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うつつ7
八
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それからも、和明の帰宅は遅かった。すでに、日帰り旅行の前日になっていた。
亮も部屋にこもって本を読んでいる時間が長いので、ひかりは以前のようにWEB小説を読んで過ごせた。
コーヒーは結局、飲みたいときに亮が自分でいれている。食事は、気づいて出てくることも、作っておいた物を後で食べることもあった。
ひかりは、亮との同居生活に、以前ほど不安を感じなくなってきた。亮が大学へ出勤するようになれば、さらに自然な距離を保てる気がしていた。生活が安定し、仕事が軌道にのれば、きっと、亮は自分で部屋を借りて出て行くはずだ。
その後、和明が今のように、自分に関心を向けてくれれば……。それに、子供についても前向きに考えてくれているようだ。すべてが良い方向に向かっていると信じたかった。
ひかりが楽しみにしている『教授の実験室』は、ここ数日、更新が止まっていた。作者が忙しいのかもしれない。天橋立へ、また一緒に行く約束をして終わっているので、とくに気になる場面ではない。ただ、今後、主人公と奥村の距離が縮まっていく予感があり、続きが読みたかった。
以前は、それほど気にしていなかったが、最近、幼なじみとの恋愛ものを避けるようになった。和明に言われたことが心のどこかでひっかかっている。亮に真偽を問えば、それだけで関係が崩れる。
亮の、大学との契約や役割についてはまったくわからない。和明は一緒に研究をしていく予定で話をしている。そうなると、同居がなくなってもそれなりに付き合いは続いていくだろう。
今のままの良好な状態を保ちたい。
ひかりは、とにかく明日を楽しむ気でいた。和明の分まで服を用意してあった。
和明は帰宅後、明日は早いからと、最低限の支度だけを済ませすぐ就寝した。ひかりは、楽しみにしすぎていてなかなか寝付けずにいた。暗闇に耳をすますと、静かな和明の寝息が聞こえてくる。
今、0時を少し回ったところだ。
ひかりはホットミルクでも飲むことにした。ベッドから出ると震えるほど寒い。厚手のカーディガンを羽織ってみたが、あまり効果はなかった。寒いのはミルクを温める間だけなので、我慢することにした。
部屋のドアを見ると、隙間からかすかに明かりが漏れていた。リビングに亮がいるのかもしれない。出てみると、部屋が暖められていた。
亮が、ソファに座っている。ひかりに気づいて振り向いた。
「眠れなくて……」
亮は頷くと「俺も」と言って、ひかりにグラスを見せた。
「飲めば寝付けるかと思ってさ」
ひかりには寝付くためにお酒を飲むという発想がなかった。
「私は、ホットミルクでもと思って」
亮が「牛乳で眠くなるの?」と、笑いながら言った。
「多分」
ひかりは、インターネットでそういう記事を読んだことがある気がしていた。ただ、試したことはない。
「ひかりも少し飲めば?」
亮は、ワインを飲んでいた。少し考えて「じゃあ、そうする」と返した。
亮がすぐに、グラスを取ってきてくれた。
ソファに並んで座る。亮が注いでくれる。グラスの三分の一ほどになったとき「このくらいでいい」と、ひかりは声をかけた。
「すっかり、夜型になってさあ。この時間はまだ眠くならない」
最近、亮は部屋にこもっているので、いつ寝ているのか知らなかった。
「結婚して7年だった?」
唐突な質問だった。ひかりは頷いた。
「今まで、二人で出かけなかったの?」
「和明さんが忙しいから」
亮は「そうか」と、呟いたあと、「明日は……もう、今日か。楽しめるといいな」と、言って、ひかりの頭を撫でた。
ひかりは素直に頷いた。亮の優しさは幼い頃から変わらない。やはり、自分たちは“幼なじみ”なのだと、思った。
亮も部屋にこもって本を読んでいる時間が長いので、ひかりは以前のようにWEB小説を読んで過ごせた。
コーヒーは結局、飲みたいときに亮が自分でいれている。食事は、気づいて出てくることも、作っておいた物を後で食べることもあった。
ひかりは、亮との同居生活に、以前ほど不安を感じなくなってきた。亮が大学へ出勤するようになれば、さらに自然な距離を保てる気がしていた。生活が安定し、仕事が軌道にのれば、きっと、亮は自分で部屋を借りて出て行くはずだ。
その後、和明が今のように、自分に関心を向けてくれれば……。それに、子供についても前向きに考えてくれているようだ。すべてが良い方向に向かっていると信じたかった。
ひかりが楽しみにしている『教授の実験室』は、ここ数日、更新が止まっていた。作者が忙しいのかもしれない。天橋立へ、また一緒に行く約束をして終わっているので、とくに気になる場面ではない。ただ、今後、主人公と奥村の距離が縮まっていく予感があり、続きが読みたかった。
以前は、それほど気にしていなかったが、最近、幼なじみとの恋愛ものを避けるようになった。和明に言われたことが心のどこかでひっかかっている。亮に真偽を問えば、それだけで関係が崩れる。
亮の、大学との契約や役割についてはまったくわからない。和明は一緒に研究をしていく予定で話をしている。そうなると、同居がなくなってもそれなりに付き合いは続いていくだろう。
今のままの良好な状態を保ちたい。
ひかりは、とにかく明日を楽しむ気でいた。和明の分まで服を用意してあった。
和明は帰宅後、明日は早いからと、最低限の支度だけを済ませすぐ就寝した。ひかりは、楽しみにしすぎていてなかなか寝付けずにいた。暗闇に耳をすますと、静かな和明の寝息が聞こえてくる。
今、0時を少し回ったところだ。
ひかりはホットミルクでも飲むことにした。ベッドから出ると震えるほど寒い。厚手のカーディガンを羽織ってみたが、あまり効果はなかった。寒いのはミルクを温める間だけなので、我慢することにした。
部屋のドアを見ると、隙間からかすかに明かりが漏れていた。リビングに亮がいるのかもしれない。出てみると、部屋が暖められていた。
亮が、ソファに座っている。ひかりに気づいて振り向いた。
「眠れなくて……」
亮は頷くと「俺も」と言って、ひかりにグラスを見せた。
「飲めば寝付けるかと思ってさ」
ひかりには寝付くためにお酒を飲むという発想がなかった。
「私は、ホットミルクでもと思って」
亮が「牛乳で眠くなるの?」と、笑いながら言った。
「多分」
ひかりは、インターネットでそういう記事を読んだことがある気がしていた。ただ、試したことはない。
「ひかりも少し飲めば?」
亮は、ワインを飲んでいた。少し考えて「じゃあ、そうする」と返した。
亮がすぐに、グラスを取ってきてくれた。
ソファに並んで座る。亮が注いでくれる。グラスの三分の一ほどになったとき「このくらいでいい」と、ひかりは声をかけた。
「すっかり、夜型になってさあ。この時間はまだ眠くならない」
最近、亮は部屋にこもっているので、いつ寝ているのか知らなかった。
「結婚して7年だった?」
唐突な質問だった。ひかりは頷いた。
「今まで、二人で出かけなかったの?」
「和明さんが忙しいから」
亮は「そうか」と、呟いたあと、「明日は……もう、今日か。楽しめるといいな」と、言って、ひかりの頭を撫でた。
ひかりは素直に頷いた。亮の優しさは幼い頃から変わらない。やはり、自分たちは“幼なじみ”なのだと、思った。
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