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 帝国に入り込んだネズミとアハトから呼ばれた者達は少数精鋭だった。
 神国からやってきており、時折宮殿に忍び込む者も居た。
 その中には後に剣婦と呼ばれるルミシもおり、子爵夫人として金を横流しにしている。
 そしてこの寂れた居酒屋にはルミシを除く5、6人ほどの男女が腕を組み語らっている。
 世界各地にある冒険者ギルド公認の店であり、集まって何を話していようとが口外禁止の店だった。

「今日作戦を実行する。標的は2番のスメラギ。標的撃破後はルミシの邪魔になるため速やかに離脱する」

 標的は第二皇子のアハトの暗殺であり、殺害後は速やかに帰国するというものだった。
 スメラギイーグルと呼ばれる魔物が存在するため、この会話で謀反を起こすということはたとえ話を聞かれても気付くのは難しかった。

「それにしてもS級冒険者のお前がまさか協力してくれるとはねぇ」

「俺は強い敵と闘いたい。それだけだ」

「それでも助かるぜぃ」

 冒険者ギルドはランクがAからFまでのランクがある。
 その頂点に登り詰め、冒険者ギルドのギルド長に認められた者だけがSランクの称号を得る。
 この男の名はレーゼ。
 漆黒の髪に真紅の瞳、黒鉄のコートを纏う。

「S級が協力してくれるなら俺達も安心だぜぃ」

「・・るぞ」

「なんだぃ?」

「くるぞ。衝撃に備えろ」

 レーゼがそういうとその場にあった机や椅子、そして冒険者たちが吹き飛ばされた。
 天井も吹き飛んでおり、上空には小さな女児二人の姿があった。
 ルルシアとロアーナだった。

「やりすぎルル」

「ロアこそノリノリだった癖に」

「でも実行に移したのはルルだよ」

 冒険者達には会話の意図はわからないが、それでもこれを行ったのはあの二人だと認識し武器を構えた。
 例え子供であろうと、魔法が使えれば兵器と何ら変わらない。
 帝国がいくら魔力持ちの少女に厳しかろうが、魔法を使えてる以上油断はできなかった。

「てめぇら!ここに向かって魔法を放ったのはてめぇらか!」

 冒険者の一人が事実確認をする。
 いくら子供であろうとも、いや子供だからこそ一応の事実確認を行った。

「ふふっ、ホーネット」

「何がおかしい!」

「馬鹿共が」

 レーゼはそう言って冒険者とルルシアたちの前に出た。
 剣を抜いてホーネットの追尾機能を逸らした。

「交渉の余地はない。子供であろうと容赦するな」

「へ、へい・・・」

 中級魔法ホーネットは分裂しても追尾していく為、撃ち落とすか防ぐかこのように鉄を高速振ることで小さな磁場を発生させて逸らす方法があった。
 しかし最後の方法は剣士としては達人の領域に至っていないとできない芸当だった。

「すごいなにあれ!」

「剣を振った時僅かに磁場が見えたよ。ルル、彼は一番の強敵みたい」

「大丈夫、剣相手ならレインは負けない。そうでしょ?」

「そうだね!中級魔法、マリンスノー!」

 ルルシアとロアーナの役目は揺動であり、これ以上の役目は不要と判断し離脱を試みる。
 水の中級魔法マリンスノーは大気中に水滴を浮かべて僅かな欠片を吸い上げて固定し、動けない空間を生み出す魔法だった。

「いって!なんだこりゃ」

「なにもねぇのにチクチクしやがる!」

「待ちやがれ小娘ども!」

 しかしルルシア達はもう既に離脱しており、上を見上げたら虚空だった。

「ちっ」

 その手際の良さに、レーゼはこの依頼を引き受けたことを公開していた。
 先ほどの二人は身なりがよく、貴族の子供である可能性が高い。
 つまり皇族関係者の可能性が高く、作戦が筒抜けになっているという最悪の事態を悟った。
 それは強者と戦えないこと。
 手際の良さが陰湿ではあるが、それでもそれなりの実力者が揺動のみというのは、闘いに発展させずにチマチマと殴ってくる可能性もあるからだった。

「冗談じゃねぇぞ!レーゼの旦那、こいつはなんとかなりやせんか?」

「なんとかしよう。しかしーーー」

 その言葉は最後まで紡がれなかった。
 またしても強い衝撃により、その場にいた五名が吹っ飛んだからだった。

「おー!ロアの奴派手にやりおったな」

「全身血まみれの奴らが多いな!ふははっ!でも相手になりそうなのが立ってるぜ」

「その言い方やと悪役に見えるんやけど」

 今度は二人の男児の登場に困惑の表情を見せる吹き飛ばされた面々。
 レインとカインもまた身なりがいい服を着ているが、ルルシア達よりも好戦的な表情をしており後ずさる。
 しかしレーゼはその表情に思わず笑みをこぼした。

「剣士か。ガキだがやっと腕がなる奴等が現れたな」

「おー、こわ。ワイら実践は久々なんや。お手柔らかに頼むで、S級冒険者レーゼ」

「俺を知っているか。こちらの情報は筒抜けということか」

「そうだ。大人しく投降するなら未遂だから悪いようにはしない。まぁ個人的にはあんたと戦ってみてぇからされると困るな」

「同感だ。御託を並べるのは戦士のやることではない。行くぞ!」

 マリンスノーはまだ解除されていないというのに、高速で移動するレーゼ。
 本来であれば固定された欠片に肉を引き裂かれているはずなのだが、その様子は見慣れない。
 わずかな隙間を移動して、傷になるのをさけていたのだ。

「うへ、マリンスノーをこうもうまく交わすなんて、S級ちゅーのは本当みたいやな!」

「よく見えない欠片の場所がわかるな」

「これも練度だ!ふんっ!」

 剣を振り下ろしたレーゼだったが、おおよそ子供とは思えない力で剣は受け止められた。
 レインの剣とレーゼの剣が火花を散らせて、金属音があたりに鳴り響く。

「S級ってのはすごいなぁ!」

「お前本当にガキか?」

 レインとレーゼの剣は何度も打ち合う。
 しかしその剣は拮抗し何度も火花が飛び散ったのち、レインはカインの方に飛びのいた。

「驚いた。お前、S級になれるぞ」

「そりゃどーも。ワイも簡単な任務ゆーてたからお前さんみたいのが居るのに驚いているんやが」

「楽しそうにして羨ましいねぇ。まぁ雑魚どもは処理しておくから、楽しめ」

「あぁ!」

「させると思うか!?」

 レーゼは剣をカインに向けてふるったが、するりと避けて剣を首元に突き付けた。
 まるで剣自らが避けたような動きに、レーゼは驚嘆の声を漏らした。

「俺ら二人を相手にするのはやめとけ。わざわざ打ち合いに応じたレインと戦うことを勧めるぜ?」

 そしてカインは未だに立てずにいる、寝転がっている奴らに手錠をかけて片付け始めた。
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