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うつつ7
十一
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車は廻旋橋側にあるお寺に停めることになった。境内を軽く散策した後に、そのまま、天橋立へと向かう。歩いて渡って傘松公園に行く。
天気は良いけれど、風が冷たい。やはり海の側は風が強い。
まだ早い時間なので、すいていた。
亮がいうには、廻旋橋の動く時間は決まっていないらしい。
まずは、歩いて橋を渡る。
『教授の実験室』でもこちら側から渡っていた。ひかりは、不思議な感覚に囚われていた。いつも読んでいるWEB小説の登場人物が歩いた場所にいる。あのシーンの石のベンチは本当にあるのだろうか。本当にあれば、作者もここに来たことがあるのだと思う。
有名な観光地なので、遠方から訪れたのかもしれない。季節は違ったとしてもひかりもこれから作者と同じ景色を見られる。
「ひかり、嬉しそうだな」
亮に声をかけられた。和明はひかり達より少し先を歩いていた。亮に気を遣ってのことだ。
『教授の実験室』の主人公は奥村から手を引かれて歩いていた。亮がいるのに手を繋ぐのは無理だとわかっていたけれど、やはり残念だった。
天橋立に実際に来てみると、両側に松の立ち並ぶ道を、ひたすら歩くことがわかった。所々、松に名前がついていて由来が書いてある。
ひかりは松には興味がなかった。
思っていた以上に距離がある。小説に描かれた石のベンチを探すのは苦労しそうだ。
渡り始めたからには向こう岸に着くまで、歩くしかない。先を歩く和明からだいぶ遅れていた。
「ひかり、大丈夫か?」
「普段、歩かないから」
「少し休むか?」
亮がひかりを心配してくれた。
「今、どのくらい歩いたかな?」
亮に「まだ半分はなってない」と言われて、ひかりはため息をついた。
「流石に、俺に背負われるのは嫌だよな?」
ひかりは遠慮した。歩けないわけではなかった。楽しくないだけだ。
「石のベンチが砂浜の方にあるって何かで見たから、それに着いたら休もうかな」
「砂浜の方な、気をつけとく」
亮にも探してもらえるのは助かるとひかりは思った。歩くだけ歩いて見過ごしたら意味がない。
ひかりは情けなく感じていた。天橋立は大体4キロ弱歩けば向こう岸に行けると書いてあった。半分を過ぎる前に、すでに、歩いて渡ると言ったことを後悔している。半分近くまで来ているなら、引き返すのも渡り切るのも大差ない。進むしかなかった。
亮が「ゆっくり歩いておいて。ベンチ、探してくる」と言って、遊歩道を外れて砂浜の方へ出て行った。
和明は何を考えながら歩いているのだろう。風景を楽しんでいるとは思えなかった。和明は振り返らず先を行く。段々と、距離が開いていた。
松林の間を冷たい海風が通り抜けていく。ひかりは思わず首をすくめた。
亮は、すぐに戻ってきた。
「砂浜に、石のベンチはあったけど、その近くに東屋があった。そっちの方がまだ風を防げるから良さそうだったよ」
考えてみれば、小説内とは季節が違う。
歩いていても寒いのに、石のベンチに座っておくのは難しいかもしれない。
「それじゃあ、石のベンチは見るだけで」
「そこまで、珍しいデザインでもなかったよ」
いつも楽しみにしているWEB小説に出てきたからとは言えない。
「せっかくだから」
ひかりは、見もせずに帰るのは嫌だった。
亮は、首をかしげながらもそれ以上は何も言ってこなかった。
「そうだ、先生の方が先に東屋につくから、そこで待っていてもらうよう言ってくる」
亮は、和明のもとへ走っていく。相変わらず足が速い。すぐに追いついた。
和明が立ち止まり、一瞬、ひかりの方を向いた。そしてすぐにまた歩き始めた。
ひかりは、和明においていかれることに、今更ながらに傷ついて、つい足を止めた。
天気は良いけれど、風が冷たい。やはり海の側は風が強い。
まだ早い時間なので、すいていた。
亮がいうには、廻旋橋の動く時間は決まっていないらしい。
まずは、歩いて橋を渡る。
『教授の実験室』でもこちら側から渡っていた。ひかりは、不思議な感覚に囚われていた。いつも読んでいるWEB小説の登場人物が歩いた場所にいる。あのシーンの石のベンチは本当にあるのだろうか。本当にあれば、作者もここに来たことがあるのだと思う。
有名な観光地なので、遠方から訪れたのかもしれない。季節は違ったとしてもひかりもこれから作者と同じ景色を見られる。
「ひかり、嬉しそうだな」
亮に声をかけられた。和明はひかり達より少し先を歩いていた。亮に気を遣ってのことだ。
『教授の実験室』の主人公は奥村から手を引かれて歩いていた。亮がいるのに手を繋ぐのは無理だとわかっていたけれど、やはり残念だった。
天橋立に実際に来てみると、両側に松の立ち並ぶ道を、ひたすら歩くことがわかった。所々、松に名前がついていて由来が書いてある。
ひかりは松には興味がなかった。
思っていた以上に距離がある。小説に描かれた石のベンチを探すのは苦労しそうだ。
渡り始めたからには向こう岸に着くまで、歩くしかない。先を歩く和明からだいぶ遅れていた。
「ひかり、大丈夫か?」
「普段、歩かないから」
「少し休むか?」
亮がひかりを心配してくれた。
「今、どのくらい歩いたかな?」
亮に「まだ半分はなってない」と言われて、ひかりはため息をついた。
「流石に、俺に背負われるのは嫌だよな?」
ひかりは遠慮した。歩けないわけではなかった。楽しくないだけだ。
「石のベンチが砂浜の方にあるって何かで見たから、それに着いたら休もうかな」
「砂浜の方な、気をつけとく」
亮にも探してもらえるのは助かるとひかりは思った。歩くだけ歩いて見過ごしたら意味がない。
ひかりは情けなく感じていた。天橋立は大体4キロ弱歩けば向こう岸に行けると書いてあった。半分を過ぎる前に、すでに、歩いて渡ると言ったことを後悔している。半分近くまで来ているなら、引き返すのも渡り切るのも大差ない。進むしかなかった。
亮が「ゆっくり歩いておいて。ベンチ、探してくる」と言って、遊歩道を外れて砂浜の方へ出て行った。
和明は何を考えながら歩いているのだろう。風景を楽しんでいるとは思えなかった。和明は振り返らず先を行く。段々と、距離が開いていた。
松林の間を冷たい海風が通り抜けていく。ひかりは思わず首をすくめた。
亮は、すぐに戻ってきた。
「砂浜に、石のベンチはあったけど、その近くに東屋があった。そっちの方がまだ風を防げるから良さそうだったよ」
考えてみれば、小説内とは季節が違う。
歩いていても寒いのに、石のベンチに座っておくのは難しいかもしれない。
「それじゃあ、石のベンチは見るだけで」
「そこまで、珍しいデザインでもなかったよ」
いつも楽しみにしているWEB小説に出てきたからとは言えない。
「せっかくだから」
ひかりは、見もせずに帰るのは嫌だった。
亮は、首をかしげながらもそれ以上は何も言ってこなかった。
「そうだ、先生の方が先に東屋につくから、そこで待っていてもらうよう言ってくる」
亮は、和明のもとへ走っていく。相変わらず足が速い。すぐに追いついた。
和明が立ち止まり、一瞬、ひかりの方を向いた。そしてすぐにまた歩き始めた。
ひかりは、和明においていかれることに、今更ながらに傷ついて、つい足を止めた。
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