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五章
決算と敵の正体
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俺達は捕虜を抱えて、ミラ達のいるデスティニータワーに来ている。
どうやら全員が勝利したみたいだ。
ここに着いた後、アルナとジノアは領民達を避難所から解放するためにアルゴノート邸へと向かってくれた。
それにしても今回のMVPはアルナだよな。
なにせ、あの薬品の解毒剤と思われる物を手に入れたんだからよ。
けどこの戦いでの捕虜にできたのは、俺が相対したアルテリシアとグレイ達が相対したフィニアとかいう少女だけってマジか?
しかもむっさんに至っては短剣を右胸に刺される重傷だ。
「すまないなリアス」
「ごめん、ボクの判断ミスだ。相手の評価を見誤った。まさかSランクの魔物を闘えるほどの人間だとは思ってもみなかった・・・」
「いや、ミライの所為じゃない。某がミライの評価に見合った動きを出来なかったんだ。ツリムの言うとおり、初手の一撃を受けるのは止そう。某の油断がこの事態を招いたのだ」
なんでもむっさんにここまで深手を負わせた奴の能力は、振れた物を振れた場所に貼り付ける能力らしい。
戦闘経緯を聞いたが、それだけで能力を判別するむっさんも結構イカれてると思うんだが。
「ごめんなさいね。聖女なのに何も手伝えなくて」
「いいよいいよ。あんたが聖女ってことを隠してる気持ちもわかるし、これからも隠した方が良いと思う。でもわたしの補助を手伝ってくれたら嬉しいな。あ、グレイは結構です」
「なんでだよ!」
グレイの扱いはここでも雑なんだな。
「それにしても不思議だよな。精霊共鳴している状態ならまだしも、生身で汗一つかかず聖魔法が使えるなんて。聖獣と契約しただけで聖魔法に必要な魔力が大幅に減少するなんてさ」
俺とミラとクレは一応聖魔法は使える。
でもそれは、膨大な魔力で無理矢理発動しているに過ぎない。
だから俺達はこんな平然と聖魔法を行使出来ない。
『聖獣は魔物の亜種進化だと思って居たのですがね』
「個人的にはどっちだっていいさ。なんで聖獣契約者は聖魔法に対して恩恵がつくのかそれを知りたいんだ。クロ、メシアわかる?」
「ふぁあああ、わかんないー」
「おいらも同じくす」
だよな。
人間目線で考えれば、どうして魔力を人間が持ってるの?とか聞かれてるようなもんだからな。
そうだからとしか言えないわけだ。
「てぃっくんは・・・」
てぃっくんの奴、俺に対しては結構当たりが強い。
初対面から噛みついてきたりしてるわけだしな。
それこそ血が出るまで・・・
俺が何をしたって言うんだよ。
「話すことはない。貴様は何故生物に血が流れているかを説明出来るのか?」
いやできないけどさ!
できないけど、どうしてそんなに棘があるんだよ!
リリィへの態度が悪いのか!?
なんだかんだ言いながらアルゴノート領に連れてきてやっただろうに。
「てぃっくんはどうして、リアスに対していつもそんな態度なんだ?」
「こいつの所為でリリィ様が被害を被らない様にしなければいけないからに決まってる!ふがっ!」
「いってぇ!」
俺の右手に全力で噛みついてくるてぃっくん。
リリィを守っているって認識でいいのか?
なのに俺にだけこの態度って、まるで俺がリリィになにかするみたいな言い方じゃないかよ。
「モブ1にすらなれないガヤの俺は、リリィの前世の記憶にあるゲームの本編でも登場してないんだぞ。どうすれば被害を出すと思えるんだよ」
「ふがっ、ふがっ(言い訳するな)!!」
「いってぇちくしょう!」
「ねぇねぇてぃっくん。それだけじゃ単純に貴方がリアスくんの事が嫌いなようにしか見えないよ?」
「いっつつ・・・そうだそうだ!」
「ふがっ!黙れ!貴様から漂う負のオーラが、あまりにも強いからだバカモノ!」
「負のオーラ?俺から負のオーラを感じるのか?」
「そうだと言っている!」
「それはおいらも感じるー」
「あたしもー」
クロとメシアまで?
そうなると、こいつが言っていることは単に俺が嫌いだからと片付けられる範囲じゃなくなるな。
クロとメシアの俺の評価はそこまで悪くないはずだし。
「どういうことだ?」
「どうしたもこうしたもない。事実を述べただけだ」
「それじゃあわかんねぇよ!」
「話す必要も感じないからな!」
なんだよそれ。
俺はリリィに目をやる。
説明させろと言う意味で視線を向けたわけだが、ちゃんと伝わったようだ。
「ねぇてぃっくん。わたしもその負のオーラについて知りたいから、知ってることがあったらリアスに教えてやってよ」
「リリィ様がそう言うならば。喜べ。リリィ様の恩情により、貴様にそのオーラについての我の仮説を説明してやろう」
「あー、はいはい。よろしく頼むよ」
「はんっ!貴様から感じられる負のオーラだが、それは恐らくとてつもない恨みを誰かか受けたのだろう。それは大凡人が受ける様な物ではない」
「そんなこと言われても、人から恨みを持たれる様な事俺してないぞ?」
いや待てよ?
ガランとかには恨まれていてもおかしくはないか?
でも今まで会っていたガランはすべてセバスだっただろうから面識はないし、ないか。
『<狂戦士の襟巻き>の影響では?』
「あぁ、たしかにあれは恨みの塊みたいなトコロあるよな」
呪いのアイテムと言っても過言じゃない。
なにせ、持ち主の殺人の記憶が刻まれているしな。
前世では役にたってくれたけど、今生では跳んだじゃじゃ馬だ。
「違うな。たしかにあの薄汚い襟巻きを着けたときも似たような負のオーラを放っていたが、それは他者が他者に向ける物だった。だが、貴様から感じられるのは魂に刻まれたような感じがする。そしてその牙は貴様の周りにも向けてきそうな、そのような感じだ」
「魂に刻まれる?そんな難しい表現しやがって、もっとわかりやすく言えよ」
漠然と魂に刻まれるって言われてもわからない。
そんな漫画やアニメじゃないんだからさ、難しく表現しないで欲しい。
「恐らく前世から何か強い恨みを抱く人物がいたのじゃないか?貴様もリリィ様と同じ世界から転生してきたのだろう?」
「そりゃそうだが・・・」
「だったらリリィからもそういうの感じねぇの?」
グレイはここで空気の読めない発言をする。
俺とリリィはそもそも死因が違う。
リリィは病死だが、俺は殺害された。
もし強い恨みを抱いていたと言うなら、間違いなく父親の怨念だろうが、あいつは時代錯誤のクソ親父なだけだ。
いくらなんでも殺意を持って俺を殺したとは・・・いやわかんないな。
そもそも警棒で息子の頭部殴るようなクソ野郎だしな。
寧ろ殺意があった方がまだまともに見える。
「しないな。リリィ様は愛されていたのだろう。慈愛のオーラを感じる」
「慈愛・・・あー、たしかに俺の前世は慈愛とはほど遠いな」
今生のが前世よりも友人が多い。
と言うか親しい間柄なんて、それこそ数えるほどしかないな。
「だけど牙を剥くって、前世の人間が俺にどうこうできるわけないだろうよ。まさか呪い殺すとでもいうのか?」
「何故なにもできないと言える?」
「なんでって、いくらなんでも次元を超えて・・・」
「どうして、その恨みを持っている人間が、この世界に転生してきていないと言えるんだ?」
「・・・え?」
たしかに前世で恨みを持っている人間がこの世界で転生してきていないと、確実に言えることはない。
けど、それってどんな確率だよ。
俺は上を見上げた。
もう夜だ。
月は九つある。
つまり俺とリリィの他に、あと七人の転生者がいるってことだ。
その中に前世から俺を恨んでいる人間がいないなんて、どうしてそんなこと言えたのだろうか?
「発言よろしいでしょうか?」
「・・なんだイルミナ?」
「いくらリアス様に恨みを持っている人間が居たとしても、リアス様を前世のリアス様と認識して未だに恨んでいるとは、とても思えないのですが・・・」
たしかにイルミナの言うとおりだ。
前世の俺とリアスは容姿が全く違う。
前世の俺は日本人だが、リアスの顔は間違いなくアジア人顔ではない。
黒髪ではあるが、西洋人のそれだ。
「それは私も思ったよ。けれどそこの少年と少女から、貴様から感じる負のオーラをうっすらと感じるのだ」
「なん・・・だって?」
そこまで言われれば、てぃっくんが畏れている事がわかる。
仮に俺の前世がわかっていなかったとしても------
「ここまで言われたら馬鹿でもわかるだろう。相手が前世の貴様を知っていようといなかろうと、何らかの形でそれが知れ渡れば、前世から次元を超えてまで呪った負の怨念が実際に貴様に向けられてもおかしくはないのだ」
「あぁ・・・」
「待って・・・ヒャルハッハ王国のレアンドロはどうやってかは知らないけど、転生者を認識出来るのよ?もし彼らの関係者がレアンドロだったら・・・」
そう言えばリリィが前にもそんなこと言ってたな。
レアンドロが転生者と認識出来る理由はわからないが、転生者とリリィを認識したのは恐らく転生特典による物だろう。
もしそれが、前世の人間の名前を映し出すとかだったら・・・
「そこは心配無いと思う。ボクは細君支柱で敵の一人に、脳の電子信号に少し介入したんだけど------」
「待てミラ!それはできるだけ辞めろって言っただろ!」
『そうですよ!それは自分の脳の電子信号と相手の脳の電子信号を融合する形になるのです。介入した人間を肉体が入れ替わる可能性もあるのです!いえ、最悪は人格のみがミライに移り、ミライの人格自体が消えてしまう可能性もあるのですよ』
ミラが試したのは、俺だったからもう一度入れ替える方法を考えられる時間は作れる。
けれど、相手が敵なら話は違う。
「ごめんなさい・・・頭に血が上っていて・・・」
「絶対やめてくれ。ミラを失いたくはない」
「ありがとう・・・」
俺とミラが良い雰囲気を作ったところで、グレシアが咳払いをしてその空気を消し去ってくれる。
さすがにこの場で、甘い雰囲気を作るのは危機感が足りてないな。
「悪い。そのことは一旦置いとこう。脳に介入したってことは・・・」
「うん!彼らの主と言われている人間は、70いってそうなおじいさんだったよ」
「レアンドロはわたし達と同い年。さすがにおじいさんって容姿でもなかったわ」
「って事は少なくとも直接な関わりはレアンドロとは無いんだな・・・ひとまずは安心か」
だがそいつと繋がりがないとは断言出来ない以上、警戒を緩めることは出来ない。
けれど敵についての情報が少なすぎる。
まぁ、こいつらがセバスがリリィに使った薬品と同一の物を持っていた以上、セバスの関係者ってことはわかってる。
あとは捕虜からどうにか情報を引き出せれば良いんだがな。
そう思って居たが、ミラの続いた一言で捕虜から聞くまでも無く敵の正体がわかってしまう。
「そのおじいさんの名前はゼクシュミーって呼ばれてたよ」
「ゼクシュミー!?」
「嘘でしょ・・・ゼクシュミーって・・・」
ゼクシュミーと言う言葉に反応したのは俺とリリィの二人だけだ。
俺とリリィのみで共通する人物はこの世界にはいないと思ってる。
だとすれば前世での知識。
俺とリリィはゲーム内容は違えど、登場人物は同じのゲームをプレイしている。
だからゼクシュミーもそのゲームに出てきたキャラなんだろう。
花咲く季節☆君に愛を注ぐで登場した人物のゼクシュミーは、二周目の最終イベントに登場したキャラの一人だ。
ゼクシュミーは教国の基礎を作ったとされる人間だが、ある過ちを犯したことで千年以上も前に地下へと封印されたのだ。
それを教皇が引き剥がし、蘇らせた。
理由は教皇の思惑が次々と失敗に終わったからにあるが、それは二周目に入ったときの最終イベントで起こるはずだ。
二周目で教皇はライザー帝国の聖女である主人公のリリィを手に入れるために暗躍するが、どれも攻略キャラの活躍により失敗に終わる。
教国の威信まで揺らぎそうになってしまい、仕方なく封印を解くと言う愚行に走ったのだ。
封印を解いた教皇は、そのままゼクシュミーに頭を潰され殺される。
そしてそのままゼクシュミーは自身の得意とする魅了の魔法によって、たちまち教国を掌握しリリィを不当に囲うという大義の下にライザー帝国に宣戦布告する。
最終イベントは、他の勢力もあるから直接対決というわけでもないが、それでもゼクシュミーと主人公は一騎打ちになり、バトルパートへと移行する。
でもゼクシュミー自体はそこまで強くはないんだよな。
「リリィもゼクシュミーを知ってるのか」
「わたしもってことは、リアスもなのね。えぇ。彼は中盤に出てくる教国の人間で、彼のイベントがあったおかげで、聖女の精神を壊す背景を知ることが出来たわ」
「俺がプレイしたゲームでも、似たような感じだな。詳しくは描かれてなかったが、今の教国の権力をここまでのし上げたのは、ゼクシュミーに間違いは無い」
寧ろ奴が封印されていなければ、教国以外の国が存在していなかったまである。
それほどの能力を持っている人間なんだ。
もしそんなのに転生した人間がいればこの上なく厄介だ。
それが俺を狙ってるとか、最悪じゃねぇかよ。
「ゼクシュミーってわたしは聞いたこと無いわよ!?」
「オレもねぇな」
「リリィとリアスの話を察するに、歴史から消されたんだろ?」
「えぇそうよグランベルはさすがね。ゼクシュミーは教国の権力を世界に広げようとした人物の一人で、彼一人でSランクの魔物のドラゴンを倒しているシーンがあったわ」
「そこは俺の知ってるゼクシュミーとは違うな。ゼクシュミーは魅了の魔法で人々を掌握してたけど、あいつ自体はそこまで強くはなかった」
「貴方がプレイしていたのはアクションバトルゲームでしょ。しかもRPG型の。レベル差があったんじゃないの?」
そうか。
終盤で出てきたから、それなりにレベルも上がってステータスは高かった。
装備自体は<狂戦士の襟巻き>しかしてなかったからあれだが、それでもレベルのステータスは大いに反映していた可能性がある。
「まぁリアスのしていたゲームとわたしがしていたゲームはほとんど別物だから、そこら辺の差異があっても不思議じゃないけれどね。わたしの知るゼクシュミーは魅了なんて使ってなかったし」
「いや脅威だった部分はどちらも持っていると考えて良いだろう」
「そうね。てぃっくんの言うことがたしかなら、リアスを狙っていることはたしかなのでしょうけど・・・」
「そうです。リリィ様は、彼に近づいてはなりません」
「いや、寧ろ逆だ。リリィは俺達と行動を共にした方が良い」
ゼクシュミーが俺を狙っていようといまいと、ゼクシュミーが脅威に違いない。
ましてや魅了を使えるような人間だ。
「俺の知ってるゼクシュミーの狙いはリリィ、強いてはこの国の聖女だ」
「だからって、貴様といる必要はないだろう!」
「俺の領地では魅了の魔法や、洗脳魔法は無効化出来る魔道具を作ってる。まだ未完成だがな」
それに脅威はゼクシュミーだけじゃない。
この世界に転生している九人のうちの七人が俺達に牙を向けないとも限らない。
それこそ今みたいに殺し合いになる可能性だってあるんだ。
できるだけ情報は共有して近くにいた方が良いだろう。
「そうね。わたしもリアスやミライ、イルミナにSランクの魔物達がいる方が安心できるわ。てぃっくんやグランベルを危険な目に遭わせたくはないモノ」
「某達も助力しよう。それに奴にはリベンジをしなければならないしな」
「むっさんはもっと命を大切にしろよ?」
「わかっている。リリィのおかげで負傷も完全に治った!なんなら今からでも模擬戦をするか?」
「病み上がりとは闘えねぇよ。夏季休暇中だけど、やることも山積みだ。アルナが敵から手に入れたこの薬の解析もしないといけないしな」
だけど俺には薬品の知識がないんだよな。
でもこの解毒薬を解析しないと、セバス達の薬品の脅威を受けたときに困る。
避けては通れない道だ。
「リアスくん、ボクを見ても薬品の知識なんてあるわけないのわかるでしょ?」
「だからってわたしを見ないでください。貴族でもないのに、専門の学園にも通ってないわたしにはそんな知識ありませんよ」
グレイとグレシアにも視線を向けるが、同様に首を横に振った。
そもそもこの世界は魔法がある所為で、こういった薬品は軽視されがちだ。
『そういうことなら、薬品とまではいきませんが、解析と薬草に強い知人を知っていますよ』
「マジかクレ!さすが俺の相棒だ」
『ですが、ここから南の国のバグバッド共和国まで行かないといけませんが』
バグバッド共和国は、ライザー帝国から荒野と砂漠を挟んで少し南に離れた地域にある国だ。
馬車でも一週間はかかる距離だぞ。
浮遊魔法を使えばそれなりに早く着くだろうけど。
「まぁ夏季休暇はまだ半分残ってるからいけなくもないか。それで、お前の知り合いって一体どんな奴なんだ?」
『土神ですよ』
クレの言葉に俺は頭を手にやるしか無かった。
そうだったな、こいつは神話級の精霊だったな。
知人って言ったら同じ神話級の精霊になるよなぁ。
どうやら全員が勝利したみたいだ。
ここに着いた後、アルナとジノアは領民達を避難所から解放するためにアルゴノート邸へと向かってくれた。
それにしても今回のMVPはアルナだよな。
なにせ、あの薬品の解毒剤と思われる物を手に入れたんだからよ。
けどこの戦いでの捕虜にできたのは、俺が相対したアルテリシアとグレイ達が相対したフィニアとかいう少女だけってマジか?
しかもむっさんに至っては短剣を右胸に刺される重傷だ。
「すまないなリアス」
「ごめん、ボクの判断ミスだ。相手の評価を見誤った。まさかSランクの魔物を闘えるほどの人間だとは思ってもみなかった・・・」
「いや、ミライの所為じゃない。某がミライの評価に見合った動きを出来なかったんだ。ツリムの言うとおり、初手の一撃を受けるのは止そう。某の油断がこの事態を招いたのだ」
なんでもむっさんにここまで深手を負わせた奴の能力は、振れた物を振れた場所に貼り付ける能力らしい。
戦闘経緯を聞いたが、それだけで能力を判別するむっさんも結構イカれてると思うんだが。
「ごめんなさいね。聖女なのに何も手伝えなくて」
「いいよいいよ。あんたが聖女ってことを隠してる気持ちもわかるし、これからも隠した方が良いと思う。でもわたしの補助を手伝ってくれたら嬉しいな。あ、グレイは結構です」
「なんでだよ!」
グレイの扱いはここでも雑なんだな。
「それにしても不思議だよな。精霊共鳴している状態ならまだしも、生身で汗一つかかず聖魔法が使えるなんて。聖獣と契約しただけで聖魔法に必要な魔力が大幅に減少するなんてさ」
俺とミラとクレは一応聖魔法は使える。
でもそれは、膨大な魔力で無理矢理発動しているに過ぎない。
だから俺達はこんな平然と聖魔法を行使出来ない。
『聖獣は魔物の亜種進化だと思って居たのですがね』
「個人的にはどっちだっていいさ。なんで聖獣契約者は聖魔法に対して恩恵がつくのかそれを知りたいんだ。クロ、メシアわかる?」
「ふぁあああ、わかんないー」
「おいらも同じくす」
だよな。
人間目線で考えれば、どうして魔力を人間が持ってるの?とか聞かれてるようなもんだからな。
そうだからとしか言えないわけだ。
「てぃっくんは・・・」
てぃっくんの奴、俺に対しては結構当たりが強い。
初対面から噛みついてきたりしてるわけだしな。
それこそ血が出るまで・・・
俺が何をしたって言うんだよ。
「話すことはない。貴様は何故生物に血が流れているかを説明出来るのか?」
いやできないけどさ!
できないけど、どうしてそんなに棘があるんだよ!
リリィへの態度が悪いのか!?
なんだかんだ言いながらアルゴノート領に連れてきてやっただろうに。
「てぃっくんはどうして、リアスに対していつもそんな態度なんだ?」
「こいつの所為でリリィ様が被害を被らない様にしなければいけないからに決まってる!ふがっ!」
「いってぇ!」
俺の右手に全力で噛みついてくるてぃっくん。
リリィを守っているって認識でいいのか?
なのに俺にだけこの態度って、まるで俺がリリィになにかするみたいな言い方じゃないかよ。
「モブ1にすらなれないガヤの俺は、リリィの前世の記憶にあるゲームの本編でも登場してないんだぞ。どうすれば被害を出すと思えるんだよ」
「ふがっ、ふがっ(言い訳するな)!!」
「いってぇちくしょう!」
「ねぇねぇてぃっくん。それだけじゃ単純に貴方がリアスくんの事が嫌いなようにしか見えないよ?」
「いっつつ・・・そうだそうだ!」
「ふがっ!黙れ!貴様から漂う負のオーラが、あまりにも強いからだバカモノ!」
「負のオーラ?俺から負のオーラを感じるのか?」
「そうだと言っている!」
「それはおいらも感じるー」
「あたしもー」
クロとメシアまで?
そうなると、こいつが言っていることは単に俺が嫌いだからと片付けられる範囲じゃなくなるな。
クロとメシアの俺の評価はそこまで悪くないはずだし。
「どういうことだ?」
「どうしたもこうしたもない。事実を述べただけだ」
「それじゃあわかんねぇよ!」
「話す必要も感じないからな!」
なんだよそれ。
俺はリリィに目をやる。
説明させろと言う意味で視線を向けたわけだが、ちゃんと伝わったようだ。
「ねぇてぃっくん。わたしもその負のオーラについて知りたいから、知ってることがあったらリアスに教えてやってよ」
「リリィ様がそう言うならば。喜べ。リリィ様の恩情により、貴様にそのオーラについての我の仮説を説明してやろう」
「あー、はいはい。よろしく頼むよ」
「はんっ!貴様から感じられる負のオーラだが、それは恐らくとてつもない恨みを誰かか受けたのだろう。それは大凡人が受ける様な物ではない」
「そんなこと言われても、人から恨みを持たれる様な事俺してないぞ?」
いや待てよ?
ガランとかには恨まれていてもおかしくはないか?
でも今まで会っていたガランはすべてセバスだっただろうから面識はないし、ないか。
『<狂戦士の襟巻き>の影響では?』
「あぁ、たしかにあれは恨みの塊みたいなトコロあるよな」
呪いのアイテムと言っても過言じゃない。
なにせ、持ち主の殺人の記憶が刻まれているしな。
前世では役にたってくれたけど、今生では跳んだじゃじゃ馬だ。
「違うな。たしかにあの薄汚い襟巻きを着けたときも似たような負のオーラを放っていたが、それは他者が他者に向ける物だった。だが、貴様から感じられるのは魂に刻まれたような感じがする。そしてその牙は貴様の周りにも向けてきそうな、そのような感じだ」
「魂に刻まれる?そんな難しい表現しやがって、もっとわかりやすく言えよ」
漠然と魂に刻まれるって言われてもわからない。
そんな漫画やアニメじゃないんだからさ、難しく表現しないで欲しい。
「恐らく前世から何か強い恨みを抱く人物がいたのじゃないか?貴様もリリィ様と同じ世界から転生してきたのだろう?」
「そりゃそうだが・・・」
「だったらリリィからもそういうの感じねぇの?」
グレイはここで空気の読めない発言をする。
俺とリリィはそもそも死因が違う。
リリィは病死だが、俺は殺害された。
もし強い恨みを抱いていたと言うなら、間違いなく父親の怨念だろうが、あいつは時代錯誤のクソ親父なだけだ。
いくらなんでも殺意を持って俺を殺したとは・・・いやわかんないな。
そもそも警棒で息子の頭部殴るようなクソ野郎だしな。
寧ろ殺意があった方がまだまともに見える。
「しないな。リリィ様は愛されていたのだろう。慈愛のオーラを感じる」
「慈愛・・・あー、たしかに俺の前世は慈愛とはほど遠いな」
今生のが前世よりも友人が多い。
と言うか親しい間柄なんて、それこそ数えるほどしかないな。
「だけど牙を剥くって、前世の人間が俺にどうこうできるわけないだろうよ。まさか呪い殺すとでもいうのか?」
「何故なにもできないと言える?」
「なんでって、いくらなんでも次元を超えて・・・」
「どうして、その恨みを持っている人間が、この世界に転生してきていないと言えるんだ?」
「・・・え?」
たしかに前世で恨みを持っている人間がこの世界で転生してきていないと、確実に言えることはない。
けど、それってどんな確率だよ。
俺は上を見上げた。
もう夜だ。
月は九つある。
つまり俺とリリィの他に、あと七人の転生者がいるってことだ。
その中に前世から俺を恨んでいる人間がいないなんて、どうしてそんなこと言えたのだろうか?
「発言よろしいでしょうか?」
「・・なんだイルミナ?」
「いくらリアス様に恨みを持っている人間が居たとしても、リアス様を前世のリアス様と認識して未だに恨んでいるとは、とても思えないのですが・・・」
たしかにイルミナの言うとおりだ。
前世の俺とリアスは容姿が全く違う。
前世の俺は日本人だが、リアスの顔は間違いなくアジア人顔ではない。
黒髪ではあるが、西洋人のそれだ。
「それは私も思ったよ。けれどそこの少年と少女から、貴様から感じる負のオーラをうっすらと感じるのだ」
「なん・・・だって?」
そこまで言われれば、てぃっくんが畏れている事がわかる。
仮に俺の前世がわかっていなかったとしても------
「ここまで言われたら馬鹿でもわかるだろう。相手が前世の貴様を知っていようといなかろうと、何らかの形でそれが知れ渡れば、前世から次元を超えてまで呪った負の怨念が実際に貴様に向けられてもおかしくはないのだ」
「あぁ・・・」
「待って・・・ヒャルハッハ王国のレアンドロはどうやってかは知らないけど、転生者を認識出来るのよ?もし彼らの関係者がレアンドロだったら・・・」
そう言えばリリィが前にもそんなこと言ってたな。
レアンドロが転生者と認識出来る理由はわからないが、転生者とリリィを認識したのは恐らく転生特典による物だろう。
もしそれが、前世の人間の名前を映し出すとかだったら・・・
「そこは心配無いと思う。ボクは細君支柱で敵の一人に、脳の電子信号に少し介入したんだけど------」
「待てミラ!それはできるだけ辞めろって言っただろ!」
『そうですよ!それは自分の脳の電子信号と相手の脳の電子信号を融合する形になるのです。介入した人間を肉体が入れ替わる可能性もあるのです!いえ、最悪は人格のみがミライに移り、ミライの人格自体が消えてしまう可能性もあるのですよ』
ミラが試したのは、俺だったからもう一度入れ替える方法を考えられる時間は作れる。
けれど、相手が敵なら話は違う。
「ごめんなさい・・・頭に血が上っていて・・・」
「絶対やめてくれ。ミラを失いたくはない」
「ありがとう・・・」
俺とミラが良い雰囲気を作ったところで、グレシアが咳払いをしてその空気を消し去ってくれる。
さすがにこの場で、甘い雰囲気を作るのは危機感が足りてないな。
「悪い。そのことは一旦置いとこう。脳に介入したってことは・・・」
「うん!彼らの主と言われている人間は、70いってそうなおじいさんだったよ」
「レアンドロはわたし達と同い年。さすがにおじいさんって容姿でもなかったわ」
「って事は少なくとも直接な関わりはレアンドロとは無いんだな・・・ひとまずは安心か」
だがそいつと繋がりがないとは断言出来ない以上、警戒を緩めることは出来ない。
けれど敵についての情報が少なすぎる。
まぁ、こいつらがセバスがリリィに使った薬品と同一の物を持っていた以上、セバスの関係者ってことはわかってる。
あとは捕虜からどうにか情報を引き出せれば良いんだがな。
そう思って居たが、ミラの続いた一言で捕虜から聞くまでも無く敵の正体がわかってしまう。
「そのおじいさんの名前はゼクシュミーって呼ばれてたよ」
「ゼクシュミー!?」
「嘘でしょ・・・ゼクシュミーって・・・」
ゼクシュミーと言う言葉に反応したのは俺とリリィの二人だけだ。
俺とリリィのみで共通する人物はこの世界にはいないと思ってる。
だとすれば前世での知識。
俺とリリィはゲーム内容は違えど、登場人物は同じのゲームをプレイしている。
だからゼクシュミーもそのゲームに出てきたキャラなんだろう。
花咲く季節☆君に愛を注ぐで登場した人物のゼクシュミーは、二周目の最終イベントに登場したキャラの一人だ。
ゼクシュミーは教国の基礎を作ったとされる人間だが、ある過ちを犯したことで千年以上も前に地下へと封印されたのだ。
それを教皇が引き剥がし、蘇らせた。
理由は教皇の思惑が次々と失敗に終わったからにあるが、それは二周目に入ったときの最終イベントで起こるはずだ。
二周目で教皇はライザー帝国の聖女である主人公のリリィを手に入れるために暗躍するが、どれも攻略キャラの活躍により失敗に終わる。
教国の威信まで揺らぎそうになってしまい、仕方なく封印を解くと言う愚行に走ったのだ。
封印を解いた教皇は、そのままゼクシュミーに頭を潰され殺される。
そしてそのままゼクシュミーは自身の得意とする魅了の魔法によって、たちまち教国を掌握しリリィを不当に囲うという大義の下にライザー帝国に宣戦布告する。
最終イベントは、他の勢力もあるから直接対決というわけでもないが、それでもゼクシュミーと主人公は一騎打ちになり、バトルパートへと移行する。
でもゼクシュミー自体はそこまで強くはないんだよな。
「リリィもゼクシュミーを知ってるのか」
「わたしもってことは、リアスもなのね。えぇ。彼は中盤に出てくる教国の人間で、彼のイベントがあったおかげで、聖女の精神を壊す背景を知ることが出来たわ」
「俺がプレイしたゲームでも、似たような感じだな。詳しくは描かれてなかったが、今の教国の権力をここまでのし上げたのは、ゼクシュミーに間違いは無い」
寧ろ奴が封印されていなければ、教国以外の国が存在していなかったまである。
それほどの能力を持っている人間なんだ。
もしそんなのに転生した人間がいればこの上なく厄介だ。
それが俺を狙ってるとか、最悪じゃねぇかよ。
「ゼクシュミーってわたしは聞いたこと無いわよ!?」
「オレもねぇな」
「リリィとリアスの話を察するに、歴史から消されたんだろ?」
「えぇそうよグランベルはさすがね。ゼクシュミーは教国の権力を世界に広げようとした人物の一人で、彼一人でSランクの魔物のドラゴンを倒しているシーンがあったわ」
「そこは俺の知ってるゼクシュミーとは違うな。ゼクシュミーは魅了の魔法で人々を掌握してたけど、あいつ自体はそこまで強くはなかった」
「貴方がプレイしていたのはアクションバトルゲームでしょ。しかもRPG型の。レベル差があったんじゃないの?」
そうか。
終盤で出てきたから、それなりにレベルも上がってステータスは高かった。
装備自体は<狂戦士の襟巻き>しかしてなかったからあれだが、それでもレベルのステータスは大いに反映していた可能性がある。
「まぁリアスのしていたゲームとわたしがしていたゲームはほとんど別物だから、そこら辺の差異があっても不思議じゃないけれどね。わたしの知るゼクシュミーは魅了なんて使ってなかったし」
「いや脅威だった部分はどちらも持っていると考えて良いだろう」
「そうね。てぃっくんの言うことがたしかなら、リアスを狙っていることはたしかなのでしょうけど・・・」
「そうです。リリィ様は、彼に近づいてはなりません」
「いや、寧ろ逆だ。リリィは俺達と行動を共にした方が良い」
ゼクシュミーが俺を狙っていようといまいと、ゼクシュミーが脅威に違いない。
ましてや魅了を使えるような人間だ。
「俺の知ってるゼクシュミーの狙いはリリィ、強いてはこの国の聖女だ」
「だからって、貴様といる必要はないだろう!」
「俺の領地では魅了の魔法や、洗脳魔法は無効化出来る魔道具を作ってる。まだ未完成だがな」
それに脅威はゼクシュミーだけじゃない。
この世界に転生している九人のうちの七人が俺達に牙を向けないとも限らない。
それこそ今みたいに殺し合いになる可能性だってあるんだ。
できるだけ情報は共有して近くにいた方が良いだろう。
「そうね。わたしもリアスやミライ、イルミナにSランクの魔物達がいる方が安心できるわ。てぃっくんやグランベルを危険な目に遭わせたくはないモノ」
「某達も助力しよう。それに奴にはリベンジをしなければならないしな」
「むっさんはもっと命を大切にしろよ?」
「わかっている。リリィのおかげで負傷も完全に治った!なんなら今からでも模擬戦をするか?」
「病み上がりとは闘えねぇよ。夏季休暇中だけど、やることも山積みだ。アルナが敵から手に入れたこの薬の解析もしないといけないしな」
だけど俺には薬品の知識がないんだよな。
でもこの解毒薬を解析しないと、セバス達の薬品の脅威を受けたときに困る。
避けては通れない道だ。
「リアスくん、ボクを見ても薬品の知識なんてあるわけないのわかるでしょ?」
「だからってわたしを見ないでください。貴族でもないのに、専門の学園にも通ってないわたしにはそんな知識ありませんよ」
グレイとグレシアにも視線を向けるが、同様に首を横に振った。
そもそもこの世界は魔法がある所為で、こういった薬品は軽視されがちだ。
『そういうことなら、薬品とまではいきませんが、解析と薬草に強い知人を知っていますよ』
「マジかクレ!さすが俺の相棒だ」
『ですが、ここから南の国のバグバッド共和国まで行かないといけませんが』
バグバッド共和国は、ライザー帝国から荒野と砂漠を挟んで少し南に離れた地域にある国だ。
馬車でも一週間はかかる距離だぞ。
浮遊魔法を使えばそれなりに早く着くだろうけど。
「まぁ夏季休暇はまだ半分残ってるからいけなくもないか。それで、お前の知り合いって一体どんな奴なんだ?」
『土神ですよ』
クレの言葉に俺は頭を手にやるしか無かった。
そうだったな、こいつは神話級の精霊だったな。
知人って言ったら同じ神話級の精霊になるよなぁ。
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