感じさせて……。

紫倉 紫

文字の大きさ
153 / 157
うつつ7

しおりを挟む
 和明への質問は思いつかなかった。ただ、質問されるのは不安だ。亮の前で、どこまでのことを訊いてくるだろうか。
 質問をひねり出す方が良いかもしれない。
 和明の横顔を見る。
「悩んでいるね」
 こちらを向かずに和明はそう言った。
「僕への質問が思いつかないのだろう? それなら、質問されるのを選べば良いのに」
 ひかりは、最初から単に質問をしてくれれば良かったのにと思った。そして、気づく。質問はされたのだ。何かを試されたのだろうか。和明が考えていることはわからない。
「和明さんは、私に訊きたいことがあるんですか?」
 和明は「あるよ」と、言った。この間のように亮とのことを訊かれるかもしれない。
「何を、警戒されているんだろう?」
 和明の口角があがった。
「昼に食べたいものはあるかを訊ねようとしただけなのに」
 考えすぎていた。ひかりは俯いた。
「それで、何が食べたいの?」 
「おそばを……」と答えた。『教授の実験室』で、出石そばを食べたと書いてあった。
「良い店でもあるのかい?」
 とくに説明もなかったから忘れかけていた。どんなものまでかは調べていない。昼食について、亮にリクエストしておくのも忘れていた。
「俺が、調べておきます」
 亮が後ろからそう言った。
「起きたんだね」
 和明はそう言ったけれど、亮は、ずっと起きて聞いていたはずだ。ひかりが答えられずにいたから、助け船をだしたに違いない。
「まだ、半分ほどしかすぎていない。どこかで一旦止まるから、後ろに行くといい」
「わかりました」
 亮がすぐに「このままでいいです」と、言った。
「そば屋なら、天橋立近くに数軒ありますよ」
 亮は早速調べて和明に伝えている。
「僕は、どこでも良いから、二人でどの店にするか決めるといい」
 和明が食事に興味を持っていないことはわかっていた。ひかりも、そばがどうしても食べたいわけではなかった。軽くしか書かれていなかったので、場所もわからない。そばでなくても良い気はする。
「思いつかずに、そばと言っただけです」
 和明は「本当に?」と、言った。
「迷っても……考えもしなかったように、見えたよ」
 確かに、すぐに返した気がする。
「決めてたんじゃないのか?」
 ひかりはどう返せば納得してもらえるかわからず、黙っていた。
「俺が少し前に、そばが食べたいと言ったからじゃないですか?」
 そんな話をした覚えはない。
「帰国してから、まだ、そばは食べられてないんですよ」
 亮が、向こうで食べたそばの話をし始めた。
「水が違うからか、出汁もイマイチでした」
 和明が「硬水だと、成分の変化があるんだろうか……」と、言った。
 それから話題は、アメリカで亮がしていた濾過装置の研究内容にかわった。ひかりにはさっぱりわからない。和明の追求から逃れられたが、疎外感があった。
 二人が側にいると、WEB小説も読めない。ひかりは自分が後部座席に一人になれば良かったと思っていた。
 ぼんやりと外を眺めていた。高速道路の出口へ続く車線へ入っていく。
「しばらく街を走るが、そう遠くない」
 料金所の手前で、和明がそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...