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うつつ7
九
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当日、朝食をとり七時過ぎには家を出た。
和明に言われ、亮と二人で後部座席に乗ることになった。理由は「運転に集中したいから」だった。
亮はまだ眠たそうにしていた。ひかりは「少し寝たら?」と、声をかけた。
「うーん、そうしようかな」
着くまでに一時間半はかかるはずだ。
しばらく、市街地を走っていた。和明から「やけに、静かだね」と、声をかけられた。
「亮が、眠ったんです」
「喜多川君は、朝が苦手なんだね」
学生時代は、よく早朝から部活の朝練に行っていた。今がたまたま、夜型のせいだろう。
「君は、退屈していないかい?」
まだ退屈するほども時間は経っていない。
「景色を見ておきます」
和明が「高速道路にはいってからは、きっと退屈だよ」と笑った。
外を見ていると、ふと、見覚えがあることに気づいた。和明と、ラブホテルに行った日に通った道だった。急にあの日のことを思い出し、下腹の奥がキュッと疼いた。鏡の前で和明に後ろから挿入された時の感覚が、一瞬だけかすかに戻った気がした。
ひかりは、シートベルトを軽く掴んだ。
「コンビニに寄ろうか?」
和明に話しかけられた。何か飲んで落ち着きたい気分だったので、ありがたい。「お願いします」と、返した。
ウインカーの音が聞こえた。車は、国道沿いのコンビニの駐車場へ入っていく。
「ここをすぎると、しばらくないからね」
車が止まると、亮が「ここは?」と言った。
「高速へ入る前に、コンビニに寄ったんだ。何か欲しいものがあれば、買ってくるよ」
「一緒に行きます」
「眠いのなら待っておいたらいいよ。まだまだ天橋立までは遠い」
亮は車で待つことになった。
ひかりは「飲み物は欲しくない?」と訊ねた。
亮は少し考えて「ミネラルウォーターを」と、言った。
車から降りると、寒さに一瞬身震いが起こった。和明が「寒い?」と訊いてきた。ひかりは「少しだけ」と返す。
並んでコンビニに入る。結婚してからはコンビニに用事がなかったので、久しぶりだと気づく。和明にそのことを話すと、驚いたような表情をした。
「僕は、よく使うよ」
大学の側にあるからだろう。
亮のためのミネラルウォーターと、和明がおすすめだというホットのゆずレモンドリンクを二本買ってコンビニを出た。車に戻りながら、「助手席にするかい?」と訊かれた。
「良いんですか?」
「喜多川君が寝ているなら、君も退屈だろう」
退屈をするほどでもないが、ひかりは和明の隣にいけることが嬉しかった。
車に乗り込むとすぐに、和明は自分の分のペットボトルを取って、袋ごとひかりに渡してきた。後ろにいる亮にミネラルウォーターを渡す。亮は、すっかり目覚めていそうに見えた。ひかりは敢えて、そのことに触れなかった。
走り始めた。すぐに高速道路の入り口があった。ウインカーの音が聞こえてきた。
「直進した場所に何があったか覚えているかい?」
和明が突然質問してきた。ひかりは狼狽えた。
「一応は……」
和明が、クスッと笑った。
左折し、坂を上っていく。高速道路へ入った。
「温かいうちに飲んだ方がいいな」
和明に頼まれて、ペットボトルのキャップを開けた。柑橘系の香りが立ちのぼる。和明に渡してすぐに、自分の分も開けた。
「君は、質問されるのとするのでは、どちらが良い?」
突然訊かれたので、どう答えたら良いのかわからなかった。
「僕は、この質問に対する、君の答えに興味がある」
和明がそう付け加えたので、余計にわからなくなった。
和明に言われ、亮と二人で後部座席に乗ることになった。理由は「運転に集中したいから」だった。
亮はまだ眠たそうにしていた。ひかりは「少し寝たら?」と、声をかけた。
「うーん、そうしようかな」
着くまでに一時間半はかかるはずだ。
しばらく、市街地を走っていた。和明から「やけに、静かだね」と、声をかけられた。
「亮が、眠ったんです」
「喜多川君は、朝が苦手なんだね」
学生時代は、よく早朝から部活の朝練に行っていた。今がたまたま、夜型のせいだろう。
「君は、退屈していないかい?」
まだ退屈するほども時間は経っていない。
「景色を見ておきます」
和明が「高速道路にはいってからは、きっと退屈だよ」と笑った。
外を見ていると、ふと、見覚えがあることに気づいた。和明と、ラブホテルに行った日に通った道だった。急にあの日のことを思い出し、下腹の奥がキュッと疼いた。鏡の前で和明に後ろから挿入された時の感覚が、一瞬だけかすかに戻った気がした。
ひかりは、シートベルトを軽く掴んだ。
「コンビニに寄ろうか?」
和明に話しかけられた。何か飲んで落ち着きたい気分だったので、ありがたい。「お願いします」と、返した。
ウインカーの音が聞こえた。車は、国道沿いのコンビニの駐車場へ入っていく。
「ここをすぎると、しばらくないからね」
車が止まると、亮が「ここは?」と言った。
「高速へ入る前に、コンビニに寄ったんだ。何か欲しいものがあれば、買ってくるよ」
「一緒に行きます」
「眠いのなら待っておいたらいいよ。まだまだ天橋立までは遠い」
亮は車で待つことになった。
ひかりは「飲み物は欲しくない?」と訊ねた。
亮は少し考えて「ミネラルウォーターを」と、言った。
車から降りると、寒さに一瞬身震いが起こった。和明が「寒い?」と訊いてきた。ひかりは「少しだけ」と返す。
並んでコンビニに入る。結婚してからはコンビニに用事がなかったので、久しぶりだと気づく。和明にそのことを話すと、驚いたような表情をした。
「僕は、よく使うよ」
大学の側にあるからだろう。
亮のためのミネラルウォーターと、和明がおすすめだというホットのゆずレモンドリンクを二本買ってコンビニを出た。車に戻りながら、「助手席にするかい?」と訊かれた。
「良いんですか?」
「喜多川君が寝ているなら、君も退屈だろう」
退屈をするほどでもないが、ひかりは和明の隣にいけることが嬉しかった。
車に乗り込むとすぐに、和明は自分の分のペットボトルを取って、袋ごとひかりに渡してきた。後ろにいる亮にミネラルウォーターを渡す。亮は、すっかり目覚めていそうに見えた。ひかりは敢えて、そのことに触れなかった。
走り始めた。すぐに高速道路の入り口があった。ウインカーの音が聞こえてきた。
「直進した場所に何があったか覚えているかい?」
和明が突然質問してきた。ひかりは狼狽えた。
「一応は……」
和明が、クスッと笑った。
左折し、坂を上っていく。高速道路へ入った。
「温かいうちに飲んだ方がいいな」
和明に頼まれて、ペットボトルのキャップを開けた。柑橘系の香りが立ちのぼる。和明に渡してすぐに、自分の分も開けた。
「君は、質問されるのとするのでは、どちらが良い?」
突然訊かれたので、どう答えたら良いのかわからなかった。
「僕は、この質問に対する、君の答えに興味がある」
和明がそう付け加えたので、余計にわからなくなった。
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