感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ4

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 翌日には亮から電話がかかってきた。
「明日、そっちに荷物が届くから、受け取っておいて」
 内容についてひかりが訊ねると、ほとんどが衣類だと返ってきた。
「先生から、ベッドを用意したって電話もらった。ひかりが寂しがってるから、来るのをはやめてほしいって」
 わざわざ亮にそんな電話をする意図はなんだろうとひかりは不思議に思う。
「ごめんな。さすがに、これ以上早めるのは無理でさ」
「そんな、全然」
 ひかりの方は、もっと遅くなっても構わなかった。
「そこで暮らすのに、ベッドの次に必要不可欠なのはデスクだろうって、着いた日にひかりと買いに行くように言われた。当日には来ないからって、確かにそうだなと思ってさ」
 亮も大学で講師をするなら、いろいろと予習がいるかもしれない。
 とりあえず「わかった」と伝えて、電話を切った。
 和明は、どうして前もって教えてくれないのだろう。
 ひかりは確かにたいした予定もなく生活している。それでも、いきなり亮に言われて知れば、嫌な気分にもなる。
 ないがしろにされている。
 そう取ろうとすれば取れる。
 和明には多分、そんなつもりはないと、ひかりにはわかっていた。
 話し合いの時間は無駄、より判断力がある方が決めればいい。亮に伝えるか、ひかりに伝えれば、すぐに情報は共有されると知っている。合理的な手段を取っているだけなのだ。
 七年一緒にいれば、そのくらいはわかってくる。それなのに、最近、和明らしくない時があるとひかりは感じている。
 和明らしくない行動は、嬉しいような落ち着かないような複雑なものだ。つい、あの日のように求めてもらえたらと期待を抱いてしまう。
 亮が来たらまた気をつかう。
 今週の金曜日には正式に越してきてしまう。それまでに早く帰って来てくれるかもわからない。
 ほぼ諦めきっていたことに、少し希望の光が見えると途端に欲が出てくる。
 あんな机の上に座らされてではなく、柔らかなベッドの上で交わりたい。
 この程度のことを、贅沢だと思う生活だった。
 和明の言うとおり、亮が来くれば寂しさは解消される。それは本来ひかりの望んでいることではない。
 ひかりは、仕方なく一緒にいてもらうのではなく、もっと、亮のように、和明に必要とされたいだけなのだ。
 今、あのWEB小説の主人公の気持ちを理解した。彼女も、研究者としてでも、教授の役に立ちたい、必要とされたいと願っていた。
 和明は、ひかりが健康面を維持していると言えるほども、家で食事をとらない。ひかりは、ただ自分のわがままでそばにいるにすぎなかった。
 『捌け口』で構わない。もっと求めてほしい。
 ちゃんと籍を入れて一緒にいるのに、ひかりの夫への感覚は、不倫相手のそれと変わらない。
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