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 昨日は大変だった。
 精霊のみんなが色々と話かけてきてくれたので、その対応に追われた。
 こんなに歓迎されて、ちょっと帰りにくくなるわね居心地が良くて。

「おーい、どうしたんや?」

「いや、グレンと模擬戦するの久しぶりだから、なんか複雑だなって思ったのよ」

「おー、それはおもろいなー!グレ坊はルルとは違って正規の手段で弟子になった、謂わばちゃんとした精霊王の弟子や。恐らく加護もあるで」

「加護ってどんな物があるの?」

「魔力向上だったり、魔力が通らない肉体に強化されたり、まぁ色々やな。個人差はあるで」

「魔力が通らない肉体?」

「あぁ、内側やけどなー。魔力が通らない肉体は、魔法を全力で放つことが出来るんや」

 それってつまり、出力限界がなくなるってことね。
 魔法は魔力出力を調整することのできる謂わば入り口があるのだけど、別に出力自体は無限に注入できる。
 但し、ある一定を超えると肉体の崩壊が始まるため、出力は限界が存在する。
 でもそれが無くなるとしたら、初級魔法ですら威力が超級魔法に匹敵する可能性があるわね。

「グレーン!加護教えてくれたら、何でも一つ言うこと聞いてあげるわよー」

「なんでも!?俺の加護はなぁー」

「アホですか!」

 グレンの頭をイデリッサが叩いて止められる。
 くーっ、あとちょっとだったのにぃ。

「おいルル。何でもって随分と大胆なことゆーんやな」

「えぇ、それくらい欲しい情報よ」

「グレ坊がなんか変な頼み事してきたらどうすんや」

「グレンだったら多分、私の取り戻した記憶に付いて聞いてくるんじゃ無いかしら?」

「その信頼感はなんなんや。まぁええねん、負けたら承知せぇへんぞ!なんせウチの弟子なんやからな!」

「まぁ男に腕っ節は適わないからねー。負けるかも知れないわよ」

「魔法戦に男女の違いなんかあるかい!」

 確かに違いはないわね。
 でもグレンは準備運動をしてる。
 つまり、動き回る戦闘が想定されるわ。
 イデリッサとフルミニスが二人で大きなドームを展開する。
 これが模擬戦用のフィールドだ。

「っし!じゃあ勝負だなルル!手加減はしないぜ!」

「えぇ、望むトコロよ」

「んじゃまずは、コイツだ!」

 中級魔法ガンマからスタートね。
 精霊王の力で、私とグレンの魔法ダメージはこのドーム内からでると全部消える。
 このドーム内で致命傷を負ったのに、出た瞬間に生き返ったのは恐怖を覚えたわ。

「無詠唱できるようになったのね」

「まぁな!だが、大気に眠る焔を示せ!」

「詠唱・・・同時に魔法を展開!?」

 二つのガンマがグレンの手の上に展開された。
 そしてそのガンマがこちらへと飛んでくる。

「それがグレンの加護!」

「そうだ!俺の加護は並列思考って言うもんをもらった。だから魔法を二つ展開することができるんだ!」

「なるほど、やっぱり魔法は思考を分ければ二つ展開ができるってことね」

 予想通りだわ。
 そしてこれを仮定すると、他にも出来そうなことは色々ある。
 でもここはまぁ、挑戦的な事はしないわ。

「エンペライオン!」

「なんだ?」

 二つのガンマ、二つのレオーネが飲み込んで消滅させた。
 上級魔法改エンペライオン。
 チャリオット陛下から教わったレオーネを改造した魔法で、手にも馴染んできたわ。

「なんだよそれ!超級魔法か?」

「上級魔法改エンペライオン。上級魔法レオーネの派生魔法よ」

「なんだそりゃ?雷魔法も覚えてはいるけど、そんな魔法あったか?」

「皇帝チャリオット様の魔法よ。私に魔法を教えてくれたね」

「リリノアール陛下じゃないのか?」

「えぇ。記憶を取り戻して色々あったのよ。それより止まってて良いのかしら!」

 プリンセスホーネットを発動して見せる。
 見せかけだけどね。

「なんだそりゃ!?ホーネット?にしてはでけぇな」

「いいでしょ?防いで見せないさいよ!」

 流石に避けられると思うけど、こう言えばもしかしたら防ぎに来てくれるかも知れない。
 恐らく今放てる魔法ではホエールに次いでの高火力。
 防ぐなんて難しいはず。

「あぁ!これが修行の成果だ!」

 そう言うとグレンは手を前に掲げる。
 私はその姿勢を見たことがあるし、私自身もその体勢になることが多い。
 
「まさか・・・すごいわねグレン」

「超級防御魔法:フレイムバリスティック!」

 プリンセスホーネットは消滅した。
 そしてグレンはそのまま私に向かって超速で向かって来る。
 なるほど、ヴァルカンを装備してるときと同じ要領で後方に上級魔法バーナーを放ってるのね。

「行くぜルル!アトミックぅーーー」

「アトミックプロミネンス!?ライトニングアイテル!」

 グレンは私がライトニングアイテルを発動させた瞬間に、ニヤリと笑みを浮かべた。
 しまった釣られた!
 ライトニングアイテルは魔法しか防げない。
 つまり、物理攻撃は意味をなさなかった。
 グレンの拳は私の顔の前で止まる。

「俺の勝ちだなルル」

「ふふっ、負けたわ」

 私は手を上げて降参のポーズを取る。
 正直グレン、もの凄く強くなりすぎじゃないかしら?
 学生時代でもここまで圧倒されてグレンに負けたことないわよ?

「うっし!」

「すごいわねグレン。最期のは特に驚かされたわ」

「あぁ、一応アトミックプロミネンスは覚えたけど、やっぱり威力がしょぼいんだよな」

「超級魔法は真似する度に威力が下がっていくらしいものね」

「あぁ、だから新しい超級魔法を作るのが目下の課題だ」

「なるほど、私と同じね」

 グレンも私と同じ課題を出されていたのね。
 それにしても私って、ちょっと弱すぎる気がするわ。
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