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二章

エピローグ

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 赤桐は近くの建物に寄りかかり、自身についての話をした。
 どうやらこうして転生するのは三回目らしい。
 一度目の転生時も、戦闘中に転生してしまったらしく、その戦闘相手と闘って負けて封印されてしまったそうだ。
 二度目の転生では、教訓を生かそうとしたらしいけど、魔王と言う理由で勇者に封印されたらしい。
 命を狙われたとは言え、こいつを殺そうとした俺が言うのもなんだが、
 俺の想像通り、彼は日本人の前世の記憶があるようだ。
 この世界に何百年も前に魔族として転生してしまったらしい。
 当時は獣耳の獣人や、巨人族など、様々な亜人達がいたらしい。
 しかしその亜人達は人間とは認められておらず、この国での平民差別以上に酷い現状だったらしい。
 人権はなく、ほとんどの獣人が奴隷となっていたそうだ。

「俺は・・・その現状をどうにかしたかったんだ。俺の大事な人間は獣人だったからな」

 赤桐は悔しそうにしている。
 失った腕があったら手を握りしめていたことだろう。
 まぁ腕を失ってなかったらこんな話聞くことも無かったんだろうが。
 その魔族を束ねてヒューマンを、人間達と敵対することを選んだそうだ。
 そして国を設立し、そこの王に君臨した。
 自ら魔族の王、魔王と名乗ったそうだ。

「魔王になってからは忙しかった。虐げられている魔族を解放し、人間達も無視することの出来ない魔族国家を作り上げたのだ」

 魔族国家。
 信じられないが、こいつは魔族の現状を覆し国家を建設したらしい。
 どこのラノベの主人公だよ。
 俺がこいつと同じ立場でも、国家を作り出す事は不可能だっただろう。
 いくら力が強かろうとも、慕われるほどの人望が俺にはあるとは思えないしな。

「これでも俺は強かったんだぜ。それこそ勇者くらいしか俺を封印できる奴らはいなかった。ましてや殺せる奴なんて、いないと思っていたんだ」

 封印と言っても、肉体自体は崩壊しているらしい。
 殺していると言っても代わりは無いと思うけど。
 封印が解ける条件は様々あるらしいが、基本的に禁術を行使したときに肉体に魂を介入させることができるそうだ。
 俺はグレシアに目をやる。
 イルミナの足に治療をかけてくれていた。
 もしそのことをグレシアが知っていたら、こいつの魔力を手に入れることが出来たら、花そそのシナリオ通りラスボスになっていたんだろうか。
 まぁグレシアには前世のことと、グレシアがラスボスになる事情を話してる。
 もちろんグレイ達にもな。
 だから俺達が裏切りでもしない限り大丈夫だとは思うけどな。
 こういうことは隠すより話した方が良いと俺は思う。

「そうか?しかしやけにしおらしいな。さっきまで高らかに、自分が初代魔王様だとか言ってたくせによ」

「もうこの世界に魔族は残ってないんだろう?」

「それはわからないぞ。俺達が知らないだけでどこかに身を潜めているかも知れない。なにせこの国が開国したときには、もう魔族なんていなかっただろうからな。少なくとも、このライザー帝国では魔族の話なんて聞いたこと無いだけだ」

 俺達は万能じゃない。
 前世の知識があるとは言え、所詮は俺は魔力が高いだけのガヤだ。
 そんなガヤポジの俺に、大陸中の歴史を覚えろなんて酷の一言に尽きる。
 母国だけで精一杯だ。

「例え生き残っていても、この身体ではどうしようもない。見逃してくれるって言うなら、話は変わってくるが」

 残念だが俺達が見逃したところで、その身体は限界だろう。
 そもそもこいつは胴体の半分を失っているしな。
 まぁ逆に言えばそれでも生きている、こいつが規格外って言うことはよくわかる。

「わかるだろ?お前の身体はいつ死んでもおかしくないんだ」

「冗談だ。同胞がいないんじゃ、俺はこの世に未練なんか残らねぇよ。それに俺は自殺が許されていない。だから強者を相手にしなければ死ぬことが出来ないんだ。まぁそれでも殺してくれるなんて期待はしてなかったけどな」

「お前は死にたかったのか?」

「さぁな。死にたかったのかもしれないけど、そうじゃないかもしれない。死が確定している今となってはわからないさ」

 その顔が答えだと思うけどな。
 清々しいほどいい顔をしてやがる。
 
「そうか。何故、俺達に昔話をした?」

 自嘲気味に苦笑いし、空を見上げて口を開く。
 赤桐の目は、すごく悲しそうに月明かりを反射させている。

「お前達が、昔の俺に似てると思ってな。協力して圧倒的実力差のある日本からの転生者と敵対して気圧されないところがな。まぁ俺は勝利出来なかったわけだが」

「そりゃどうも。でもわからない。それと何が関係あるんだ?」

「俺と、同じ道を歩まないで欲しいと思ってよ」

「同じ道?」

「あぁ、俺は最愛------ぶふぉ・・・」

 どうやら限界みたいだな。
 寧ろよく喋れてたと思うよ。
 生きてるだけでも驚きなのにさ。

「どうやら限界みたいだな」

「あぁ、どうやらそのようだ。時間が無い・・・からな。さっきの続きだ。俺は最愛の人、リサナを手にかけた」

 こいつの愛した女性はリサナって言うのか。
 しかし手にかけたって一体。

「お前は・・・」

「なんとなくだが、命が尽きてるのがわかる。覚えておけ。俺を封印ではなく殺してくれたお前へのせめてもの感謝の気持ちだ」

 その真剣な眼差しは、到底命が尽きようとしてる奴の目じゃない。
 今にも俺を射殺しそうな目だ。

「夜空に浮かぶ月は転生者の数を示している。それは日本か、それとも未来から過去にやり直しに来てるか、はたまたこの世界で死んで再びやり直してるかはわからない」

「あの月は、花そその主人公が世界を何回やり直してるかを示すモノじゃないのか」

「その花そそと言うのは知らないが、恐らくお前がプレイしたゲームで、この世界に似てるモノだったんだろう」

 この世界は確実に「花咲く季節☆愛を君に注ぐ」の世界に似てるどころかそっくりだ。
 けど、花そそは知らないのにどうしてゲームの世界だとわかった?
 小説のタイトルかもしれないし、漫画やアニメかも知れないのに。

「俺はオリンポスの羅針盤という恋愛シュミレーション要素の強いストラテジーゲームの世界だと認識していた。俺と同じ時期に現れた勇者は乙女ゲー風MMORPGの世界だと言っていたよ」

 俺がやっていたのはストラテジーゲームでも、オンラインゲームでもなかった。
 どういうことだ?
 共通点が恋愛系のゲームと言うこと以外、何も無いじゃないか。

「この世界に転生してくる人間は、ゲームの世界に転生したと認識している。そしてそのゲームは似た世界感で登場人物が少し共通してるだけで、ストーリーが全員異なるゲームだ」

 赤桐は更に口から血を吐き出した。
 顔色も中々悪い。

「だから他の転生者とぶつかることもあるだろう」

「つまり何が言いたい」

「大体の人間はシナリオにそった行動を取る。自分が主人公に成り代わろうとするんだ。お前の味方はそこにいる四人や、この世界で味方に付けた人間だ。いつの時代もクズはいるもんだからな」

 何を今更。
 いや、こいつは最愛の人を手にかけたと言っていた。
 何かしらの理由で敵対して、それが誤解か何かだったが後悔したときには遅かったってことか。

「何を考えているかわかるぞ。俺は最愛の人を殺したのは誤解でもなんでもない。の奴らに民衆か彼女か、どちらかを犠牲にする選択肢を突きつけられて、俺は民衆を選んだ。彼女もそれを望んだ。それだけだ」

「それは気の毒だな」

 俺は初めてこいつに同情した。
 自分の愛する人間と民衆を天秤にかけられた。
 俺がもしミラと領民を天秤にかけられた迷わずミラを選ぶ。
 だが、ミラとイルミナ達が天秤にかけられ、ミラがイルミナ達を救うことを望んでいたらどうするかはわからない。
 つまりこいつにとっては民衆が俺で言うイルミナ達みたいなモノだったんだろう。
 その状況で恋人を捨てた。
 そこにどれほどの苦悩があったかわからない。

「後悔しかなかった。無力差に嘆いた。そして俺は魔王として人間を蹂躙することを選び、封印され生き地獄を味わう羽目になった。感謝してる」

「同情はする。だが、俺はミラ達を狙ったことを許したわけじゃない」

「それでいい。信じるべきは大切なモノだ。そのことをよく覚えておけ」

 全部話し終えると、再び吐血する赤桐。
 そこには死を迎えるというのに、満足そうな顔をしている男の顔があった。
 
「取りあえず話すことは・・・話せた」

「介錯してやろうか?」

「いらん。選別だ」

 こいつは手を掲げると、剣が出現しそれを俺に渡してくる。
 魔王が渡す剣にしては、かなり神々しいデザインだ。
 聖剣って言われても納得出来る。

「俺は剣士じゃないんだが」

「そこの聖人か聖女にでも渡すと良い。まだ戦闘経験のない卵だ。気づいてたか?俺はいつでも隙を突いて、そいつらを殺せたんだぞ」

「・・・」

 気づいていないわけじゃないが、守り切れると自負していた。
 実際にこいつの本心がわからないが、こいつは死にたいがために敵対したということは本当だったのかも知れない。
 まぁそれでも許せるかどうかはまた別だが。

「ありがたくお前を倒したドロップ品として受け取っておくよ」

「言い方くらいあるだろう。まぁいい・・」
 
 それを最後に、赤桐の姿は消えさり普通の甲冑を着た騎士になった。
 もちろん息は引き取っているが。

「ねぇ、リアスくん。彼の言ったことって------」

「よくわかんないが、月の数がさっきまでひとつ増えてたのに、また元の9つに戻ってる。こいつが死んだことで減ったんだろうな。だとすればこいつが言ってた月の示すモノのことは恐らく本当だろうな」

 月が示しているのは転生者の数だと言うことはわからないが、事実としてこの短時間で月が増減したんだ。
 それに死に際にそんな嘘をつく理由がわからない。

「リアスくんが見えるって言う複数の月は、転生者にしか見えないのかな?」

「ミラやイルミナ、クレが見えてない以上そう言うことだろうな。あいつは見えていたみたいだし」

 俺は空を見上げる。
 手を伸ばせば掴めそうと思える月が9つ。
 赤桐が死ぬと同時に月が消えたことを考えると、あのうちの一つが俺で元からある月が一つ。
 つまり7人の転生者がこの世界に来てることになる。
 
「転生者が全員友好的なら良いんだけどな」

「お言葉ですがリアス様。彼の言っていたことが本当だとしたら・・・」

「恐らく相容れないだろうな。アルバートみたいな奴が転生者であってみろ?確実に国が駄目な方向に進むぞ?いや、今もダメだけどな」

 第一皇子であるアルバートはただでさえ常識知らずだ。
 それは入学式のあの騒動からもわかる。
 もしあいつが転生者でわざとそれをしていたとしたら、奴が皇太子になったらこの国は終わる。
 いや、そうじゃなくてもあいつが皇太子って・・・どうなんだろうな。

「ちょっと、人の婚約者を悪く言わないでよ」

「じゃあグレシアは、あいつが皇太子に相応しいと思ってるのか?」

「いや、まぁそうじゃないけど」

 グレシア自身、彼に蔑ろにされ始めている。
 そこはシナリオ通りだ。
 違うのは取り巻きがストーリーに絡まないはずの俺達だって事くらいか。

「最悪婚約破棄されたら、オレ達がお前の味方に付いてやるからな!」

「グレイ、勝手に盛り上がってるとこ悪いが俺はグレシアが婚約破棄されたら、喜んでそれに協力してやるからな」

 グレイが信じられない目で俺のことを見る。
 逆になんで味方に付くと思ったんだよ。

「俺はアルバートが皇太子になったら国が終わるって言ってるんだぞ?だったら後ろ盾の公爵家のグレシアを自ら手放すのに、俺が協力しないわけがない」

「だが、グレシアの気持ちはどうなんだよ!」

 グレイよ。
 本当にグレシアの気持ちを考えたら、どう考えてもアルバートの婚約破棄に協力するべきだろう。

「グレシア。婚約破棄を一度でも突きつけられた相手に、それ以降円満な夫婦生活が送れると思うか?」

「それは思わないわね。婚約破棄されたときに、ひとりぼっちになっちゃうなら必死で抵抗するかもしれないけど、あなた達がいる以上別にそれもいいかなって」

「グ、グレシア・・・」

「な?本人もそう言ってるし良いだろ?」

 実際アルバートを政略的な婚約という意味以外で、している意味もないだろう。
 ゾグニも死んだわけだし、なんかこの前リリィとデートに向かってたし。

「まぁグレシアがそう言うなら」

「まぁそうなったらその時考えようぜ。最悪陛下におど------頼み込んで解決してもらおう。この責任は親の責任だ」

「リアスくん、今、脅すって言おうとしたよね?」

「何を言うんだミラ。俺にはそんな酷い真似できないよ!」

「どの口が言うんだか。そうだ、ボクお腹空いちゃった。早くメルセデスの料理が食べたいし帰ろう」

「だな。俺も疲れたし、こういう面倒ごとは陛下に請け負ってもらおう」

「お前ら陛下に対して不敬罪で断罪されても知らねぇぞ」

「愚帝と違ってあの人は聡明な堅帝だから大丈夫だろう。なぁ、ジノア」

 物陰から現れたのはジノアとニコラ。
 索敵魔法に引っかかったから気づいてる。
 こちらをチラチラと伺う影が見えた。
 まぁ聞かれたらまずい話をしているときはいなかった。
 
「さすが気づくか。この現状を作ったのは君?」

 ここら辺一体は、ゾグニの騎士達が暴れて出来た残骸だらけで、街だというのに面影が何一つ残っていなかった。

「いーや、ゾグニのトコロの騎士共だ。俺達はむしろこの状況を解決した言わば立役者だ」

「嘘を吐くな!騎士がこんな現場をつくれるはずがないだろう!」

「あ?」

 ニコラはたしかクレが悪意を感じるとか言っていた相手だ。
 花そそではこんな人に対して強気で言うような奴じゃなかったが、赤桐の言うことが本当ならシナリオに出てくるキャラの性格は参考程度に見ておいた方がいいな。

「ニコラ、話をする気が無いなら帰っていいよ」

「ですがジノア様!こいつは嘘を吐いています」

「二度は言わない。状況証拠だけで、相手の言葉を嘘だと決めつけるなら帰れって言ったんだよ?」

「失礼致しました」

 顔、顔。
 お前が顔がすごい怖いよ。
 お前が慕うグレシアもいるんだぞ?

「グレシアお義姉様、お見苦しいところを」

「私は大丈夫です。それでジノア様はどうしてこちらに?」

 この事態を収拾しに来たというなら遅すぎる。
 別の理由?
 俺達を罪人に陥れようって言うならニコラを叱咤するわけもないだろう。

「君たちに用があってさ。ここで闘ってるってイルシアから聞いたから来たんだよ。おそらく君たちは難なくこなすと思ったからね」

「なるほど。ですが難なく勝利は掴めたわけではありません」

「そうだね。この惨状を見たらまぁ大体想像は付くよ。君たちが苦戦していなかったら、こうはならなかっただろうからね」

 まぁ街の惨状を作り出したときは、勝手にゾグニの側近騎士達が暴れてただけだから、苦戦したからこうなったって訳じゃないんだよな。
 でもそこを説明するのはめんどくさいから何も言わない。
 
「口を挟んで申し訳ないのですが、ジノア様。この現状を作れる人間を相手に、学生程度が対処出来るとは思えません」

 ジノアの目付きが鋭くなったのが、俺でもわかった。
 と言うかニコラはどうしてこんなことを言うんだ?
 そう言えば公爵の地位を承るって言ってたときも、こっちを睨んでたよな。
 何か俺達が報奨を受けるような行為をされると困るって事か?
 
「はぁ・・・もういいかな」

「ジノア様?」

 ジノアの回し蹴りが、ニコラに突き刺さった。
 鮮やかだったが、俺達は何がなんだかわからない。

「ちょっと話をしようよ。余計な奴が起きてくる前にさ。あ、母上には許可を取ってるから」

 俺達に向けられるその笑顔は、ジノアって初めて見せる屈託のない笑顔だった。
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