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ゆめ4
十五
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奥村さんの部屋は教授室の向かいにある。
入る前に、教授室の扉を見る。プレートの矢印が『学外』に合わせられていた。
出張中らしい。
教授の部屋は、とにかくいろんなものが詰め込んであるけれど、奥村さんの部屋は、家と同じでよく整理整頓されていて、無駄な物はない。
机の上に弁当箱が並べてある。
「冷蔵庫にお茶が入れてあるから、好きなのを選べ。俺は麦茶でいい」
取ってこいという意味だろう。冷蔵庫の位置は知らない。見つけて取りに行く。
五百ミリリットルのペットボトルが何本も入っていた。
私も麦茶にした。
両手に持って、机までいく。
「お前って犬みたいだな」
奥村さんに笑われた。
「迎えに行けば喜んで寄ってきて」
確かに、さっきは嬉しかった。だけど、津山さんから逃げたかっただけだ。
「お座りって言えば素直にするしな」
「お座りなんてしてません」
反論した後、すぐに思い当たった。
「ムキになるな。それより、津山は大丈夫か? あれなら、他のに代えるように教授に言う」
大丈夫かと訊かれると「大丈夫です」と、こたえるしかない。こんなことでわがままを言うわけにはいかない。
「それか、お前がウイルス系に完全に移るか?」
それは、教授の下でもかなり奥村さんよりになる。嫌だった。
「あからさまに嫌な顔するなあ」
奥村さんが顔をしかめる。
「よく考えろよ。篠原教授は、個人的にしていることの仕上がりを早めたいだけのために、簡単にお前を兼務に代えたんだぞ」
奥村さんの言いたいことはわかる。
「俺だったら、お前のその能力を存分にいかせるように、こき使ってやるぞ」
せっかくそう言ってもらっても、ウイルス系のことは何も知識がない。ついていく自信はなかった。
「もうすぐ、こちらの臨床が次の段階に入る。植物に詳しい研究員がいる」
奥村さんが来ている理由がそこにあるのだろう。
「野田瑞樹が欲しい……一言で、簡単に手に入る」
変な言い回しをするから、動悸がしてきた。
「まあ、それなりに心づもりはしとけよ」
今すぐの話ではないようなので、そのうち気が変わるだろう。
「とにかく食うか。手作り弁当なんて、何十年……までは経ってないか」
愛妻弁当はなかったらしい。残っている道具からみて、結構料理をする奥さんだったように思うのに。
弁当箱の蓋をあけるのを見ていた。
「やけに凝ってるな……」
「凝ってないですよ。栄養バランスを考えているだけで」
「その上、お前の料理は美味いしな」
奥村さんは、何かと皮肉を言うくせに、料理に関してはよく褒めてくれる。
「数日前まで、食事は腹が膨れてバランスがある程度とれれば、味はどうでも良くって、噛む手間が省けて、いつでも手軽にとれるんなら、なお良しと思ってたけどな」
ゼリー状が理想だったってことだろうか。
「研究をする上では、共感できる面もありますけど、他を削ってでも、食事くらいはきちんととりたいって思うので」
それに料理は楽しい。
「料理は、趣味で実験してる感覚なんですよ」
奥村さんは、頷いた。
「どっかの誰かの趣味の実験より、実用的でいいな」
入る前に、教授室の扉を見る。プレートの矢印が『学外』に合わせられていた。
出張中らしい。
教授の部屋は、とにかくいろんなものが詰め込んであるけれど、奥村さんの部屋は、家と同じでよく整理整頓されていて、無駄な物はない。
机の上に弁当箱が並べてある。
「冷蔵庫にお茶が入れてあるから、好きなのを選べ。俺は麦茶でいい」
取ってこいという意味だろう。冷蔵庫の位置は知らない。見つけて取りに行く。
五百ミリリットルのペットボトルが何本も入っていた。
私も麦茶にした。
両手に持って、机までいく。
「お前って犬みたいだな」
奥村さんに笑われた。
「迎えに行けば喜んで寄ってきて」
確かに、さっきは嬉しかった。だけど、津山さんから逃げたかっただけだ。
「お座りって言えば素直にするしな」
「お座りなんてしてません」
反論した後、すぐに思い当たった。
「ムキになるな。それより、津山は大丈夫か? あれなら、他のに代えるように教授に言う」
大丈夫かと訊かれると「大丈夫です」と、こたえるしかない。こんなことでわがままを言うわけにはいかない。
「それか、お前がウイルス系に完全に移るか?」
それは、教授の下でもかなり奥村さんよりになる。嫌だった。
「あからさまに嫌な顔するなあ」
奥村さんが顔をしかめる。
「よく考えろよ。篠原教授は、個人的にしていることの仕上がりを早めたいだけのために、簡単にお前を兼務に代えたんだぞ」
奥村さんの言いたいことはわかる。
「俺だったら、お前のその能力を存分にいかせるように、こき使ってやるぞ」
せっかくそう言ってもらっても、ウイルス系のことは何も知識がない。ついていく自信はなかった。
「もうすぐ、こちらの臨床が次の段階に入る。植物に詳しい研究員がいる」
奥村さんが来ている理由がそこにあるのだろう。
「野田瑞樹が欲しい……一言で、簡単に手に入る」
変な言い回しをするから、動悸がしてきた。
「まあ、それなりに心づもりはしとけよ」
今すぐの話ではないようなので、そのうち気が変わるだろう。
「とにかく食うか。手作り弁当なんて、何十年……までは経ってないか」
愛妻弁当はなかったらしい。残っている道具からみて、結構料理をする奥さんだったように思うのに。
弁当箱の蓋をあけるのを見ていた。
「やけに凝ってるな……」
「凝ってないですよ。栄養バランスを考えているだけで」
「その上、お前の料理は美味いしな」
奥村さんは、何かと皮肉を言うくせに、料理に関してはよく褒めてくれる。
「数日前まで、食事は腹が膨れてバランスがある程度とれれば、味はどうでも良くって、噛む手間が省けて、いつでも手軽にとれるんなら、なお良しと思ってたけどな」
ゼリー状が理想だったってことだろうか。
「研究をする上では、共感できる面もありますけど、他を削ってでも、食事くらいはきちんととりたいって思うので」
それに料理は楽しい。
「料理は、趣味で実験してる感覚なんですよ」
奥村さんは、頷いた。
「どっかの誰かの趣味の実験より、実用的でいいな」
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