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やるせない心

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昨日の歓迎会で思いがけずブレイクと再会を果たしてしまった私。

ブレイクは話がしたいと言っていたけど、一体何を話すと言うのだろう。
幼馴染と懐かしい思い出話でもしたいのだろうか。

同性同士ならそれもいいと思う。

でも私たちは異性で、何よりブレイクには大切な人がいる。

私には関係ない、という事で片付けるわけにはいかないのだ。

その所為で逃げるようにして帰宅した昨夜はなかなか寝付けなかった。


翌日、寝不足の頭をもたげながら登省すると速攻でアルマ先輩に捕獲された。


「アイシャちゃーん?ちょっとどういう事かしらぁ?ブレイク=ワード次長と幼馴染だったなんて、聞いてないわヨ~?」

ぎゃっ先輩、一体どこからその情報を?
ホーリック氏かベスター氏が話したのかしら……?

「も、もう十年も会ってなかったんですっ……もはや他人かと思っていましたから……」

「ふーん……?でも昨日、アイシャちゃんが先に帰ったと知った時のワード次長、なんかガッカリしてたわよ~?」

「そんなまさか」


私と話せなかったくらいで、ガッカリなんかはしないだろう。
きっと昨日は家に帰ってからあの美しい人に幼馴染が愛想がなくてさ~、くらいな感じで話して終わりだと思う。

そうそう。私なんかが気にかけなくても、彼にはもうちゃんと話を聞いてくれる人がいるんだからいいのよ。

この件は終了。
またこれまでみたいにブレイクに会わないように気をつければいいだけ。




そう思っていたのに……

終業後、家路に就く職員たちが大勢行き交うエントランスで、名指しで呼び止められた。


「アイシャ」

しかもファーストネームで。


「………」

ブレイク=ワードに声を掛けられた事により、
私の周りの人たちがみんな私を凝視する。


「アイシャ」

返事もせず黙っていると、もう一度名を呼ばれた。

それでも何も答えず振り返りもしない私の元へブレイクが近付いて来た。

「話がしたいんだ。ちょっといい?」

「……はい」

大勢の人の前でこれ以上意固地になっても仕方ない。
なので私は素直に頷いた。

「ありがとう。じゃあ行こうか」

そう言ってブレイクの手が私の肩を包む。

私はなす術もなく彼に従った。


一体どこに行くのだろうと思っていたら、
とある懐かしい一軒家へと連れて行かれた。

「ここは……」

「懐かしい?」

「……うん」

そこはかつて私と母が二人で暮らしていた家だった。

ダイニングキッチンと小さな居間。
寝室が二つにトイレと浴室。
今思えば母子二人にしてみれば贅沢な家だ。

きっとここは、父が…あ、父が…もういいや面倒くさい、父が母に与えていた家なのだろう。

父と再婚するにあたってこの家は手放したと聞いていたけど……。

今はもう何もない室内に、母との思い出が溢れていた。

懐かしさに目を細めて眺める私にブレイクが言った。

「ここを買い取ろうと思うんだ。実際もう話を進めていて、あとは売買契約を交わす段階まできている」

「……へぇ、そうなんだ……」

なんという因果だろう。

子どもの頃のブレイクもよく遊びに来たかつての私の家に、ブレイクがあの女性と暮らすのか……。

わざわざその報告を私に?そんなの必要ないのに。


「俺、アイシャの家が好きだったんだ。俺の家は父さんと二人の男所帯だったから味気なくてつまらなくて。でもアイシャの家はいつもいい匂いがして居心地よくて温かくて……。将来家族を持ったら絶対にこんな暮らしがしたいと思ってたんだ」

「そう……」

夢が叶うのね、良かったね。良かったねブレイク。

不思議と心からそう思えた。
思わないと仕方ない、というのもあるのだけれど。


本当はブレイクが自分以外の女性ひとと結ばれる事がやるせなくてたまらない。

そのやるせない心を、祝福という形で昇華したいと思う。

そして私も、しっかりと自分の幸せを見つけねば。

私はブレイクに言う。


「いつかこの街に戻って来ると言っていたものね。この家もブレイクに住んで貰える事を喜んでいると思う」

私のその言葉に、ブレイクが返した。

「……約束、覚えていてくれたんだな」

「当然でしょう……でも、もういいの。子どもの頃の約束にブレイクが縛られていなくて良かった」

「縛られるとか、そんな風に思った事は一度もない」

ブレイクは少し語尾を強めて言った。

あぁ……責めている訳じゃないんだけどな。

「そっか……そうだよね、縛られてなんかないから幸せになれたんだもんね」

私がそう言うと、ブレイクは少し間を置いてから訊いてきた。

「?……幸せに……なれるかどうかはアイシャ次第なんだけど」

「私?あ、あぁ大丈夫よ。恨んでなんかいないし怒ってもいない。あなた達の事を邪魔するつもりもないの。だから私の事を警戒する必要はないわ」

あの女性ひとに何か言うんじゃないかと心配しているのだろうか。
そんな事は絶対にしないのに。
こんなにもブレイクに大切にされているなんて、羨ましく堪らない。

酷く羨ましく、酷くみじめだ。


そんな私の気持ちとは裏腹に、ブレイクは要領を得ないといった様子で私を見つめている。

「……あなた達……?…邪魔?警戒?どうしてアイシャに対してそう思わなくちゃいけないんだ?」

「それはだって……」

もう、私の口からそんな事を言わせないで欲しい。

子どもの頃の口約束を破ったとは絶対に言いたくないのだから。

「アイシャ。何か思うところがあるなら言ってくれ。どうも昨日から余所余所しい壁を感じるのは気の所為ではないのだろう?それともこの十年の間に俺の事なんか忘れてしまったのか?」

「あなたの事を忘れるなんてっ……そんな訳ないじゃないっ!私の事を忘れたのはブレイクの方でしょうっ?」

ブレイクのもの言いについ、カチンときてしまった私は言う筈のなかった言葉を口にしてしまった。

「俺がアイシャを忘れるわけがないだろう。俺はこの十年、アイシャと交わした約束を叶えるために頑張ってきたんだ。まぁ家族に振り回されて、ここ数年は他の事にも気を取られていたが、それでも俺はずっとアイシャとの約束だけを心の拠り所に生きて来たんだ」

「だったらどうして他の女性ひとと結ばれたのよっ!確かにお互い一人だったらとは言っていたけど、さっさと他の人を選んだブレイクに心の拠り所にされても困るわ!あの女性ひとにも申し訳ないわよっ!」


「……………は?他の女性ひと?選ぶ?どういう事だ?」

「どういう事って……!」

悪びれる様子もなくきょとんとするブレイクに、私はほとほと困り果てた。

が、意を決してブレイクに告げる。

「この地方局ではもっぱらの噂よ。ブレイクが美しい女性と共にこの街に来た事が。その女性は奥様か恋人か婚約者なんでしょう?そして私も見たもの、その女性ひとと仲睦まじく一緒にいるところをっ!」

何が悲しくて自分が味わった失恋内容を本人に告げなければならないのか。

私は涙目になる自分の眉間に力を入れて、決して泣くものかと踏ん張った。

すると呆然と私の話を聞いていたブレイクが、ハッとして縋るように私の肩を掴み、こう言った。


「ち、違う違う!誤解だ!一緒にいたのは妻でも恋人でも婚約者でもないっ!!」

「……え?」


ブレイクが言った言葉の意味が理解できず、

私は呆然とその場に立ち尽くした。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次回、ブレイクsideです。

さぁ洗いざらい吐いてもらいましょうか。


















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