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第一章 絶望と運命の出会い
第五話 死神公爵の救世主、あるいは最愛の妻
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「……レティシア。先ほど届いた忌々しい手紙の内容など、今この瞬間にすべて忘れるがいい。あのような不浄な言葉の羅列、高潔な君の耳に入れる価値も、ましてや心を痛める価値など微塵もないのだから」
アレクシス様の低く心地よい声が、私の頭上から降ってくる。私は彼の逞しい胸の中に深く顔を埋めたまま、ようやく、肺の奥に溜まっていた澱を吐き出すように深く息を吐くことができた。それは、実家という逃れられぬ呪縛から、本当の意味で魂が解放された合図だったのかもしれない。
アレクシス様は、先ほど指先から放った魔力で手紙を塵一つ残さず灰に帰すと、汚れを払うようにハンカチで指先を丁寧に拭った。そして、震える私の肩を折れんばかりに力強く抱き寄せた。彼の確かな体温が、上質なドレスの生地越しにじわりと伝わってきて、凍えていた私の胸が熱く脈打つ。
「ですが……お父様たちは、私が家を出てからというもの、屋敷の掃除が全く回らなくなっていると気づいたようです。このままでは、私の生まれ育った実家が……」 「案ずるな。それはすべて自業自得というものだ。今まで君の献身を蔑ろにし、あろうことか虐げてきた報いを、彼らはこれから一生をかけて受けるだけのこと。君が気に病む必要などどこにもない」
私を見つめるアレクシス様の金の瞳が、一瞬だけ鋭く冷徹な光を帯びる。けれど、次に私と視線がぶつかった瞬間、その瞳はまるで極上の砂糖菓子のように甘く、そして抗いようがないほどひどく熱いものへと変わった。
「セバス。今すぐバーンズ伯爵家へ使いを出せ。……内容はこうだ。『我が妻レティシアは、ヴォルフェン領を長年蝕んでいた呪いを解いた、真なる奇跡の聖女である。貴様らのような欲に塗れた下衆が、二度と気安く触れていい存在ではない。もしこれ以上、彼女との接触を試みる愚行を犯すなら、ヴォルフェン公爵家の総力を挙げ、一族郎党ことごとく叩き潰す』とな」
傍らに控えていた老執事のセバスが、主人からの苛烈な命を待ち望んでいたかのように、満足げな笑みを浮かべて深く頭を下げた。 「御意に。公爵家が誇る最高に冷徹で、慈悲のかけらもない書面を、私の名において迅速に用意いたしましょう。どうぞお任せください」
実家へ叩きつけられる、決別という名の絶縁状。それは、私がこれまで過ごしてきた地獄のような日々から、完全に解き放たれ、自由を手にした決定的な瞬間だった。
「さて、レティシア。過去の清算はこれで終わりだ。大切なのは、君と俺のこれからの時間だろう?」
アレクシス様は、サイドテーブルに山のように積まれた宝石箱の中から、一際大きく、燃えるような輝きを放つ深紅の石がついた指輪を手に取った。そして、私の右手の薬指をそっと掬い上げると、ゆっくりと、けれど二度と逃がさないという強い執着と意志を込めて、その指輪を根元まで嵌める。
「君はもう、身代わりの生贄などではない。俺の呪いを解き、この城に輝かしい光を連れてきてくれた、俺の――生涯ただ一人の、最愛の妻だ」
熱っぽい吐息が指先に触れたかと思うと、アレクシス様が誓いの儀式のように、私の指先に柔らかな口づけを落とした。
「ひゃっ……!?」 「顔を上げろ、レティシア。君はこの土地を救った救世主だ。これから領民たちにも、新しく誕生した公爵夫人の麗しき姿を披露しなければならない。君がその手で隅々まで磨き上げてくれたこの美しい城で、誰よりも盛大な夜会を開こう」
仮面を脱ぎ捨てたアレクシス様の、この世のものとは思えないほど美しい素顔が、至近距離で優しく微笑んでいる。 昨日まで「いっそ死んでしまいたい」とさえ絶望していた私のモノクロの世界が、彼の手によって、こんなにも鮮やかで幸福な色彩に塗り替えられていく。
(……ああ。どんなに辛くても、お掃除を一生懸命頑張ってきて、本当によかった)
私の授かった『浄化』の力は、ただ単に物理的な汚れを落とすだけのものではなかったのだ。この人の抱えていた深い孤独を、そして私の凍りついた心をも、温かく溶かしてしまったのだから。
一方、その頃。 バーンズ伯爵家では、公爵家からの無慈悲な「絶縁」と「宣戦布告」の知らせを聞き、姉のミランダが、足の踏み場もなく汚臭の漂う荒れ果てた自室で、狂ったように叫び声を上げ続けていた。だが、その醜い叫びが幸せの絶頂にいるレティシアの耳に届くことは、未来永劫二度となかった。
――これが、光に満ちた私たちの新しい人生の幕開け。 そして、私を捨てて踏みにじった者たちへの、逃げ場のない終わりの始まり。」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【第1章:絶望と運命の出会い】・完
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最後まで読んでいただきありがとうございます!
物語はいよいよ、ここから怒涛の第2章へと突入いたします。 捨てられた令嬢レティシアの快進撃は、城を飛び出し、領地全体へと広がっていきます!
次章からの見どころを少しだけご紹介……✨
★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★
【第2章:幸せな領地生活編】
★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★
◆レティシアの「お掃除魔法」が領地全域へ! 枯れた大地が花で埋め尽くされ、病に苦しむ領民たちを救う。 無能と呼ばれた少女が、いつしか国の『至宝』へと……。
◆死神公爵のデレが止まらない! 「君が美しすぎて、外に出したくない……」 不器用なアレクシス様の、愛が重すぎる溺愛生活がスタート!
◆一方その頃、実家は……(ざまぁ要素増量!) レティシアという守り手を失い、ゴミ屋敷と化した伯爵家。 没落の足音が近づく中、彼らが仕掛ける最後の悪あがきとは!?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
この先の「大逆転劇」と「極上の溺愛」を、ぜひ見届けていただけますと幸いです!
「続きが気になる!」「レティシア頑張れ!」と思っていただけたら、 【お気に入り登録】と【感想やいいね】をいただけると執筆の励みになります!
次回からは、「第二章 幸せな領地生活」をお送りします。
ぜひ感想、応援していただけると嬉しいです。
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アレクシス様の低く心地よい声が、私の頭上から降ってくる。私は彼の逞しい胸の中に深く顔を埋めたまま、ようやく、肺の奥に溜まっていた澱を吐き出すように深く息を吐くことができた。それは、実家という逃れられぬ呪縛から、本当の意味で魂が解放された合図だったのかもしれない。
アレクシス様は、先ほど指先から放った魔力で手紙を塵一つ残さず灰に帰すと、汚れを払うようにハンカチで指先を丁寧に拭った。そして、震える私の肩を折れんばかりに力強く抱き寄せた。彼の確かな体温が、上質なドレスの生地越しにじわりと伝わってきて、凍えていた私の胸が熱く脈打つ。
「ですが……お父様たちは、私が家を出てからというもの、屋敷の掃除が全く回らなくなっていると気づいたようです。このままでは、私の生まれ育った実家が……」 「案ずるな。それはすべて自業自得というものだ。今まで君の献身を蔑ろにし、あろうことか虐げてきた報いを、彼らはこれから一生をかけて受けるだけのこと。君が気に病む必要などどこにもない」
私を見つめるアレクシス様の金の瞳が、一瞬だけ鋭く冷徹な光を帯びる。けれど、次に私と視線がぶつかった瞬間、その瞳はまるで極上の砂糖菓子のように甘く、そして抗いようがないほどひどく熱いものへと変わった。
「セバス。今すぐバーンズ伯爵家へ使いを出せ。……内容はこうだ。『我が妻レティシアは、ヴォルフェン領を長年蝕んでいた呪いを解いた、真なる奇跡の聖女である。貴様らのような欲に塗れた下衆が、二度と気安く触れていい存在ではない。もしこれ以上、彼女との接触を試みる愚行を犯すなら、ヴォルフェン公爵家の総力を挙げ、一族郎党ことごとく叩き潰す』とな」
傍らに控えていた老執事のセバスが、主人からの苛烈な命を待ち望んでいたかのように、満足げな笑みを浮かべて深く頭を下げた。 「御意に。公爵家が誇る最高に冷徹で、慈悲のかけらもない書面を、私の名において迅速に用意いたしましょう。どうぞお任せください」
実家へ叩きつけられる、決別という名の絶縁状。それは、私がこれまで過ごしてきた地獄のような日々から、完全に解き放たれ、自由を手にした決定的な瞬間だった。
「さて、レティシア。過去の清算はこれで終わりだ。大切なのは、君と俺のこれからの時間だろう?」
アレクシス様は、サイドテーブルに山のように積まれた宝石箱の中から、一際大きく、燃えるような輝きを放つ深紅の石がついた指輪を手に取った。そして、私の右手の薬指をそっと掬い上げると、ゆっくりと、けれど二度と逃がさないという強い執着と意志を込めて、その指輪を根元まで嵌める。
「君はもう、身代わりの生贄などではない。俺の呪いを解き、この城に輝かしい光を連れてきてくれた、俺の――生涯ただ一人の、最愛の妻だ」
熱っぽい吐息が指先に触れたかと思うと、アレクシス様が誓いの儀式のように、私の指先に柔らかな口づけを落とした。
「ひゃっ……!?」 「顔を上げろ、レティシア。君はこの土地を救った救世主だ。これから領民たちにも、新しく誕生した公爵夫人の麗しき姿を披露しなければならない。君がその手で隅々まで磨き上げてくれたこの美しい城で、誰よりも盛大な夜会を開こう」
仮面を脱ぎ捨てたアレクシス様の、この世のものとは思えないほど美しい素顔が、至近距離で優しく微笑んでいる。 昨日まで「いっそ死んでしまいたい」とさえ絶望していた私のモノクロの世界が、彼の手によって、こんなにも鮮やかで幸福な色彩に塗り替えられていく。
(……ああ。どんなに辛くても、お掃除を一生懸命頑張ってきて、本当によかった)
私の授かった『浄化』の力は、ただ単に物理的な汚れを落とすだけのものではなかったのだ。この人の抱えていた深い孤独を、そして私の凍りついた心をも、温かく溶かしてしまったのだから。
一方、その頃。 バーンズ伯爵家では、公爵家からの無慈悲な「絶縁」と「宣戦布告」の知らせを聞き、姉のミランダが、足の踏み場もなく汚臭の漂う荒れ果てた自室で、狂ったように叫び声を上げ続けていた。だが、その醜い叫びが幸せの絶頂にいるレティシアの耳に届くことは、未来永劫二度となかった。
――これが、光に満ちた私たちの新しい人生の幕開け。 そして、私を捨てて踏みにじった者たちへの、逃げ場のない終わりの始まり。」
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【第1章:絶望と運命の出会い】・完
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最後まで読んでいただきありがとうございます!
物語はいよいよ、ここから怒涛の第2章へと突入いたします。 捨てられた令嬢レティシアの快進撃は、城を飛び出し、領地全体へと広がっていきます!
次章からの見どころを少しだけご紹介……✨
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【第2章:幸せな領地生活編】
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◆レティシアの「お掃除魔法」が領地全域へ! 枯れた大地が花で埋め尽くされ、病に苦しむ領民たちを救う。 無能と呼ばれた少女が、いつしか国の『至宝』へと……。
◆死神公爵のデレが止まらない! 「君が美しすぎて、外に出したくない……」 不器用なアレクシス様の、愛が重すぎる溺愛生活がスタート!
◆一方その頃、実家は……(ざまぁ要素増量!) レティシアという守り手を失い、ゴミ屋敷と化した伯爵家。 没落の足音が近づく中、彼らが仕掛ける最後の悪あがきとは!?
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この先の「大逆転劇」と「極上の溺愛」を、ぜひ見届けていただけますと幸いです!
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