感じさせて……。

紫倉 紫

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ゆめ6

二十六

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 奥さんが自分で慰めていたみたい。
「どう考えても、欲求不満だろ。俺たちは何日分もしているが、本当は数日おきに15分だぞ」
 奥村さんの言う通りかもしれない。
 だからと言って、自分でするのは抵抗がある。
「無理強いはしない」
 奥村さんはそう言って、寝返りを打ち私に背中を向けた。すぐに寝息が聞こえ始めた。
 自分でしたからといって、昨日のようになるわけではない。
 知らなければ、またあんな風になんて考えずにすんだのに……
 昨日の快楽の余韻は体のどこにも残っていない。次はいつ、してもらえるのかと思いながら、私は目を閉じた。
 「靴は歩きやすいものにしてくれ」
 軽く朝食の後、声をかけられた。昨日買った服に、かろうじて合わせられるのは、仕事用の黒いパンプスくらいだ。
「結構歩くからな」
 どこへ行くのか尋ねると「天橋立」とかえってきた。同じ京都府内とはいえ、かなり遠いはずだ。行ったことがないので嬉しい。
「絶景に興味があるのか?」
「それなりには。自分ではなかなか行けないですし」
「特急列車で行くにしても、小旅行ではあるなあ」
 こんな機会がなければ行くことはない。一人旅をするほどの経済的な余裕もなければ、そこまでして行かなければならない理由もない。
「研修の部分は、せいぜい20分足らずだ。楽しんだらいい」
「わかりました」
 天橋立は、言葉ではよく聞くが、実際どんな場所なのかよくは知らない。有名なのだから、きっと素晴らしい景色なのだろう。
 早速、家を出た。
 車に乗り込むと奥村さんが「教授は高速を使わなかったらしいが、その辺りは研修とあまり関係ないから、高速に乗る」と言った。
 時間的にどれくらい変わるのか見当もつかないが頷いた。
 マンションを出て、しばらくすると大学キャンパスがある。休日でも、自転車に乗った学生たちが正門から構内へ吸い込まれていく。
 理系の学部は分野によっては土日にもすべきことがある。
 研究室のことが気にはなる。この週末は、津山さんがデータを確認に出てくることになっている。
「高速に入る前にコンビニに寄って飲み物でも買おう」
 それなら、麦茶でも作って持ってくれば良かったと考えていると、奥村さんに何が飲みたいか訊かれた。
 とくに思いつかない。
「早く答えろ」
 急かされたので「麦茶以外……」と返した。
「もう少し、選択範囲をせばめてくれ。二人で選ぶと時間がかかるからな。俺が適当に買ってくる」
「奥村さんと同じ物でお願いします」
「俺は、麦茶を買うぞ」
 やはり、作ってくればよかった。
「もういい、コーヒー、紅茶、緑茶、スポーツドリンク、炭酸飲料のうちどれにする?」
 せめて、自分で用意できない物にしたい。
「スポーツドリンクにします」
 奥村さんは、返事もせず車から出て行った。
 奥村さんはペットボトルの飲料を買ってすぐに戻ってきた。ビタミンcの入ったスポーツドリンクを渡された。
「高速を使えば、二時間程で着くはずだ。休憩無しでいく」
「わかりました」
 私は座っているだけなので、問題ない。 
「最近はあまり遠出もなかったから、気分転換にはなりそうだ」
 二時間も二人並んで過ごす。運転中は話しかけない方がいいのだろうか。
 景色でもと思って窓の外に目をやると、山肌に木が植わっているだけの壁があった。
「お前、出身は?」
「出身地というものはないですね」
「どういう意味だ?」
「父親が転勤族だったので、引っ越してばかりだったんですよ」
「なるほど」
「高校から下宿してるので、ここが一番長いです」
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