感じさせて……。

紫倉 紫

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ゆめ6

二十八

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 別れた奥さんとどんな話をしていたのだろう。
 具体的に何かを考えはじめると、勝手に他人の私生活をのぞいているようなやましさを感じた。
「教授のところみたいに……」
 奥村さんは「いや、なんでもない」と言った。
 何を言おうとしたのか気になる。
「今更だが、お前、本当にいいのか?」
「何についての質問ですか?」
 研修内容についてかもしれない。それはもう覚悟はできている。
「悪いな。俺が言うべきことではなかった」
「そうですか」
 違ったのだろうか。見当もつかない。
「だいたい、お前が変な話題をふったのが悪い」
「変な話題? どれですか?」
「もういい、忘れろ。何でもいいから、他の話題を提供しろ」
 そんなことを言われても何も思いつかない。
「別に、無理に話をする必要もないか」
 奥村さんが呟いた。
 確かに、話す必要はない。なのに、黙っているとなぜか落ち着かなかった。一つ疑問がわいたので口にした。 
「奥村さん、お子さんは?」
「はあ? 別の話題をと言っただろうが」
 話題をかえたつもりだったのに、不機嫌な声をだされた。
「すみませんでした」
「いない」
 奥村さんは「安心しろ」とつけ加えた。
 安心? と思ったが、確かに、自分の親が、実験のために恋人でもない相手と性的な行為をしていると知ったら、子供はショックだろう。
 いないのなら、よかった。
「お前くらい、楽だったらな……」
 奥村さんがため息をついた。
「とにかくだ。俺の過去の結婚生活は、正直良いものではなかった。あまり思い出したくない。後悔はないが、いろいろと応えてやれなかった後ろめたさがある」
「わかりました」
 私にも、あまり考えたくないことがある。両親の……母親が、父親から離れたがらないのは、父親の過去の浮気が原因だと、大人になってから気づいた。小学生の頃、夜中に母親がわめき散らす声で目覚めたことがあった。あれは、きっとそうだ。
「男の人って、どうして、浮気するんですか?」
「俺は、してない」
 奥村さんが強めに否定した。
「一般的に、そうなのかと思って」
「本能で、そうなるんじゃないか?」
 それでは仕方のないことなのだろうか。
「ただ、人間は衝動を抑えることもできる。個人が何を優先しているかによるだろう」
 浮気をする人は、家族を失ってもかまわないと、どこかで思っているのだろうか。
 奥村さんにきくと「バレなきゃいい、自分は大丈夫と思っているバカがほとんどだろ」と、返ってきた。
「すべてを捨てていいと思いながらするのは、浮気ではない」
 
 「なるほど」
「とにかく、この話はもう終わりだ」
 私は、何もわかってなかった。教授のそばにいて役に立って、私のことをみてくれるようになったら……
 奥さんがどうなるか、何も考えていなかった。
 精神的に強そうな奥村さんでさえ、離婚については触れられたくない傷のようだ。
 誰かと、付き合ったこともない私は、別れるときにどんな思いをするかなんて、知らない。
「少し先にパーキングエリアがある。少し休憩するか」
 休まないと言っていたのに。
 車内の空気が重いから、ちょうどいい。
 すぐに、ついた。
 数台の車がとまっている。御手洗と自動販売機がある。あとは、ちょっとしたオブジェとベンチがおいてある。
「外に出るぞ」 
 言われて、車から降りた。ベンチの方へ歩く。
 風が強く、少し肌寒かった。自分で腕をさする。
「寒いのか」
 車に戻るのかと思ったら、奥村さんがジャケットを脱いで、私の肩にかけてくれた。
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