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五章

短き闘いの決着

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 おかしい。
 闘いが始まってからと言うもの、こいつは一度も見えない攻撃をしてこない。
 俺に剣を振り下ろすことしかしてこない。
 先ほどのような挙動のない攻撃があるなら、別に剣を振り下ろす必要はないはずだ。
 確かにこいつの剣はさっきのゴロツキ兵士よりは腕が立つ。
 でもそれだけだ。

「何やってるのリアス!」

「悪い。違和感が拭えなくてな」

 本当ならジノアにこいつの相手をしてもらう予定だった。
 だけど何故かこの不安が拭えない。
 
「どうしたのかな!避けてばかりじゃ私には勝てないよ!」

「ちっ!ライジングカッター!」

 ライトニングスピアと真空波の組み合わせだ。
 雷と風の上級魔法の複合魔法は、シールド魔法をも簡単に壊すほどの高火力。
 速度も考えれば、この魔法ほど突破力のある魔法もない。

「一流の剣士は魔法だって簡単に砕くんだよ!」

 奴が剣を振り下ろすことで発生した、ライジングカッターを切り裂きそのままこちらへと向かってくる斬撃。
 魔法を砕く剣士ってのは、魔物大量発生スタンピードのあいつ以来の相対か。
 俺はロウとは闘ってないしな。
 だけどくるとわかってる斬撃なら、避けるのは容易------

「甘いね」

「斬撃!?」

 ここで挙動の見えない攻撃!
 俺は斬撃を最小限で避ける為に体を横にズラしたが、それが仇になった。
 これじゃあ避けれない。

「あはっ!真っ二つになりなよ!」

「ごめん被る」

 浮遊魔法で空高く浮かび上がり斬撃を避けた。
 間一髪だ。
 しかし仕組みが全くわからん。
 まるで斬撃を同時に二つ放ったかのように平行線で攻撃が来たけど、俺はギリギリまで斬撃を視認できてた。
 そして横に傾けた瞬間に、まるで二つに破れたかのように斬撃が発生したのだ。
 斬撃を発生させる魔法なのか、或いはアイツには精霊が見えないから精霊の仕業なのか。

『あの斬撃は精霊の魔法ではありませんよ』

「悪いな解析頼んじまって」

『構いません』

『ご主人様、右です』

「サンキューナスタ」

 ナスタの指示によって右からくる斬撃を避ける。
 奴の顔は少し不機嫌そうに歪む。
 アイツからしたらなんで気付いたって思うもんな。
 精霊の声は俺や聖獣契約者の精霊共鳴レゾナント状態の人間にしか聞こえない。
 つまりナスタの指示も俺にしか聞こえてないんだ。
 クレが風の下級魔法の無変微風を使ってるおかげで、ナスタはトーチを使うだけで大体の相手の位置を把握できる。
 文字通り無変微風は一定の範囲に一定の速度で風をおこす。
 そのことによって風のどこかに異物が入れば、トーチの火の向きが変わり、大体の場所を計算して教えてくれる。
 ナスタも上級精霊だからな。
 脳の演算能力はかなり高い。

「予測・・・している、のか?」

「さぁな?」

 俺は着地した後に爆発の付与がされてる紙を取り出し、それを丸めて捨てた。
 魔力を込めれば爆発する付与だが、それをしなかったのは作戦だ。
 
「何を企んでいるのかわからないが、やらせない!」

「それを決めるのはお前じゃない。俺だ!」

 俺は魔法を放とうとする為に、手を前に掲げる。
 そしてそれに備えるように剣を構える奴。
 魔法に備えるならそれは正しい構えだ。
 だけどそもそも勘違いしてるんだよ。
 俺は地面を蹴り、一瞬で奴の間合いに入る。
 さすがに驚いた奴。
 俺は剣の旨を叩きへし折った。
 アルバートが使っていた剣よりも脆い。

「脆いな」

「驚いた。でも私の間合いでもあることに気づいてないようだね」

『ご主人!!』

『空気が変わりました。備えてください』

「無茶言うなよ」

 色々な場所から斬撃が飛んでくる。
 しかし違和感があった。
 数は相当だが、なんというか避けれない範疇じゃないんだ。
 どれも前方から飛んできているから?
 いや、前方からは飛んできてはいる以上に、俺は一度斬撃を体感しているように感じたんだ。
 なんとなくだけど、後方や、虚を突いた場所からは来ないと思ってた。
 来ても大したことは無いと。

「ばかな!?」

 さすがに全弾避けきられるとは思ってなかったんだろう。
 
『今のよく避けられましたね。万が一に備えて私も警戒していたのですが』

「俺も驚いてる」

 首のチョーカーの魔剣を起動する。
 俺は先ほど地面に投げた魔道具を包み込んだ土で作ったゴーレム達だ。

「なんだこの人型!」

「なんだろうな?」

 剣を振るって対処しようとした瞬間、ゴーレムを通して魔道具に魔力を注入し起爆させた。
 当然爆風で奴の身体は吹っ飛んでいく。
 そして吹っ飛んでいるトコロに俺はさっきみたいに走りだした。

「おらぁああ!」

「うぐっ!」

 吹っ飛んで自由落下してるあいつの顔に拳を入れた後、そのままこいつの頭を鷲づかみにする。

「さぁ、これで終いだ。まだやるって言うならこの顔面を握りつぶす」

 早すぎる決着。
 もちろん俺が魔法使いであったなら、長期戦もありえただろう。
 能力がわからない以上、ジノアに任せるわけにも行かないから俺が闘ったが、思い返せばそこまで強くもない。

「断るっ!」

「そうか。残念だ」

 俺はゆっくりと手に力を入れていく。
 ミシミシと頭蓋が悲鳴を上げているのはわかる。
 正直さっさと降参して欲しい。
 出来れば殺すのは避けたい。
 ニコラの様に、人としての理性が跳んでれば罪悪感無く殺せるけど、理性がある人間を殺すのはあまり気分がよろしくない。

「ふふっ・・・」

「なにがおかしい?」

「あなたの手からはまるで殺意が感じられない。殺すのを躊躇っているかのように。やはり君が人を殺せないと言うことは本当だったようだね」

「だから俺がお前を殺さないとでも?甘く見られたもんだな」

 それは事実だ。
 たしかに気分はよろしくはないが、殺しても法的に正当な理由となる。
 少しだけ気分が悪くなるがそれだけだ。
 その点においてはこの世界の常識を学び、日本の常識が薄れてしまった結果だろう。
 俺は仮にも貴族だ。
 貴族に手を出せるような肝の座ってる人間がこれから更生するとも思えないし、殺人にためらいはあってもこいつを殺すことにためらいはない。
 そもそも領民を軍事侵攻に使って、アルゴノート領に進軍した時点で躊躇う理由を教えて欲しいくらいだ。

「事実私が生きてるのが証拠だろう?」

「そんなに死に急ぎたいなら、とっとと殺してやるよ!」

「いいえ?あと一歩遅かった」

 その瞬間、奴はポケットに手を突っ込んだ。

『リアス!彼の懐から精霊の気配がします!』

「懐?腰あたりじゃないのか?」

精霊共鳴レゾナント!」

 精霊共鳴レゾナント!?
 こいつ聖人だったのか!?
 しかし聖獣を連れている様子はない。
 それに精霊を連れているともクレが言ってた。
 いきなりありえるのか?
 あまりの激しい光に俺は少しだけ力を緩めて、脱出されてしまった。
 
『くっ!奴は外法に手を出した!!』

「外法?」

 外法って、精霊共鳴レゾナントは外法なのか?
 だけどグレイやグレシア、それにリリィがそれを使ってもクレは何も言わなかった。
 だがこの感情は怒り。
 精霊契約の儀について起こったときと同じ様な・・・

「何を言っているんだ?精霊共鳴レゾナントは聖人聖女様も使う立派な力だぞ!」

 聖人聖女が使うって言うのは知っているのか。
 これが周知の事実だろうが、聖女って言うのは基本的に教国に送られるらしい。
 しかもリリィの前世の記憶から教国で聖女として囲われると言うことは、精神壊されるのも同義だという。
 リリィは精霊共鳴レゾナントについてグランベルにしか話してなかったと言うし、グレイやグレシアも同様だ。
 ここ近年で聖女を抱え込む国は増えたらしいけれど・・・

『立派な力であるものか!体内に魔力がある精霊は、殺すことによってその魔力を一時的に殺した人間に渡ります。それは魔力向上だけでなく、身体能力も向上させる』

 なるほどな。
 つまり一時的な魔力と身体能力向上のために、精霊を殺すなんて外道以外の何でも無い。
 たしかに外法だ。
 しかしそんな能力に手をかけるなんてな。
 だけど、ちょうどいい。
 この事実を上手く使わせてもらおうか。

「どうやらお前のいう精霊共鳴レゾナントは、俺の知ってる精霊共鳴レゾナントとは似ても似つかないクソみたいな方法だろ?」

「クソみたいな方法?貴様の実力は認めるが、これは侮辱だ!許してはおけない!」

 馬鹿な奴。
 薄々ボロが出始めてるんだよ。
 こいつがこの国の人間じゃないということに。
 いや、少しだけ語弊があるな。
 こいつはこの国の頂点、エルーザ皇帝に仇なす敵。
 この闘いは、マルデリンとの貴族の諍い程度に考えていたけれど、どうやらそんなことじゃ済まないみたいだな。

「教国・・・お前、教国の人間か?」

「・・・」

「沈黙が、その事実を物語ってるって事に気づけよ」

 教国が絡んでいるのか。
 くそ、ややこしい事になってる。
 何故教国の人間が、たかが子爵と男爵の領地騒動に絡んでくるんだ?
 いくら俺が神話級の精霊の契約者と世界に周知されているとはいえ、いや周知されたからこそ介入してくる意味がわからない。

『教国・・・奴は殺せないと言うことですか・・・』
 
「情報がほしいからな。こいつを生かして捉える必要ができた」

「リアス、凍らせちゃいましょうか?」

 正直スノーの提案は魅力的だ。
 凍らせてしまえば簡単な話だからな。
 いくら見えない攻撃があると言っても、発動出来なければ意味は無い。
 しかしすんなり凍らさせてくれるかね?

『リアス、彼からは上級精霊の気配を感じます』

「潰したのは上級精霊か!」

「そうだった。ここに居る全員を殺せば関係ない。領地は制圧したも同然ですし・・・」

 領地を制圧ね。
 ミラの指揮能力と地域把握能力に、リリィの転生特典でどうしようもないほど状況は絶望的だ。
 それに何かあれば俺の通信具に連絡が入る。
 それが来ないと言うことは、確実に領地に問題が起きていないって事だ。
 こいつの仲間が侵入してないだけかも知れないが、それは領地の火の手が上がった事から、違うと言うことは容易にわかる。
 こいつは詰んでるんだ。
 そもそもこんなお粗末な言葉の誘導に引っかかる当たり、たかが知れてる。
 もしかしたら見えない攻撃にそれだけの自信があったと言うことか?
 たしかに気づかなければ俺もやられていたかもしれない。
 そこはスノーに感謝しかないが、そうだとしてもあまりにもお粗末だ。
 他国の問題に首を突っ込むなら尚更だ。

「うぉぉぉぉ!」

「意気込みだけはいっちょ前か」

 単純に剣を振り下ろしてくるだけ。
 たしかにさっきより振り下ろす速度は速くなってる。
 だがこいつの剣は一級品とは言い難い。
 努力をした良い剣ではあるが、努力が足りない。
 凡才が人並みの努力をした程度で、才能がある人間には勝てない。
 リアス・フォン・アルゴノートも才能はなかったが、魔物を素手で殺せるほどになった。
 それこそ、領地に対しての政策の時間以外は、ミラのデートの時間や寝る間を惜しんで努力した。
 基礎をしっかりと積み上げてきていたんだ。
 同じ凡才なら、努力した時間で戦力が決まる。
 俺は才能のある人間にも勝てる努力をしてるんだ。

「斬撃を飛ばせようと、例え力を増強させようとお前の剣は軽い!」

「それはどうでしょう?」

 剣を振り下ろして、更に剣を横に凪いで来る少し手前で斬撃が飛んでくる。

「時間差・・・斬撃!」

 だがこの角度と攻撃------
 俺は斬撃を受ける選択をした。
 血飛沫が舞う。
 だが、胴体に受けたおかげか身体が真っ二つに切れることはなかった。

「これで終わりだ!」

「あぁ・・・」

 こいつの見えない攻撃の正体はわかった。
 こいつは凡才なんかじゃない。
 才能を持っていたんだな。
 だが------
 
「お前の負けだ」

『真空波!』

 あいつの両腕が宙を舞う。
 クレの真空波が、振り下ろす腕を斬り割いた。
 こいつの腕は二度と物を掴むことの出来なくなった。

「バカ・・・な!?」

「事実だ。お前の剣は俺の言ったとおり軽い。お前が俺を殺せなかった時点で、俺の勝ちだよ。俺は一人じゃないからな」

 当初の予定通りジノアに任せなくてよかった。
 時間差攻撃の正体が、こいつの攻撃を受けるまで気づかなかったんだ。
 いや、気づいたこと自体も偶然だ。
 たまたまだ。

「あ・・・がぁあああ!痛い!いだい゛ぃぃ」

『驚きました。攻撃を受けずに斬られる選択をするとは肝が冷えましたよ』

「あいつの弱さを信じたんだ。次の見えない攻撃がないことはわかったからな」

 あいつの攻撃の正体がわかった以上、次の攻撃がないことはわかる。
 信じられないけど、この世界には魔法があるんだ。
 そして領民達が一斉に薬品が注入された事実から、俺の予想はあってると思う。
 
『何故わかったんです?』

「こいつの攻撃の正体が------ん?」

 近くの草むらがガサガサと揺れる。
 そして猫耳少女がゆっくりと出てきた。
 
「フィニア!」

「こいつの仲間か」

『みたいですね。どうします?』

 フィニアと呼んだその顔はかなりの笑みを浮かべている。
 それだけ期待出来ると言うことか。
 でもまぁ増援は想定内だ。
 だけど、仲間の誰かがこちらに増援に来たんならミラが何か言ってきそうだけどな。
 何も無いって事は、想定外の敵って事か?

「とりあえず相手するか。ジノア、手伝うか?」

「え、いいの?やっと僕の出番かー!」

 ジノアが跳躍で俺の方に跳んでくる。
 こいつの才能には驚かされる。
 こいつだけじゃなく、アルバートもそうか。
 皇族達は才能の塊だよな。
 経った半月で、俺との手合わせは互角になるんだからさ。
 魔法との組み合わせではその限りじゃないが、純粋な身体能力は俺と同等。
 長年の努力を否定された気分だよ全く。

「アルテリシア・・・助け・・・」

「助けに来たんだよね!」

「て・・・」

 どさっと言う音と共に、その場に倒れ込むフィニアという少女。
 これには奴、アルテリシアも含めてこの場の全員が驚いた。
 とっくに決着は着いていたって事だよな。
 だけど目立った外傷がない。
 ってことは、この惨状を作ったのは------

「悪いリアス!こっちまで連れて来ちまった」

「逃げ足は速かったのよ。でもまぁ結果オーライかしら?」

 上から浮遊しながら俺達に手を振るのはグレイとグレシア。
 聖人聖女コンビだ。
 この半月で一番の成長を見せた二人だ。
 こいつらとは俺とイルミナで組んで------勝てなかった。
 
「こいつには同情するよ。お前らが相手だったことに」

「へへっ」

「それほどでもないわよ」

 こいつらは聖魔法を使って、攻撃した相手を治療をする。
 だが治癒魔法は血液までは下に戻さない。
 俺とイルミナは貧血にまで追い込まれるほどの攻撃をされた。
 聖人聖女は治癒魔法で常に人間の100%の動きをすることも出来るため、自分の腕も折れようと関係無しの勢いで剣を振ってくるし、足が折れようとも関係無しに走り出す。
 足が折れるほど足を踏ん張るってことは、どれだけの速度を出すかは想像も硬くない。
 身体強化してる状態で折れるほどの蹴り速度なんだ。
 俺やイルミナは少なくともこいつらの動きを捕らえきれずに負けた。
 簡単に言ったけど、それもこいつらの才能あってのことだ。
 脳のリミッターを外せなければそんなことは出来ないし、普通の人間にそんなことはできない。
 天才は平然と凡才を超えていくんだ。

「あ・・・あぁああぁああ!嘘だぁああ!」

 一方アルテリシアは全速力で後方に逃げていく。
 それだけ信じられなかったのだろう。
 だって完全にキャラ崩壊してるし。

「ねぇリアス、僕が捕まえてもいい?」
 
「あれをジノアのデビュー戦にするのは、少し可哀想だ。俺が決着付けるよ」

 首のチョーカーの魔剣に指を当てる。
 土からロケットランチャーの様な形の物が形成されていく。
 ゴーレムはなにも人型だけじゃないからな。

「喰らえ!」

 ロケットランチャーから発射されたのは巨大な岩だ。
 それが奴の背中に直撃する。
 土で出来てるから殺傷能力はないと思う。
 いやどうだろう?
 まぁ敵だからそんなことは気にしない。

「お前・・・」

「リアス、さすが容赦ないわ・・・」

「聖人聖女コンビには言われたくないわ!お前らが倒した敵を見てから言えよ!」

 俺とグレイとグレシアのいがみ合いはしばらく続いた。
 どうやら領地での決着もほぼ同時刻に着いたみたいで、ミラから戻るように言われた。
 今回の俺達の被害はゼロみたいだ。
 こうして、長くも短い一日が終わった。
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