感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ5

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 最初から、ひかりが求めたのは『生殖』だった。そして、欲しかったのは子供ではなかった。子供ができれば和明が手に入ると思っていただけだ。だから、罰を受けた。
 今はどうだろう。
 亮が泊まったあの日から、何かが変わった気がする。
 車の中で求められた時も。
 和明の考えはわからない。しかし、それ以前の空虚な生活よりはずっと良かった。
 小説の続きは気になる。それでも疲れのせいか、文字を追っているはずなのに、どこまで読んだかすぐにわからなくなる。
 和明が後少しで帰ってきてくれる。
 もうマンションの前に着いて精算している頃かもしれない。それなのに、目を開けていられなくなってきた。
 気づいたら、ひかりは、お弁当を作っていた。おかずを詰めても詰めても隙間が埋まらず困っていた。もうすぐ和明が出かけてしまうのに間に合わないと、焦っていた。
 ミニトマトで埋めるしかないと思い冷蔵庫に取りに行く。野菜室に有ったはずなのに見当たらず、探していた。
「ひかり」
 和明がお弁当を受け取りにキッチンに来た。
「ごめんなさい」
 和明に肩を掴まれた。
 息苦しくなって、思い切り息を吸い込む。
 目の前に、和明の顔があった。
「こんなところで寝ていたら風邪をひいてしまうよ」
 座ったままで眠っていた。
「おかえりなさい」
「ただいま、嫌な夢でも見ていた? 軽くうなされてたよ」
「お弁当が、間に合わなくて……」
 和明が微笑む。
 コートも着たままで、ソファの前に跪いていた。
「先に休んでくれて良かったのに」
 和明の顔も見られたので、ひかりは寝る気になっていた。
「喜多川君は?」
「部屋で調べ物を」
 和明が、亮の部屋の方へ視線をむけた。
「今夜は、君も、僕も、疲れているからな……」
 朝も早かった。移動があると余計に疲労する。明日は、朝から大学へ行くのだろうか。
「もう少しだけ、起きていられるかな?」
 ひかりは頷いた。
「君も、もう一度体を温めた方が、よく眠れるよ」
 リビングには床暖房も入れてあったので、そう冷えてはいなかった。
「背中を流してくれないか?」
 今まで、一度も一緒に入ったことはなかった。ひかりは、頷く前に振り向いて、亮のいる部屋の扉を見た。
「背中を流すだけなら……」
 こんなことを頼んできたことはない。よほど疲れてるのだろう。
「用意してくる」
 和明は書斎に入っていった。
 ひかりは、お風呂のお湯の様子を見に行った。
 少しぬるくなり量も少なかった。熱めのお湯を足すことにする。髪が邪魔になりそうなので束ねておくことにした。
 寝室に戻り、和明の下着等も揃えた。
 バスルームへ向かうために寝室を出た。
 つい、亮の部屋の様子を窺ってしまう。
 和明の背中を流す。
 夫婦としては特におかしなことではないはずだ。
 それなのに、音を立てないように気をつけながら、リビングを抜けた。
 脱衣スペースで和明を待つ。すぐに来た。
「先に入ってくれたら良かったのに」
「私は、このままで」
「服が濡れたら、余計に冷えるよ」
 和明の手がひかりの方へ伸びてくる。カーディガンのボタンを外された。
「後は自分で」
 和明に見つめられる。穏やかな口調なのに、逆らってはいけないと感じた。
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