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うつつ7
十
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和明への質問は思いつかなかった。ただ、質問されるのは不安だ。亮の前で、どこまでのことを訊いてくるだろうか。
質問をひねり出す方が良いかもしれない。
和明の横顔を見る。
「悩んでいるね」
こちらを向かずに和明はそう言った。
「僕への質問が思いつかないのだろう? それなら、質問されるのを選べば良いのに」
ひかりは、最初から単に質問をしてくれれば良かったのにと思った。そして、気づく。質問はされたのだ。何かを試されたのだろうか。和明が考えていることはわからない。
「和明さんは、私に訊きたいことがあるんですか?」
和明は「あるよ」と、言った。この間のように亮とのことを訊かれるかもしれない。
「何を、警戒されているんだろう?」
和明の口角があがった。
「昼に食べたいものはあるかを訊ねようとしただけなのに」
考えすぎていた。ひかりは俯いた。
「それで、何が食べたいの?」
「おそばを……」と答えた。『教授の実験室』で、出石そばを食べたと書いてあった。
「良い店でもあるのかい?」
とくに説明もなかったから忘れかけていた。どんなものまでかは調べていない。昼食について、亮にリクエストしておくのも忘れていた。
「俺が、調べておきます」
亮が後ろからそう言った。
「起きたんだね」
和明はそう言ったけれど、亮は、ずっと起きて聞いていたはずだ。ひかりが答えられずにいたから、助け船をだしたに違いない。
「まだ、半分ほどしかすぎていない。どこかで一旦止まるから、後ろに行くといい」
「わかりました」
亮がすぐに「このままでいいです」と、言った。
「そば屋なら、天橋立近くに数軒ありますよ」
亮は早速調べて和明に伝えている。
「僕は、どこでも良いから、二人でどの店にするか決めるといい」
和明が食事に興味を持っていないことはわかっていた。ひかりも、そばがどうしても食べたいわけではなかった。軽くしか書かれていなかったので、場所もわからない。そばでなくても良い気はする。
「思いつかずに、そばと言っただけです」
和明は「本当に?」と、言った。
「迷っても……考えもしなかったように、見えたよ」
確かに、すぐに返した気がする。
「決めてたんじゃないのか?」
ひかりはどう返せば納得してもらえるかわからず、黙っていた。
「俺が少し前に、そばが食べたいと言ったからじゃないですか?」
そんな話をした覚えはない。
「帰国してから、まだ、そばは食べられてないんですよ」
亮が、向こうで食べたそばの話をし始めた。
「水が違うからか、出汁もイマイチでした」
和明が「硬水だと、成分の変化があるんだろうか……」と、言った。
それから話題は、アメリカで亮がしていた濾過装置の研究内容にかわった。ひかりにはさっぱりわからない。和明の追求から逃れられたが、疎外感があった。
二人が側にいると、WEB小説も読めない。ひかりは自分が後部座席に一人になれば良かったと思っていた。
ぼんやりと外を眺めていた。高速道路の出口へ続く車線へ入っていく。
「しばらく街を走るが、そう遠くない」
料金所の手前で、和明がそう言った。
質問をひねり出す方が良いかもしれない。
和明の横顔を見る。
「悩んでいるね」
こちらを向かずに和明はそう言った。
「僕への質問が思いつかないのだろう? それなら、質問されるのを選べば良いのに」
ひかりは、最初から単に質問をしてくれれば良かったのにと思った。そして、気づく。質問はされたのだ。何かを試されたのだろうか。和明が考えていることはわからない。
「和明さんは、私に訊きたいことがあるんですか?」
和明は「あるよ」と、言った。この間のように亮とのことを訊かれるかもしれない。
「何を、警戒されているんだろう?」
和明の口角があがった。
「昼に食べたいものはあるかを訊ねようとしただけなのに」
考えすぎていた。ひかりは俯いた。
「それで、何が食べたいの?」
「おそばを……」と答えた。『教授の実験室』で、出石そばを食べたと書いてあった。
「良い店でもあるのかい?」
とくに説明もなかったから忘れかけていた。どんなものまでかは調べていない。昼食について、亮にリクエストしておくのも忘れていた。
「俺が、調べておきます」
亮が後ろからそう言った。
「起きたんだね」
和明はそう言ったけれど、亮は、ずっと起きて聞いていたはずだ。ひかりが答えられずにいたから、助け船をだしたに違いない。
「まだ、半分ほどしかすぎていない。どこかで一旦止まるから、後ろに行くといい」
「わかりました」
亮がすぐに「このままでいいです」と、言った。
「そば屋なら、天橋立近くに数軒ありますよ」
亮は早速調べて和明に伝えている。
「僕は、どこでも良いから、二人でどの店にするか決めるといい」
和明が食事に興味を持っていないことはわかっていた。ひかりも、そばがどうしても食べたいわけではなかった。軽くしか書かれていなかったので、場所もわからない。そばでなくても良い気はする。
「思いつかずに、そばと言っただけです」
和明は「本当に?」と、言った。
「迷っても……考えもしなかったように、見えたよ」
確かに、すぐに返した気がする。
「決めてたんじゃないのか?」
ひかりはどう返せば納得してもらえるかわからず、黙っていた。
「俺が少し前に、そばが食べたいと言ったからじゃないですか?」
そんな話をした覚えはない。
「帰国してから、まだ、そばは食べられてないんですよ」
亮が、向こうで食べたそばの話をし始めた。
「水が違うからか、出汁もイマイチでした」
和明が「硬水だと、成分の変化があるんだろうか……」と、言った。
それから話題は、アメリカで亮がしていた濾過装置の研究内容にかわった。ひかりにはさっぱりわからない。和明の追求から逃れられたが、疎外感があった。
二人が側にいると、WEB小説も読めない。ひかりは自分が後部座席に一人になれば良かったと思っていた。
ぼんやりと外を眺めていた。高速道路の出口へ続く車線へ入っていく。
「しばらく街を走るが、そう遠くない」
料金所の手前で、和明がそう言った。
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