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第三章
湧き上がる嫌悪感
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どうして……?
どうして上手くいかないの?
せっかく国王陛下の寵愛を手に入れて、
私を見下していた側妃たちよりも
優位な立場を手に入れたというのに。
グレアム殿下に続く男児を
産めたかもしれないのに。
授かった御子は生まれてすぐに
儚くなってしまった。
しかも王子ではなかった……。
これまで以上に国王陛下に可愛がっていただいて
次こそは王子を……と思っていた矢先、
陛下が身罷られた。
どうして!?
陛下はまだ50代だったのに!!
せっかく誰にも侮られない立場を
手に入れたというのに……!
陛下が御隠れあそばして早々に、
グレアム殿下は前国王の後宮解散を命じられた。
お父上であった前国王の側妃や妾たちを
軒並み退城させているという。
このままでは私も後宮を追い出される。
実家の両親は既に亡くなって兄の代になり、
わたしの帰る場所では無くなっている。
どうしてこんな事に。
こんなはずでなかったはず。
こんな事ならグレアム殿下の妃のままで
いればよかった。
いやせめて授かったあの子が生きていてれたら、
後宮に残れたかもしれない。
でもそうよ、亡くなってしまったけど、
陛下の子を産んだ事に変わりはないわ。
その事を踏まえてグレアム殿下に
お願いをしてみよう。
もしかしたら、お優しい殿下……違うわね、
もう新国王、陛下だわ。
お優しいグレアム陛下ならもしかして
私を憐れんで妃に戻して下さるかもしれない。
そうよ、きっとそうだわ。
さっそく宮廷女官長を呼んで、
陛下にお目通り出来るように取り計らって貰おう。
大丈夫よ、きっと返り咲ける。
私は大丈夫。大丈夫よ……。
◇◇◇◇◇
前国王の崩御により、
ハイラント=オ=レギオン=グレアムが
第35代ハイラント国王となった。
それと同時に国政の改革を推し進める。
悪しき慣習、無用な制度、無駄な人員を
容赦なく切り捨て、
前国王の治世により一気に腐敗した内政を
立て直した。
と、同時に前国王の後宮も解散させる。
前国王の側妃も妾も全て、早々に退城するように命じた。
そんな中、
後宮女官長からマチルドが目通りを
申し出ている事を告げられる。
今さら何の用だと思ったし、
というか顔も見たくなかったので、
承諾しなかった。
そうしたら次の日もそのまた次の日も
マチルドは後宮女官長を遣わせて
面会を求めて来る。
いい加減鬱陶しくなったので、
ほんの15分だけならと執務室に呼び付けた。
久々に見た元妃の顔は
以前とは別人のようだった。
派手な化粧にキツイ香水の香り。
露出の多い服に媚を売る目つき。
そこにいたのはグレアムの知らない女だった。
〈まぁもうどうでもよい事だが〉
マチルドは挨拶も早々にいきなり目に涙を
浮かべてこう言った。
「グレアム様……全て私が間違っておりました、
亡きお父上に無理矢理迫られ関係を持ちましたが、やはり私にはグレアム様しかおりませぬ……どうか愚かな私に御慈悲を……どうかもう一度貴方様の妃に……どうか、この願い、お聞き届け下さいませ……」
〈………この女は何を言っているんだ?〉
グレアムには目の前にいる女が
何を言っているのか理解出来なかった。
普通に考えてあり得ないだろう事を
この女は口にした。
父が無理矢理?
父の執務室に自ら訪れ、
その日のうちに関係を持った事を知られていない
と思っているのか?
くだらない。
俺はこんな女を守ろうと努力してきたのか。
「………言いたい事はそれだけか?」
「え?」
グレアムは立ち上がり、マチルドを一瞥した。
その目は冷たく、明らかに侮蔑の色を湛えていた。
「俺は忙しい。世迷言に付き合ってる暇はない」
「そんなっ…世迷言だなんてっ……!
酷いですわっ」
そう言ってマチルドは泣き出した。
何をもってこの女は酷いと言うのか?
「私はただ、儚くなったとはいえ、貴方様の妹君を産んだ者として、後宮に残して頂きたいのですっ、でもそれならばもう一度グレアム様の妃に戻して頂かねば立場がないからお願い申し上げているのですっ……グレアム様はいつも私にお優しかった……!もう一度だけお慈悲を下さいますわよねっ……?」
あれほどの裏切り行為を平然としていて、
自らの権利を主張するのか。
しかも後宮に居たいが為に立場に拘り、
泣き言を言えばそれが通ると思っている?
そんな必死になってまで
しがみつきたい場所なのか?後宮とは。
グレアムは心底、目の前のこの女が醜く見えた。
そして同時に嫌悪感が湧き上がる。
同じ部屋で同じ空気も吸いたくない程に。
「……誰かこの女を摘み出せ。
せめてもの慈悲だ。今日中にとは言わん、他の側妃と同様、贅沢をしなければ今後生きてゆけるだけの年金も出してやる。その代わり、二度と俺の前に顔を出すな。そして近日中にさっさと城を出て行け」
「そんなっ!?何故でございますっ!
陛下!どうか私にお慈悲をっ!!」
マチルドはそう言いながらグレアムに縋り付いてきた。
「っ……!」
マチルドに触れられた部位に得もいえない気持ち悪さを感じ、思わず切り捨てたくなった。
グレアムはマチルドを突き飛ばした。
女性へ荒っぽい事をなどしたくはなかったが、
これ以上触れられると剣に手を掛けそうになる。
「寝言は寝て言え。二度と俺の前に姿を現すな。
この国に留まる事は許しやる。
どこかで一生、亡き父上と子どもの御霊を弔っていろ」
「グレアム様っ!?何故っ!?どうしてっ!?」
尚も追い縋ろうとするマチルドを
女官長やマチルドの侍女が力ずくで引き止め、
侍従たちの手を借りて執務室から連れ出した。
マチルドの悲鳴に似た自分を呼ぶ声が
遠退いてゆく。
その声が完全に聞こえなくなるまで、
グレアムは耳を塞いでいた。
理解出来ない。
あれだけの事をしておいて悪びれもなく、
口先だけの謝罪のみを口にし、
その後は自分の願いを押し付けるだけ。
目に涙を浮かべながら、
媚びへつらう視線を向け、甘えたような声を出し、ねだるように懇願してきた。
なんとも言えない気持ち悪さを感じる。
吐き気がする。
反吐が出るとはまさにこの事か。
あんな女だったか?
そんな事はなかったはず。
あそこまで歪められる環境が、
そんな場所がこの城に在るなどと
グレアムは到底許せそうになかった。
どうして上手くいかないの?
せっかく国王陛下の寵愛を手に入れて、
私を見下していた側妃たちよりも
優位な立場を手に入れたというのに。
グレアム殿下に続く男児を
産めたかもしれないのに。
授かった御子は生まれてすぐに
儚くなってしまった。
しかも王子ではなかった……。
これまで以上に国王陛下に可愛がっていただいて
次こそは王子を……と思っていた矢先、
陛下が身罷られた。
どうして!?
陛下はまだ50代だったのに!!
せっかく誰にも侮られない立場を
手に入れたというのに……!
陛下が御隠れあそばして早々に、
グレアム殿下は前国王の後宮解散を命じられた。
お父上であった前国王の側妃や妾たちを
軒並み退城させているという。
このままでは私も後宮を追い出される。
実家の両親は既に亡くなって兄の代になり、
わたしの帰る場所では無くなっている。
どうしてこんな事に。
こんなはずでなかったはず。
こんな事ならグレアム殿下の妃のままで
いればよかった。
いやせめて授かったあの子が生きていてれたら、
後宮に残れたかもしれない。
でもそうよ、亡くなってしまったけど、
陛下の子を産んだ事に変わりはないわ。
その事を踏まえてグレアム殿下に
お願いをしてみよう。
もしかしたら、お優しい殿下……違うわね、
もう新国王、陛下だわ。
お優しいグレアム陛下ならもしかして
私を憐れんで妃に戻して下さるかもしれない。
そうよ、きっとそうだわ。
さっそく宮廷女官長を呼んで、
陛下にお目通り出来るように取り計らって貰おう。
大丈夫よ、きっと返り咲ける。
私は大丈夫。大丈夫よ……。
◇◇◇◇◇
前国王の崩御により、
ハイラント=オ=レギオン=グレアムが
第35代ハイラント国王となった。
それと同時に国政の改革を推し進める。
悪しき慣習、無用な制度、無駄な人員を
容赦なく切り捨て、
前国王の治世により一気に腐敗した内政を
立て直した。
と、同時に前国王の後宮も解散させる。
前国王の側妃も妾も全て、早々に退城するように命じた。
そんな中、
後宮女官長からマチルドが目通りを
申し出ている事を告げられる。
今さら何の用だと思ったし、
というか顔も見たくなかったので、
承諾しなかった。
そうしたら次の日もそのまた次の日も
マチルドは後宮女官長を遣わせて
面会を求めて来る。
いい加減鬱陶しくなったので、
ほんの15分だけならと執務室に呼び付けた。
久々に見た元妃の顔は
以前とは別人のようだった。
派手な化粧にキツイ香水の香り。
露出の多い服に媚を売る目つき。
そこにいたのはグレアムの知らない女だった。
〈まぁもうどうでもよい事だが〉
マチルドは挨拶も早々にいきなり目に涙を
浮かべてこう言った。
「グレアム様……全て私が間違っておりました、
亡きお父上に無理矢理迫られ関係を持ちましたが、やはり私にはグレアム様しかおりませぬ……どうか愚かな私に御慈悲を……どうかもう一度貴方様の妃に……どうか、この願い、お聞き届け下さいませ……」
〈………この女は何を言っているんだ?〉
グレアムには目の前にいる女が
何を言っているのか理解出来なかった。
普通に考えてあり得ないだろう事を
この女は口にした。
父が無理矢理?
父の執務室に自ら訪れ、
その日のうちに関係を持った事を知られていない
と思っているのか?
くだらない。
俺はこんな女を守ろうと努力してきたのか。
「………言いたい事はそれだけか?」
「え?」
グレアムは立ち上がり、マチルドを一瞥した。
その目は冷たく、明らかに侮蔑の色を湛えていた。
「俺は忙しい。世迷言に付き合ってる暇はない」
「そんなっ…世迷言だなんてっ……!
酷いですわっ」
そう言ってマチルドは泣き出した。
何をもってこの女は酷いと言うのか?
「私はただ、儚くなったとはいえ、貴方様の妹君を産んだ者として、後宮に残して頂きたいのですっ、でもそれならばもう一度グレアム様の妃に戻して頂かねば立場がないからお願い申し上げているのですっ……グレアム様はいつも私にお優しかった……!もう一度だけお慈悲を下さいますわよねっ……?」
あれほどの裏切り行為を平然としていて、
自らの権利を主張するのか。
しかも後宮に居たいが為に立場に拘り、
泣き言を言えばそれが通ると思っている?
そんな必死になってまで
しがみつきたい場所なのか?後宮とは。
グレアムは心底、目の前のこの女が醜く見えた。
そして同時に嫌悪感が湧き上がる。
同じ部屋で同じ空気も吸いたくない程に。
「……誰かこの女を摘み出せ。
せめてもの慈悲だ。今日中にとは言わん、他の側妃と同様、贅沢をしなければ今後生きてゆけるだけの年金も出してやる。その代わり、二度と俺の前に顔を出すな。そして近日中にさっさと城を出て行け」
「そんなっ!?何故でございますっ!
陛下!どうか私にお慈悲をっ!!」
マチルドはそう言いながらグレアムに縋り付いてきた。
「っ……!」
マチルドに触れられた部位に得もいえない気持ち悪さを感じ、思わず切り捨てたくなった。
グレアムはマチルドを突き飛ばした。
女性へ荒っぽい事をなどしたくはなかったが、
これ以上触れられると剣に手を掛けそうになる。
「寝言は寝て言え。二度と俺の前に姿を現すな。
この国に留まる事は許しやる。
どこかで一生、亡き父上と子どもの御霊を弔っていろ」
「グレアム様っ!?何故っ!?どうしてっ!?」
尚も追い縋ろうとするマチルドを
女官長やマチルドの侍女が力ずくで引き止め、
侍従たちの手を借りて執務室から連れ出した。
マチルドの悲鳴に似た自分を呼ぶ声が
遠退いてゆく。
その声が完全に聞こえなくなるまで、
グレアムは耳を塞いでいた。
理解出来ない。
あれだけの事をしておいて悪びれもなく、
口先だけの謝罪のみを口にし、
その後は自分の願いを押し付けるだけ。
目に涙を浮かべながら、
媚びへつらう視線を向け、甘えたような声を出し、ねだるように懇願してきた。
なんとも言えない気持ち悪さを感じる。
吐き気がする。
反吐が出るとはまさにこの事か。
あんな女だったか?
そんな事はなかったはず。
あそこまで歪められる環境が、
そんな場所がこの城に在るなどと
グレアムは到底許せそうになかった。
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