感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ6

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 存在価値……ありがたみのような意味で使ったのだろうか。
 和明がひかりに対し、恋愛感情の類を抱いたことがないのはわかっている。
「君が一緒にいてくれれば僕の研究はきっと順調にすすむ」
 和明が、ひかりの支えを必要としてくれている。嬉しくて、泣いてしまいそうだった。
 気づかれないように窓の外に視線を向けた。いつのまにか、町外れと呼べるところまで来ている。道沿いに飲食店が並んではいるが、店と店の間は少しあいていて、駐車場も広くとってある。
 視線を前に向けると、案内標識が目に入った。高速道路の入り口が近いらしい。のるのだろうか。どこへ向かっているのか見当もつかない。
 山へ向かっているのは確かだ。緩やかではあるが坂を登っている。
 和明は、高速道路へは入らなかった。そのまま真っ直ぐと進む。どこへ行くつもりなのか。
 道路脇に、ラブホテルが並んでいる。料金の看板が目に入ったが、内容を理解する前に行きすぎた。
「ここにしよう」
 声が聞こえて和明の顔をみた。ウインカーの音が鳴り始める。車が、白い建物の一階にある駐車場へ入っていく。
 駐車場の空きスペースを探して目をはしらせる和明の横顔を見詰めていた。
「入ったことないよね」
 確認された。
「君とは」あるいは「君は」
 和明が省略した主語は、どちらかだろう。
 駐車場は、結構埋まっている。
 この中にいる人たちの、目的は決まっている。ひかりたちも入れば同じことをするはずだ。
 期待とも不安ともつかない感情が胸の辺りに小さな渦を作っている。ひかりは手のひらで押さえた。
 和明は車を停め、先に降りた。
 ついて行かないわけにはいかない。
 嫌なわけでもなかった。単に、緊張していた。
 少し遅れて車を降りる。隣の車は、プレートでナンバーを隠していた。和明は、何もせずにホテルの入口へ向かう。
「いいんですか?」
「何がかい?」
「他の車のようにしなくて」
「ああ」と言って和明が微笑んだ。
「僕と君は、人目をはばからなくていい関係だからね」
 ひかりは頷いた。夫婦で、こういう場所に来るのが一般的かどうかはわからないけれど、自分たちは、体の関係があって当たり前の間柄だ。再確認できて、ひかりは嬉しかった。
 建物の中に入ると、いきなり雰囲気が変わった。きれいなロビーだが、人の気配はない。エレベーター近くにパネルがある。ベッドの写真のいくつかが、明るい。
「どの部屋にするかい?」
 和明に訊ねられた。明るい写真の中から選ぶというのは予想できた。何を基準に選べばいいのかわからない。ファブリックは派手すぎて、どれも好みではなかった。値段の見方もよくわからない。ミストサウナのついた部屋が少し気になった。
「そこでいいの?」
 ひかりは見ていただけだと言ったが、和明が手を伸ばし、ミストサウナ付きの部屋のボタンを押した。紙に部屋番号が印字され出てきた。和明が手に取った。
「人目を気にしなくてすむ仲だとしても、顔を合わせたくはないからね」
 確かに、こんな場所ですれ違うのは、知り合いで無くても気まずい。
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