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まほらは新しい生活をはじめた。が……

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昨夜から入居したアパートメント・ポワンフル。

夕食時の引越し作業となった事を大家の女性に詫びると、彼女は大らかな笑顔で気にする必要はないと言ってくれた。
彼女のご亭主は魔法省の高官だと聞き、まほらは仰天する。

そんな凄い方の奥方が何故アパートの大家などをやっているのか不思議に思ったが、人にはそれぞれ事情があるのだろう。
(Answer 大した意味はない)

大家もその家族も朗らかで優しい人たちで、まほらはホッとひと安心した。
貸家業者からもこのアパートの大家は良い人柄だと聞いてはいたが、性格の不一致なども無いとはいえない。
大家やその家族と仲良くやっていけそうとわかり、まほらは胸を撫で下ろした。

アパートの住人は大家の両親とその友人夫妻。
このふた家族は店子というようもある意味大家よりもこのアパート暮らしが長いらしい。
だから真の主はその二組の夫婦なのだと言って、これまた大家は大らかに笑った。

それを除いてのアパートの店子は現在まほらを入れて四名。

皆、場所がらか魔法省の職員ばかりである。

一人は経理課に勤める中年の女性。
彼女は大家の学生時代からの友人なのだそうだ。

もう一人は法務課の三十代前半の男性。
この者はまほらも時々エントランスなどで見かけた事のある人物だった。
なぜまほらが彼の事を覚えていたのかというと、それはやはり身体的特徴のせいだろう。
なんというか……まぁようするに若いのに頭皮が光り輝いている、そう言う事だ。

最後の一人は元特務課のOGで退省後は気ままな隠居生活を楽しんでいるという。
極度の男嫌いで男性とは絶対に言葉を交わす事はなく、どうしても会話をしなくてはならない時は筆談で済ますのだそうだ。
新しい入居者(まほら)が女性と聞き、喜んでいたと大家が話してくれた。

そうして挨拶とざっとアパートの説明を受け、まほらはいよいよ自分の部屋へと入った。

家財道具は既に業者により運び込まれ完璧に配置済みだ。
本は本棚に食器は食器棚に衣類はクローゼットに。
事前に手配しておいた通りに魔術を用いて収納してくれていた。
料金はお高かったが、それだけの価値はある。
部屋に入って直ぐに生活を始められるのだから本当に便利だ。

まほらはぐるりと部屋を見渡し、つぶやいた。

「今日からここで、新しい私になるんだ」

隣に頼れるブレイズもおじさんもおばさんもいない。
コーヒーをきらしたからといって隣に飲みに行くわけにはいかない。
魔石ランプの交換も自分でしなくてはいけないし、苦手な虫が出ても一人で退治しないといけないのだ。
ブレイズはこれからはルミアの部屋に出た虫を退治するのだろう……。

「平気!やってやろうじゃないの!どんな事もやってやれない事はないわ!」

まほらは両頬をぱしんと叩き、自分に喝を入れた。

よし。気合いは充分だ。

明日からは新生まほらとして強く生きていくぞ!


と、闘志を漲らせていたのだが………


「引越し早々、風邪で寝込むってウソでしょー……」


まほらは流感に罹患してしまい、

結局一週間も仕事を休んだ。


その間に人事課から転属が認められたと連絡が入る。

希望していた捜査四課に異動の内示が出たのだ。

その書面を布団の中から物質転移で受け取り、まほらは一人思った。

ブレイズはまほらが突然引越した事をどう思ったのだろう。
異動の話はもう聞いたのだろうか。


「……驚きはしただろうけど、今はルミアちゃんに夢中でそれどころじゃないか……」

きっともう二人で食事に行って交際がスタートしているはずだ。

喉の奥がひりつくのはきっと風邪のせい。

まほらはそう思いながらウトウトと眠りについた。




───────────────────────


熱を出したまほら。大家さんが献身的に看病してくれたそうな。

感染うつるから要らないとまほらが固辞しても、
「病人は大人しく看病されていなさい!私は父親に似て生来頑健に生まれているから大丈夫よ」
と言って甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたそうな。

大家さんが作ってくれたお粥。
亡くなった母親も風邪の時はよく作ってくれたのを思い出し、まほらは目頭が熱くなりながら食べたそうな。


次回、まほら転属後の初登省となります。

おまたせしました。

まほらのバディが登場します。









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