ゴーストスロッター

クランキー

文字サイズ
小 中 大 特大
113 / 138
【第5章(最終章)】

■第113話 : ちっぽけなプライド

「やっぱり何も知らなかったんだ。そんなことだろうとは思ったけど」

すっかり黙り込んでしまった優司に、さらに御子神が言葉を続ける。

「この街で優司君がどういうふうに言われてるか、どんな噂を立てられてるか、これで大体わかったでしょ?」

「……」

「土屋君という人間がどういう人間かすべてわかった上で手を組んでる、って。お金のためとか、自分のやりたいパチスロ勝負のために、あれだけひどいことをした人間たちと仲良くやってる、って」

「そ、そんな……。
 だから、俺は何も知らなかったんだって! なんでそんなデマがっ?」

「多分土屋君でしょうね。彼が噂を流したんだと思う。
 そうやって優司君の立場を悪くしとけば、優司君が心変わりして自分達を裏切ろうとしても裏切れないはずだ、とでも思ったんでしょ。
 現に、今の状況じゃ優司君の行き場所なんてないもんね」

「あ…………」

優司は再び絶望した表情を浮かべた。

(無意味に日高をボコボコにした奴と、俺は平然と組んでると思われてる……。これじゃもう戻れるわけない……)

声にならない声で、ブツブツと口ごもる優司。

そんな優司の様子を眺めながら一つ大きなため息を吐く御子神。

「そこまで露骨に落ち込まないでよね。こっちまで気が滅入ってきちゃう」

「……」

「考えてもみてよ。私がわざわざこんなこと言うためだけに呼び止めたと思う?
 辛い現実だけ伝えて、はい、じゃあ後は頑張ってね、なんて言って帰ると思う?」

「え……?」

「どうしてもっていうなら、助けてあげるわよ」

「助ける……?」

「そう」

「なんで……なんで俺を助けようとするの?」

「……見ちゃったのよね、実は。君が土屋君たちに勧誘されてるところを。
 あれでしょ? あの公園で私と別れた後、ベンチに座ったままの優司君のところに土屋君たち3人が現れたのよね?」

優司は、伏し目がちに黙って頷いた。

「その時、私はまだあの場から立ち去っていなかったの。公園に入ろうとしてるのが土屋君たちだってわかって、木陰に隠れて様子を窺ってたのよ。
 そしたら、まんまとベンチに座ったままの君と接触してた」

「……」

「でもその時は、私には関係のないことだと思ったわ。こんなオオゴトになるとは考えなくて。
 少し様子を見てたけど、そのまますぐに帰ったの。
 そうしたら……1ヵ月経った今、君のことがやたらと話題になってた。ウチのお客さん、スロット打つ人多いしね」

「……」

「街での君の噂、凄いよ。優司君、とてつもなくひどい人間みたいに言われてる。
 そんな噂を耳にして、なんか哀れに思えてきたの。私は土屋君の性格を知ってるから、小手先の嘘を駆使して優司君を騙したんだろうなってわかったけど、街の人はそこまでわからないもんね。
 ……とにかく、土屋君と優司君が初めて会ったあの時に、私が止めてあげてるか、もしくは一言くらい忠告してれば、こんなことにはならなかったかな、ってちょっと思ったの。要は、少し責任を感じてるのよ」

黙りこくりながら、「案外いい人なんだな」と感じる優司。

神崎とのスロ勝負ができるからという誘惑に負けて、得体の知れない連中と組んだ自分が悪いだけで、別に御子神が責任を感じることじゃないのに、と。

常にツンケンしていて、キツいイメージしか持っていなかったが、内面ではお人好しな部分もあるのだな、と優司は思った。

優司が一向に口を開く素振りを見せないので、ひたすら御子神が喋り続ける。

「そういうわけで、少しくらいなら手を貸そうかなって思ってさ。今日ここで偶然会ったのも何かの縁だしね。
 だから、優司君が望むなら、土屋君には私から話をしてグループを抜けさせてあげるし、日高君たちとの仲も取り持つわ」

「えっ……? そ、そんなことまでやってく――」

そんなことまでやってくれるの? と言いかけて、なんとか踏みとどまった。

(待てよ俺……。
 つまりどういうことだ? 今まで散々意地張ってきて、自分のやりたいようにやってきた。でも、ここへきて困ったことになってきた。そんな時に、ほとんど自分と無関係の女から勝手に同情されて、『助けてあげようか』って言われて、これ幸いとばかりにそれにすがって全部うまいこと解決してもらおうっていう……そういうことか?
 じょ、冗談じゃない! なんだよそれ! それじゃカッコ悪すぎるだろ!)

御子神の思いもよらない嬉しい申し出に、思わず笑顔になりかけた優司。

しかし、立ち止まって冷静に考えてみると、この申し出は優司としては到底受けられるものではない。

この場で一言、「お願いします」と言えれば楽なことは優司にもわかっていた。

土屋と話をつけて自分をグループから抜けさせ、日高に本当のことを伝えて仲を取り持つ。
確かに、御子神がそれを実現できる女であることは間違いない。

広瀬ですら恐れ入ってしまうほどの女で、この街ではかなりの有名人だということを以前に知った。

あの傍若無人な鴻上でさえ、御子神を見た時には顔色を変え、抗うことをやめたほど。

とにかくやたら有名で、名も通っている。
ステータスの高い人間たちとの繋がりも多いようだ。

この『御子神留依』という女に頭を下げて全てを託せば、万事うまく事が進むであろうことは容易に想像できる。

しかし、それでは今まで自分がやってきたことが全て無駄になる。

そしてそれ以上に、いざ困ったら最後は女に頼る、という最高に格好の悪い失態を演じることになる。

こんなことでは、一旦日高たちと元通りの関係になれたように見えても、どこかギクシャクしてしまうはず。
スッキリと万事解決となるわけがない。

自分の努力で掴んだものではなく、他人の気まぐれで偶然掴めたようなものは、所詮まがい物。
本物ではない。
つまり、脆く崩れ去ってしまいやすいもの。

優司は、本能的にそのことをわかっていた。

そして、持ち前の妙なプライドの高さも邪魔をしていた。
ほぼ無関係な女からの憐れみからくる助け舟に、ほいほいと乗れるわけがない、と。

「どうしたの? 急に止まっちゃって」

一瞬笑顔になりかけるも急に黙り込んでしまった優司を不審に思い、声をかける御子神。
しかし、なおも優司は黙りこくる。

「ねぇ、なんで黙ってるのよ。日高君たちのところに戻りたいんでしょ?
 だったら、もうパチスロ勝負なんて子供じみたことに拘るのはやめて、土屋君たちのところから離れなよ。
 今も言った通り、土屋君のグループから抜けるのも、日高君たちのところへ戻るのも、私が協力するから。素直になったら?」

「……」

「ねぇ、なんとか言いなさいよ」

「……悪いけど、遠慮しとくよ」

「はっ? な、なんで……?」

「女にはわからないよ」

「な、なんなのよそれ……」

「いろいろ心配してくれてありがとう。それは本当に嬉しいよ。
 でも、そんなことは頼めない。自分で何とかする」

「自分でなんとかできそうもないってわかってるから、さっきだってあんなにうなだれて歩いてたんでしょ? 涙目にまでなって!
 なんでそんなに無駄な意地を張るの?」

「…………」

軽く身を震わせながら、黙って俯いている優司。
そんな状態に業を煮やし、勢いよく立ち上がる御子神。

「ほんっっっっと意地っ張りなのねあなたって! 信じらんない! 変なプライドに拘り過ぎなのよ!
 もう勝手にすればっ?」

御子神は、そのまま振り返りもせずに店を出て行った。

一人残された優司は、まだ一口も飲んでいないすっかり冷めたホットコーヒーをボーっと眺めている。

(俺だって……本当は頼みたいよ。パチスロ勝負だってもうやめたっていい。それで土屋たちと切れて、みんなのところへ戻れるなら……。また元通りになるなら……。
 でも……そんな身勝手でカッコ悪いことができるわけないじゃんよ。
 クソッ……! クソッ…………! 」

行き詰った優司は、拳を握りテーブルに強く叩きつけた。
ドン! という音が、店内に虚しく響き渡った。 
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~ 表紙

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。
恋愛 完結 ショートショート
文字数 9,943
女風体験記〜今話題の女性用風俗に行ってきたので感想載せます〜 表紙

女風体験記〜今話題の女性用風俗に行ってきたので感想載せます〜

女風に行った感想書いちゃうよ! (あくまでも私が体験したことです。全てのセラピスト様が同じ様な施術をしてるわけでは無いと思います。)
恋愛 完結 短編
文字数 10,166
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか... 表紙

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。
青春 完結 短編
文字数 11,294
百合ランジェリーカフェにようこそ! 表紙

百合ランジェリーカフェにようこそ!

 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
青春 連載中 長編 R15
文字数 59,023
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。 表紙

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。
恋愛 完結 短編 R15
文字数 1,856
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。 表紙

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
青春 連載中 長編 R15
文字数 31,050
還暦の性 若い彼との恋愛模様 表紙

還暦の性 若い彼との恋愛模様

還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話
恋愛 完結 短編
文字数 12,614
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。 表紙

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ファンタジー 完結 長編 R15
文字数 564,689