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三章

リリィvs勇士達

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 俺はリリィのいる場所に降り立つ。
 速度が勝負だ。
 ライジングトルネード二つは確かに直撃したはずなのに、外傷を負ってる

「ナスタ!熱地獄ヘルテンプルは解除して、俺の援護にまわってくれ」

『わかりました!身体強化』

 示し合わせたわけでもなく、俺に対して身体強化をかけるあたりわかってる。
 リリィに近づき近接戦が始まった。
 顔は格闘戦に置いて、相手の攻撃を予測する判断材料の一つだ。
 感情が表にでない人間だとしても、視線や顔色と言った部分も判断材料になることがある。
 しかしリリィは表情を表さないどころか、視線を動かさない。
 視線は俺の方を見ていなく、ずっと下を向いている。
 どうしてそれで闘えると抗議を唱えたい。

『ライジングトルネードを二つ起動出来たと言うことは、リアスは魔法を四つ展開出来ると言うことですか?』

「いや、よくわからないが、お前達の契約紋が光ったと思ったら魔法が起動したんだ。っと!詳しい話は闘いが終わったら話す」

 リリィの攻撃を避けながら会話してたけど、ニコラがいつ上に上がってきて参戦してくるかわからない以上、早々にリリィには退場してもらわないといけない。

『そうですね。今は闘いに集中しましょう』

「リアスくん、魔法行くよ!」

「了解。ブレイズタイフーン」

「韋駄天!!」

 これは赤桐、元魔王を倒したほどの魔法だ。
 あいつが全力を出していたかはわからないけれど、それでも自信を持って放っていた聖魔法の攻撃を弾いた。
 今回相手は魔力体で全力を出しても問題ない相手だ。
 寧ろ殺せば解放出来るのはシンプルでいい。
 クレだってそれで問題ないと言っているなら、本当に問題ないとみてる。
 根拠はそれだけで十分だろ。

「アァアァア!」

『魔力量がどんどん上昇していく!?』

「え?」

 リリィが魔法陣を展開した。
 俺じゃああれが何の魔法かわからない。
 クレを見ると、珍しく焦った顔をしていた。

『あれは・・・そんなまさか・・・』

「おい、クレ!」

『はっ!浮遊魔法で離脱します!噛まないでくださいよ!』

 俺は急上昇その場から離脱した。
 何故?
 韋駄天とブレイズタイフーンが混ざり合い、リリィへと直撃した直後にその答えがわかった。
 その場で大爆発が巻き起こったからだ。
 爆風による風圧がすごくて俺達は吹っ飛ばされていく。

「くっ、うあああ!」

『あれはカウンターボムと言って、相手の魔法をすべて吸収し自分の魔力と合わせて大爆発を起こす魔法です。あれほどの魔力量に貴方達の魔力が加われば、その威力は計り知れない』

 クレの言うとおり威力は計り知れないだろう。
 決闘場で生み出された建物がほとんど半壊している。
 おかげで見通しはいいけどな。
 
『あ、アルバート選手、グレシア選手、グレイ選手、イルミナ選手、グランベル選手脱落ぅ!これは一体どうすれば・・・』

 それどころじゃないのは、シャルル先生にもわかってるだろう。
 それよりミライの名前が出てなかったってことは、ミライは?
 ミライの方を見るとパルバディとガーデルを守っていた。
 しかし魔力体は見るも無惨な姿になっている。
 両腕はなくなり、至る所から魔力が漏れている。
 それほどの規模だったのだ。
 俺とあの二人は生身だから、最悪死んでいた。
 ナイスファインプレーだ。

「リアスくん・・・こっちは任せたよ」

 そういうとミライは霧散した。
 全員地下に転移しただろう。
 ってことは、俺はクレと二人であいつに勝たないといけなくなった。
 もう結構限界来てるんだけどなぁ。
 いや、ポジティブに考えよう。
 下はみんなに任せて、俺はリリィに集中出来ると言うことだ。

『下手に魔法を使うとまたカウンターを使われます』

「わかってる!」

 リリィと向き合うが、リリィが動く様子が無い。
 これはカウンター狙いか?
 或いは何かを警戒している?

『今がチャンスです。攻勢に・・・』

「いや、早計だ。万が一があれば闘技場の外を守る結界が破壊される可能性がある」

『では一体どうしろと!』

「こうすんだよ。頼む、誰か俺に協力してくれ!」

 どのみち決闘場外に攻撃が漏れないように貼られている結界は、ヒビが入っていつ壊れてもおかしくないんだ。
 使い物にならなくなる前にリリィを倒さなければいけない。
 早く倒すためにも、会場にいる奴らに助力を願えればと思ったが、無理か?
 そう思ったが降りてきてくれた人達がいた。
 
「俺達じゃ役に立ちそうもないが、いいか?」

「イルシア先輩!それにバルドフェルド先輩も」

『二人には悪いですが実力不足です。彼らには援護に回っていただくのがよろしいかと。他に強力な魔法の使い手がいればよろしいのですが・・・』

 よく考えてみれば、さっきのカウンター規模の魔法を直接こちらに撃って来ないとも限らない。
 だとすれば強力な魔術師が協力してくれたら助かるが、赤桐の一件や魔物大量発生スタンピードの際にそれと言った人物がいれば、陛下が協力を仰いだはずだ。
 つまりその希望は薄いと見える。

「二人は援護に回って下さい。俺はなんとかあれを倒しますので」

 ナスタはミラと一緒に消えてしまったからそれだけでも助かる。
 魔力体に触れていた場合は一緒に飛ばされるみたいだな。

「あぁわかった」

「悪いな俺達に出来ることが少なくて。公爵という爵位を受けたのに不甲斐ないばかりだ」

「これも公爵の仕事に入るんでしょうかね?」

「もちろんだとも少年」

 少年と言いながらこちらに歩いてくる恰幅の良い男性だ。
 金髪でスポーツ刈りは、前世でのレスラーを彷彿させる。

「え、っとどちら様でしょうか?」

「私の旦那様ですよリアスくん」

 セミール先生が後ろからゆっくり歩いてくる。
 セミール先生の旦那ってことは、グランベルの父親ってことだよな。
 つまり剣聖スカイベル!?

「照れるなセミール。それに俺達はまだ正式には夫婦じゃないだろ?まぁお前の様な若い妻を婚約者に出来て幸せ者だ」

「ふふっ。スカイベルさんはお上手ですね。この子達に比べれば私なんておばさんですよ」

 待て、俺は処理が追いつかない。
 剣聖の嫁は再婚妻なのか?
 それはそうか。
 よく考えてみれば15歳の息子を持つ、28歳の母親なんてあり得ないもんな。

「剣聖様が協力して下さるのは心強い限りです」

「そうだろうそうだろう。なんか息子がやらかしたとか、使用人に言われてきてみればこれだ。第二皇子の悪戯にも困った物だな。ハハハ」

 全くだよ。
 ガランがリリィに薬品を撃ち込まなければ、こんなことにはならなかったのにさ。
 それにしても剣聖様とは、近接戦のプロには申し分のない人間だ。
 あとは強力な魔法の使い手さえいれば・・・

「君ぃ、僕ら教師陣も忘れちゃ困るよぉ」

「決闘どころじゃなあいな」

 リューリカ先生とシャルル先生も降りてきた。
 学園内ではこの人達以上に頼りになる人達もいない。

「リューリカか。久しいな」

「久しぶりだねぇ」

「学生時代はよく剣術と魔術、どちらが上か競いあったなぁ」

「はい、そこ。昔話に花を咲かせない。リアス、一体どういうことか説明してほしいところですが、そうも言ってられないようだ」

「ですね。お二人の魔術師も加わり、個人的には心強い限りですよ」

 近接戦闘のスペシャリスト剣聖スカイベルに、帝国一の魔術学園の魔術講師二人。
 有事の際にこれだけのメンツが揃ってたら、俺達の力のお披露目も無くて済んだんじゃないかと思える。
 まぁ今更それいっても仕方ない。 

『リリィの魔力が膨れ上がってきましたよ!シャルルとリューリカでもリリィにダメージを与えることは出来るでしょう。リアスの体力も考えたら、貴方は防御に専念しなさい』

「リリィの攻撃来ます。俺は防御を専念します。攻撃後皆さんで攻勢を!」

 リリィの魔法陣が六つ展開された。 
 カウンターじゃない、今度は何が来る。
 何でもいいが防がないといけない。

 ≪イグニッション・レイ≫

 俺の頭に響いてくるのはそんな魔法。
 って赤桐が放った奴と同じじゃねぇか!
 そんなの使えたのかよ!

「イグニッション・レイが来ます!」

「なにっ!?」

「イグニッション・レイと言えば、聖女が放つ魔法で最も強いとされる魔法じゃないですか!」

 あ、結構有名な魔法なのね。
 赤桐と闘ってなきゃ、知らなかったよ。
 シールドの魔法で防ごうと思ってたけど、多分砕かれる。
 契約紋から放たれるライジングトルネードにファイアバーストを組み合わせる。
 ミラと一緒に放ったモノより威力は低いだろうけど、それでもやらないよりマシだ。
 ライジングトルネードを前方へと放ち、その魔力に合わせてファイアバーストを・・・

「あれ?ライジングトルネードが放てない!?」

 まずいまずいまずい!
 このままじゃ全員イグニッション・レイにやられておだぶつだ。

『しょうがないですね。旋風風磨!リアス、貴方ならこれに合わせられるでしょう?』

「ッ!助かるクレ!」

 旋風風磨は風神、クレの固有魔法オリジナルと言って良い。
 その火力に合わせるのは骨だが、合わせることが出来ればそれはどんな魔法よりも強力だ。
 俺に出来るか?
 いや、やるしかないよな。
 ライトニングスピアとファイアバーストの合わせた魔法!

「ブレイズサンダー!」

 激しい雷雲が発生し始める。
 それこそイグニッション・レイにも対抗出来る爆雷雲だ。
 イグニッション・レイが発射されるがこっちも爆発が巻き起こった。
 拮抗し合ってるかはわからない。
 でもイグニッション・レイがこちらにまで届いていないなら、或いは------

「やべっ、魔力切れだ・・・」

「おっと」

 イルシア先輩に肩を支えられる。
 これで二回目だ。

「ありがとうございます」

「いや、俺にはこれしかできないからな」

「もう片方は俺が支えてやる」

 バルドフェルド先輩が、右側を支えてくれる。
 意識は飛ばないけど、結構ギリギリだったんだな。

「マナ欠乏症の症状が見えるな。今処置だけしてやる」

「ローウェイ先生」

 ローウェイ先生も決闘場へと降りてきてくれた。
 そして注射器を差すと、魔力が注入されてくる。
 なるほど、マナ欠乏症のときは魔力を注入するといいのか。

「全く、あのバカ皇子はやっぱり問題児だったな。第二皇子も含めてこの責任はどう取るんだろうな」

「同感です。帝国の皇族が情けない」

「俺の昼寝の時間を返せよ全く」

 さすが先生。
 こんな状況でもブレないっすねー。
 周りを見渡すと避難誘導をしているアルナやジノア、ホウエルが見えた。
 ガランの奴何処行ったんだ?

「くっ、俺も休んでる場合じゃ無いな」

『問題ないでしょう。あとは彼らに任せましょう。ご覧なさい』

 爆風が止むと、リリィが片手を前に付きだして無防備で立ち尽くしている。
 どうやらイグニッション・レイを防ぎきったみたいだな。

『貴方の最後の仕事です。全員に指示を』

 言われなくてもそのつもりだよクレ。

「今です!皆さん!」

「言われなくても!」

「わかっていますよ!」

 そこからは早かった。
 スカイベル様とセミール先生がその場から一瞬で爆ぜる。
 まるで光のような動きだった。
 いや、ホントあんた達有事の際は顔出せよな。

「はぁぁぁあ!」

「全く合わせる実にもなってほしいです!」

 スカイベル様がリリィの左腕を斬りおとし、魔力が一気にあふれ出す。
 しかしそのまま右腕に持っている剣を彼に突き刺そうとしている。
 そこをセミール先生が剣を弾き飛ばして、右腕を切り落とす。
 しかし魔力体でも再生機能は残ってるらしく左腕が即座に再生してしまった。
 そこを更にスカイベル様が斬り落とし、右腕はセミール先生が再び切り落とした。
 それを繰り返し行うことで、腕がない時間のが長くなる。
 その隙を見逃さないのが、この学園の副学園長シャルル・アルスナーだ。

「ライトニングスピアだ。ネバー頼むぞ」

『任せるっちゃ!』

 ライトニングスピアがかなり凝縮されていく。
 普通のライトニングスピアよりも細く鋭くなった。

「まるで協力し合っているみたいな動きだな」

『えぇ、正解ですよ。魔力量はどうやら彼が、シャルルが調整を行っているようです』

 マジかよ。
 この学園の教師も捨てたもんじゃ無いな。
 自分で魔法を発動しないにしても、精霊のサポートをできるなんて。
 発射されるライトニングスピアは、リリィの頭を貫くがそれでも落とすことは出来ない。
 しかし臆することなく、次のライトニングスピアを両手で発射した。
 そのライトニングスピアは両目を穿つ。
 
「アァァアアァア!」

「どうやら粘膜部分は弱いみたいだな」

「やっぱりねぇ。生徒にこの魔法を使うのは少々忍びないけどぉ、どうせ魔力体だしいいよねぇ」

 何する気だ?
 リューリカ先生は、この学園で唯一自分で魔法を使うことの出来る教師だ。
 だとすれば、自分で新しい魔法を作ったりとかも出来るはずだ。
 
「二人とも巻き込まれたくなかったら離れてねぇ」

「え?」

「おい、リューリカてめぇ!セミール離脱しろ!」

「わかったわ」

 一体どんな魔法を使う気なんだ?
 気がつくと、リリィの身体がなんか膨らんできたぞ。
 次の瞬間リリィが爆発したと思ったら、大爆発を起こした。
 
『これは・・・すごいですね』

「いやいやいやいや!何だよ今の!?」

 リューリカ先生はその場に倒れ込んだ。
 呆れ顔をしながらローウェイ先生がリューリカ先生に近づいていき、注射器をぶっさした。
 マナ欠乏症を起こすほどの魔法・・・

「あれはねぇ、体内のおならやげっぷを急激に膨張させて、対象の周りを真空空間を作り出すとたまに起こる現象なんだぁ。成功してよかったぁ」

 うん、言ってる意味がわからない。
 そんな魔法、どういう思考すれば思いつくんだ?
 そういえば前世で仕事の資料を探してたときに、宇宙空間でげっぷやおならをすると引火して大爆発を起こす恐れがあるとか聞いたことがあるな。
 まさかそれをやってのけたのか?
 この人転生者じゃないだろうな?

「いやー真空空間を作る魔法の実験してるときに、げっぷしたら大爆発起こして大怪我したのが役に経ったぁ」

 うん、偶然の賜物か。
 いやそれはそれで、末恐ろしくはあるが。

『彼、マッドサイエンティストですね』

「言い得て妙だな」

 まさにリューリカ先生に相応しい。
 さすがにこれで落ちただろう。
 シャルル先生がこっちに近づいてくる。

「どうやらリリィさんの魔力体は破壊された様ですね」

「本当ですか!?」

 シャルル先生が専用の機材を俺に見せてくる。
 魔力体が破壊されたかどうかを確認する機械みたいだ。
 そこには決闘参加者の名前とその横にLOSTってマークが書いてあった。
 なるほど、魔力体を失うとLOSTになるってわけか。
 ってことはひとまず一段落か。

「いや、まだだった!下にはニコラがいるんだ」

「少年は休んどけ。そこの宰相の倅とだらしない乳兄弟の横で一緒に伸びてな」

 スカイベル様の指さす方を見ると、パルバディと気絶してるであろうガーデルがいた。
 パルバディは不機嫌そうにしている。
 ガーデルは格好が酷いな。

『彼の言葉を聞きましょう。今の貴方は無理をすれば寿命を縮めてしまいますよ』

「ふぅ、それじゃあお言葉に甘えて休ませてもらいます」

「ガキは大人を頼ってればいいんだ。悪いな、俺達が不甲斐ないばかりに」

「そうですね。貴方はたまには家に帰ってきてください。グランベルくんだって寂しそうにしてるんですからね」

「あぁわかってる。行くぞ。動けるのは俺達だけだ。それに騎士の始末は騎士がしねぇとな」

「私は騎士ではないのですが・・・」

 そう言うと二人は俺が開けた穴に飛び込んでいった。
 ていうか、リリィが魔力体を失ったから元に戻るなんて保証もないしな。
 それも踏まえて二人が降りてった事には助かる。

「ジノアがこの騒動を引き起こした犯人ガランをほっといて避難誘導をするとも思えないし、ガランはどこかに消えたんだろうな」

『でしょうね。今は決闘場が半壊したことで探知の魔法が使えますけど、これだけ人数が多いと、ガランがどれかを把握するのは難しいです』

「くそっ、あいつ次に見つけたらタダじゃ済まさねぇ」

 この怒りは、不甲斐なく落とされた俺の八つ当たりでもあるが、そんなことは絶対に言わない。
 言わなければ八つ当たりじゃ無い。
 だから言わないったら言わない。
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