146 / 157
うつつ7
三
しおりを挟む
食事のあと、和明と亮は書斎へ入っていった。お風呂へはいつ入る予定でいるかもわからない。ひかりは片付けだけを済ませて、リビングのソファに座って待つことにした。
咄嗟に思いついて口にしたことだったが、『天橋立』へ行けるのは嬉しかった。ひかりは、WEB小説を開いて、該当の箇所を読み返すことにした。
さすがに、外でそういうことをしてみたいとは思わない。ただ、和明に求められれば、結局ひかりは従うだろう。
ひかりは、カモメに餌やりをしてみたかった。トンビはいつも来るのだろうか。
行くときは、『股のぞき』ができる服装を選ぼう。スニーカーに合うものにすれば問題なさそうだ。
滅多にないほど、高揚していた。
二人が書斎から出てきた。
「お風呂をためますね」
ひかりが立ち上がる前に、「やるよ」と、言って、亮がバスルームに向かった。
和明は、ひかりの隣に腰掛けた。
「君に、あとで確認したいことがある」
穏やかな口調だった。それでも、どこか逆らえないような響きを含む。
「言い訳を考える時間をあげようか?」
行き先に、天橋立を提案したことについて訊かれるのはわかった。
読んでいる小説に出てきたと答えれば、どんな内容かと質問が続きそうだ。
和明に、知られたくなかった。
「察したようだね。あとから、ゆっくり聞かせてもらう」
さっき、「言い訳」と言われた。和明に何をあやしまれているのかが、ひかりにはわからなかった。
最後にひかりが入浴をすませた。寝室に戻ると、和明はベッドに入ってはいたが、座って読書をしていた。ひかりに気づいて、すぐに栞をはさんだ。
「僕がそちらへ行くよ」
和明はひかりのベッドに移ってきた。先ほどと同じように、ヘッドボードを背もたれにして座った。ひかりも、和明の隣に座った。
「冷えるといけないから、横になろうか」
ひかりは頷いた。
和明が珍しく腕枕をしてくれた。ひかりは戸惑いを覚えていた。
「今日は、本当に驚いた」
ひかりの髪を指先で撫でた。
「突然の提案にもかかわらず、あれだけ的確な場所がでてくるとは全く予想できなかったよ」
本当に日帰りできるとわかって口にしたわけではなかった。
「たまたま、数日前に広告をみかけていただけです。日帰りプランとあったので」
ひかりは、必死でひねり出した理由を話した。
「そんな広告があったのか。他にはどんな場所があった?」
その先を考えていなかった。
「天橋立は有名なので……」
「他は覚えていない」
「はい」
和明は「そうか」と、ため息交じりに呟いた。
「偶然の産物だったというわけだね」
確かに、偶然だった。
「観光には興味がないと踏んでいたのに即答だったからね。日帰りでの旅行を別で計画していたのかと思ったよ」
和明こそ興味がないと知っているから、ひかりは、行きたい先を思い描いたこともなかった。
咄嗟に思いついて口にしたことだったが、『天橋立』へ行けるのは嬉しかった。ひかりは、WEB小説を開いて、該当の箇所を読み返すことにした。
さすがに、外でそういうことをしてみたいとは思わない。ただ、和明に求められれば、結局ひかりは従うだろう。
ひかりは、カモメに餌やりをしてみたかった。トンビはいつも来るのだろうか。
行くときは、『股のぞき』ができる服装を選ぼう。スニーカーに合うものにすれば問題なさそうだ。
滅多にないほど、高揚していた。
二人が書斎から出てきた。
「お風呂をためますね」
ひかりが立ち上がる前に、「やるよ」と、言って、亮がバスルームに向かった。
和明は、ひかりの隣に腰掛けた。
「君に、あとで確認したいことがある」
穏やかな口調だった。それでも、どこか逆らえないような響きを含む。
「言い訳を考える時間をあげようか?」
行き先に、天橋立を提案したことについて訊かれるのはわかった。
読んでいる小説に出てきたと答えれば、どんな内容かと質問が続きそうだ。
和明に、知られたくなかった。
「察したようだね。あとから、ゆっくり聞かせてもらう」
さっき、「言い訳」と言われた。和明に何をあやしまれているのかが、ひかりにはわからなかった。
最後にひかりが入浴をすませた。寝室に戻ると、和明はベッドに入ってはいたが、座って読書をしていた。ひかりに気づいて、すぐに栞をはさんだ。
「僕がそちらへ行くよ」
和明はひかりのベッドに移ってきた。先ほどと同じように、ヘッドボードを背もたれにして座った。ひかりも、和明の隣に座った。
「冷えるといけないから、横になろうか」
ひかりは頷いた。
和明が珍しく腕枕をしてくれた。ひかりは戸惑いを覚えていた。
「今日は、本当に驚いた」
ひかりの髪を指先で撫でた。
「突然の提案にもかかわらず、あれだけ的確な場所がでてくるとは全く予想できなかったよ」
本当に日帰りできるとわかって口にしたわけではなかった。
「たまたま、数日前に広告をみかけていただけです。日帰りプランとあったので」
ひかりは、必死でひねり出した理由を話した。
「そんな広告があったのか。他にはどんな場所があった?」
その先を考えていなかった。
「天橋立は有名なので……」
「他は覚えていない」
「はい」
和明は「そうか」と、ため息交じりに呟いた。
「偶然の産物だったというわけだね」
確かに、偶然だった。
「観光には興味がないと踏んでいたのに即答だったからね。日帰りでの旅行を別で計画していたのかと思ったよ」
和明こそ興味がないと知っているから、ひかりは、行きたい先を思い描いたこともなかった。
0
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる