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感覚のすべてが……

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歓迎会に突如参加となった情報部の人達と共に会場に現れたブレイク。

経理と総務の女の子達が小さく悲鳴をあげたり喜色満面で色めき立っている。

私は咄嗟に立食式のテーブルで固まって雑談している人達の陰に隠れた。

まさか彼も来るなんて。
どうする?帰る?

でも始まったばかりで帰るのは却って目立つ。
ある程度時間が経って場がわちゃわちゃになった頃にこっそり帰った方が気付かれ難いだろう。

というわけで、歓迎会が始まると私は出来るだけブレイクから離れた人の多い場所などで軽食を摘んだり果実水を飲んだりしていた。

ワンピースマジックのおかげかな?今日はやたらと周りに人がいて丁度壁になってくれて助かる。

彼らが上手く私を隠してくれていた。

その中の一人、本省からの要請で経理に出向して来ている魔道具エンジニアのホーリック氏(27)が私に言った。

「いつも職場で見るアイシャちゃんとは別人のようだよ」

アイシャ…ちゃん?
この人、いつから私の事をファーストネームで呼ぶようになったのかしら?

「……いつもの私は野暮ったいですもんね」

「とんでもない。魔法省のローブを隙なくきっちり着こなすアイシャちゃんの方が俺は好きだよ?」

そう言ったホーリック氏は熱の篭った目で私を見つめてくる。

……そ、その好きはライクかしら?ラブかしら?

救いを求めるように離れたテーブルにいるアルマ先輩の方を見遣ると、
先輩は眉間に皺を寄せて首を横に振っていた。

と、いう事はホーリック氏は既婚者か婚約者持ちか女を食い散らかすタイプかのどれかというわけね。

私は色っぽい流れに持って行かないよう、ここで話題を変える。

「このお料理とっても美味しいですよね」

私はそう言って料理をお皿に取り分けた。

そんな事をしながらもチラリチラリと視線はブレイクを追ってしまう。

着任したばかりで他部署の人間とも積極的に交流を図ろうとしているのだろう、各テーブルを回っている。

ブレイクの周りには常に女の子達がいて、くるくるとよく変わる可愛らしい表情で彼に話掛けていた。


どうしても、目が耳が、感覚の全てが彼を追ってしまう。

そんな事をしても意味がないのに。

思わず小さくため息を吐いたわたしに、同じテーブルにいた人が話し掛けて来た。

「どうしたの?お酒に酔った?大丈夫?」

彼は確か、法務部に配属された同期のベスター氏。
温厚な人柄で勤務態度も真面目で実直らしい。

アルマ先輩の方を見ると、案の定親指を突き立ててゴーサインを出している。

そんな事をいわれましても。

私は努めて冷静にベスター氏に答えた。

「お酒は弱いから呑まないの。これは果実水よ」

「じつは僕も呑めない体質なんだ。だからもっぱら食い専門」

「あら一緒ね。私も払った会費の分は元を取ろうといつも必死で食べてるわ」

「あはは!わかる。僕もだよ。元々食べるのも好きだしね」

「あらそれも一緒だわ」

「じゃあ今度一緒に食事でもどう?美味しいお店を知ってるんだ」

ベスター氏からとても自然な感じでお誘いを受けた。
これは……どういったベクトルで捉えたらいいんだろう。
デートのお誘いと取ってもいいのかしら……?

頭を過ぎるのは悲しいかなブレイクの顔。

でも、いい加減私も彼を忘れて踏み出さなくてはならない。

これは……いいきっかけになる?

アルマ先輩お勧めのベスター氏となら、そのきっかけとやらに踏み出してみるのもいいかもしれないと思った。

そして私が頷こうとしたその時、まだ同じテーブルに居たアルマ先輩がお勧めしないホーリック氏が横槍を入れて来た。

「でもやっぱり呑めないより呑めるようになった方が良くない?上質なお酒だったら意外と呑めた、というのはよく聞く話だよ?どう?俺と練習してみない?」

そう言ってホーリック氏がテーブルの上で私の手に自身の手を重ねた。

ん?

何故わざわざ手を握るのかしら?

今まで男の人にこんな風に握られた事もなく、またこんな時どう対処していいかも分からない私は固まってしまう。

黙って動かない私のそれを肯定と見做したのか、
ホーリック氏は私の指と指の間を厭らしく指先で撫でた。

「っ……!」

その瞬間、言い様の無い不快感を感じ、思わず勢いよくホーリック氏の手を払い退けた。

そして勢い余ったその所為で履き慣れないハイヒールの足元がバランスを崩す。

「やっ……」

後ろに転んでしまう!と思った瞬間、

私を後ろから包み込むように支える大きな体があった。


背中に感じるがっしりと硬い、男性的な感触。

危うく尻もちをつくところを誰が救ってくれたのか。

私は今も体を支えてくれているその相手から少し身を離し仰ぎ見た。

「あ、ありがとうございま…………


礼を告げようとした私の言葉は力なく霧散してゆく。

だって、驚き過ぎて声が出なくなってしまったから。


転びそうな私を救ってくれたのは、

他でもないブレイク=ワード。


絶対に接触を避けたかった彼が、私の直ぐ側にいた。











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