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【第5章(最終章)】
■第113話 : ちっぽけなプライド
「やっぱり何も知らなかったんだ。そんなことだろうとは思ったけど」
すっかり黙り込んでしまった優司に、さらに御子神が言葉を続ける。
「この街で優司君がどういうふうに言われてるか、どんな噂を立てられてるか、これで大体わかったでしょ?」
「……」
「土屋君という人間がどういう人間かすべてわかった上で手を組んでる、って。お金のためとか、自分のやりたいパチスロ勝負のために、あれだけひどいことをした人間たちと仲良くやってる、って」
「そ、そんな……。
だから、俺は何も知らなかったんだって! なんでそんなデマがっ?」
「多分土屋君でしょうね。彼が噂を流したんだと思う。
そうやって優司君の立場を悪くしとけば、優司君が心変わりして自分達を裏切ろうとしても裏切れないはずだ、とでも思ったんでしょ。
現に、今の状況じゃ優司君の行き場所なんてないもんね」
「あ…………」
優司は再び絶望した表情を浮かべた。
(無意味に日高をボコボコにした奴と、俺は平然と組んでると思われてる……。これじゃもう戻れるわけない……)
声にならない声で、ブツブツと口ごもる優司。
そんな優司の様子を眺めながら一つ大きなため息を吐く御子神。
「そこまで露骨に落ち込まないでよね。こっちまで気が滅入ってきちゃう」
「……」
「考えてもみてよ。私がわざわざこんなこと言うためだけに呼び止めたと思う?
辛い現実だけ伝えて、はい、じゃあ後は頑張ってね、なんて言って帰ると思う?」
「え……?」
「どうしてもっていうなら、助けてあげるわよ」
「助ける……?」
「そう」
「なんで……なんで俺を助けようとするの?」
「……見ちゃったのよね、実は。君が土屋君たちに勧誘されてるところを。
あれでしょ? あの公園で私と別れた後、ベンチに座ったままの優司君のところに土屋君たち3人が現れたのよね?」
優司は、伏し目がちに黙って頷いた。
「その時、私はまだあの場から立ち去っていなかったの。公園に入ろうとしてるのが土屋君たちだってわかって、木陰に隠れて様子を窺ってたのよ。
そしたら、まんまとベンチに座ったままの君と接触してた」
「……」
「でもその時は、私には関係のないことだと思ったわ。こんなオオゴトになるとは考えなくて。
少し様子を見てたけど、そのまますぐに帰ったの。
そうしたら……1ヵ月経った今、君のことがやたらと話題になってた。ウチのお客さん、スロット打つ人多いしね」
「……」
「街での君の噂、凄いよ。優司君、とてつもなくひどい人間みたいに言われてる。
そんな噂を耳にして、なんか哀れに思えてきたの。私は土屋君の性格を知ってるから、小手先の嘘を駆使して優司君を騙したんだろうなってわかったけど、街の人はそこまでわからないもんね。
……とにかく、土屋君と優司君が初めて会ったあの時に、私が止めてあげてるか、もしくは一言くらい忠告してれば、こんなことにはならなかったかな、ってちょっと思ったの。要は、少し責任を感じてるのよ」
黙りこくりながら、「案外いい人なんだな」と感じる優司。
神崎とのスロ勝負ができるからという誘惑に負けて、得体の知れない連中と組んだ自分が悪いだけで、別に御子神が責任を感じることじゃないのに、と。
常にツンケンしていて、キツいイメージしか持っていなかったが、内面ではお人好しな部分もあるのだな、と優司は思った。
優司が一向に口を開く素振りを見せないので、ひたすら御子神が喋り続ける。
「そういうわけで、少しくらいなら手を貸そうかなって思ってさ。今日ここで偶然会ったのも何かの縁だしね。
だから、優司君が望むなら、土屋君には私から話をしてグループを抜けさせてあげるし、日高君たちとの仲も取り持つわ」
「えっ……? そ、そんなことまでやってく――」
そんなことまでやってくれるの? と言いかけて、なんとか踏みとどまった。
(待てよ俺……。
つまりどういうことだ? 今まで散々意地張ってきて、自分のやりたいようにやってきた。でも、ここへきて困ったことになってきた。そんな時に、ほとんど自分と無関係の女から勝手に同情されて、『助けてあげようか』って言われて、これ幸いとばかりにそれにすがって全部うまいこと解決してもらおうっていう……そういうことか?
じょ、冗談じゃない! なんだよそれ! それじゃカッコ悪すぎるだろ!)
御子神の思いもよらない嬉しい申し出に、思わず笑顔になりかけた優司。
しかし、立ち止まって冷静に考えてみると、この申し出は優司としては到底受けられるものではない。
この場で一言、「お願いします」と言えれば楽なことは優司にもわかっていた。
土屋と話をつけて自分をグループから抜けさせ、日高に本当のことを伝えて仲を取り持つ。
確かに、御子神がそれを実現できる女であることは間違いない。
広瀬ですら恐れ入ってしまうほどの女で、この街ではかなりの有名人だということを以前に知った。
あの傍若無人な鴻上でさえ、御子神を見た時には顔色を変え、抗うことをやめたほど。
とにかくやたら有名で、名も通っている。
ステータスの高い人間たちとの繋がりも多いようだ。
この『御子神留依』という女に頭を下げて全てを託せば、万事うまく事が進むであろうことは容易に想像できる。
しかし、それでは今まで自分がやってきたことが全て無駄になる。
そしてそれ以上に、いざ困ったら最後は女に頼る、という最高に格好の悪い失態を演じることになる。
こんなことでは、一旦日高たちと元通りの関係になれたように見えても、どこかギクシャクしてしまうはず。
スッキリと万事解決となるわけがない。
自分の努力で掴んだものではなく、他人の気まぐれで偶然掴めたようなものは、所詮まがい物。
本物ではない。
つまり、脆く崩れ去ってしまいやすいもの。
優司は、本能的にそのことをわかっていた。
そして、持ち前の妙なプライドの高さも邪魔をしていた。
ほぼ無関係な女からの憐れみからくる助け舟に、ほいほいと乗れるわけがない、と。
「どうしたの? 急に止まっちゃって」
一瞬笑顔になりかけるも急に黙り込んでしまった優司を不審に思い、声をかける御子神。
しかし、なおも優司は黙りこくる。
「ねぇ、なんで黙ってるのよ。日高君たちのところに戻りたいんでしょ?
だったら、もうパチスロ勝負なんて子供じみたことに拘るのはやめて、土屋君たちのところから離れなよ。
今も言った通り、土屋君のグループから抜けるのも、日高君たちのところへ戻るのも、私が協力するから。素直になったら?」
「……」
「ねぇ、なんとか言いなさいよ」
「……悪いけど、遠慮しとくよ」
「はっ? な、なんで……?」
「女にはわからないよ」
「な、なんなのよそれ……」
「いろいろ心配してくれてありがとう。それは本当に嬉しいよ。
でも、そんなことは頼めない。自分で何とかする」
「自分でなんとかできそうもないってわかってるから、さっきだってあんなにうなだれて歩いてたんでしょ? 涙目にまでなって!
なんでそんなに無駄な意地を張るの?」
「…………」
軽く身を震わせながら、黙って俯いている優司。
そんな状態に業を煮やし、勢いよく立ち上がる御子神。
「ほんっっっっと意地っ張りなのねあなたって! 信じらんない! 変なプライドに拘り過ぎなのよ!
もう勝手にすればっ?」
御子神は、そのまま振り返りもせずに店を出て行った。
一人残された優司は、まだ一口も飲んでいないすっかり冷めたホットコーヒーをボーっと眺めている。
(俺だって……本当は頼みたいよ。パチスロ勝負だってもうやめたっていい。それで土屋たちと切れて、みんなのところへ戻れるなら……。また元通りになるなら……。
でも……そんな身勝手でカッコ悪いことができるわけないじゃんよ。
クソッ……! クソッ…………! 」
行き詰った優司は、拳を握りテーブルに強く叩きつけた。
ドン! という音が、店内に虚しく響き渡った。
すっかり黙り込んでしまった優司に、さらに御子神が言葉を続ける。
「この街で優司君がどういうふうに言われてるか、どんな噂を立てられてるか、これで大体わかったでしょ?」
「……」
「土屋君という人間がどういう人間かすべてわかった上で手を組んでる、って。お金のためとか、自分のやりたいパチスロ勝負のために、あれだけひどいことをした人間たちと仲良くやってる、って」
「そ、そんな……。
だから、俺は何も知らなかったんだって! なんでそんなデマがっ?」
「多分土屋君でしょうね。彼が噂を流したんだと思う。
そうやって優司君の立場を悪くしとけば、優司君が心変わりして自分達を裏切ろうとしても裏切れないはずだ、とでも思ったんでしょ。
現に、今の状況じゃ優司君の行き場所なんてないもんね」
「あ…………」
優司は再び絶望した表情を浮かべた。
(無意味に日高をボコボコにした奴と、俺は平然と組んでると思われてる……。これじゃもう戻れるわけない……)
声にならない声で、ブツブツと口ごもる優司。
そんな優司の様子を眺めながら一つ大きなため息を吐く御子神。
「そこまで露骨に落ち込まないでよね。こっちまで気が滅入ってきちゃう」
「……」
「考えてもみてよ。私がわざわざこんなこと言うためだけに呼び止めたと思う?
辛い現実だけ伝えて、はい、じゃあ後は頑張ってね、なんて言って帰ると思う?」
「え……?」
「どうしてもっていうなら、助けてあげるわよ」
「助ける……?」
「そう」
「なんで……なんで俺を助けようとするの?」
「……見ちゃったのよね、実は。君が土屋君たちに勧誘されてるところを。
あれでしょ? あの公園で私と別れた後、ベンチに座ったままの優司君のところに土屋君たち3人が現れたのよね?」
優司は、伏し目がちに黙って頷いた。
「その時、私はまだあの場から立ち去っていなかったの。公園に入ろうとしてるのが土屋君たちだってわかって、木陰に隠れて様子を窺ってたのよ。
そしたら、まんまとベンチに座ったままの君と接触してた」
「……」
「でもその時は、私には関係のないことだと思ったわ。こんなオオゴトになるとは考えなくて。
少し様子を見てたけど、そのまますぐに帰ったの。
そうしたら……1ヵ月経った今、君のことがやたらと話題になってた。ウチのお客さん、スロット打つ人多いしね」
「……」
「街での君の噂、凄いよ。優司君、とてつもなくひどい人間みたいに言われてる。
そんな噂を耳にして、なんか哀れに思えてきたの。私は土屋君の性格を知ってるから、小手先の嘘を駆使して優司君を騙したんだろうなってわかったけど、街の人はそこまでわからないもんね。
……とにかく、土屋君と優司君が初めて会ったあの時に、私が止めてあげてるか、もしくは一言くらい忠告してれば、こんなことにはならなかったかな、ってちょっと思ったの。要は、少し責任を感じてるのよ」
黙りこくりながら、「案外いい人なんだな」と感じる優司。
神崎とのスロ勝負ができるからという誘惑に負けて、得体の知れない連中と組んだ自分が悪いだけで、別に御子神が責任を感じることじゃないのに、と。
常にツンケンしていて、キツいイメージしか持っていなかったが、内面ではお人好しな部分もあるのだな、と優司は思った。
優司が一向に口を開く素振りを見せないので、ひたすら御子神が喋り続ける。
「そういうわけで、少しくらいなら手を貸そうかなって思ってさ。今日ここで偶然会ったのも何かの縁だしね。
だから、優司君が望むなら、土屋君には私から話をしてグループを抜けさせてあげるし、日高君たちとの仲も取り持つわ」
「えっ……? そ、そんなことまでやってく――」
そんなことまでやってくれるの? と言いかけて、なんとか踏みとどまった。
(待てよ俺……。
つまりどういうことだ? 今まで散々意地張ってきて、自分のやりたいようにやってきた。でも、ここへきて困ったことになってきた。そんな時に、ほとんど自分と無関係の女から勝手に同情されて、『助けてあげようか』って言われて、これ幸いとばかりにそれにすがって全部うまいこと解決してもらおうっていう……そういうことか?
じょ、冗談じゃない! なんだよそれ! それじゃカッコ悪すぎるだろ!)
御子神の思いもよらない嬉しい申し出に、思わず笑顔になりかけた優司。
しかし、立ち止まって冷静に考えてみると、この申し出は優司としては到底受けられるものではない。
この場で一言、「お願いします」と言えれば楽なことは優司にもわかっていた。
土屋と話をつけて自分をグループから抜けさせ、日高に本当のことを伝えて仲を取り持つ。
確かに、御子神がそれを実現できる女であることは間違いない。
広瀬ですら恐れ入ってしまうほどの女で、この街ではかなりの有名人だということを以前に知った。
あの傍若無人な鴻上でさえ、御子神を見た時には顔色を変え、抗うことをやめたほど。
とにかくやたら有名で、名も通っている。
ステータスの高い人間たちとの繋がりも多いようだ。
この『御子神留依』という女に頭を下げて全てを託せば、万事うまく事が進むであろうことは容易に想像できる。
しかし、それでは今まで自分がやってきたことが全て無駄になる。
そしてそれ以上に、いざ困ったら最後は女に頼る、という最高に格好の悪い失態を演じることになる。
こんなことでは、一旦日高たちと元通りの関係になれたように見えても、どこかギクシャクしてしまうはず。
スッキリと万事解決となるわけがない。
自分の努力で掴んだものではなく、他人の気まぐれで偶然掴めたようなものは、所詮まがい物。
本物ではない。
つまり、脆く崩れ去ってしまいやすいもの。
優司は、本能的にそのことをわかっていた。
そして、持ち前の妙なプライドの高さも邪魔をしていた。
ほぼ無関係な女からの憐れみからくる助け舟に、ほいほいと乗れるわけがない、と。
「どうしたの? 急に止まっちゃって」
一瞬笑顔になりかけるも急に黙り込んでしまった優司を不審に思い、声をかける御子神。
しかし、なおも優司は黙りこくる。
「ねぇ、なんで黙ってるのよ。日高君たちのところに戻りたいんでしょ?
だったら、もうパチスロ勝負なんて子供じみたことに拘るのはやめて、土屋君たちのところから離れなよ。
今も言った通り、土屋君のグループから抜けるのも、日高君たちのところへ戻るのも、私が協力するから。素直になったら?」
「……」
「ねぇ、なんとか言いなさいよ」
「……悪いけど、遠慮しとくよ」
「はっ? な、なんで……?」
「女にはわからないよ」
「な、なんなのよそれ……」
「いろいろ心配してくれてありがとう。それは本当に嬉しいよ。
でも、そんなことは頼めない。自分で何とかする」
「自分でなんとかできそうもないってわかってるから、さっきだってあんなにうなだれて歩いてたんでしょ? 涙目にまでなって!
なんでそんなに無駄な意地を張るの?」
「…………」
軽く身を震わせながら、黙って俯いている優司。
そんな状態に業を煮やし、勢いよく立ち上がる御子神。
「ほんっっっっと意地っ張りなのねあなたって! 信じらんない! 変なプライドに拘り過ぎなのよ!
もう勝手にすればっ?」
御子神は、そのまま振り返りもせずに店を出て行った。
一人残された優司は、まだ一口も飲んでいないすっかり冷めたホットコーヒーをボーっと眺めている。
(俺だって……本当は頼みたいよ。パチスロ勝負だってもうやめたっていい。それで土屋たちと切れて、みんなのところへ戻れるなら……。また元通りになるなら……。
でも……そんな身勝手でカッコ悪いことができるわけないじゃんよ。
クソッ……! クソッ…………! 」
行き詰った優司は、拳を握りテーブルに強く叩きつけた。
ドン! という音が、店内に虚しく響き渡った。
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