感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ7

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 亮は夜になっても起きてこなかった。
 和明もなかなか帰ってこない。
 後になって、亮から美容室に行ったか尋ねられた理由に気づいた。ラブホテルで和明に髪を洗われたから香りが違ったのだろう。
 結局、独りの時間がかなりあったので、Web小説を結構読み進めた。
 読みながら、和明と昼間にしたことを何度も思い出した。
 架空の人物が感じていることが、自分の体で再現されるような、不思議なうずきに何度も首をすくめた。
 和明から求められる。
 それだけで、ひかりの心は満たされる気がした。結婚してからもずっと、ひかりばかりが求めてきた。一歩通行でむなしい日々が終わったものの、和明の変化の理由がはっきりとわからないせいで、不安も残る。
 亮が、連絡をしてきたことがきっかけなのはわかる。しかし、それ以上は考えないようにしていた。知ってはいけない気がするのだ。
 亮は徹夜明けで、寝室に入ってからでも六時間ほどしか経っていない。
 なんとなく不安だからというだけで、起こすわけにはいかない。
 和明に、帰りの時間を確認するのもためらわれる。
 Web小説も最新の更新分まで追いついてしまった。
 今しおりを挟んでいるもの以外に気に入るものがないか探してみようかとスマホの画面をみつめていると、玄関扉の開く音がした。
 玄関まで迎えに出て、和明からコート受け取った。冷たくなっている。
 後について、リビングに戻る。
「喜多川君は?」
「お昼過ぎに寝て、まだ起きていないのだと」
 頷いて「今夜はカレーなんだね」と言った。
「すぐに食べますか?」
 和明が微笑んだ。
「今、外は随分冷え込んでる。カレーなら体の中から温まりそうだ」
 ご飯が炊き上がったばかりなのでよかったとひかりは思う。早速カレーの鍋に火を入れた。鍋を混ぜると食欲をそそる香りがたちのぼる。
 リビングから、話し声が聞こえ始めた。亮が起きてきたらしい。少し顔を合わせづらいが、二人きりよりはましだ。
 カレーをよそい、二人分をまず運ぶ。二人はソファの横で立ち話をしていた。
 亮はすぐひかりに気づき、和明に「手伝ってきます」と言い残してこちらへ来た。
「和明さんに、質問をしてたんじゃないの?」
「いや、たいしたことは話してなかったよ」
 和明が楽しそうだったので、何を話していたのか気になる。話が弾むのは、男同士だからなのか研究者同士だからなのか。  
 どちらにしてもひかり相手に、ああいう顔をしてくれることはない。
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