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第四章:没落家族の再来と、真の幸福編
第四十七話 伝説の結婚式(後編)
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ヴォルフェン公爵城の広大な大広間は、もはや一つの小国家を丸ごと飲み込むほどの熱気に包まれていた。
中央には、どこまでも続くかのような純白の絨毯が敷かれ、その上をアレクシスとレティシアがゆっくりと歩みを進める。アレクシスの漆黒の礼装と、レティシアの光り輝くドレスが、美しいコントラストを描き出していた。
参列者の顔ぶれは豪華そのものだ。
王都からは国王自らが臨席し、隣国ガザリア帝国からは呪いを解かれた皇帝夫妻が「救世主」への敬意を込めた宝飾品を携えて訪れている。さらに、レティシアに心を洗われたバルガス司教率いる教会の面々が、これまでの傲慢さを捨て、清らかな賛美歌を捧げていた。
しかし、その華やかな祝祭の陰で、蠢く悪意があった。
(……ふん、聖女だか何だか知らんが、これほど無防備に姿を晒すとは。好都合だ)
参列者に紛れ込んだ数人の男たちが、互いに視線を交わす。彼らは、レティシアの「浄化の力」が世界市場を揺るがすことを恐れた、大陸規模の地下組織が放った暗殺者と魔術師の混成部隊だった。
彼らにとって、汚れを払う力は商売敵でしかない。病や呪い、腐敗があるからこそ、高い薬や闇の魔石が売れるのだ。
「……今だ。ヴォルフェン領の空気を『反転』させろ。清浄であればあるほど、毒は回る」
主賓席でアレクシスとレティシアが誓いのキスを交わそうとした、その瞬間だった。
大広間の四隅に隠されていた黒い魔石が一斉に起動し、どす黒い瘴気が噴き出した。
「な、なんだ!? 煙か!?」
「くっ、息が……。体が動かない!」
悲鳴が上がる。それは、人々の「嫉妬」や「恐怖」といった負の感情を増幅させ、肉体を内側から腐らせる禁忌の呪毒だった。平和に慣れきっていた参列者たちは、一瞬にしてパニックに陥る。
アレクシスは瞬時にレティシアを背後に庇い、魔剣を引き抜いた。
彼の目には、かつての「死神」以上の冷徹な殺意が宿っている。
「……よりによって、今日この日を選ぶとは。貴様ら、灰すら残さぬ覚悟はできているな?」
アレクシスが剣を振るおうとしたその時、レティシアが彼の腕をそっと抑えた。
「アレクシス様、待ってください。……今日は、血を流してはいけません」
「レティシア、しかしこの毒は……!」
「大丈夫です。……こんなにたくさんのお客様が来てくださったんですもの。最高の『お土産』を持ち帰っていただかなきゃ」
レティシアはアレクシスの前から一歩前に出ると、両手を高く掲げた。
彼女の脳裏には、かつてエルフォート家の物置で一人、汚れを落とすことだけを楽しみにしていた日々の記憶が浮かんでいた。あの頃の孤独な掃除とは違う。今は、守りたい人がいて、愛してくれる人がいる。
「……私の大好きなこの街を、この時間を、汚すことは許しません」
レティシアが静かに目を閉じると、彼女の足元から、黄金色を帯びた「清浄の波」が同心円状に広がっていった。
「お掃除聖女の奥義――『世界規模大清掃』!!」
――ドォォォォォォン!!
それは、もはや魔法という言葉では形容しきれない、概念的な「浄化」の爆発だった。
大広間を埋め尽くしていた黒い瘴気が、光に触れた瞬間に「良い香り」のする花の欠片へと変質していく。暗殺者たちが握っていた毒のナイフは錆びて崩れ落ち、彼らの心の中にあった汚い野心までもが、泡となって溶けていく。
光の波は城を飛び出し、ヴォルフェン領全域、さらには国境を超えて広がっていった。
街中のドブ川は瞬時に透き通り、森の枯れ木には新緑が芽吹き、病に伏せていた子供たちが、まるで魔法が解けたかのように立ち上がる。
「……ああ、なんてことだ。……世界が、洗われていく……」
参列者の誰かが呟いた。
光が収まった時、大広間は以前よりもさらに美しく、神聖な静寂に包まれていた。
暗殺者たちは、もはや戦う気力さえ失い、その場に泣き崩れていた。
「……俺は、何をしていたんだ。……あんなに綺麗な光を見たら、もう、汚いことなんて考えられない……」
レティシアは少し息を切らしながらも、満足げに微笑んだ。
そして、隣に立つアレクシスを見上げる。アレクシスは、開いた口が塞がらないといった様子で、愛する妻の規格外の力を見つめていた。
「……レティシア、君は本当に……。世界中を掃除してしまったのか?」
「ふふ、ちょっと張り切りすぎちゃいました。……でも、これで邪魔者はもういませんね?」
アレクシスは、呆れたように、しかしこれ以上ないほど深い愛しさを込めて、彼女の腰を引き寄せた。
「ああ。……これでお掃除は完了だ。あとは、俺と君の『誓い』だけだな」
万雷の拍手。
さきほどの恐怖などなかったかのように、人々は総立ちになり、この「奇跡の聖女」を称賛した。
アレクシスは、レティシアのベールをゆっくりと持ち上げる。
呪いの消えた黄金の瞳と、愛に満ちた蒼い瞳が重なり合った。
「生涯、君だけを愛し、守り、君が磨くこの世界を共に歩もう。……愛している、レティシア」
「私も……私も、アレクシス様を愛しています。一生、おそばでピカピカに磨かせてください!」
二人の唇が重なった瞬間、地龍と天龍が再び空へ舞い上がり、光の粉を世界中に振りまいた。
それは、大陸の歴史上、最も「綺麗」で、最も「幸せ」な、伝説の結婚式となった。
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【第四十八話の予告】
結婚式から数年後。
ヴォルフェン領は「世界の中心」と呼ばれ、かつてない繁栄を極めていました。
そこには、元気に駆け回る「小さな掃除屋たち(二人の子供)」の姿が……!?
幸せの絶頂にあるヴォルフェン家。しかし、アレクシスの過保護と独占欲は、子供たちに対しても遺憾なく発揮されていて!??
中央には、どこまでも続くかのような純白の絨毯が敷かれ、その上をアレクシスとレティシアがゆっくりと歩みを進める。アレクシスの漆黒の礼装と、レティシアの光り輝くドレスが、美しいコントラストを描き出していた。
参列者の顔ぶれは豪華そのものだ。
王都からは国王自らが臨席し、隣国ガザリア帝国からは呪いを解かれた皇帝夫妻が「救世主」への敬意を込めた宝飾品を携えて訪れている。さらに、レティシアに心を洗われたバルガス司教率いる教会の面々が、これまでの傲慢さを捨て、清らかな賛美歌を捧げていた。
しかし、その華やかな祝祭の陰で、蠢く悪意があった。
(……ふん、聖女だか何だか知らんが、これほど無防備に姿を晒すとは。好都合だ)
参列者に紛れ込んだ数人の男たちが、互いに視線を交わす。彼らは、レティシアの「浄化の力」が世界市場を揺るがすことを恐れた、大陸規模の地下組織が放った暗殺者と魔術師の混成部隊だった。
彼らにとって、汚れを払う力は商売敵でしかない。病や呪い、腐敗があるからこそ、高い薬や闇の魔石が売れるのだ。
「……今だ。ヴォルフェン領の空気を『反転』させろ。清浄であればあるほど、毒は回る」
主賓席でアレクシスとレティシアが誓いのキスを交わそうとした、その瞬間だった。
大広間の四隅に隠されていた黒い魔石が一斉に起動し、どす黒い瘴気が噴き出した。
「な、なんだ!? 煙か!?」
「くっ、息が……。体が動かない!」
悲鳴が上がる。それは、人々の「嫉妬」や「恐怖」といった負の感情を増幅させ、肉体を内側から腐らせる禁忌の呪毒だった。平和に慣れきっていた参列者たちは、一瞬にしてパニックに陥る。
アレクシスは瞬時にレティシアを背後に庇い、魔剣を引き抜いた。
彼の目には、かつての「死神」以上の冷徹な殺意が宿っている。
「……よりによって、今日この日を選ぶとは。貴様ら、灰すら残さぬ覚悟はできているな?」
アレクシスが剣を振るおうとしたその時、レティシアが彼の腕をそっと抑えた。
「アレクシス様、待ってください。……今日は、血を流してはいけません」
「レティシア、しかしこの毒は……!」
「大丈夫です。……こんなにたくさんのお客様が来てくださったんですもの。最高の『お土産』を持ち帰っていただかなきゃ」
レティシアはアレクシスの前から一歩前に出ると、両手を高く掲げた。
彼女の脳裏には、かつてエルフォート家の物置で一人、汚れを落とすことだけを楽しみにしていた日々の記憶が浮かんでいた。あの頃の孤独な掃除とは違う。今は、守りたい人がいて、愛してくれる人がいる。
「……私の大好きなこの街を、この時間を、汚すことは許しません」
レティシアが静かに目を閉じると、彼女の足元から、黄金色を帯びた「清浄の波」が同心円状に広がっていった。
「お掃除聖女の奥義――『世界規模大清掃』!!」
――ドォォォォォォン!!
それは、もはや魔法という言葉では形容しきれない、概念的な「浄化」の爆発だった。
大広間を埋め尽くしていた黒い瘴気が、光に触れた瞬間に「良い香り」のする花の欠片へと変質していく。暗殺者たちが握っていた毒のナイフは錆びて崩れ落ち、彼らの心の中にあった汚い野心までもが、泡となって溶けていく。
光の波は城を飛び出し、ヴォルフェン領全域、さらには国境を超えて広がっていった。
街中のドブ川は瞬時に透き通り、森の枯れ木には新緑が芽吹き、病に伏せていた子供たちが、まるで魔法が解けたかのように立ち上がる。
「……ああ、なんてことだ。……世界が、洗われていく……」
参列者の誰かが呟いた。
光が収まった時、大広間は以前よりもさらに美しく、神聖な静寂に包まれていた。
暗殺者たちは、もはや戦う気力さえ失い、その場に泣き崩れていた。
「……俺は、何をしていたんだ。……あんなに綺麗な光を見たら、もう、汚いことなんて考えられない……」
レティシアは少し息を切らしながらも、満足げに微笑んだ。
そして、隣に立つアレクシスを見上げる。アレクシスは、開いた口が塞がらないといった様子で、愛する妻の規格外の力を見つめていた。
「……レティシア、君は本当に……。世界中を掃除してしまったのか?」
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アレクシスは、呆れたように、しかしこれ以上ないほど深い愛しさを込めて、彼女の腰を引き寄せた。
「ああ。……これでお掃除は完了だ。あとは、俺と君の『誓い』だけだな」
万雷の拍手。
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アレクシスは、レティシアのベールをゆっくりと持ち上げる。
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「私も……私も、アレクシス様を愛しています。一生、おそばでピカピカに磨かせてください!」
二人の唇が重なった瞬間、地龍と天龍が再び空へ舞い上がり、光の粉を世界中に振りまいた。
それは、大陸の歴史上、最も「綺麗」で、最も「幸せ」な、伝説の結婚式となった。
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【第四十八話の予告】
結婚式から数年後。
ヴォルフェン領は「世界の中心」と呼ばれ、かつてない繁栄を極めていました。
そこには、元気に駆け回る「小さな掃除屋たち(二人の子供)」の姿が……!?
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