはないと、ひかりにはわかっていた。
話し合いの時間は無駄、より判断力がある方が決めればいい。亮に伝えるか、ひかりに伝えれば、すぐに情報は共有されると知っている。合理的な手段を取っているだけなのだ。
七年一緒にいれば、そのくらいはわかってくる。それなのに、最近、和明らしくない時があるとひかりは感じている。
和明らしくない行動は、嬉しいような落ち着かないような複雑なものだ。つい、あの日のように求めてもらえたらと期待を抱いてしまう。
亮が来たらまた気をつかう。
今週の金曜日には正式に越してきてしまう。それまでに早く帰って来てくれるかもわからない。
ほぼ諦めきっていたことに、少し希望の光が見えると途端に欲が出てくる。
あんな机の上に座らされてではなく、柔らかなベッドの上で交わりたい。
この程度のことを、贅沢だと思う生活だった。
和明の言うとおり、亮が来くれば寂しさは解消される。それは本来ひかりの望んでいることではない。
ひかりは、仕方なく一緒にいてもらうのではなく、もっと、亮のように、和明に必要とされたいだけなのだ。
今、あのWEB小説の主人公の気持ちを理解した。彼女も、研究者としてでも、教授の役に立ちたい、必要とされたいと願っていた。
和明は、ひかりが健康面を維持していると言えるほども、家で食事をとらない。ひかりは、ただ自分のわがままでそばにいるにすぎなかった。
『捌け口』で構わない。もっと求めてほしい。
ちゃんと籍を入れて一緒にいるのに、ひかりの夫への感覚は、不倫相手のそれと変わらない。
0
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる