感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ6

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「喜多川君は、まだ寝ているのか?」
 ひかりは事情を話した。
「そうか、それは嬉しい」
 自分たちの研究に関心を持ってくれることが喜びになるのだろう。
 つい、亮に嫉妬してしまう。
「喜多川君の邪魔をしないよう、今日は二人で出ようか?」
 ひかりは迷わず頷いた。
 出かけた思い出はほとんどないので、どこへ行こうとしているのか検討もつかない。和明はテレビもみない。映画をみたことをあるのかどうかも知らない。亮はスポーツもするし、お笑い番組が好きだったし、漫画も読んでいた。研究職を選ぶような人の中でも、和明は極端な方だと思う。
「どこへ行くんですか?」
 和明は首を捻る。
「思いつかないが、とにかく出よう」
 らしくない発言だと思った。
「亮の分の昼食を用意するので待ってもらえますか?」
 和明は微笑んだ。
「和明さんは、朝食どうしますか?」
「軽く、食べておこうか」
 休日に夫婦であてもなくでかける。
 多分、そうおかしなことではないはずなのに、ひかりは何かがありそうな気がして落ち着かなかった。
 準備を整え、家を出た。和明は、車を走らせながら考えると言った。
「遠くへ行ってみるかい?」
 ひかりは頷いた。誘われた直後は不安に感じたが、今は嬉しかった。
「君はつい最近大阪へ、僕は名古屋へ行ったばかりだ。山の方へ行ってみようか」
 京都は山に囲まれているはずだ。和明がどこへ向かうつもりなのかわからないまま「はい」と返した。
 市営バスとすれ違う。葉の落ちきった街路樹が並んでいた。まだ寒さは厳しい。
 車内はすっかり暖まった。
「どのくらい走るんですか?」
 和明の方を向いて問いかけた。和明が、一瞬だけ横目でひかりをみた。
「それは、距離? 時間?」
 考えていなかった。
「じゃあ時間で……」
「三時間」
「そうですか……」
 和明がクスッと笑った。
「君には、どこまで行けるか見当もつかないんだろう」
 言われた通りだった。
「高速を使うか使わないかでもかわる」
「そうですね……」
 右折をして大通りに入った。
「どこへ、向かってるんですか?」
「山……とさっき伝えたよね?」
「そうでした……」
 気づかなかったけれど、和明は機嫌が悪いのだろうか。
「言葉にする前に一度、それが最善かどうか考える癖をつけた方が良い」
 沈黙を避けるためだけの会話は無駄だと、言われている気がした。
「気をつけます」
 ひかりは、話しかけづらくなってしまった。
「喜多川君とはどんな話をするんだい?」
 亮とは何を話しているだろう。思い出話しをするわけでもない。
「たわいない事です」
「また、随分ざっくりとした分類だ」
 和明の口調は楽しげだった。
「例題を出すから、喜多川君とならどんな話になるか、シミュレーションをしてもらおうかな。以前から、君と喜多川君の関係性は、僕には不可解そのものだった」
 以前とは、結婚する前からという意味合いだろう。
 関係性は、幼馴染という以外にない。
 ほかに、何かがあると思われているのかもしれない。
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