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三章

外道騎士と愚かなる貴族子息

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 炎を纏わせている剣。
 ここはエンチャントブレードと言っておこう。
 ニコラは俺に振り下ろしてくる。
 
「熱っ!ウォーターカーテン」

 ジュッと水が蒸発する音がするが、付与された魔法が解ける様子はない。
 水と炎の魔法の相対関係は、水に軍配が上がるはずだ。
 にも関わらず炎が勝ると言うことには原因がある。

「その剣には油が付いてやがるな」

「フンッ!!」

 敢えて俺が言葉を発しても微動だにしない。
 まるで関係ないとばかり。
 いや、この血走った目は意識がないのか?

「リアス・フォン・アルゴノートぉぉぉお!」

「お前はそれしかないのか。トルネード、ライトニングスピア!」

 トルネードとライトニングスピアが互いにぶつかり合い混じり合う。
 複合魔法ライジングトルネードだ。

「おいバカ!魔法がぶつかるぞ。ノーコンか!?」

「いいんだよ。ちょっと黙っててくれ。お前はさっき俺が言ったことを見直せ」

 だが、この世界の常識では、魔法と魔法が混じり合うと基本的に相互干渉で相殺されてしまうとされている。
 実際複合させる魔法の魔力量を均等にしなければいけないから、難しい技術であることはわかるよ。

「ライジングトルネード!防げるもんなら不正で見やがれ!」

「魔法が混じり合ってく。どうなってるんだこれ?」

 パルバディは初めて見るからの感想だ。
 この世界の常識からしたらおかしなことだろうし、俺自身複合魔法を使える人間がそうポンポンといるとは思って居ない。
 魔法は一個人で使用できるということをちゃんと理解していてなお、魔力調整が完璧で無ければならないからだ。
 そんな人間いるだろうか?
 答えは否だ。

「それがどうした!はぁぁぁぁぁあ!」

 剣を振り上げたと思うと、炎が空高く巻き上がる。
 付与魔法の可能性を感じるが、まさか------
 
「ライジングトルネードが斬り割かれた・・・」

 ライジングトルネードを炎が真っ二つに斬り割いて霧散する。
 まさか物理的に魔法を無効化されるとは思わなかった。
 変わったのは見た目だけじゃ無いと言うことか。
 しかし魔法の付与を元から覚えていたのか?
 これほど強力な魔法を、魔力が増えただけで使えるとでも?
 一体どんな薬物を注入した?

「次はこちらからだ・・・」

「勝手に主導権を握った気になるなよ?」

 俺がこれだけでめげるわけがない。
 だったら炎と相性の良い魔法を組み合わせるだけだ。

「ウォーターカーテン!サンドパイソン!」

 サンドパイソンは土属性の中級魔法。
 その名前の通り、土で作った蛇を前方に放出する魔法だ。
 そして下級魔法のウォーターカーテンと合わせることで、マッドショットとなる。
 サンドパイソンの周りにウォーターカーテンがまとわりつき、最終的に組み合わさることで泥となる。
 これはライジングトルネードやブレイズタイフーンと言った、風魔法の組み合わせと違って威力がそこまでない。
 代わりに、どんな干渉でも威力が落ちたり直撃を避けたりするのが困難な魔法だ。

「無駄なことを!協力者には複合魔法のことは聞いている!そして、複合魔法の対処方法も指導済みだ!」

 複合魔法の対処方法を知っている?
 俺の知る限り、複合魔法を使える人間なんて------
 しかしあいつの言ったことの通り、マッドショットは奴の付与された炎の魔法により蒸発して砂と化し、本来の攻撃力の落ちたサンドパイソンは軽く斬りつけて塵と化した。

「本当に複合魔法を扱えてるのか。協力者ってのは、複合魔法使いか?それともアルナの付きのメイドや
使用人達か?」

「応える義理は無い!」

「それは道理だな。複合魔法が効かないとなると、やっぱりこれか」

 肉弾戦だ。
 だが薬物を使った本物の騎士に何処まで通じるかだ。
 俺の身体のつくりは所詮素人の鍛え方に過ぎない。
 だから勝てるとは限らない。
 だが、勝算がないわけでもない。

「炎なんて知るか!行くぞゴラァ!」

 協力者がどういった人物像がわからない以上、限界を超える活性魔法:リミットブレイクを使いたい相手だが仕方ない。
 身体強化だけでも十分闘える。

「ぐっ!」

「おらぁ!」

 やっぱりこいつは剣の腕は大したことはない。
 たしかに丈夫だが、騎士の癖にジノアの蹴りを回避出来なかった事を考えてもわかる。
 ジノアは自衛のために、近接戦闘が出来るがそれでも所詮付け焼き刃だ。
 ごろつきに負けない程度で、身体を鍛えてるわけでも無い。
 そんな奴の攻撃を回避出来ないと言うことは、こいつは騎士の中でも落ちこぼれに入る部類だろう。
 なんでそんな野郎が、責任ある騎士の立場になってるかは知らないが、ろくでもない理由に違いない。
 ゲームだとそんなことなかったんだけどな。
 現実俺の拳や蹴りを回避することはない。
 騎士としては落第点だが、薬物の効力のおかげ蚊知らないが全くダメージになってない。
 つまり強敵ではある。

「俺はお前が嫌いじゃ無かったんだぜ」

「なんの話だ!」

「こっちの話だ」

 こいつは花そそで二周目に、グレシアの婚約者になった奴だ。
 ゲームの影響力が何処まであるか知らないし、ゲームでの裏設定があったかは知らないが、グレシアは二周目は婚約者を見つけたあとは登場することは無かった。
 もしかしたらこいつの歪んだ愛に------いや考える必要も無い。
 俺がいなくても決闘には勝利出来るだろう。
 ミラやイルミナが負けるとは思えないしな。

「俺はお前に勝てばいいだけだ。簡単な話!」

「舐めた真似を!」

 剣を振り回すが、剣速は大したことない。
 騎士として大成しないなら別の道に行くって言うのは間違ってないと思う。
 しかし方向を間違えた。

「魔法が効かないだけで大したことが無い」

「だからどうした!貴様の攻撃なんて、痛くも痒くも無い事実は変わらない!」

 たしかに身体強化をしてるにも関わらず、近接攻撃が入ってない。
 胸板が堅いわけじゃ無い。
 寧ろ普通だ。
 だけど、骨が折れた気配も内臓が破裂した気配もない。
 首に回し蹴りをカマしても、吹っ飛んでいくがそれだけだ。
 
「骨が折れるな」

「お前は俺の近接戦闘をしていることで、タダじゃ済んでいない。ははっ、持久戦に持ち込めば俺の勝ちだ」

 こいつの言うとおり、付与魔法が解けないから俺は高温に晒されている。
 肌がヒリヒリしてるから火傷はしてるだろうな。
 今は魔力体じゃないし、クレは決闘の最中だろう。
 パルバディやガーデルの剣が残ってたから、俺が身につけていたモノ以外はきっと会場に残ったまんまだろうからな。

「アルゴノート男爵子息!!」

「ガーデル様!?」

「あ?こんな時に面倒なのがきたな」

 そういやガーデルも俺が落としたな。
 すっかり忘れてた。
 あいつも説得しながら、ニコラと闘うのか?
 負けることは無いけど面倒だ。
 パルバディは、俺の言葉に揺れ動いてるが、こいつには何も説得なんてしてない。

「パルバディ!今のうちにこいつを後ろから狙い撃つぞ!魔法を使え!」

 は!?
 状況がわかってないのかよあいつ!
 ニコラの見た目は肌の色と神の色と目の色が変わってるからわからないかもしれないが、どうみてもパルバディが攻撃をしてない時点で、自分達の味方だとは思えないだろう。
 
「お待ちくださいガーデル様。今、あいつを倒すとニコラが私達を殺しに来ます」

 パルバディは多少なりとも冷静でよかった。
 少なくともここであいつら二人が後ろから魔法を撃ってきたら、俺はすぐさまこいつらを見捨てて離脱する。
 割に合わない闘いなんてしない。

「よそ見をするな!!」

「よそみなんかしてねぇよクソが!ライトニングスピア!」

 ライトニングスピアがニコラの頬を掠り血が飛び散る。
 咄嗟のことで、一度後ろに跳躍し離脱するニコラ。
 このまま攻勢に出たいが、後ろから不穏な声がしたことで足を止めてしまった。

「バカが!ニコラは我々のために、こいつを後ろから攻撃出来る機会を作ってるんだ!無駄にするな!」

「どんだけ頭お花畑なんだよお前!」

「うるさいだまれ!」

「ガーデル様、どうか考え直して下さい。ニコラは私も殺そうとしました。ここはあいつと協力してニコラを倒すべきかと」

 思わず俺は突っ込みを入れたが、やはりパルバディは冷静に述べてくれる。
 納得したかどうかはわからないが、自分を見直す良い機会になったのだろうか?
 それなら叱咤を浴びせたかいがあったが、ガーデルはパルバディの言葉を聞く耳は持つのか?

「呆けたのか!こいつは我々を貶めた奴だ!それに奴には平民の卑しい血が混じっているとも報告がある。ここでこいつを狙わずして、いつ狙うというのだ。平民は野蛮なことも多いから野蛮になるのだ!」

 マジかよ。
 調べれば簡単にわかることではあるが、まさかガーデル、アルバート陣営がそれを把握してるとは思ってなかった。
 いや、グランベルやリリィあたりは把握してる可能性もあるか。

「ガーデル様・・・」

 パルバディは顔をどんどん下に下げていく。
 この情態でも平民だなんだと、プライドを優先して聞く耳を持たない彼と自分を重ねてるのだろうか。
 あいつも、平民を蔑んだことが原因で帝国を一度飢餓で苦しめた。
 恐らくそのときはどうして自分が怒られたか、本当に理解出来なかったのだろう。
 しかし自分の命が危機に晒されたことによって、自分がどれだけのことをしたのかをやっと気づいたとかそういうところか?
 都合の良い話だが、悪い傾向では無い。
 人間は間違える生き物だ。
 おっと、ニコラが攻勢に来るか。

「ははっ!人望が無いな!今のは大きな隙だったというのに!」

「お前程度なら、隙を見せても負けないからな!」

「だが勝てるわけでもあるまい!」

 顔面にアイアンクローを決め、握力で握りつぶそうとしたけどダメだった。
 堅い。
 初めて強化されてると言うことがわかった。
 頭に脂肪や筋肉はほとんどない。
 骨が強化されている。
 それも恐らくアダマンタイトくらいか。
 触ったこと無いけど。

「もういいパルバディ!ファイアーボール!!」

 ファイアーボールしかないのかこいつら?
 だけど、これを喰らえば一瞬だけ隙ができる。
 それでもこいつに致命傷を負わされることは無いが、ニコラと闘える時間は一気に早まるだろう。
 勝機は一応見つけたが、間に合うかどうかはわからない。

「ファイアーボール!!」

「ん?」

「パルバディ、貴様ぁ!!」

 パルバディの声がしたと思ったが、ファイアーボールがどうやら干渉し合って霧散したっぽい。
 シールドを貼ってもよかったんだろうが、間に合わないから魔法を使ったのだろう。
 シールドを展開出来る範囲は、人によって異なるからな。

「どういうつもりだパルバディ?」

「うるさい。今お前に倒れられると、俺達の命が危ういと思ったからだ。さっさとニコラを殺せ」

「殺せとかは物騒だな。背中、任せていいのか?」

「構わない。ガーデル様の魔法の腕は俺と大差ない。負けることは無い、俺が止めておく」

 パルバディは変わったのか?
 変わったと信じたいな。
 こいつのことも一応攻略したんだ。
 パルバディは平民を蔑んでいる。
 俺にその血が入っていようとも、大義名分はあるが協力しようとしている。
 パルバディはシナリオでは、リリィという聖女の影響で平民に関して思い直すシーンはあった。
 だが、それは卒業直前の話だ。
 こんなにも早く心が変わるなんて、現実ではありえない。
 単純に命の危機を感じて、本当に命が危ういから協力してるのかも知れない。
 まぁそれでもいいや。
 ニコラに集中出来れば。

「任せる。ニコラはできる限り殺す気はないけどな」

「そうか。そこはどうでもいい。俺達が命を落とすような事が無ければな」

「パルバディィィイイ!」

 ガーデルが叫き始めたが、俺に何か迫り来ると言うこともない。
 ニコラに集中して大丈夫そうだ。

「ハァァァ!斬鉄剣焔!」

「技名を付けるのは、かっこわるいぞ?魔法じゃ無いんだ」

 斬鉄剣焔とか名前もダサい。
 字にすればかっこいいかもしれない。
 それでももう少し名前をひねれよと思う。
 日本の中学性でももっとマシな名前を考えるぞ。
 そしていくら技名を叫ぼうとも、こいつの剣が俺に当たることは無い。
 俺は指先をニコラの左肩に当てる。
 こいつを殺す気は無い。
 それだけの余裕があるからだ。
 だが、無傷は不可能だ。
 力も強化されてるだろうし、どうしようもない。
 だから------

「ライトニングスピア!」

 ライトニングスピアで肩を抉り、そのまま腕を蹴り飛ばした。

「え?」

 ニコラは恐る恐る左腕を見る。
 そして次には叫び声を上げ始めた。
 
「あ、がぁああああああああああ!」

「叫ぶなよ」

「馬鹿な!何故腕がぁぁ!」

 俺がやったのはこうだ。
 肩の筋肉を切ったあと、辛うじて繋がっていた腕を蹴り斬り落とした。
 切断したのだ。
 無傷で捕らえるのはやめた。
 こいつを捕まえようにも、拘束する自信がない。
 だったらどうするか。
 四肢を切断すればこいつが暴れることも出来なくなるとみた。

「お前はライトニングスピアで、頬に傷が出来る。つまり強化されたのは筋肉ではなく骨だとみた。俺が剣術を嗜んでたらこんなに苦労することも無かったんだけどな」

 肉弾戦をしていたから、こいつは堅かったんだ。
 刃物でもこいつは簡単に切れたはずだ。
 俺の予想通り筋肉には傷を入れることが出来たのだから。
 ライトニングスピアで切断部位の止血は完了している。

「う・・・ぐぅぅぅう」

「降参するならもう一本の腕もなるべく痛くしないように切断してやる」

 切断しないという選択肢は無い。
 この世界の部位損傷は重みが無い。
 治癒魔法で治すことが出来るからな。

「これはあの方には使うなと言われたが・・・仕方ない」

 ニコラは手に何かを持っている。
 それを口に運ぼうとしたから、ライトニングスピアで撃ち落とそうとするが、指が飛ぶだけで飲み込むことを防げなかった。
 気づいたときにはもう、飲み込んでいる。
 次には腕がぶちゅっと再生し、元に戻ってしまった。
 肉体の損傷が治るなんてことあるのか?

「さて、第二ラウンドといこう・・・・Woooooooooo!」

 なんだ?
 声だけで身体が身震いし始める。
 怖い、それだけが頭を埋め尽くそうとしたところで、俺はパルバディ達を見る。
 恐らく闘っていたであろうが、今の咆哮の所為で頭を抱えて涙を流している。
 そこで俺は我に返った。
 気がつけばニコラは目の前に来ていた。

「あぶね!」

「外したか・・・だが俺はお前を殺す!殺してやるぅううう!」

 はは・・さっきとは状況が変わった。
 あの咆哮には幻、幻覚を作る作用があるようだ。
 いくらこいつが落ちこぼれの騎士でも、幻覚が使えれば簡単に俺を殺せてしまう。
 しかもこれは闇魔法ではない。
 厄介だ。
 
「せっかく起死回生の一手を見つけたのまた仕切り直しか」

 今頃ミラ達はどうしてるのだろうか?
 俺はそう思いながら、再びニコラと交わい始めた
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