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ゆめ6
二十七
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奥村さんが「そうか」と言った。話はそれきり途絶えた。
両親は相変わらず放浪の民だ。普通は、どこかで父親が単身赴任になるはずだ。うちは、母親が、父親から離れたがらない。
父親からは時々、電話がある。母親の方は、もう何年も声すら聴いていない。
私にしても両親について何かを考えることもない。
ずっと、研究と……教授のことしか考えていなかった。
たった数日で、私の長年のライフスタイルは崩された。
奥村さんからされていることの、内容が内容でもあるし、一緒に過ごす時間が長いせいもあって、つい……
「そういや、教授が急かしてくるから、スケジュールを前倒しにして詰め込んでるが、用事があるときは言ってくれ、いくらでも調整はきく」
とくに、用事はなかった。
「前から、研究所のことが気になるので、遠出などは入れてませんし」
「近場に友達と出かけることもあるだろう」
そんな相手はいない。
「いえ、そういうのもありません」
「お前、研究向きの性格をしてんなあ」
「ありがとうございます」
奥村さんがいきなり、声を出して笑った。
「褒められてると取るところが、本当に研究向きだな」
褒められたわけじゃなかったらしい。
「俺としてるのも教授の研究に備えての研修だしなあ。料理も実験だろ?」
言われてみると、研究以外何もしていない。
「今までも、教授に尽くして、これからの人生も教授に捧げようとしてるのか?」
そういう言い方をされると、考えてしまう。
確かに、教授のもとで研究を続けたい。ずっと。
研究に携わりたいと思うのは、仕事だからじゃない。
なんとなくわかった。
「結局、好きなんです」
「教授がか?」
「いえ、研究が」
教授への想いは、恋心ではなかった気がする。
教授ともっと近づきたくて、プライベートの実験に協力し始めたのに、これでは何をしているのかわからない。
でも、今さら断って、研究所を辞めさせられるのは、本当に困る。
続けるしかない。
それに……
奥村さんにされてきたことを思い出しただけで、下腹部がうずきはじめる。
快楽を知ってしまうと、誰でもこうなるんだろうか。
奥村さんのことを好きでもないのに。
自分の欲求を満たしたいだけの……
本当に厄介だ。
これまでは、研究のことを考えてばかりいられたのに。
奥村さんのことは、数日前までよく知らなかった。今だって、それほど知らない。
年齢さえ……
「奥村さんは、おいくつなんですか?」
「お前、知らないのか……確かにあまり必要な情報ではないな」
卒業年次が同じだとしても、同じ年とも限らない。研究所内の同期、内藤さんがいくつかも、知らなかった。
「今年、35だ」
「えっ」
「なんだその反応は、もっといってると思ってたのか」
なんとなく、もう少し上だと思っていた。
「見た目でと言うわけじゃないんです。研究所内の立場とか、あと、ご結婚されてたって……」
その後に破綻するまでに、ある程度期間がありそうな気がしていた。
「しかし、お前、本当に教授にしか興味ないんだな」
「そういうわけじゃ……」
否定したもののその通りだった。
「研究所内に、俺たちのことを知らない人間がいるとは思ってなかった」
別れた奥さんは研究所内の人なんだろうか。どちらにしても、ウイルス系の人とはほとんど話したことがない。
「まあ、知らずにいてもなんの支障もない」
この奥村さんと結婚していた人……
研究所内で見かけるだけの頃は、ただ怖い人だった。一緒に過ごしていると、優しいところもある。
両親は相変わらず放浪の民だ。普通は、どこかで父親が単身赴任になるはずだ。うちは、母親が、父親から離れたがらない。
父親からは時々、電話がある。母親の方は、もう何年も声すら聴いていない。
私にしても両親について何かを考えることもない。
ずっと、研究と……教授のことしか考えていなかった。
たった数日で、私の長年のライフスタイルは崩された。
奥村さんからされていることの、内容が内容でもあるし、一緒に過ごす時間が長いせいもあって、つい……
「そういや、教授が急かしてくるから、スケジュールを前倒しにして詰め込んでるが、用事があるときは言ってくれ、いくらでも調整はきく」
とくに、用事はなかった。
「前から、研究所のことが気になるので、遠出などは入れてませんし」
「近場に友達と出かけることもあるだろう」
そんな相手はいない。
「いえ、そういうのもありません」
「お前、研究向きの性格をしてんなあ」
「ありがとうございます」
奥村さんがいきなり、声を出して笑った。
「褒められてると取るところが、本当に研究向きだな」
褒められたわけじゃなかったらしい。
「俺としてるのも教授の研究に備えての研修だしなあ。料理も実験だろ?」
言われてみると、研究以外何もしていない。
「今までも、教授に尽くして、これからの人生も教授に捧げようとしてるのか?」
そういう言い方をされると、考えてしまう。
確かに、教授のもとで研究を続けたい。ずっと。
研究に携わりたいと思うのは、仕事だからじゃない。
なんとなくわかった。
「結局、好きなんです」
「教授がか?」
「いえ、研究が」
教授への想いは、恋心ではなかった気がする。
教授ともっと近づきたくて、プライベートの実験に協力し始めたのに、これでは何をしているのかわからない。
でも、今さら断って、研究所を辞めさせられるのは、本当に困る。
続けるしかない。
それに……
奥村さんにされてきたことを思い出しただけで、下腹部がうずきはじめる。
快楽を知ってしまうと、誰でもこうなるんだろうか。
奥村さんのことを好きでもないのに。
自分の欲求を満たしたいだけの……
本当に厄介だ。
これまでは、研究のことを考えてばかりいられたのに。
奥村さんのことは、数日前までよく知らなかった。今だって、それほど知らない。
年齢さえ……
「奥村さんは、おいくつなんですか?」
「お前、知らないのか……確かにあまり必要な情報ではないな」
卒業年次が同じだとしても、同じ年とも限らない。研究所内の同期、内藤さんがいくつかも、知らなかった。
「今年、35だ」
「えっ」
「なんだその反応は、もっといってると思ってたのか」
なんとなく、もう少し上だと思っていた。
「見た目でと言うわけじゃないんです。研究所内の立場とか、あと、ご結婚されてたって……」
その後に破綻するまでに、ある程度期間がありそうな気がしていた。
「しかし、お前、本当に教授にしか興味ないんだな」
「そういうわけじゃ……」
否定したもののその通りだった。
「研究所内に、俺たちのことを知らない人間がいるとは思ってなかった」
別れた奥さんは研究所内の人なんだろうか。どちらにしても、ウイルス系の人とはほとんど話したことがない。
「まあ、知らずにいてもなんの支障もない」
この奥村さんと結婚していた人……
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